フレンチトースト訴訟

父ちゃん大法廷に立つ(計画)



対所得税 原告準備書面(3)

そういえば、被告準備書面(2)はアップしていませんでした。ごめんなさい。

 

こちらは、来月の口頭弁論に向けて提出した準備書面です。

気持ちが沈んでいるせいか、雑な感じがしますね。もう少し推敲すればよかったと後悔しています。

 

 

令和元年(行ウ)第236号 更正処分取消等請求事件

原 告  sakurahappy

被 告  国(処分をした行政庁:川崎北税務署長)

 

東京地方裁判所民事第51部1C係 御中

 

原告  準  備  書  面 (3)

令和2年4月13日

              

原告 sakurahappy         印

 

 

 原告は,当準備書面にて被告の令和2年2月27日付準備書面(2)における被告の主張に対し,必要と認める範囲で反論する。なお,略語の使用については,従前の例による。

 

 

第1 被告の引用した令和元年東京高裁判決について

被告の引用した平成30年(行コ)第250号は,今日時点,最高裁判所で令和2年(行ツ)第56号として裁判中であり,判決は確定していない。

 

第2 寡夫控除の対象外となることは相対的に租税負担が重くなるということ

(1)被告の主張の要旨

被告は「所得時控除の一つである寡婦(寡夫)控除は,それが適用される者の税負担を軽減することを目的とするものであって,適用されない者の税負担を重くする趣旨のものではないし,冷遇しようとする趣旨のものでもない」とし「寡夫控除により税負担を重くされている旨の原告の主張は失当であること」と主張する(被告準備書面(2)8頁)。

(2)原告の反論

高所得単親父に税負担の軽減が必要であることは,高所得単親母と同様であり,高所得ひとり親のうち,単親父だけを寡婦(寡夫)控除の対象外とするのは,高所得単親父の税負担を相対的に重くするものであるし,高所得単親母と比較して冷遇するものである。

寡夫控除の創設の目的は税負担の軽減にあるが,単親父だけに所得要件を設置した目的は税負担を軽減することではないし,高所得単親父の冷遇につながるものである。

 

第3 被告は立法目的と立法手段の関連性について述べていないこと

(1)被告の主張の要旨1

被告は「寡夫につき,寡婦にはない所得制限を設けたのは,男性と女性の間に存在する租税負担能力の違いや生活関係の差異等を考慮したものと解されること」から立法目的は正当であるとし「父子世帯の父親は母子世帯の母親と比べて,相対的に高い租税負担能力を有しているものといえるのであるから,寡婦控除に準じて創設した寡夫控除の要件において,イ号寡婦の要件にはない所得制限が設けられたとしても,それが著しく不合理であるということはできない」として,立法手段が著しく不合理でないことを主張する。(被告準備書面(2)3ないし4頁)。

(2)原告の反論1

まず合理性の基準による審査は,立法目的の正当性,立法目的と立法手段の合理的関連性,立法手段の相当性を問うものである。

しかしながら,被告は立法目的の正当性については述べているものの,立法目的と立法手段の関連性については述べていない。

被告はあたかも立法手段に関連性があるかのごとく述べているが,然るところ被告の主張は「単親父は単親母より租税負担能力があるから単親父に所得制限を設置した立法目的は正当で,単親父は単親母より租税負担能力があるから,単親父に所得制限を設置した立法手段は著しく不合理でない」ということであり,単親父は単親母より租税負担能力があるという理由でもって立法目的が正当であり立法手段も不合理でないと述べているに過ぎない。しかし,関連性を有するというならば,高所得単親父を除外することによって,租税負担能力の男女差の実態に応じた負担となることを示さなければならないのである。

この点は,被告の引用した令和元年東京高裁判決も同様で,関連性審査は当然の要求であり,原審が関連性審査をしていないことは上告理由書でも論じているところである。

それにしても,単親父は単親母より租税負担能力があることを考慮することが立法目的だとすれば,その正当性は否定できないが,単親母と同等の租税負担能力を持つ単親父を除外するという立法手段では,単親母と単親父の租税負担能力の差異を考慮したことにならず,立法目的との関連性を有さないのである。

