フレンチトースト訴訟

父ちゃん大法廷に立つ(計画)



変化なし

上告状を出したり、上告理由書を出したりする先は、二審の裁判所である東京高裁です。高裁は手続きに問題がなければ、裁判記録を最高裁に送ります。最高裁は、高裁から裁判記録が届くと、上告人や被上告人に記録到達通知書を送付します。

 

12月13日に上告理由書を提出してから7週間経ちました。

 

まだ記録到達通知書はきていません。

 

おそらくなんらかの事情があるのでしょうけど、なんでこんなに時間がかかるんでしょう。

 

心配なのは、高裁が上告理由書をチェックして要件を満たしていないと判断される時は、高裁によって却下されるということなので、要件の不備を疑われているのではないかという事です。このへんがどうなっているのか、よくわからないところです。

 

ところで、このチェックの仕組みには違和感があります。控訴審判決に不服があるから上告するわけで、控訴審判決を出した裁判官が、上告理由書を見て、上告を却下できてしまうってのは、おかしいんじゃないかと思うのです。

 

でも、この仕組みに異議を唱えている弁護士さんはいないようですし、別に問題になってないので、高裁が却下するって事は、ないんでしょうね。(だったら、早々に最高裁に記録を送ってほしいものです。)

 

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こんな時は、ラーメンでも食べるにかぎります。

あけおめ

今さらですが、今年もよろしくお願いします。

 

今年は、住民税のほうの裁判が最高裁で行われます。といっても何もできることはありませんけど。

 

所得税のほうの裁判は、今年中に判決までいけるかなぁという目論見ですが、次回の期日で方向性が見えるかと思います。

 

正直にゲロると、裁判のインターバルが長いので、だれてます。

 

私は、基本的に煩悩が多く、欲張りなので、いろんなことをしたいのです。待ち受け状態で我慢するってのが苦手です。

 

大学とかに入って勉強したり研究したりしたいです。論文も書きたいです。トランペットも上手くなりたいし、料理もうまくなりたいです。

 

もうすぐ子育ても終わります。そうしたら、生物学的にはおまけのフェーズになります。おまけは最高のステージにしたいです。

 

 

 

今年の抱負は

「なりたいと思う自分になる」

です。

ニュー選択的夫婦別姓訴訟は変だ

 作花先生が手掛けているもう一つの憲法訴訟に、ニュー選択的夫婦別姓訴訟(下のリンク先参照)があります。夫婦別姓については私は不勉強なので、意見は差し控えます。

https://sentakuteki.qloba.com

 先日、久しぶりにサイトにお邪魔して近況を知りました。地裁で合憲判決が出て、控訴しているところまでは存じていました。その後、今月ですが、結審して、来年の2月26日に判決がでるようです。

 

 私のような素人が申し上げるような事ではないのかもしれませんが、この裁判、おかしいと思っています。

 

 争点の夫婦別姓についてどうこう言うつもりはありません。私がおかしいと思っているのは、民事訴訟法23条に触れているのではないかという点です。

 

 

 東京高裁でこの裁判を担当しているのは、第9民事部の小川秀樹裁判官裁判長です。私の裁判も小川裁判長に担当していただきました。その時に、経歴や、過去にどんな判決を出しているのか等、調べた事があります。

 

 小川裁判長は、法務省勤務の長い方で、民事局長も務めた方です。民事局長を務めた方は、東京高裁長官や最高裁判事になる事が多いらしいです。

 

 それはいいのですが、私が問題ではないかと思うのは、法務省が選択的夫婦別姓について消極的な判断をした時に、意思決定に深く関わったと思われる民事局長が、今回の裁判の裁判長をしているという事です。

 

 例えば、3年前に、国会で選択的夫婦別姓についての答弁が行われています。(リンク先参照)

https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=119015206X00520160323

 

 その時に政府側として、選択的夫婦別姓につながる新たな法案の提出はしない旨を答弁しているのが当時法務省の小川秀樹民事局長で、今回の控訴審の裁判長なんです。議事録を読むと、選択的夫婦別姓についてかなり詳しい方だというのがわかります。となると夫婦別姓について検討してきた政府側の方が、法の欠缺を訴える原告の主張を認めるとは到底思えません。

 

 この裁判において、小川裁判長は、この事件の当事者、もしくは関係者であって、この事件を裁ける立場にはないと思うのは私だけでしょうか?これは推測ですが、今回の国側(被控訴人)には法務省の訟務官もいるはずで、夫婦別姓の件を扱っているとなると、小川裁判長のかつての部下だったりする可能性もあります。

 

 民事訴訟法23条は、事件当事者や関係者は裁判官から除斥されるとしています。

 

 裁判長が関係者であることは、裁判長は勿論、国側も当然知っているわけですが、原告(控訴人)側はどう考えているのでしょうか?この点についての原告側のコメントを見つけることができませんでした。

 

 民事訴訟法24条では、原告が申し立てない限り忌避できないようです。

 

 当事者には当たらないという判断をしたのでしょうか?それとも気が付いていないだけなのでしょうか?

 

 どうもスッキリしません。この裁判、問題がないのでしょうか?

 

共同親権に思うこと

 作花先生が手掛けている憲法訴訟のひとつに、共同親権の訴訟があります。

https://www.oyako-time.com

 

 あまり難しいことはわかりませんが、討論を見ていると、連れ去り別居の正当性を巡る争いのように感じました。

 

 DV加害者が親権を持つことに反対する同居親と、DVしていないのに連れ去られて子どもに会えない別居親の対立構造なので、感情的な対立もあり、両者が納得する方法を探すのは大変だと思います。

 

 最近は外圧もあるようですが、このような問題を解決していくのが政治家の仕事だと思います。しかし、誰もが納得する答えはあるはずもなく、火中の栗を拾う覚悟が必要でしょうね。

 

 作花先生の裁判は、政治家にできない事を司法からアプローチするという訴訟なのかなと思います。実際にドイツでは、単独親権制度に違憲判決がでて、共同親権制度に変わっていきました。

 

 私には何が正しいのかはわかりません。しかし、もし離婚で争っていた時に、共同親権が選択できたとしたら、元妻に共同親権を提案していたと思います。

 今の法律ではできませんが、夫婦が離婚しても、両者が共同親権で合意できるならば、共同親権を選択できたほうが良いと、私は考えます。

対所得税 原告準備書面(2)

司法救済について主張しました。

 

 

令和元年(行ウ)第236号 更正処分取消等請求事件

原 告  sakurahappy

被 告  国(処分をした行政庁:川崎北税務署長)

 

東京地方裁判所民事第51部1C係 御中

 

原告  準  備  書  面 (2)

令和元年12月13日

              

原告 sakurahappy         印

 

 原告は,当準備書面にて不合理な差別によって被った不利益の解消方法について追加の主張をする。

 

第1 国籍法違憲判決による判示

平成19年(行ツ)第164号同20年6月4日最高裁判所大法廷判決民集62巻6号1367頁(いわゆる国籍法違憲判決)では,国籍法3条1項の規定が生じさせている区別が憲法14条1項に違反するとし,その救済について以下のように判示している。

