フレンチトースト訴訟

父ちゃん大法廷に立つ(計画)



控訴人準備書面(7)

先月末に提出した準備書面です。

手探りで色々書きましたけど、勝訴のイメージが湧きません。こんなんでいいんだろうか感がいっぱいです。

 

✳︎黄色の文字は引用した条文です。

 

 

 

 

平成30年(行コ)第250号 課税処分取消請求控訴事件

控訴人  sakurahappy

被控訴人 川 崎 市

 

東京高等裁判所第9民事部A2係 御中

 

    控訴人  準  備  書  面 (7)

 

        令和元年6月30日

              

        控訴人 sakurahappy         印

 

 控訴人は,当準備書面にて第4回口頭弁論での釈明事項について釈明するとともに,被控訴人準備書面(4)24ページ「5 立法に必要な期間が経過していないこと」に対する反論を補充し,改めて主張する。

 

釈明事項(第4回口頭弁論調書より転載)

「③ 控訴人は,仮に控訴人が主張するように,現行の寡夫控除と寡婦控除の間で,所得要件を超える所得を有する父子世帯の父親と,母子世帯の母親との取扱いに合理性のない差別があるとしても,控訴人準備書面(4)6頁が指摘するように,その是正手段として母子世帯にも所得要件を課するといった複数の選択肢が考えられるとすれば,なぜ控訴人が主張するように父子世帯の所得要件だけが無効となって本件処分が違法となると考えるのか,主張を補充する必要があれば追加すること。」

 

 

目次

 第1 釈明事項に対する釈明(採用可能な是正手段の検討)

 第2 取消判決の効力

 第3 所得要件を違憲無効とした場合の影響

 第4 結語

 

第1 釈明事項に対する釈明(採用可能な是正手段の検討)

控訴人が,控訴人準備書面(4)6頁で,寡夫控除にのみ所得要件が設置されているという不合理な差別を是正する手段として,複数の選択肢が考えられたと主張したのは,寡夫控除創設当時の立法手段のことである。例えば,母子世帯の母親にも父子世帯の父親と同様の所得要件を設置したり,所得要件を設置せずに寡婦控除と寡夫控除の控除額を低くしたりするといった手段は立法裁量の範囲内であり,財政事情を考慮しつつ不合理な差別のない制度にすることが可能であったと考えられる。

しかしながら,これらの立法手段は,平成28年5月13日時点の本件処分段階で生じている不合理な区別の是正手段としては採用することができない。なぜなら,立法府が,父子世帯の父親の所得要件を無効とする以外の是正手段を採用するということは,寡婦寡夫)控除が適用され一旦確定した税額を納税した納税者に対して,新たな立法により遡及して課税することになり,法の不遡及の原則に反するからである。これは課税関係に必要な法的安定を損なうことにもなるので採用できない手段である。

そして裁判所も,父子世帯の父親の所得要件を無効とする以外の是正手段を採用することができない。なぜなら,それ以外の是正手段を採用するということは,民事訴訟法第246条に反して,訴訟当事者でない納税者に対する新たな課税処分の義務付けを,関係する処分庁に命じることになるからである。

 

民事訴訟法 第246条

裁判所は,当事者が申し立てていない事項について,判決をすることができない。

 

寡婦控除と寡夫控除の立法趣旨の観点からすると,寡婦控除も寡夫控除も,母子世帯や父子世帯では所得の多少に関係なく,通常に比べて出費が多いことを考慮するというものであるから,父子世帯の父親に所得要件が設置されたことを立法趣旨に反するということができても,母子世帯の母親に所得要件を設けなかったことを立法の不作為だということはできないが,それでも仮に違法な立法の不作為とした場合に,裁判所が遡及して所得要件の設置を命じ,過去に遡って500万円を超える所得のあった母子世帯の母親全員に対する新たな課税処分の義務付けを命じることは,憲法第84条に規定された租税立法主義や憲法第41条にも反し,司法の限界を超えるものといわざるをえない。

 

憲法第84条

あらたに租税を課し,又は現行の租税を変更するには,法律又は法律の定める条件によることを必要とする。

憲法第41条

国会は,国権の最高機関であって,国の唯一の立法機関である。

 

