フレンチトースト訴訟

父ちゃん大法廷に立つ(計画)



控訴人準備書面(6)

5月4日に提出した準備書面を公開します。

口頭弁論の結果は明日アップします。

 

 

 

平成30年(行コ)第250号 課税処分取消請求控訴事件

控訴人  sakurahappy

被控訴人 川 崎 市

 

東京高等裁判所第9民事部A2係 御中

 

控訴人  準  備  書  面 (6)

 

令和元年5月4日

              

控訴人 sakurahappy         印

 

 控訴人は,当準備書面にて被控訴人準備書面(4)に対する反論をする。

 

目次

 第1 寡婦控除の対象者分類について

 第2 「第2 寡夫控除の立法趣旨と制度設計」に対する反論

 第3 「第3 寡婦控除について」に対する反論

 第4 「第4 所得制限の意義と機能」に対する反論

 第5 「第5 寡夫控除と寡婦控除の要件に差を設けることの合憲性」に対する反論

 第6 まとめ

 

第1 寡婦控除の対象者分類について

本書を執筆するにあたり,複雑な寡婦控除制度の対象者を改めて整理する。寡婦控除は,父子世帯の父親のための寡夫控除と異なり, 以下の (A) (B) (C) の3つが対象者となっている。

 (A)母子世帯の母親

 (B)死別あるいは離婚後に子以外の親族を扶養している女性

 (C)死別後に扶養親族がなく所得の少ない女性

 本訴訟は寡婦控除制度のうち(A)母子世帯の母親に対する税優遇制度に所得要件がなく,父子世帯の父親のためである寡夫控除制度には所得要件があるという差異についての違憲性を訴えるものである。

 

第2 「第2 寡夫控除の立法趣旨と制度設計」に対する反論

6頁「2 寡夫控除創設時の立法事実」として述べられている立法事実のうち,②「妻が夫に死なれた場合,家庭を支える柱がなくなるということで,生活を継続していくのに相当な困難があって,弱い担税力に対する配慮として寡婦控除が存在していた。」とあるが,寡婦控除の対象者は,前述したとおり(A)母子世帯の母親と,(B)死別あるいは離婚後に子以外の親族を扶養している女性と,(C)死別後に扶養親族がなく所得の少ない女性の3つであり,②で述べられた立法事実は,(C)死別後に扶養親族がなく所得の少ない女性についてであるので,正しい立法事実は,「妻が夫に死なれた場合,家庭を支える柱がなくなるということで,生活を継続していくのに相当な困難があって,弱い担税力に対する配慮として死別後に扶養親族がなく所得の少ない女性のための寡婦控除存在していた。」であり,また母子世帯の母親のための税優遇制度と,死別あるいは離婚後に子以外の親族を扶養している女性のための税優遇制度については,「実際は高所得者も優遇されているにもかかわらず,立法当時の背景として共働き世帯よりも専業主婦世帯の割合が多かったことから,死別あるいは離婚後の女性は低所得である割合が多くなるので,寡婦控除があたかも中低所得者のための制度であるという認識をされていた。」というのが事実である。

 

第3 「第3 寡婦控除について」に対する反論

8頁10行目に「広く夫と死別,離婚等をした女性のための制度である寡婦控除に所得制限を設けるかどうかは,ひとり親のための制度である寡婦控除や児童扶養手当に所得制限を設けるかはどうかとは別の考慮が必要となる。」とあるが,前述したとおり,寡婦控除の対象者は,(A)母子世帯の母親と,(B)死別あるいは離婚後に子以外の親族を扶養している女性と,(C)死別後に扶養親族がなく所得の少ない女性の3つで,寡婦控除はそれらを纏めたものである。そしてそのうち(A)母子世帯の母親を対象にした部分はひとり親のための制度であり寡夫控除と別の考慮の必要があるとはいうことはできないのであるから,被控訴人の主張は当を得ないというべきである。

 

第4 「第4 所得制限の意義と機能」に対する反論

被控訴人の述べる通り,所得制限は,財源面での制約も考慮しつつ,より必要な人に対し,必要な税制上の措置や行政サービス等を行うためにもうけられるものであることは認める。