 

[判例の引用、ここでは省略]

 

判示によると,国籍法3条1項の過剰な要件によって不合理な差別が生じていることに対する是正手段として、同項を全体として無効とすることなく,過剰な要件を設けることにより本件区別を生じさせている部分のみを除いて合理的に解釈することとしている。

 

第2 本件区別の解消方法

本件区別は,所得税法2条31項の寡夫の定義に規定された所得要件の部分(下線部)によって生じている。

 

所得税法2条31項(寡夫の定義)

妻と死別し,若しくは妻と離婚した後婚姻をしていない者又は妻の生死の明らかでない者で政令で定めるもののうち、その者と生計を一にする親族で政令で定めるものを有し,かつ,合計所得金額が五百万円以下であるものをいう。

 

この規定が憲法14条1項に違反するからといって,同項全てを無効にすることは,同81条で規定された寡婦寡夫)控除の対象者が不明となり,本件区別による違憲状態の解消にはならない。

所得税法第81条 

1 居住者が寡婦又は寡夫である場合には、その者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から二十七万円を控除する。

2 前項の規定による控除は、寡婦寡夫)控除という。

不平等を解消する観点からすると単親母に所得要件を付ける方法も考えられる。単親父に所得要件を設けたのは男性を区別し冷遇するためであったことからすると,単親母にも所得要件を設けて不平等を解消するという方法は,平等の名の下に子の養育を支援する部分を奪うもので正当性はないが,仮にその方法で不平等を解消しようとするならば,それは離死別した後に子を養育するにあたって通常よりも出費が多くなることを考慮するための制度を設けた同法の趣旨を没却するものであり,高所得の単親母に特別な出費が発生しないことが明らかでない以上,単親母に所得要件を設けることは,立法者の合理的意思として想定し難いものであって,採り得ない解釈であるといわざるを得ない。そうすると,高所得の単親母には寡婦控除の適用を認めることを前提として,本件区別により不合理な差別的取扱いを受けている者の救済を図り,本件区別による違憲の状態を是正する必要があることになる。

このような見地に立って是正の方法を検討すると,憲法14条1項に基づく平等取扱いの要請と,寡婦寡夫)控除が特別な出費を考慮するために設けられた制度であることを踏まえれば,高所得単親父についても,寡婦控除と同等の控除を等しく及ぼすほかはない。すなわち,高所得単親父についても,合計所得金額が500万円以下という部分を除いた同項所定の要件が満たされる場合に,寡夫として認められるものとすることによって,同項及び同法の合憲的で合理的な解釈が可能となるものということができ,この解釈は,本件区別による不合理な差別的取扱いを受けている者に対して直接的な救済のみちを開くという観点からも,相当性を有するものというべきである。そして,上記の解釈は,本件区別に係る違憲の瑕疵を是正するため,所得税法2条31項につき,同項を全体として無効とすることなく,過剰な要件を設けることにより本件区別を生じさせている部分のみを除いて合理的に解釈したものであって,その結果も,高所得単親母と同様の要件による控除を認めるにとどまるものである。この解釈は,ひとり親には特別な出費が多いことを考慮するとした同項の規定の趣旨及び目的に沿うものであり,この解釈をもって,裁判所が法律にない新たな寡夫控除適用の要件を創設するものであって国会の本来的な機能である立法作用を行うものとして許されないと評価することは,寡婦寡夫)控除適用の要件に関する他の立法上の合理的な選択肢の存在の可能性を考慮したとしても,当を得ないものというべきである。したがって,高所得単親父は,合計所得金額500万円以下という部分を除いた所得税法2条31項所定の要件が満たされるときは,同項に基づいて寡夫として控除が認められるというべきである。

 

第3 結語

以上のとおり,所得税法2条31項の寡夫の定義に規定された所得要件は,違憲状態を是正するために無効とされるべきであり,所得要件以外の要件を満たした原告は寡夫控除が適用されるべきであるので,寡夫控除を適用しないとして原告に行われた本件各処分はすみやかに取り消されるべきである。

以上

上告理由書 令和元年(行サ)第130号

 

提出した上告理由書を公開します。長いです。

言うまでもないですが、こんな物を書いたのは生まれて初めてです。書き方も、ポイントも分からず、誰かに教えてもらうこともなく、手探りで書きました。弁護士さんから見たら、きっと素人臭の漂う、幼稚なものでしょうね。

 

法的な上告理由としては憲法解釈の誤りとして4つ挙げていますが、上告した本当の理由は1番最後のパラグラフです。それがこの裁判の目的だと考えています。

 

 

これで、この裁判は一区切りつきました。もうできることはありません。あとは温まるものを食べながら、裁判所の判断を待つだけです。

 

ありがとうございました。

 

 

 

 

 

令和元年(行サ)第130号 課税処分取消請求上告事件

上告人 sakurahappy

被上告人 川 崎 市

 

上記令和元年(行サ)第130号課税処分取消請求上告事件について,上告人は次のとおり上告理由書を提出する。

 

最高裁判所 御中

 

上  告  理  由  書

      令和元年12月13日

 

     上告人 sakurahappy         印

 

当理由書の要旨

 

 地方税法には,ひとり親等の出費が多いことを考慮して税を軽減する寡婦寡夫)控除の制度がある。その適用に当たっては,母子世帯の母親であれば所得によらず認められるのに対し,父子世帯の父親の場合は規定により所得制限額を超えると認めらない。これは租税負担能力等の差異を考慮したものとしているが,この区別により,所得制限額を超える父子世帯の父親は,同所得水準の母子世帯の母親よりも税負担が大きい。

 しかし,事実関係をみると,所得制限額を超える父子世帯の父親は,同所得水準の母子世帯の母親と同等の租税負担能力であることを,各種統計情報が裏付けており,区別当事者に租税負担能力等の差異があるとした一審の事実認定を二審が取り消している。

そうすると,租税負担能力等の差異を考慮したものとする立法目的と,所得制限額を超える父子世帯の父親を控除の対象から除外する立法手段の間には,合理的関連性がないので,この区別は憲法14条1項に反する不合理な差別である。

ところが,原判決では,租税負担能力等に差がないとしても,寡夫控除を受けられないことによって上告人が著しい負担を強いられているとはいえないので不合理とはいえないとし,また,仮にこの区別が不合理な差別にあたるとしても,規定を部分的に無効とすることはできないので,所得要件の規定のみが無効になるという上告人の主張は失当であるとした。 

これらの判断は,憲法14条1項の解釈を誤ったものであり,いわゆるサラリーマン税金訴訟や国籍法違憲訴訟の最高裁大法廷判決の趣旨に沿わないものである。加えて,原判決には租税公平主義や徴税確保主義についても解釈を誤る部分があるため,上告理由として論じている。

 