尚,遡及して課税処分をするにしても,地方税法第17条5の3の定めがあるので,当訴訟の判決確定の時期によっては時効となる可能性もありえるし,また納税者の事情等により徴収不能になっている場合もあること,これらも採用できない理由となる。

 

地方税法第17条5の3

賦課決定は,法定納期限の翌日から起算して三年を経過した日以後においては,することができない。

 

また,訴えが課税処分取消請求ではなく,仮に500万円を超える所得のあった母子世帯の母親全員に対する課税処分の義務付けを求める訴訟が提起されたとしても,その原告には訴えの利益がなく,訴訟要件を満たすことができないのであるから,いずれにしても,裁判所は課税処分の義務付けを命じる判決を下すことはできない。

従って,この合理性のない差別の是正手段は,寡夫控除創設当時の立法手段としては複数の選択肢があったといえるが,現時点において,過去に遡り不合理な差別を是正する手段のうち,採用できるのは,当事者以外に対する課税処分の義務付けが発生することのない手段に限られることとなる。つまり父子世帯の父親の所得要件を規定した地方税法第23条1項12号ならびに292条1項12号の寡夫の定義

 

地方税法第23条1項12号ならびに292条1項12号

妻と死別し,若しくは妻と離婚した後婚姻をしていない者又は妻の生死の明らかでない者で政令で定めるもののうち,その者と生計を一にする親族で政令で定めるものを有し,かつ,前年の合計所得金額が五百万円以下であるものをいう。

 

の下線部を違憲無効として,以下であるものとし,

 

妻と死別し,若しくは妻と離婚した後婚姻をしていない者又は妻の生死の明らかでない者で政令で定めるもののうち,その者と生計を一にする親族で政令で定めるものを有するものをいう。

 

所得要件を根拠に寡夫控除を適用しなかった控訴人の平成28年度の市民税及び県民税の特別徴収税額の決定のうち,〇〇万〇〇〇〇円を超える部分を取り消す手段のみとなる。

もっとも,将来については,必要に応じて立法府が立法裁量の範囲内で是正手段を講じることになるであろう。

 

第2 取消判決の効力

寡夫控除に設置された所得要件が違憲無効となった場合,行政事件訴訟法第32条,第33条(取消判決等の効力)から,川崎市に限らず,控訴人以外の所得500万円を超える父子世帯の父親にも寡夫控除が適用できることになるので,その対象範囲を整理する。

 

行政事件訴訟法第32条

処分又は裁決を取り消す判決は,第三者に対しても効力を有する。

行政事件訴訟法第33条

処分又は裁決を取り消す判決は,その事件について,処分又は裁決をした行政庁その他の関係行政庁を拘束する。

 

取消判決の確定後に,もしも所得500万円を越える父子世帯の父親だった納税者が,過去に遡り寡夫控除を適用して修正申告すれば,市区町村は還付金の支払いに応じることとなる。この場合,寡夫控除の所得要件が,昭和56年の創設当時から違憲無効であるとしても,地方税法第17条5の4(更正,決定の期間制限)及び第18条3(還付金の消滅時効)の定めにより,遡及して修正申告が可能な範囲は過去5年間となる。

 

地方税法第17条5の4

地方税課税標準又は税額を減少させる賦課決定は,前項の規定にかかわらず,法定納期限の翌日から起算して五年を経過する日まですることができる

地方税法第18条3

地方団体の徴収金の過誤納により生ずる地方団体に対する請求権及びこの法律の規定による還付金に係る地方団体に対する請求権(以下第20条の9において「還付金に係る債権」という。)は,その請求をすることができる日から五年を経過したときは,時効により消滅する

 

なお,所得税法上の寡夫控除にも同様の所得要件が設けられているが,本件訴訟の対象ではないので当訴訟の判決が直接影響を及ぼすことはなく,その影響は,所得税法寡夫控除の所得要件を対象にした訴訟によって判断されることとなる。

 

