あるシングルファザーの裁判日誌

寡夫控除は不公平だとして行政訴訟を起こしたシングルファザーのブログ



控訴答弁書(被控訴人の主張)

答弁書から被控訴人の主張を載せます。

 

 

第3 被控訴人の主張

 

1 原判決の違法性について

 原判決は,「租税法の分野における所得の性質の違い等を理由とする取扱いの区別は,その立法目的が正当なものであり,かつ,当該立法において具体的に採用された区別の態様が右目的との関連で著しく不合理であることが明らかにできない限り,その合理性を否定することはできない。」として上で,「父子世帯の父親の場合は,寡婦(母子世帯の母親)とは異なり,通常は父子世帯となる前に既に職業を有しており,父子世帯となった後も引き続き事業を継続したり,勤務を継続したりするのが普通と認められ,また,高額の収入を得ている者も多い等,男性と女性の間に存在する租税負担能力の違いや生活関係の差異等を考慮したものと解されるから,寡夫につき,寡婦にはない所得要件を設けた立法目的は正当なものといえる。」「所得が500万円を超える世帯に限ってみても,父子世帯の父親と母子世帯の母親との間には平均収入額の点で相当の差異があることに照らすと,偶々,課税の前年において,500万円を超える同程度の所得のある男性と女性を想定した場合に,500万円を超える所得を得るまでに至るまでの年数や,一旦500万円を超える所得を得た後にこれを維持することができる年数には男女間で相当の差異があるものと合理的に推認することができる。そうすると,所得が500万円を超える父子世帯の父親と所得が500万円を超える母子世帯の母親との間に区別を設けるべき合理的根拠はないとする原告の主張は採用することができない。」として,原告(控訴人)の請求を棄却した。

 過去の最高裁判例(昭和55年(行ツ)第15号(昭和60年3月27被最高裁大法廷判決),平成6年(行ツ)第89号(平成6年9月13日最高裁第三小法廷判決)及び平成7年(行ツ)第163号(平成7年12月15日第二小法廷判決))も含め,租税法における訴訟の合理的な司法判断を踏襲したものであり,また,証拠に基づき,寡夫寡婦の租税負担能力の差異が示されており,違法と判断する理由は見当たらない。

 

2 所得500万円を超えるひとり親世帯の平均収入について

(1)控訴人は,就業構造基本調査の結果において,収入700万円以上の父子世帯と母子世帯では,母子世帯の平均収入が父子世帯と同等もしくは母子世帯の方が高い傾向となっているとして,平均収入の差が所得要件を設ける合理的理由とはならない旨主張する(控訴理由書6頁ないし8頁)。

(2)しかしながら,母子世帯及び父子世帯の収入700万円以上の所得がある者のみを抽出してその平均を比較しても,「偶々,課税の前年において,500万円を超える同程度の所得のある男性と女性を想定した場合に,500万円を超える所得を得るに至るまでの年数や,一旦500万円を超える所得を得た後にこれを維持することができる年数には,男女間で相当の差異があるものと合理的に推認することができる。」とする原判決判示(11頁)に対する反論とはならない。

 そして,原判決は,甲12号証において,収入500万円以上のものであっても,女性について,収入999万円までの範囲の中に収まってしまう(収入500万円以上の者のうちの約96%がここに含まれる。)ことから,所得500万円の女性であっても,ここに至るまでに時間を要すること,あるいは,同金額の所得を継続することについて,男女間に差があることを認定しているのであって,控訴人の主張は,原判決の判示内容を正解したものとはいえない。

 

3 統計データと租税負担能力の男女間差異について

(1)次に,控訴人は,就業構造基本調査の結果において,700万円以上のある父子世帯の父親と母子世帯の母親を比較すれば,相対的の母子世帯の租税負担能力が低いとはいえないとして,①子の平均人数,②末子の平均年齢,③6歳未満の子のいる割合,④無業者数・求職者数,⑤ひとり親の平均年齢,⑥ひとり親世帯の平均収入額と父母の平均年齢から推定した賃金カーブを比較し,両者の租税負担能力の差がないとする。

 しかしながら,控訴人の主張する⑥賃金カーブによる比較は,あくまでもひとり親世帯の平均収入額と父母の平均年齢から現状を推定したものに過ぎず,この主張から直ちに母子世帯の収入の安定性が立証できるわけではない。