 目次

第1 本件事案の概要

  1 本件事案の概要

  2 本件区別当事者と法的取扱いの差異

第2 原判決の要旨

第3 認定された重要な事実

  1 一審で認定された重要な事実

  2 二審で取り消された認定事実

  3 ひとり親世帯の租税負担能力等の差異の実態

第4 本件区別の憲法14条1項の違憲審査について

  1 原判決の問題点(上告理由①)

  2 昭和60年大法廷判決における違憲審査

  3 平成7年第二小法廷判決における違憲審査

  4 本件区別の立法目的と立法手段

  5 立法目的の正当性

  6 原判決が手段審査をしていないこと

  7 立法目的と立法手段の関連性

  8 本来の立法目的

  9 本来の立法目的の正当性

第5 不合理な差別の是正手段と司法による救済について

  1 原判決の説示

  2 原判決の問題点(上告理由②)

  3 平成20年大法廷判決の判示

  4 本件区別の是正手段

  5 将来の是正について

第6 租税公平主義の徴税確保主義の解釈

  1 原判決の説示

  2 租税公平主義の解釈(上告理由③)

  3 徴税確保主義の解釈(上告理由④)

第7 原判決の誤字の指摘

結語

参考までに

 

第1 本件事案の概要

1 本件事案の概要

 地方税法には母子世帯の母親等の税を軽減する寡婦控除と,父子世帯の父親の税を軽減する寡夫控除の制度がある。しかし,母子世帯の母親は所得要件がないのに対し,父子世帯の父親には所得要件が設けられているため,所得が規定額を上回る上告人は寡夫控除が適用されず,同一所得の母子世帯の母親に比べ負担が大きくなっている。この区別に合理性はなく,性別による経済的な差別を禁じた憲法14条1項に反するので,違憲違法な規定に基づいて上告人にされた本件決定のうち,寡夫控除を適用しないでされた〇〇万5600円を超える部分の取消しを求めるものである。

2 本件区別当事者と法的取扱いの差異

 本件は租税法における憲法14条1項の違反を論じるものであるので,まず区別当事者と法的取扱いの差異を明確にする。

 区別当事者は,前年所得が500万円を超える(以下,「前年所得が500万円を超える」を「高所得の」とする)母子世帯の母親と,高所得の父子世帯の父親であり,性別によって不当な差別を受けているのは高所得の父子世帯の父親である。

 法的取扱いの差異は,高所得の母子世帯の母親には寡婦控除が適用され課税額が軽減されるが,高所得の父子世帯の父親には寡夫控除が適用されず課税額が軽減されないことである。

 ちなみに,前年所得が500万円以下の(以下,「前年所得が500万円以下の」を「中低所得の」とする)ひとり親世帯の親については,母子世帯の母親には寡婦控除が,父子世帯の父親には寡夫控除が適用され,両者はどちらも課税額が軽減されている。

 原判決では所得要件を設けることが待遇差であるかのように混同している部分があり,母子世帯全体と父子世帯全体を区別して,父子世帯に所得要件を設けることが待遇差であるかのように解される部分がある。しかし、所得要件自体は待遇ではなく,所得水準別に待遇を変える分類方法である。本件区別は,母子世帯全体と父子世帯全体を区別して待遇に差を付けたものではなく,ひとり親世帯を親の性別と所得水準で分類し,高い所得水準に分類されるひとり親世帯の親を性別によって待遇に差を付けていることである。

 

第2 原判決の要旨

 原判決は,最高裁判所昭和55年(行ツ)第15号同60年3月27日大法廷判決・民集39巻2号247頁(以下「昭和60年大法廷判決」という)を引用して租税法の分野における所得の性質の違い等を理由とする取扱いの区別は,その立法目的が正当なもので,当該立法において具体的に採用された区別の態様が上記目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り,その合理性を否定することができず,これを憲法14条1項の規定に違反するものはできないとした上で,寡夫につき,寡婦にはない所得要件を設けたのは,男性と女性の間に存在する租税負担能力の違いや生活関係の差異等を考慮したものと解されるから,その立法目的は正当なものといえ,父子世帯と母子世帯との間では,収入の額,就労の状況,仕事の安定性の面において差異が存在し,父子世帯の方が相対的に高い租税負担能力を有しているといった母子世帯との差異を考慮して,寡夫控除につき,母子世帯にはない所得要件を設けることが,著しく不合理なものであるとはいえないとし,寡夫について,これを設けた地方税法の規定が憲法14条1項に反するものとはいえないとした。

 更に,寡夫控除を受けられないからといって上告人が著しい負担を強いられているとは認められず,寡夫控除を適用しないことが不合理であるものとはいえないから,本件決定が違憲違法となるものではなく,上告人の主張は失当だとした。

また,立法の経緯や立法時の議論等に照らすと,寡夫控除の対象を中低所得層の父子世帯の父親に限るべきとする立法者の強い意志がうかがわれ,対象を一定所得以下の者に限ることはその他の寡夫控除の要件と不可分一体となっていると見るのが相当だとし,仮に対象を一定の所得以下に限る現行の寡夫控除の制度が不合理な差別に当たるとしても,それはむしろこの制度全体を再検討すべきことに結びつくものであって,上告人が主張するように,寡夫の要件を定める地方税法の規定のうち,所得の上限を定める部分のみが当然に無効となって,それ以外の部分がそのまま有効として扱われるということはできず,当然に上告人に寡夫控除が適用されることにはならないので,この観点からも上告人の主張は失当だとした。

 

第3 認定された重要な事実

1 一審で認定された重要な事実

  • 母子世帯全体と父子世帯全体の租税負担能力等の差異

 被上告人の提出した各種の統計情報から,母子世帯全体と父子世帯全体を比較した場合,収入額,就労の状況,仕事の安定性において違いがあり,相対的に父子世帯の父親のほうが高い租税負担能力を有していることが認められた。

  • 別当事者の租税負担能力等の差異

 一般の男女の収入額の統計情報では,高所得男性の平均収入額が高所得女性の平均所得よりも高額であることから,ひとり親世帯であっても所得高所得の父子世帯の父親は,高所得の母子世帯の母親より高い租税負担能力を有するものと推認した。しかし,この認定は二審で取り消される。

2 二審で取り消された認定事実

  • 別当事者の租税負担能力等の差異

一審の事実認定は,ひとり親に限らない統計情報によるものであったため,上告人はひとり親世帯に限った統計情報を証拠として提出し,平均収入額については同等,もしくは母子世帯の母親のほうが高いことを立証した。その他にも,就業形態,勤続年数,収入の安定性,養育する子供の年齢や数,同居人の状況,住居保有率,養育費の受け取り額など租税負担能力や生活関係に関して,高所得母子世帯の母親よりも高所得父子世帯の父親が高くないことを正確な資料を基に立証した。一例としてあげると,平成29年就業構造基本調査の集計結果では,高所得の父子世帯の父親の平均収入額は約900万円であるのに対し,高所得の母子世帯の母親の平均収入額は約1100万円である。