(3)被告の主張の要旨2

被告は,立法手段が目的を達成するものであることを述べるために「所得控除の適用範囲を制限するために一定の所得制限を設けることは,所得制限の目的に照らして合理性があるといえる」とし,あたかも所得制限を設けた立法手段が立法目的を達成するものであるかのように主張する。 (被告準備書面(2)8頁)。

また所得要件の設置によって「中低所得者の租税負担の軽減を図るという目的は達成される」とし,これまた所得制限を設けた立法手段が立法目的を達成するものであるかのように主張する。 (被告準備書面(2)9頁)。

(4)原告の反論2

しかしながら被告が主張しているのは,所得制限設置の目的と手段であって本件の争点ではない。本件の争点は「所得要件の設置有無が性別によって違うこと」の立法目的と立法手段の合理的関連性の有無である。

つまり被告の主張は,論点のすり替えに他ならない。

 

第4 高所得単親母が少数であることを理由に寡婦控除に所得要件がないことは是認し得る程度の範囲という主張が当を得ないこと

(1)被告の主張の要旨

被告は,「母子世帯の1.85パーセントという数字は,仮にこれらの世帯において十分な租税負担能力があって本来は寡婦控除を受けるような特別な支出がなかったとしても,租税の効率的徴収の観点から制度として是認し得る範囲といえる」とし,高所得の単親母に所得要件を設置しないのは少数不追及の観点から是認できる旨を主張している。(被告準備書面(2)6ないし7頁)。

(2)原告の反論

寡夫控除の創設は昭和56年であるが,平成元年の税制改正で特別寡婦控除制度が創設されている。この結果,所得500万円以下の単親母の所得控除額は35万円となり,所得500万円を超える単親母の所得控除額は27万円で維持された。

このように本件処分時点での所得税法は,所得500万円以下の単親母と500万円を超える単親母の寡婦控除の扱いを明確に分けており,少数だからといって看過する制度にはなっていない。とすると,少数不追及の観点から是認できるとした被告の主張も令和元年東京高裁判決の説示も当を得ないものである。

 そもそも高所得単親母の人数は高所得単親父と同程度である。またひとり親全体を分母にした割合の比較をしても,税の徴収効率には無関係であり,被告の主張は当を得ないものである。

 

第5 寡夫控除が,高所得者にまで担税力の減殺を調整する必要性が乏しいとの主張が当を得ないこと

(1)被告の主張の要旨

被告は,配偶者控除と特別配偶者控除には高所得者にまで担税力の減殺を調整する必要性は乏しいと考えられることから所得制限が設置されていることを例にとり,高所得単親父にまで担税力の減殺を調整する必要性は乏しいとして寡夫控除の所得制限には合理性が認められると主張する。 (被告準備書面(2)7ないし9頁)。

(2)原告の反論

寡夫控除の創設は昭和56年であるが,平成元年の税制改正で特別寡婦控除制度が創設されている。この結果,所得500万円以下の単親母は35万円が所得から控除されることになり,所得500万円を超える単親母であっても27万円が所得から控除されることが維持された。

つまり本件処分時点の所得税法で,高所得者であっても所得500万円を超える単親母に寡婦控除が認められているのは,担税力の減殺を調整する必要性があると考えられているからと解される。

そうすると,高所得のひとり親の寡婦(寡夫)控除は,男性では担税力の減殺を調整する必要性が無く,女性では担税力の減殺を調整する必要性が有ることになるが,両者は同等の租税負担能力を有するのであるから,不合理というべきである。

 