しかしながら,10頁12行目の述べられている「控訴人は,寡夫控除に所得制限があり,扶養親族のある寡婦に対する寡婦控除に所得制限がないことが,憲法14条1項に違反するものであると主張するものであるが,寡夫控除に所得制限があることに合理性がある以上,残る問題は扶養親族のある寡婦に対する寡婦控除に所得制限がないことに合理性があるかという点である。」については間違いを指摘し反論する。

まず,控訴人は,ひとり親のための制度である寡夫控除に所得制限があり,寡婦控除のうち,ひとり親のための制度である(A) 母子世帯の母親を対象にした部分には所得制限がないことが,憲法14条1項に違反するものであると主張しているのであって,(B) 死別あるいは離婚後に子以外の親族を扶養している女性を対象として制度に所得制限がないことには違憲性を主張していない。なぜなら,死別あるいは離婚後に子以外の親族を扶養している場合には,女性であれば寡婦控除が適用されるが,男性の場合は寡夫控除が適用されないという差異について,違憲性を訴えるための原告適格を控訴人は有せず,そこに所得制限がないことについても不知だからである。

次に,もし仮に父子世帯だけの観点から父子世帯の父親のための制度である寡夫控除に所得制限を設けること自体が合理的であるとし,母子世帯だけの観点から母子世帯の母親を対象にした部分の寡婦控除に所得制限がないことが合理的だとしても,ひとり親世帯全体の観点を欠いており,一方にのみ所得制限を設けることに合理性はないのだから,被控訴人の主張は不適切というべきである。

また被控訴人は11頁14行目に「同様に,寡夫控除と扶養親族のある寡婦に対する寡婦控除の適用要件の差異についても,当然に,父子世帯の父全体と母子世帯の母全体の差異を考慮しなければならないことは明らかであり,父子世帯の父の一部と母子世帯の母の一部の差異を都合よく解釈して,制度の是非を論じるべきではない。しかるに控訴人は,父子世帯の父全体と母子世帯の母全体の差異には一切言及せず,極めて部分的な比較に基づき,地方税法寡夫控除の規定が違憲であると主張していることから,同主張を適切ということはできない。」と主張しているが,控訴人は,所得500万円を超える母子世帯の母親と所得500万円を超える父子世帯の父親が,同一所得でも性別の違いだけで課税額が異なることから,その両者を比較しているのである。この両者は一方のみが寡婦控除が適用されるということにより課税額が異なるのであって,いわば法的扱いに差異があるのである。この差異を『国民各自の事実上の差異に相応して法的取扱いを区別することは,その区別が合理性を有する限り,なんら右規定に違反するものではない』とする違憲審査基準に当てはめるには,区別された両者の事実上の差異を比較するべきであって,その比較が最も適切である。従って,「一部の差異を都合よく解釈して,制度の是非を論ずるべきものではない」という被控訴人の指摘は適切ではないし,極めて部分的な比較という主張は当を得ないというべきである。

 

第5 「第5 寡夫控除と寡婦控除の要件に差を設けることの合憲性」に対する反論

1. 1と2に対する反論

11頁「1 合憲性を判断すべき争点」にて被控訴人は「本件訴状において合憲性を判断すべき争点は,①寡夫控除創設時における寡夫控除と寡婦控除の要件に差異を設けた合理的な根拠が,②本件処分時(平成28年5月13日)において,失われているか否か(最高裁平成25年9月4日大法廷判決民集67巻6号1320頁参照)である。」と述べているが,控訴人は寡夫控除創設時当初から合理的な根拠はないと主張しているのであって,争点の認識が異なっている。

12頁「2 寡夫寡婦をめぐる担税力の相違を示す事実」として被控訴人は,父子世帯の父親全体と母子世帯の母親全体,あるいは男性全体と女性全体を,寡夫控除創設当時と本件処分時で様々な観点から比較をしている。しかしながら,祖税法上における違憲判定基準は,国民各自の事実上の差異に相応して法的取扱いを区別しているか,そしてその区別に合理性があるかであって,実際に法的取扱いを区別されている高所得の父子世帯の父親と高所得の母子世帯の母親を比較しなければ意味がないというべきである。

「2 寡夫寡婦をめぐる担税力の相違を示す事実」に述べられた個々の比較については,以下にそれぞれ改めて反論する。

12頁(2)ア 父子世帯の父及び母子世帯の母の平均年間収入は,500万円を越える高所得者(以下「高所得者」という。)に限ると同等もしくは母子世帯の母のほうが高い(甲25号証)。