その結果,二審判決では,「所得500万円を超える父子世帯の父親は,母子世帯の母親より高い租税負担能力を有する」とした一審の事実認定は取り消された。

3 ひとり親世帯の租税負担能力等の差異の実態

 認定された事実から,性別と所得水準で区別したひとり親世帯の租税負担能力等の差異の実態は,次のように導かれる。

  • 中低所得のひとり親の租税負担能力等は,相対的に女性のほうが低い。
  • 高所得のひとり親の租税負担能力等は,男女同等である。

 

第4 本件区別の憲法14条1項違憲判断

1 原判決の問題点(上告理由①)

 租税法の分野における憲法14条1項の違憲審査には昭和60年大法廷判決によると合理性の基準が採用されると解される。そうすると,まず立法目的が正当であるかを審査し,次に立法目的と立法手段の間に合理的関連性があるかを審査し,その上で,区別の程度が著しく不合理なものかどうかで判断されることとなる。

 しかしながら,原判決では,目的審査と,区別による負担の程度についての審査はしているものの,立法目的と立法手段の関連性の有無を審査していない

 憲法訴訟において目的審査と手段審査は当然の要求であり,結論を左右する重要なものである。上告人は控訴理由書にて,区別当事者間の租税負担能力等が同等であれば,立法目的と立法手段の間に関連性がない旨を主張していたが,原判決では,区別当事者間の租税負担能力等の差異があるとした一審の事実認定を取り消しているにもかかわらず,目的と手段の関連性の有無について審査しておらず,その理由も不備である。

 なお,本件で被上告人が示した立法目的は,立法の経緯や立法時の議論に示されたものではなく,DHCコンメンタール所得税法の執筆者が推定したものであり,根拠となる立法事実が存在しない。ゆえに本来の立法目的であるかが疑われるので,関連性の有無を確認する手段審査は必須である。

 本書ではまず,本件区別の審査について論じる前に,判例から,区別による程度の相当性が争点となった昭和60年大法廷判決と,立法目的の正当性が争点となった平成7年第二小法廷判決を確認しておく。

2 昭和60年大法廷判決における違憲審査

 原判決が引用した昭和60年大法廷判決は,給与所得者に対して実額控除を認めず給与所得控除として概算控除していることが,憲法14条1項に違反するかを判断したものである。

まず目的審査については「旧所得税法が給与所得に係る必要経費につき実額控除を排し,代わりに概算控除の制度を設けた目的は,給与所得者と事業所得者等との租税負担の均衡に配意しつつ,右のような弊害を防止することにあることが明らかであるところ,租税負担を国民の間に公平に配分するとともに,租税の徴収を確実・的確かつ効率的に実現することは,租税法の基本原則であるから,右の目的は正当性を有するものというべきである。」としている。

そして手段の関連性については,事業所得に係る必要経費につき実額控除が認められていることとの対比において,給与所得控除を専ら給与所得に係る必要経費の控除ととらえることで,これが両者の均衡をとるものに相当すると考えられるので,合理的関連性が認められる。

またその程度については,給与所得者において自ら負担する必要経費の額が一般に旧所得税法所定の前記給与所得控除の額を明らかに上回るものと認めることは困難であって,給与所得控除の額は給与所得に係る必要経費の額との対比において相当性を欠くことが明らかであるということはできないものとせざるを得ないとして,著しく不合理とは認められないとした。

3 平成7年第二小法廷判決における違憲審査

 最高裁判所平成7年(行ツ)第163号同7年12月15日第二小法廷判決は,配偶者と死別した後、婚姻をせず,扶養する子のいない女性(以下「死別独身寡婦」という)は寡婦控除が受けられるのに対し,配偶者と死別した後、婚姻をせず,扶養する子のいない男性(以下「死別独身寡夫」という)が同様の控除を受けられないことが,憲法14条1項に違反するかを判断した裁判である。

 まず目的審査については「寡夫(死別独身寡夫と解される)の場合は寡婦(死別独身寡婦と解される)と異なって,通常は既に職業を有しており,引き続き事業を継続したり,勤務するのが普通と認められ,また,高額の収入を得ている者も多い等両者の間に租税負担能力の違いが存するので,これらの諸事情を考慮したもの」が立法目的であるとし,これは公平負担の原則に沿ったものであるので正当な目的と解される。この立法目的は立法当時の議論で説明されており,立法事実も存在するので,本来の立法目的であることは明らかである。

 次に立法手段は,死別独身寡婦には寡婦控除を適用し税負担を軽減するが,死別独身寡夫には控除の適用をせず税負担の軽減をしないというものである。そして、目的と手段の関連性については,死別独身寡婦にのみ寡婦控除を適用することで税が軽減され,区別当事者の租税負担の調整が行われるので,立法目的と立法手段との関連性が認められる。

ただ,目的と手段の関連性が明らかであること,当事者の間で関連性が争点になっておらず上告人が手段審査を要求していないこと,以上のことから、判決文では手段審査の結果について特に言及していない。これは手段審査をしていないのではなく,手段審査の結果を言及する必要がなかったためと解される。

 なお,区別の程度については,この事件の争点でないため特段の審査は行わず,著しく不合理があることが明らかとは到底いえないとして,憲法14条1項に反しないとしている。  

4 本件区別の立法目的と立法手段

 原判決では本件区別の立法目的は「男性と女性の間に存在する租税負担能力の違いや生活関係の差異等を考慮するため」としている。

 そして採用された立法手段は「母子世帯の母親にはない所得要件を父子世帯の父親に設置することで,一定所得を超える者には寡夫控除の対象から除外する」というものである。

5 立法目的の正当性

 原判決では,立法目的が正当である理由は付していないが,租税負担能力や生活関係の差異を考慮するということは,相対的に租税負担能力の低い者や生活関係上の負担の低い者に対して,租税が大きな負担にならないように配慮するということであり,これは垂直的公平負担の原則に沿うものなので正当であるといえよう。

 また原判決では,母子世帯全体と父子世帯全体で比較すると,収入の額,就業の状況,仕事の安定性の面から租税負担能力の差異があることが事実として認められるとし立法目的の根拠を補足していると解される。

6 原判決が手段審査をしていないこと

 立法目的と立法手段に関連性がないことを論じる前に,原判決が手段審査をしていないことを論じることにする。以下は,原判決の引用である。

「父子世帯と母子世帯との間では,収入の額,就労の状況,仕事の安定性の面において差異が存在し,父子世帯の父親は母子世帯の母親と比べて,相対的に高い租税負担能力を有しているといえるのであって,このような父子世帯と母子世帯の差異等を考慮して,寡夫控除につき,寡婦控除にはない所得要件を設けることが,著しく不合理なものであるとはいえない。

 そうすると,父子世帯の父親と母子世帯の母親との違いその他の事情を考慮し,寡夫について寡婦にはない所得要件を設けている地方税法の規定は,一定の合理性を有するものというべきであって,これが憲法14条1項に反するものとはいえない。」