 そして,平成29年度年次経済財政報告によると,比較的収入が高いと考えられる大卒・大学院卒の男女の正社員の賃金カーブは,生え抜き正社員であっても,中途正社員であっても,勤続年数によって,女性の方により大きな変動がみられる(乙5)。これは,比較的収入の高い女性の正社員の収入が,男性と比較して安定していないことを示している。

 現に,「平成28年賃金構造基本統計調査の概要」(乙6)によれば,大学・大学院卒の女性の勤続年数は,男性と比較して短く(前年例合計で女性7.4年に対し、男性13.0年),所得が高い女性であっても,その就業状況が不安定ということができる。

 したがって,原判決が判示する,「偶々,課税の前年において,500万円を超える同程度の所得のある男性と女性を想定した場合に,500万円を超える所得を得るに至るまでの年数や,一旦500万円を超える所得を得た後にこれを維持することができる年数には,男女間で相当の差異がある」との認定は合理的というべきであるから,控訴人の原判決に対する批判は当を得ないものというべきである。

 

4 租税方における立法府裁量権について

(1)控訴人は,本件が性別による差別が問題とされる事案であるとして,厳格な合憲性判定基準を用いるべきである旨主張する(控訴理由書2頁)。

(2)しかしながら,租税方の定立について立法府の裁量を広く認めた租税の多様な機能あるいは役割,租税法定立にあたっての政策せいないし専門技術性を前提とすれば,性別によって異なった課税要件等を定める場合であっても,なお立法府の政策的,技術的判断に委ねられる必要性が失われることはないと解するべきであって,立法目的が正当なものであり,かつ,当該立法において具体的に採用された区別の態様が当該目的との関係で著しく不合理であることが明らかでない限り,その合理性を否定することはできないというべきである。

 そして,原判決のとおり,寡夫控除について,寡婦にはない所得要件を設けた立法目的は正当というべきであり(原判決9頁ないし10頁),父子世帯と母子世帯との間には,収入の額,就労の状況,仕事の安定性の面において差異が存在し,父子世帯の父親は母子世帯の母親と比べて,相対的に高い租税負担能力を有しているものといえるのであって,このような父子世帯と母子世帯の差異等を考慮して,寡夫控除につき,寡婦控除にはない所得要件を設けることが,著しく不合理ということはできないというべきである(原判決10頁)。

 

5 目的と手段の関連性について

(1)控訴人は,父子世帯の所得要件を設けることでは,所得の高い母子世帯を優遇することにしかならず,男性と女性の間に存在する租税負担能力の違い等を考慮したことにならないとする(控訴理由書14頁)。

(2)しかしながら,寡婦控除の適用を受けることがない市民税等納税義務者との比較において,寡婦控除の適用を受ける者の租税負担能力が低いということができるのであれば,寡婦控除に所得要件を設けないことに合理性があるものというべきである。そして,既に述べたとおり,男性と女性との間で,離婚前後の事業あるいは勤務の継続性,高所得者の割合,就業の安定性の相違があることからすれば,寡婦については所得によらず,租税負担能力が高いということはできないのであって,寡婦控除に所得要件を設けないことには,男性と女性の間に存在する租税負担能力の違い等を適切に考慮したものとして合理性が認められるものというべきである。

 

6 その他

(1)控訴人は上記の他,①川崎市の予算規模からすれば,寡婦控除について所得要件を設けることがやむにやまれぬ事情ということはできないこと,②高等学校等就学支援金の至急には,寡婦寡夫)控除適用後の市県民税の所得割を基準にして所得制限が設けられており,同一収入の父子世帯が,寡夫控除の適用を受けることができないことによって,上記支援金の支給を受けることができない場合が生じる点において差別が生じているとする。

(2)しかしながら,①寡婦控除について所得要件を設けないことについて,川崎市の財政事情以外に合理的な理由があることは既に述べたとおりであるし,②高等学校等就学支援金の給付要件が市町村民税所と区割りの額を支給要件の一部とおしていることは,同支援金制度の制度設計の問題に過ぎず,これによって地方税法上の寡婦控除及び寡夫控除の要件の問題とするのは,本末転倒というべきである。