13頁(2)イ 父子世帯の父及び母子世帯の母の就業率の差異は,高所得者に限ると同等である(甲25号証)。

14頁(2)ウ 男女の平均給与の差異は,高所得の父子世帯の父と母子世帯の母に限ると同等もしくは母子世帯の母が高い(甲25号証)。

15頁(3)では同一所得水準にある父子世帯の父及び母子世帯の母の租税負担能力の差異ということであるが,アからクまでの比較は何一つ同一所得水準で比較していないことを指摘する。また500万円を超える所得水準の父子世帯の父と母子世帯の母を比較していないので,比較に意味がないというべきである。

15頁(3)ア 父子世帯の父及び母子世帯の母の就業状況は,高所得者に限れば同等である。ひとり親の男女別の収入階級別の統計データはないが,参考までに,平成29年就業構造基本調査から男女別の収入階級別の雇用者の中の正規職員・従業員の割合を控訴人が集計したところ,以下のように同一所得水準でみると男女差はほとんどないのが事実であった。

 

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16頁(3)イ 父子世帯の父及び母子世帯の母の同居者の有無については,高所得者に限ると逆転する(甲33号証)。

16頁(3)ウ 父子世帯の父及び母子世帯の母のひとり親となったことを契機とした転職率の差異については,高所得者の在職期間は男女ともに長く同等である(甲29号証)ことから高所得のひとり親はどちらも転職率が小さく同等であると推定できる。

17頁(3)エ 父子世帯の父及び母子世帯の母の持ち家率の差異については,高所得者に限ると同等である(甲33号証)。

 

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また父子世帯の場合は住宅ローンを抱えている場合が多いが,母子世帯の場合は慰謝料や財産分与などにより不動産を受け取っているケースも多く(甲53号証),住宅ローンがない可能性も大きいことから,持家率の差異から父子世帯の父親のほうが安定しているというべきではない。

そもそも,持家があるのは生活が安定しているからといって,高所得のひとり親の中で持家率の高いほうの性別に重く課税するのは合理的とはいえない。持家所有者の租税負担能力が高いとするならば,持ち家所有者に税を課すのが合理的であり,実際に持家所有者は固定資産税を支払っている。となれば持家を所有していることに対する課税評価は既になされているのであり,ひとり親の持家所有を評価することは適切とはいえない。

18頁(3)オ 男女の管理職比率の差異については,女性労働者全体に対する課税額を男性労働者全体よりも低くする理由にはなるが,高所得のひとり親だけを区別する理由ではない。

18頁(3)カ 男女の育児等を理由とした退職者数の差異については,共働き夫婦では女性のほうが育児を理由とした退職者が多いことを示すものであって,ひとり親を区別する理由ではない。

19頁(3)キ 男女の家事・育児時間の差異については共働き夫婦では女性の方が家事・育児時間が多いことを示すものであって,ひとり親を区別する理由ではない。またひとり親になった際の末子の年齢の差異は,高所得のひとり親の末子の平均年齢が同等であること(甲25号証)であるので,高所得のひとり親を区別する理由ではない。

20頁(3)ク 男女の介護等を理由とした退職者数の差異については,共働き夫婦では女性のほうが介護を理由とした退職者が多いことを示すものであって,ひとり親を区別する理由ではない。

このとおり,被控訴人のあげる理由はどれも当を得ず,高所得ひとり親の父母を区別する理由は何もないというべきである。

 

2. 3に対する反論

21頁「3 租税法分野において用いられるべき合憲性判定基準について」で,寡夫控除と寡婦控除の要件の違いについて争われた平成6年9月13日最高裁第三章法廷判決,平成7年12月15日第二章法廷判決については,昭和60年3月27日大法廷判決で示した憲法14条1項の解釈と合憲性判定基準を引用し,厳格な合理性判定基準を用いていないことから,被控訴人は本件に厳格な合理性判定基準を持ち込むことに反対しているが,これらの事例は(C) 死別後に扶養親族がなく所得の少ない女性を対象にした寡婦控除についての男女差を争った件であり,死別後に扶養親族がなく所得の少ない女性と死別後に扶養親族がなく所得の少ない男性では租税負担能力の差異が明らかに認められるため,事実上の差異に相応して法的取扱いを区別され,その区別が合理的を有すると判断されたものである。