 上記は,あたかも目的と手段の関連性について説示しているように見えるが,目的も含めて要約すると「寡夫のみに所得要件を設けたのは,母子世帯の母親と父子世帯の父親の租税負担能力等の差異を考慮するためであり,実際に租税負担能力等の差異があるので所得要件の設置は合理性を有する」ということになる。これでは目的と手段の関連性の審査をしたことにならない。なぜなら,言葉を並び替えて同じ事を言っているだけなので「所得要件を設けたのは租税負担能力の差異を考慮するためだから正当であり,租税負担能力の差異を考慮するために所得要件を設けたので合理性がある」としても合理的関連性を有するとはいえないのである。

 例えば,医薬品品質保持が目的で、出店距離制限設置が手段とした場合に「出店距離制限設置は,医薬品品質保持のためだから正当で,医薬品品質保持のためだから出店距離制限設置は関連性を有する」ということにはならず,関連性を示すのであれば,出店距離制限設置がどのように医薬品品質保持に役立つのかを示さなければならないように,手段審査では,採用された立法手段によって立法目的を達することになるかという観点で審査しなければならないのである。

そうすると,原判決は「母子世帯の母親にはない所得要件を父子世帯の父親に設置することで,一定所得を超える者には寡夫控除の対象から除外する」という立法手段が「男性と女性の間に存在する租税負担能力の違いや生活関係の差異等を考慮する」ことになっているのかという観点で説示しておらず,関連性の有無を示していないといえるのである。

7 立法目的と立法手段の関連性

 原判決が立法目的と立法手段の関連性の有無を審査していないので,本件区別には立法目的と立法手段に関連性がないことを論じる。

 立法目的が「母子世帯の母親と父子世帯の父親の間の租税負担能力等の差異を考慮すること」であるならば,相対的に租税負担能力等が低い者の負担を小さくする手段が目的を達成する手段であり,合理的関連性を有する手段ということができる。

 そして事実関係は,母子世帯の母親と父子世帯の父親の間の租税負担能力等の差異は「第3 認定された事実」で前述したとおり,中低所得のひとり親の租税負担能力は相対的に女性のほうが低いが,高所得のひとり親では男女同等というのが実態である。

 とすると,中低所得のひとり親の租税負担額を調整し,相対的に母子世帯の母親の負担を小さくする手段が,合理的関連性のある手段となる。

 ところが,採用された手段は,高所得の父子世帯の父親を控除の対象から除外するというもので,この手段では中低所得のひとり親を性別で扱いを区別しておらず,母子世帯には寡婦控除を,父子世帯には寡夫控除をそれぞれ適用しているのだから,租税負担を調整する効果はなく,目的との関連性は認められない。

 その上,この手段は,租税負担能力が母子世帯の母親と同等である高所得の父子世帯の父親の租税負担を大きくするものである。

 すなわち,立法目的が「男性と女性の間に存在する租税負担能力等の差異を考慮するため」であるにもかかわらず,租税負担能力等の差異がない所得水準のひとり親を性別で区別し,一方の課税負担を大きくする効果をもたらす立法手段は,租税負担能力の差異を考慮したものとはいえず,合理的関連性がないことは明らかで,不合理な差別であることが明白である。となれば,上告人に強いられた負担の程度の著しさを検討するまでもなく不合理な差別であるというべきである。

このとおり,原判決の誤りは,立法目的の正当性と,区別による負担の程度の著しさを審査するのみで,手段審査をしなかったことであり,もし手段審査が適切に行われていれば本件区別の合憲性は否定され,結論が変更されることは明らかである。

8 本来の立法目的

 立法手段が目的との関連性を有さないということは,本来の目的ではないということである。ではなぜ手段に無関係な目的が所得要件を設置した目的とされたのか,また本来の立法目的は何なのか,これらの点について上告人は次のように分析する。

 原判決が採用した立法目的は,被上告人が主張したものであるが,その元は,地方税法の規定は所得税法を踏襲しているので,DHCコンメンタール所得税法188頁の以下の記載を引用したものである。(乙12号証)

寡夫の場合は寡婦と異なり,通常は既に職業を有しており,妻が死亡したり離婚した場合でも,引き続き事業を継続し,勤務するのが普通であり,高額の収入を得ている者も多いと考えられる。寡夫に対する税制上の配慮としては,一律的に中低所得者に限ることが適当であり,係累のない死別寡婦の場合と同様の所得制限が付されているものと考えられる。

しかし,ここに記されている理由と同じ旨が,寡夫控除制度の創設時に,妻と死別後に扶養親族がいない男性と,妻と離死別後に子以外の親族を扶養している男性を,寡夫控除の対象から除外した時の理由として,参議院大蔵委員会会議録(乙9号証25頁)に残されているので,抜粋して以下に引用する。DHCコンメンタール所得税法の執筆者は,この政府委員の説明から,死別独身寡夫等を寡夫控除の対象から除外した理由を,所得の多い父子世帯の父親を除外した理由に転用したと推察される。

 

参議院大蔵委員会会議録(抜粋)

○多田省吾君 次に,所得税改正に絡みまして寡夫控除問題及び父子家庭問題で若干質問したいと思います。

 今回の所得税法の改正で寡夫控除がなされますが,このことは評価しますけれども,五十六年度でどのくらいの予算額になるのか。また当初厚生省は所得制限なしで要求しておりましたが,大蔵省は収入ベース四百三十万円,実質収入ベースで三百万円と所得制限を行ったのは何ゆえか。また女性の寡婦控除は所得制限がないのに,男性の方の寡夫控除にこのように所得制限ありという差別待遇した理由は何なのか,その辺をお伺いします。

 

○政府委員(梅澤節男君) 今回の所得税法の改正で寡夫,いわゆる男のやもめに対する控除を新設することをお願いしているわけでございますが,これは従来から国会でも御議論がございまして,こういう制度を設けるべきではないかという御議論がございまして,私どもも政府の税制調査会などでも御議論をいただきまして,父子家庭のための措置として税制上この控除を新設することにいたしたわけでございます。

 ただ,お尋ねの件でございますけれども,男性の場合は女性の寡婦の場合と違いまして,たとえば奥さんが亡くなったり,あるいは奥さんと離婚をした,その後すぐ何と申しますか,大体男の方はそのまま働いておられますし,あるいは事業を継続しておられるということで,直ちに女性の寡婦の場合と違いまして,つまり女性の寡婦の場合はだんなさんが亡くなられますと,翌日からいわば家庭を支える柱がなくなるというふうな事態になりますけれども,男性の場合はそういうことではなかろうということでございまして,やはり同じ「寡ふ」という場合でも男性と女性との間におのずから区別があってはしかるべきではないかということで,今回の男性の寡夫控除の場合は。女性の場合と違いまして係累のない場合は対象にならない。係累と申しましても特に子供さんがあって,しかもその子供さんが基礎控除額以下の収入しかない場合に限るということでございます。そういう考え方に立っておりますので,あらゆる男性の寡夫についてこの控除を認めるということではなくて,やはりある種の社会保障的な観点から見ますと,所得制限があってしかるべきであろうということで,現在女性で係累のない場合に所得額三百万円,これは給与収入ベースにいたしますと四百三十万円になるわけでございますが,それとのバランスをとりまして,所得金額三百万円以下の方に限定するという考え方をとっておるわけでございます。