第3 所得要件を違憲無効とした場合の影響

地方税法上の寡夫控除の所得要件を無効とすることによって,控訴人の平成28年度の市民税及び県民税の特別徴収税額の決定のうち,〇〇万〇〇〇〇円を超える部分は,その処分の根拠を失うため違法となり,取消しとなるが,この司法判断により川崎市を含む全国の都道府県や市区町村に対して過大な財政負担を生じさせたり,看過し難い手続き上の混乱を生じさせたりするのであれば,行政事件訴訟法31条1項に基づく処理をせざるをえないので,その影響について検証する。

 

行政事件訴訟法第31条1項

取消訴訟については,処分又は裁決が違法ではあるが,これを取り消すことにより公の利益に著しい障害を生ずる場合において,原告の受ける損害の程度,その損害の賠償又は防止の程度及び方法その他一切の事情を考慮したうえ,処分又は裁決を取り消すことが公共の福祉に適合しないと認めるときは,裁判所は,請求を棄却することができる。この場合には,当該判決の主文において,処分又は裁決が違法であることを宣言しなければならない。

 

まず,財政負担への影響について,川崎市を例にとり検証する。

平成27年の国勢調査の結果(甲54号証)によると,川崎市の父子世帯数は774世帯である。このうち約2割(甲14号証)が所得500万円を超えていると仮定すると,所得500万円を超える父子世帯の父親は約155人である。

この155人が寡夫控除を適用して修正申告した場合,そして当訴訟の取消判決が令和元年中に確定した場合,平成25年度以前は地方税法第18条3の規定により修正申告による還付金の請求はできないが,平成26年度分から平成29年度分については課税対象所得に対する川崎市民税の所得割額の税率は6%であるので,寡夫控除の26万円が新たに控除となると川崎市民税額は1万5600円軽減される。また神奈川県民税の所得割額の税率は4%であるので,寡夫控除の26万円が新たに控除となると神奈川県民税額は1万0400円軽減される。平成30年度分については税率が異なり,川崎市民税の所得割額の税率は8%であるので,2万0800円軽減され,神奈川県民税の所得割額の税率は2%であるので,5200円軽減される。これらの軽減された税額の合計が還付金となる。

となると平成26年度から平成30年度の川崎市民税の5年分の還付金は一人当たり8万3200円となり,155人では約1290万円となる。

平成30年3月31日時点での川崎市の純資産は2兆450億円(甲55号証)となっており,5年分の還付金である1290万円を川崎市の財政事情から考えてみても,影響は極めて小さいということができる。

川崎市以外の都市についても検証する。近年の川崎市の父子世帯数は減少傾向にあり,父子世帯数が一般世帯数に占める割合は0.11%で,全国平均の0.16%より小さくなっている(甲54号証)。そこで,人口10万人程度の平均的な市を例にとると,人口10万人程度の都市の一般世帯数は約3万5000世帯であるので,その0.16%である父子世帯数は56世帯と算出される。そのうちの2割が所得500万円を超えているとするならば,所得500万円を超える父子世帯の父親は11人となる。そして1年分の還付金は市民税の所得割額の税率が6%であるので1万5600円であり,11人の5年分の還付金の合計は85万8000円となる。このように人口10万人の都市で計算しても還付金は100万円程度であり,財政負担は極めて小さいといえる。

手続きについては,川崎市で所得500万円を超える父子世帯の父親と推定されるのは約155人であり,平成26年から平成30年までとなると多少の増加を見込むことになるが,この程度の人数の修正申告であれば十分に対応可能であり,通常の手続き業務に混乱をきたすこともないといえる。これは人口10万人の都市の場合を考えても,対象者は11人を多少上回る程度と考えられるので,対象者全員に還付金を講じるとしても,看過し難い手続き上の混乱が生じることはないということができよう。

 

第4 結語

以上のとおり,不合理な区別の是正手段として採用可能な手段は,寡夫控除に設けられた所得要件を違憲無効とすることである。そしてその影響によって,過大な財政負担はなく,看過し難い手続き上の混乱も発生しないので行政訴訟法第31条1項に基づく処理は不要というべきである。

 

                以上