一方本件は,事実上の差異に相応して法的取扱いを区別したものではなく財政事情を理由とした法的取扱いの区別であり,性別による差別であるため厳格な合理性の基準で判断されるべきである。

 

3. 4に対する反論

22頁「4 住民税の係る寡夫控除に関する規定が憲法14条に違反しないこと」で被控訴人は,寡夫控除創設の立法目的を述べ,その立法手段の合理性を主張している。

控訴人は準備書面(3)にて寡夫控除制度の立法目的は「父子世帯の租税負担を軽減し経済的に支援するとともに,租税公平主義の原則に従って男女不平等となっている制度を是正すること。」と解されるとしたが,被控訴人は「父子世帯のための措置あるいは配慮を目的として,それまで寡婦に認められているものを必要な範囲内で男性にも及ぼすことを目的」としている。そこで改めて寡夫控除創設の立法目的について検討する。

まず「父子世帯への配慮のため」であることは争いのないところである。しかし,「それまで寡婦に認められているものを必要な範囲内で男性にも及ぼすこと」というのは目的ではなく,「財源を確保すること」という目的を達成するための方針であり手段である。この「財源を確保すること」という目的は,寡夫控除創設の立法目的ではなく,所得税法地方税法等の租税法自体の立法目的である。そして所得税法地方税法等の租税法には「公平原則に基づいて国民に税を課すこと」という立法目的もある。

すなわち,寡夫控除創設の立法目的は「父子世帯への配慮のため」であり,創設にあたっては所得税法地方税法の立法目的である「財源を確保すること」と「公平原則に基づいて国民に課税すること」も達成しなければならない目的である。勿論,この立法目的は正当である。

一方,寡婦控除制度の立法目的は,「(A)母子世帯への配慮のため」「(B)死別あるいは離婚後に子以外の親族を扶養している女性への配慮のため」「(C)死別後に扶養親族がなく所得の少ない女性への配慮のため」であり,同じく所得税法地方税法の立法目的である「財源を確保すること」と「公平原則に基づいて国民に課税すること」も達成しなければならない。そしてこれら寡夫控除制度と寡婦控除制度の立法目的を支える立法事実は存在する。

続いて立法手段について検討する。

まず「父子世帯への配慮のため」という寡夫控除の立法目的を達成するために採用された立法手段は,父子世帯の父親の課税対象所得から23万円(寡夫控除創設当時)を控除するというものである。

そして「母子世帯への配慮のため」という寡婦控除の立法目的を達成するために採用された立法手段は,母子世帯の母親の課税対象所得から23万円(寡夫控除創設当時)を控除するというものである。

次に「財源を確保すること」という租税法自体の立法目的を達成するために採用された立法手段は,寡夫控除に所得要件を設置し,対象を中低所得者に限定することである。

最後に「公平原則に基づいて国民に課税すること」という租税法自体の立法目的を達成するために採用された立法手段は以下の3つである。

  • (1)(A)母子世帯の母親を対象とした部分の寡婦控除には所得制限を設けず全ての母子世帯の母を対象にし,父子世帯の父親を対象とした寡夫控除には所得制限を設けて対象者を中低所得者に限定する。
  • (2)(B)死別あるいは離婚後に子以外の親族を扶養している女性は寡婦控除の対象とし,死別あるいは離婚後に子以外の親族を扶養している男性は寡夫控除の対象としない。
  • (3)(C)死別後に扶養親族がなく所得の少ない女性は寡婦控除の対象とし,死別後に扶養親族がなく所得の少ない男性は寡夫控除の対象としない

このうち(2)と(3)については本訴訟の対象ではないが,(3)の立法手段には,これを支える立法事実が存在する。しかしながら(1)の立法手段には,これを支える立法事実が存在せず,立法目的との間に関連性を有さない。

このように寡夫控除に所得要件を設けることで「財源を確保する」という目的を達成できるとしても,「公平原則に基づいて国民に課税すること」という目的に対しては,立法手段を支える立法事実を欠き,目的と手段の間に関連性を認めることができないのであるから,憲法14条1項に違反するというべきである。

なお寡夫控除が父子世帯のためで,(A)母子世帯の母親を対象とした寡婦控除が母子世帯のためであり,どちらもひとり親世帯を配慮したものであることから,被控訴人の主張する「制度趣旨を異にしているから要件の相違が平等原則違反にならない」という主張は当を得ないというべきである。

 