上記引用の後半に,所得要件の設置理由が説明されている。これによると,全ての寡夫のうち,死別独身寡夫と子以外の親族を扶養している離死別寡夫は適用を除外したように,あらゆる男性の寡夫についてこの控除を認めることはしないという考え方に立っており,社会保障的な観点から父子世帯の父親への控除適用に所得制限を付け,死別独身寡婦の所得制限とバランスを取ったものとされている。

ではいったいなぜ,一旦,父子世帯の父親は控除が必要だとした後に,あらゆる父子世帯の父親に控除を認めることはしないという考え方を採用したのであろうか。

それは,寡夫控除の創設に当たって当初厚生省が所得制限なしの父子世帯控除を要求していたのに対し,大蔵省が財政状況の厳しさを背景に所得制限を付けたこと,また,実際に高所得の父子世帯の父親に寡夫控除を認めなかったことで税収減が低く抑えられることから,本来の立法目的は「新設する減税制度の対象から,所得の多い父子世帯の父親を排除することで,減収税額を少なくするため」であるといえる。結局のところ,この立法目的でなければ立法手段と釣り合わないし,被上告人も所得要件の設置理由のひとつに財政状況への配慮があったことを認めている。

9 本来の立法目的の正当性

 では,本来の立法目的に正当性はあるだろうか。確かに財源の確保は租税法の最も重要な目的であるが,公平負担原則も同時に要求されるものであり,その中でも特に,租税負担能力が同じであれば同じ租税を負担するという水平的公平負担の原則は,憲法14条1項の趣旨に沿うもので,特に強く要求されるものである。

 寡夫控除は,父子世帯の為の制度として特別な出費がかさむことに配慮したものであり,高所得だからといってその出費がなくなるということはない。そして,それは母子世帯も同様であり,寡夫控除の創設前から母子世帯の母親には所得制限なしに寡婦控除が認められていた。また,高所得の父子世帯の父親と母子世帯の母親の間には租税負担能力等の差異がないことは統計上のデータが裏付けている。

 そうすると,この両者の租税負担を不均衡にするということは,水平的公平負担の原則に反するものということになり正当性は認められない。

また立法経緯からは,寡夫控除創設当時には,この区別当事者の租税負担能力の差異を把握していないことがうかがえる。おそらく父子世帯は母子世帯より大変ではないだろう,男性なら多少の負担に耐えることができるであろう等のバイアスが働いたものと推察する。しかし,昭和60年大法廷判決が租税法の分野における広範な立法裁量を認めるとしたのは,租税法の定立については,国家財政,社会経済,国民所得,国民生活等の実態についての正確な資料を基礎として立法府が政策的,技術的な判断をしているからであって,本件のように区別当事者の租税負担能力の差異を調査もせず,不合理に負担を偏らせることは,広範な立法裁量を考慮したとしても認められるものではない。

 このように,本来の立法目的は,家族構成や所得水準といった分類で少数派の納税者に対し,区別当事者の租税負担能力等の正確な情報を基礎とせず,所得の多い父子世帯の父親に負担を強いることで財源の確保を目指したもので,同じ扱いにすべきものを,性別の違いでのみ区別することは水平的公平負担の原則に反するので,不当なものというべきであり,憲法14条1項に反するというべきである。

 

第5 不合理な差別の是正手段と司法による救済について

1 原判決の説示

 原判決は「立法の経緯や前示の立法時の議論等に照らすと,寡夫控除の対象を中低所得層の父子世帯の父親に限るべきとする立法者の強い意志がうかがわれ,対象を一定の所得以下の者に限ることはその他の寡夫控除の要件と不可分一体となっていると見るのが相当である。そうすると,仮に対象を一定の所得以下に限る現行の寡夫控除の制度が不合理な差別に当たるとしても,それはむしろこの制度全体を再検討すべきことに結びつくものであって,控訴人が主張するように,寡夫の要件を定める地方税法の規定のうち,所得の上限を定める部分のみが当然に無効となって,それ以外の部分がそのまま有効として扱われるということはできない」として上告人の主張は失当だとしている。

2 原判決の問題点(上告理由②)

 法令の一部の規定によって生じる区別が憲法14条1項に反するとしたときに,その是正方法と救済の考え方は、平成19年(行ツ)第164号同20年6月4日最高裁判所大法廷判決民集62巻6号1367頁(以下「平成20年大法廷判決」という)に示されている。それによると,過剰な要件を設けることにより本件区別を生じさせている部分のみを除いて合理的に解釈することとしており,原判決の「寡夫の要件を定める地方税法の規定のうち,所得の上限を定める部分のみが当然に無効となって,それ以外の部分がそのまま有効として扱われるということはできない」とした説示は解釈を誤っているというべきである。

3 平成20年大法廷判決の判示

 平成20年大法廷判決は,国籍法3条1項の過剰な要件によって不合理な差別を生じているとし,その是正手段と司法による救済について判示しているので,以下に引用する。

5 本件区別による違憲の状態を前提として上告人らに日本国籍の取得を認めることの可否

 

(1)  以上のとおり,国籍法3条1項の規定が本件区別を生じさせていることは,遅くとも上記時点以降において憲法14条1項に違反するといわざるを得ないが,国籍法3条1項が日本国籍の取得について過剰な要件を課したことにより本件区別が生じたからといって,本件区別による違憲の状態を解消するために同項の規定自体を全部無効として,準正のあった子(以下「準正子」という。)の届出による日本国籍の取得をもすべて否定することは,血統主義を補完するために出生後の国籍取得の制度を設けた同法の趣旨を没却するものであり,立法者の合理的意思として想定し難いものであって,採り得ない解釈であるといわざるを得ない。そうすると,準正子について届出による日本国籍の取得を認める同項の存在を前提として,本件区別により不合理な差別的取扱いを受けている者の救済を図り,本件区別による違憲の状態を是正する必要があることになる。

