フレンチトースト訴訟

父ちゃん大法廷に立つ(計画)



控訴人準備書面(4)

建国記念日に打ち返した準備書面を公開します。

 

平成30年(行コ)第250号 課税処分取消請求控訴事件

控訴人  sakurahappy

被控訴人 川 崎 市

 

東京高等裁判所第9民事部A2係 御中

 

控訴人  準  備  書  面 (4)

 

平成31年2月11日

              

控訴人 sakurahappy         印

 

 控訴人は,当準備書面にて,被控訴人準備書面(3)の証拠と第3 被控訴人の主張のまとめに対する認否と反論をする。

 

目次

 第1 被控訴人準備書面(3)で提出された証拠について

 第2 「第3 被控訴人の主張のまとめ」についての認否と反論

 第3 憲法第14条1項の規定と被控訴人の区別理由について

 第4 まとめ

 

 

第1 被控訴人準備書面(3)で提出された証拠について

(1)証拠説明書によると乙8,乙11,乙14の立証趣旨は「寡夫控除に所得要件を設けた理由が寡夫寡婦の生活関係の差異等に起因すること。」となっているが,そのようなことは書かれていない。

(2)乙12の囲み線内には「寡夫に対する税制上の配慮としては,一律的に中低所得者に限ることが適当」という不可解な解説がされている。

 

第2 「第3 被控訴人の主張のまとめ」に対する認否と反論

1については,争う。

 

2については,全ての母子世帯の母親に認められている措置を,父子世帯の父親に及ぼすにあたっては,財政状況を考慮して範囲を制限したとする旨の主張は認め,その余は争う。

 

3については,「このような寡夫控除の所得制限は,寡婦控除との間に一定の差異をもたらすものではある」については認め,その余は争う。

 

4(6頁記載部分)については争う。

まず,寡夫控除創設に関し,国会審議でひとり親と親族等との同居率の差異について議論された記録はない。

次に,寡婦寡夫控除において専ら生活関係の議論となっているのは,夫と死別し扶養親族のいない中低所得の女性には寡婦控除が認められるが,離別した女性や,死別・離別の男性には認めていない点である。この点については,以下に引用した答弁がある。

 

【第68回国会 大蔵委員会 第25号 昭和47年5月10日より】

○高木(文)政府委員 

「(略)・・死別をして、その場合には大体奥さんがとつぎ先のほうで、とつぎ先の家の人として子供を育て、とつぎの先の親ごさんたちのめんどうを見、そうしてまたとつぎ先のほうの家を守っていくという環境に置かれているのが大部分だ。これは最近の社会情勢等からいいますと、必ずしもそうでない場合もあろうかと思いますけれども、しかし都会と農村でもまた事情が違うだろうと思いますけれども、確かに死別の場合と協議離婚等、生別の場合とではだいぶ事情が違って、死別の場合には婚家にそのまま残って、そのまま、いわば古いことばになるかもしれませんが、家を守るといいますか、先方のとつぎ先の家を守って、遺牌を守って、子供を守ってと、こういう環境にある。・・」

また乙7号証にも以下の答弁がある。

○関根政府委員「男性の場合には,一たん結婚をいたしまして,それが離婚して奥さんと別れてしまっても,子どもがなければもとの独身男性に返るだけのことですから,何もわざわざ寡夫控除を出すことはなかろう」

 

このように,扶養親族がいない場合,離別の女性や死別・離別の男性は独身に戻るだけだが,死別の女性は嫁ぎ先で家を守ることになるというような生活関係の差異が寡婦寡夫控除について議論されたが,母子世帯と父子世帯の生活関係の差異については議論されていない。

 

また,乙15号証では父子世帯のほうが親族等との同居率が高いことを示しているが,だからといって,寡夫控除に所得要件を設け,中低所得のひとり親は税負担を同額にし,高所得者は男性の税負担を重くする立法手段を採用したことと論理的な関連性がないため,理由とはならない。

更に,乙15号証で示されたデータは,ひとり親世帯全体での比較であり,高所得者が同じ傾向であるとは限らない。親族との同居率については,時代の影響や地域差が存在することや,全国レベルで所得階層別にひとり親の親族同居率を調査した統計が存在しないこともあり,高所得のひとり親の親族同居の実態は不明である。