4. 5に対する反論

24頁「5 立法に必要な期間が経過していないこと」で被控訴人は最高裁昭和58年11月7日大法廷判決を引用し,不平等を是正する手段についても立法府の広汎な裁量によるべきだと主張している。しかしながら,議員定数配分規定が違憲である場合,適切な是正措置を行うには新たな立法措置が必要となる。そのため裁判所は憲法41条を遵守し,是正措置を立法府に委ねたと解される。

本訴訟については,寡夫控除にのみ所得要件がある理由が,財政事情に配慮したということだけしかなく,高所得の父子世帯の父と高所得の母子世帯の母の実質的な差異は性別だけであることが明白な事実なのであるから,この区別に合理性があるということはできない。従って寡夫控除の所得要件は違憲であるといえるが,この差別を解消する方策として,被控訴人の主張するように,将来に向けて立法府で改めて制度を見直すことでも差別の解消は可能といえよう。しかしながら,本件訴訟で問題となっているのは,この不合理な差別によって具体的に本件処分段階(平成28年5月13日)で生じている不合理な区別の解消である。

それではどのような方法で不具合の解消が可能なのかを検討した場合,仮に,過去に向けて寡婦控除と寡夫控除を廃止し,寡婦寡夫)控除適用対象者全員に新たな課税処分をすることや,あるいは母子世帯の母のための寡婦控除に所得要件を設けて,過去に向けて500万円を超える所得のあった母子世帯の母親全てに新たに課税処分をすることでも不合理な区別は解消できることになるが,そのような選択肢は実現が困難で,不当な財産権の侵害であり,到底合憲ということができないであろう。となると採用可能な選択肢は,地方税法第23条1項12号ならびに292条1項12号の寡夫の定義「妻と死別し,若しくは妻と離婚した後婚姻をしていない者又は妻の生死の明らかでない者で政令で定めるもののうち,その者と生計を一にする親族で政令で定めるものを有し,かつ,前年の合計所得金額が五百万円以下であるものをいう。」の下線部を違憲無効とし,「妻と死別し,若しくは妻と離婚した後婚姻をしていない者又は妻の生死の明らかでない者で政令で定めるもののうち,その者と生計を一にする親族で政令で定めるものを有するものをいう。」とすることで合憲とする方法だけである。

もっとも,寡夫控除の所得要件を無効とすることによって,川崎市に対して過大な財政負担を生じさせたり,看過し難い手続き上の混乱を生じさせたりするのであれば,行政事件訴訟法31条1項に基づく処理をせざるをえない。

しかし,川崎市の市民税については,寡夫控除の所得要件が無効である場合に年間200万円程度の減収となるだけであり,平成29年度の歳入総額が7006億円の川崎市の財政事情を考えると,わずか200万円程度の減収の影響は極めて小さいといえよう。また所得税法上の寡夫控除の所得要件は本訴訟の対象ではないが,仮に所得税法上の寡夫控除の所得要件も違憲無効であるとした場合でも,例えば平成27年の所得税収入の16.4兆円に対し,寡夫控除の所得要件廃止に伴う減収は数億円程度であり影響は極めて小さいといえる。この減収額の見積もり根拠は,寡夫控除創設に伴う減収額が約20億円と見積もっていること(乙9号証)と,父子世帯の父の中で寡夫控除適用対象者が約8割(甲14号証)であることからである。また,平成11年に所得税・個人住民税合わせて3.3兆円規模の定率減税を実施していることなどから,昭和56年当時の逼迫した財政事情が継続しているということはできないし,そもそも昭和56年当時でも所得税の税収は前年より1.2兆円増加し,約12兆円だったのであるから寡夫控除の所得要件による数億円の減収抑止は極めて限定的であったといえよう。

(参考)財務省作成 主要税目の税収推移

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従って,所得税法においても寡夫控除の所得要件を違憲無効とすることによって財政事情に与える影響は極めて小さいということができる。

そして手続きについては,最高裁平成22年7月6日判決(民集64巻5号1277号),いわゆる生命保険年金二重課税事件の判決がなされた時の対処として,過去に遡って特別還付金の支給措置が講じられたという実務上の実績があるので,看過し難い手続き上の混乱が生じることはないということができる。

 

第6 まとめ

以上のとおり,被控訴人の主張は当を得ないものであり,寡夫控除における所得要件は違憲無効というべきである。

 

以上