(2)  このような見地に立って是正の方法を検討すると,憲法14条1項に基づく平等取扱いの要請と国籍法の採用した基本的な原則である父母両系血統主義とを踏まえれば,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生し,父から出生後に認知されたにとどまる子についても,血統主義を基調として出生後における日本国籍の取得を認めた同法3条1項の規定の趣旨・内容を等しく及ぼすほかはない。すなわち,このような子についても,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得したことという部分を除いた同項所定の要件が満たされる場合に,届出により日本国籍を取得することが認められるものとすることによって,同項及び同法の合憲的で合理的な解釈が可能となるものということができ,この解釈は,本件区別による不合理な差別的取扱いを受けている者に対して直接的な救済のみちを開くという観点からも,相当性を有するものというべきである。そして,上記の解釈は,本件区別に係る違憲の瑕疵を是正するため,国籍法3条1項につき,同項を全体として無効とすることなく,過剰な要件を設けることにより本件区別を生じさせている部分のみを除いて合理的に解釈したものであって,その結果も,準正子と同様の要件による日本国籍の取得を認めるにとどまるものである。この解釈は,日本国民との法律上の親子関係の存在という血統主義の要請を満たすとともに,父が現に日本国民であることなど我が国との密接な結び付きの指標となる一定の要件を満たす場合に出生後における日本国籍の取得を認めるものとして,同項の規定の趣旨及び目的に沿うものであり,この解釈をもって,裁判所が法律にない新たな国籍取得の要件を創設するものであって国会の本来的な機能である立法作用を行うものとして許されないと評価することは,国籍取得の要件に関する他の立法上の合理的な選択肢の存在の可能性を考慮したとしても,当を得ないものというべきである。したがって,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生し,父から出生後に認知された子は,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得したという部分を除いた国籍法3条1項所定の要件が満たされるときは,同項に基づいて日本国籍を取得することが認められるというべきである。

(3)  原審の適法に確定した事実によれば,上告人らは,上記の解釈の下で国籍法3条1項の規定する日本国籍取得の要件をいずれも満たしていることが認められる。上告人らの国籍取得届が,被上告人が主張する父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得したという要件を満たす旨の記載を欠き,また,同要件を証する添付書類の添付を欠くものであったことは,同項所定の届出としての効力を左右するものではない。そうすると,上告人らは,法務大臣あての国籍取得届を提出したことによって,同項の規定により日本国籍を取得したものと解するのが相当である。

このように,国籍法3条1項の過剰な要件によって不合理な差別が生じていることに対する是正手段としては、同項を全体として無効とすることなく,過剰な要件を設けることにより本件区別を生じさせている部分のみを除いて合理的に解釈することとしている。

4 本件区別の是正手段

 本件区別は,地方税法23条1項12号及び292条1項12号の寡夫の定義に規定された所得要件の部分(下線部)によって生じている。

地方税法23条1項12号及び292条1項12号(寡夫の定義)

妻と死別し,若しくは妻と離婚した後婚姻をしていない者又は妻の生死の明らかでない者で政令で定めるもののうち、その者と生計を一にする親族で政令で定めるものを有し,かつ,合計所得金額が五百万円以下であるものをいう。

しかし,この規定が憲法14条1項に違反するからといって,同項全てを無効にすることは,同34条1項8号及び314条の2第1項8号で規定された寡夫控除の対象者が不明となり,本件区別による違憲状態の解消にはならない。

不平等を解消する観点からすると母子世帯に所得要件を付ける方法も考えられる。父子世帯の父親に所得要件を設けたのは男性を区別し冷遇するためであったことからすると,母子世帯の母親にも所得要件を設けて不平等を解消するという方法は,平等の名の下に子の養育を支援する部分を奪うもので正当性はないが,仮にその方法で不平等を解消しようとするならば,それは離死別した後に子を養育するにあたって通常よりも出費が多くなることを考慮するための制度を設けた同法の趣旨を没却するものであり,高所得の母子世帯の母親に特別な出費が発生しないことが明らかでない以上,母子世帯の母親に所得要件を設けることは,立法者の合理的意思として想定し難いものであって,採り得ない解釈であるといわざるを得ない。そうすると,高所得の母子世帯の母親には寡婦控除の適用を認めることを前提として,本件区別により不合理な差別的取扱いを受けている者の救済を図り,本件区別による違憲の状態を是正する必要があることになる。

このような見地に立って是正の方法を検討すると,憲法14条1項に基づく平等取扱いの要請と,寡婦寡夫)控除が特別な出費を考慮するために設けられた制度であることを踏まえれば,高所得の父子世帯の父親についても,寡婦控除と同等の控除を等しく及ぼすほかはない。すなわち,高所得の父子世帯の父親についても,合計所得金額が500万円以下という部分を除いた同項所定の要件が満たされる場合に,寡夫として認められるものとすることによって,同項及び同法の合憲的で合理的な解釈が可能となるものということができ,この解釈は,本件区別による不合理な差別的取扱いを受けている者に対して直接的な救済のみちを開くという観点からも,相当性を有するものというべきである。そして,上記の解釈は,本件区別に係る違憲の瑕疵を是正するため,地方税法23条1項12号及び292条1項12号につき,同項を全体として無効とすることなく,過剰な要件を設けることにより本件区別を生じさせている部分のみを除いて合理的に解釈したものであって,その結果も,高所得母子世帯の母親と同様の要件による控除を認めるにとどまるものである。この解釈は,ひとり親には特別な出費が多いことを考慮するとした同項の規定の趣旨及び目的に沿うものであり,この解釈をもって,裁判所が法律にない新たな寡夫控除適用の要件を創設するものであって国会の本来的な機能である立法作用を行うものとして許されないと評価することは,寡婦寡夫)控除適用の要件に関する他の立法上の合理的な選択肢の存在の可能性を考慮したとしても,当を得ないものというべきである。したがって,高所得の父子世帯の父親は,合計所得金額500万円以下という部分を除いた地方税法23条1項12号及び292条1項12号の所定の要件が満たされるときは,同項に基づいて寡夫として控除が認められるというべきであり,要件が満たされる上告人は,寡夫として控除が適用されるべきである。

 

5 将来の是正について

 

 

 本書執筆時点(令和元年12月10日)で,与党税制調査会にて寡婦寡夫)控除制度の見直しが検討されていると報じられていることについて,当訴訟との関連を論じておく。

 報道によれば,寡婦寡夫)控除に男女の差があることは,憲法上の問題であるとし,是正に向けて検討がされているとのことである。

 立法府が,この問題を憲法上の問題ととらえ,寡夫控除への所得要件設置の経緯を振り返り,公平性,財政事情,富の再分配など総合的な観点から判断し,将来に向けて不公平を是正することは歓迎されることである。

 しかし,本件訴訟で問題となっているのは,過去,具体的には平成28年5月13日の本件処分段階で生じていた不合理な区別の解消である。将来に向けて法改正が行われ,将来の不公平が是正されたとしても,本件訴訟の救済にはならない。また,男女平等を口実に,寡婦控除にも所得制限が設けられることになったとしても,それが本件処分段階でのあるべき姿だったということにはならないし,あくまで財政事情や富の再配分など総合的な判断のできる立法府だから採りえる方法であって,司法が過去の不公平是正に向けて採りえる方法ではないことは前述した通りである。

したがって,将来の法改正が本件訴訟の結論を左右するものにはならないというべきである。

第6 租税公平主義の徴税確保主義の解釈

1 原判決の説示

 原判決では,以下のように所得制限設置の正当性を説示している。

寡婦に認められている措置を必要な範囲で父子家庭の父親にも及ぼすという寡夫控除の目的からすれば,その適用を中低所得に限るという観点から所得による制限を設けるのは,前掲大法廷判決(昭和60年大法廷判決のこと)が給与所得に係る必要経費につき実額控除の代わりに概算控除の制度を設けた当時の所得税法の規定を合憲とするに当たって租税法の基本原則として説示する租税負担の公平な配分(租税公平主義)や租税の徴収を確実,的確かつ効率的に実現すること(徴税確保主義)にも合致し,これらの基本原則に沿うものである。」