ただ,葛西リサ氏が2009年に発表した研究論文「父子世帯の居住実態に関する基礎的研究」(甲33号証)には,滋賀県の統計をもとにした,ひとり親世帯の収入階級別の親族等との同居率の集計結果が記載されている。これによると,高所得の父子世帯は母子世帯より親族等との同居率が低くなっていることが認められる。

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これについて葛西氏は次のように考察している。

「年収400万円未満までは父子の同居の割合が母子のそれを上回っている。母子世帯ではいずれの年収階層においても同居の割合に大きな変化は見られないが、父子世帯では300万円以上400万円未満から400万円以上500万円未満の階層にかけて同居の割合は半減する。高額所得階層では、ベビーシッターなどの育児支援にかける金銭的余裕があるために、同居を選択しない世帯が増加するのではないかと考えられる。(原文ママ)」

とすると,中低所得の父子世帯では不得手な家事等の負担を親族等の同居によって解決していることが多いが,高所得の父子世帯では,金銭的な支出によって賄っていることが多いといえよう。となれば,高所得の父子世帯の租税負担能力は低下するというべきである。

また乙15号証では,死別の母子世帯が約7%であるのに対し、死別の父子世帯は約17%であることを示している。死別した場合は養育費の受取りもできないなど,生活関係の差異からは,高所得の父子世帯を高所得の母子世帯と比べて冷遇する理由はないというべきである。

4(7頁1段落目)については,争う。

 

まず,課税手続きの合理化や簡素化という点が寡夫控除創設当時に審議された記録はない。また,甲22号証から判明する収入700万円以上の母子世帯は11500世帯であり,これは甲19号証から判明する収入700万円以上父子世帯の13300世帯に匹敵する。ゆえに父子世帯13300世帯に所得要件を付け,母子世帯11500世帯に所得要件を付けないことが課税手続きの合理化や簡素化になるとはいえないし,そもそもこのような事情でもって差別を容認することは許されないというべきである。

 

第3 憲法第14条1項の規定と被控訴人の区別理由について

(1)憲法14条1項は,課税権の行使を含む国のすべての統治行動に及ぶものであるが,同規定は国民に対して絶対的な平等を保障したものではなく,合理的理由なくして差別をすることを禁止する趣旨であって,国民各自の事実上の差異に相応して法的取扱いを区別することは,その区別が合理性を有する限り,なんら同規定に違反するものではないというべきである。

(2)しかし,被控訴人の主張する区別理由は,性別による事実上の差異に相応したものではなく,財政上の理由や,課税手続き上の理由である。

(3)そもそも,財政面に考慮し,支出や収入減を伴う政策が必要最低限となるようにすることは,寡夫控除創設に限った特殊な事情ではなく,財政一般の恒久的な課題であり,立法裁量の範囲内で解決すべきである。

(4)また,他に公平で合理的かつ財政面を考慮した手段がなかったのかという観点からしても,高所得ひとり親の租税負担能力は男女で同等であることが判明している現在では採用は難しいが,寡夫控除創設当時は,母子世帯全体と父子世帯全体で平均的な租税負担能力の差異が認められていたのであるから,所得要件を設置して父子世帯の約8割に母子世帯と同額の控除を認めるという手段ではなく,垂直的公平負担の原則に則り,寡婦控除の控除額の約8割にあたる控除額を一律で控除するといった手段も採用可能だったはずである。他にも,財政状況が厳しいのであれば母子世帯にも所得要件を設置して公平性と税収を確保することは可能だったはずである。

(5)このように,他にとりえる公平で合理的な手段があるにもかかわらず,支えとなる立法事実もなしに租税公平原則に反した立法手段を用いたことは,恣意的であったといわざるをえない。

 

第4 まとめ

以上のとおり,父子世帯にのみ所得要件を設置した理由は,被控訴人が主張するとおり財政事情を考慮したものでしかなく,本件区別は,高所得母子世帯と高所得父子世帯の事実上の差異に相応した法的取扱いの区別ではないのだから,憲法14条1項の規定に違反した不合理な差別というべきである。

 

以上