2 租税公平主義の解釈(上告理由③)

 原判決は,母子世帯の父親に所得要件を設置することが租税公平負担の原則に沿うものだとしているが,租税負担能力等が同等の納税者に対して異なる課税をするのは水平的公平負担の原則に反するものであり,原判決は,昭和60年大法廷判決と租税公平主義の解釈を誤っているというべきである。

 また原判決は,「父子世帯全体と母子世帯全体を総体として見れば収入額,就労状況,仕事の安定性等の面で差異があって租税負担能力や生活実態に差があることが認められ,このような差異を考慮して,寡夫控除の対象となる父子世帯の父親につき所得制限を設けることとしても,明らかに合理性に欠けるとはいえない。」としている。しかし,区別当事者に租税負担能力等の差異がなく,父子世帯全体と母子世帯全体の差異の実態は,中低所得の父子世帯と母子世帯の差異であり,区別当事者には無関係なのだから,父子世帯の父親にのみ所得制限を設けて,高所得のひとり親を性別で区別し,税の負担を異にすることは,合理性に欠けるとはいえないどころか,国民各自の事実上の差異に相応せず不合理に法的取扱いを区別したものであるから,まさしく憲法14条1項の禁止する差別にあたり,原判決の判断は憲法14条1項に反するものである。

3 徴税確保主義の解釈(上告理由④)

 また,なぜ,父子世帯に所得制限を設けることが,租税の徴収を確実,的確かつ効率的に実現すること(徴税確保主義)に合致することになるのか,原判決には的確な理由が付されておらず理解し難い。

 原判決では「平成29年度における母子世帯の総数は62万3200世帯で,うち700万円以上の所得を有するのは1万1500世帯で,率にして1.85%程度にとどまるのに対し,父子世帯の総数6万4900世帯のうち,700万円以上の所得を有するのは1万3300世帯で,率にして約20.49%にも及ぶことになる。上記の母子世帯の1.85%という数字は,仮にこれらの世帯において十分な租税負担能力があって本来は寡婦控除を受けるような特別の支出がなかったとしても,租税の効率的徴収の観点から制度として是認し得る程度の範囲と思われる。控訴人の主張は,この1.85%の母子世帯と均衡を取るために,本来,十分な租税負担能力を有するはずの2割以上の父子世帯にも寡夫控除を適用すべきものとするものであって,不合理であることが明らかである。」と説示している。しかしながらこの説示は以下の2点において失当というべきである。

 まず第1に,徴税作業は母子世帯の母親や父子世帯の父親というくくりで行っているわけではなく,母子世帯や父子世帯の総数に占める割合を算出したところでなんら比較する意味はない。昭和60年大法廷判決で給与所得者の数が膨大であるとしたのは,全納税者に占める割合が膨大ということであって,割合を比較するのであれば,分母は全納税者数にすべきである。したがって徴税作業の観点からすると,1万1500世帯と1万3300世帯に大きな差はないといえるのであって,原判決の説示は失当というべきである。

 次に,「租税の効率的徴収の観点から制度として是認し得る程度の範囲」と説示しているのは,おそらく高所得の母子世帯の母親も寡婦控除の対象外とするのが公平であるということを前提としたと解されるが,仮にそうであれば少数の高所得の母子世帯の母親を,他の大多数の母子世帯の母親と同じ扱いにすることで,税額計算がわずかに単純化できることにはなりえるが,効果はほぼ皆無であるといわざるをえない。そもそも平成元年度の地方税法改正により,高所得の母子世帯の母親と中低所得の母子世帯の母親は控除金額が違うのであって,税額計算を単純化する効果さえないのが現実である。とすると,高所得の母子世帯の母親に対して寡婦控除の対象外としないことを是認できる理由はまったくないのであって,この点からも原判決の説示は失当というべきである。

 したがって,父子世帯にのみ所得制限を設置した制度が,徴税確保主義に沿った正当なものであるとはいえず,昭和60年大法廷判決の示した租税法の分野における憲法14条1項の違憲性判断についての解釈や徴税確保主義の解釈を誤っているというべきである。

 

第7 原判決の誤字の指摘

 8頁19行目の「昭和47年度」は「昭和57年度」の誤りである。

 

結語

 以上のとおり,原判決は憲法14条1項,昭和60年大法廷判決,平成20年大法廷判決の解釈を誤ったものである。そして,本件区別は,立法目的と立法手段の合理的関連性がなく,不合理な差別であることが明白であることから憲法14条1項に反するものであり、差別の是正手段としては,過剰な要件を設けることにより本件区別を生じさせている部分のみを除いて合理的に解釈し,不合理な差別を是正することが相当であるというべきである。

 よって相当の裁判を求める。

 

参考までに

 

 約50年前,チャールズ・E・モーリッツ対内国歳入庁長官裁判(1972年)という米国で起きた裁判がある。この事件は米国内国歳入法214条の介護費用控除の適用の是非を争うもので,独身女性であれば受けられる控除が,原告のモーリッツ氏は独身男性であることから母親の介護費用の控除が認められない点が問題となったものである。この訴訟は,現米最高裁判事ルース・ベイダー・ギンズバーグ氏が手掛けたが,不合理な性差別であるという彼女の主張が認められ,モーリッツ氏への控除が認められることになった。そして事件後にその規定は廃止されている。

 日本での寡夫控除の創設は約40年前であるが,この事件は50年も前のことである。

 当時,米国では男女の収入格差も当然にあり,独身男性と独身女性では租税負担能力の差異も認められたであろう。にもかかわらず,不必要に性別で法的な扱いが違うのは不合理であるとされ,この事件をきっかけに様々な法律上の女性差別男性差別が解消されていくこととなった。

 

 上告人にはギンズバーグ氏のような弁護士はいないが,不合理な差別をなくし,次の世代に差別のない社会を残したいという想いはギンズバーグ氏と同じである。

 誰もが不合理に権利を奪われることがなく,もし不合理な差別が事実としてあった時は,正しく認められ,確実に救済され,適切に是正される。

 そんな社会に,我々は生きられるということを認めていただきたい。

 

以上

上告審

いろいろ考えましたが、今、あれこれ語るのはやめておきます。

2回目の裁判でしたが、とても勉強になりました。川崎市職員の皆様、弁護士さん、裁判官や書記官さん、皆さん、お付き合いいただきありがとうございました。

最後に上告理由書を提出させていただきました。どんな結果になろうとも、これで終わりです。

通常ですと、一ヶ月後に高裁から最高裁に記録が送られて、そこからだいたい三ヶ月で結果が出るそうです。そうすると、5月頃になりますかね。もし判決言い渡しがあるのなら、棄却とわかっていても、記念に最高裁に行ってみようかと考えています。二度と行く事はないでしょうから。

 

上告理由書は明日、公開します。