第6 租税負担能力の等しい納税者を,属する社会的カテゴリーによって区別するのは,水平的公平負担原則に反すること

(1)被告の主張の要旨

被告は,令和元年東京高裁判決を引用し「母子世帯と父子世帯との間には,年間収入,就業状況,住宅所有状況,などの点において,明確に差異が存在しているのであるから,父子世帯全体と母子世帯全体を総体としてみれば収入額,就労状況,仕事の安定性等の面で差異があって租税負担能力や生活実態に差があることが認められ,このような差異を考慮して,寡夫控除の対象となる父子世帯の父親につき所得制限を設けることとしても,明らかに合理性に欠けるとはいえない」とし租税公平主義に合致する旨を主張する。 (被告準備書面(2)4頁と9頁)。

(2)原告の反論

大阪市立大学の野口道彦名誉教授によると,差別とは「個人の特性によるものではなく,ある社会的カテゴリーに属しているという理由で合理的に考えて状況に無関係な事柄に基づいて,異なった(不利益な)取扱いをすること」であると定義しており,合理的な理由のない差別を禁じた憲法14条1項の趣旨と同じものである。

被告は,高所得単親父の租税負担能力が高所得単親母と比べて高くないにもかかわらず,性別が男性であるがために,母子世帯全体と父子世帯全体を総体で比較した場合の租税負担能力の差異という区別当事者と無関係な事柄に基づいて,相対的に税負担を重くする扱いをしているのであって,これは「合理性に欠けるとはいえない」どころか,まさに不合理な差別そのものであるというべきである。

また単親母全体と単親父全体の総体による比較結果は,高所得単親母と高所得単親父の間にも漠然とした差異があるかのような印象を導くが,両者の租税負担能力の実態は同等であるし,根拠のない漠然とした印象による決めつけは,偏見でしかないというべきである。

そもそも納税者を憲法14条1項後段列挙事項である,人種,信条,性別,社会的身分,門地によって分類した時に,全体を総体で比較すれば租税負担能力の差異は多かれ少なかれ存在するものである。そうすると,もしもこれらの分類を理由に税負担の軽重に差をつけることが憲法14条に違反しないというのであれば,同じ租税負担能力の納税者を,肌の色や出身地,信仰する宗教等で区別しても許されるということになり,それは従来の憲法14条1項の解釈とは異なるものであり認められないというべきである。また,被告の論理では,同じ租税負担能力の納税者の差別にとどまらず,仮に高所得単親母のほうが高所得単親父よりも租税負担能力があるとしても,全体の比較を理由に高所得単親父を差別することが可能になるので,公平性を欠くものであるというべきである。

そうすると,租税負担能力が同等の高所得単親母と高所得単親父を,性別の違いを理由にして税負担の軽重に差をつけることは,水平的公平負担原則に反しており,租税公平主義に合致するということはできないのである。

 

第7 被告の主張は国籍法違憲判決の趣旨に反すること

(1)被告の主張の要旨

被告は「立法の経緯等に照らすと,寡夫控除の対象を中低所得層の父子世帯の父親に限るべきとする立法者の強い意志がうかがわれ,対象を一定の所得以下の者に限ることはその他の寡夫控除の要件と不可分一体となっていると見るべきである。そうすると,仮に対象を一定の所得以下に限る現行の寡夫控除の制度が不合理な差別に当たるとしても,それはむしろこの制度全体を再検討すべきことに結びつくものであって,原告が主張するように,寡夫の要件を定める所得税法の規定のうち,所得の上限を定める部分のみが当然に無効となって原告に寡夫控除が適用されることにならないというべきである」と主張する。 (被告準備書面(2)13頁)。

 (2)原告の反論

しかしながら,所得要件がその他の寡夫控除の要件と不可分一体かどうかは,所得要件を取り除いて合理的な解釈が可能であるかどうかで判断されるべきである。そもそも寡夫控除創設にあたり,厚生省原案に所得要件はなく,大蔵省が後から追加した経緯(甲24号)からも,所得要件は不可分一体ではないというべきである。また立法者の強い思いを感じるからという理由で所得要件の設置を容認しているが,裁判所は立法者の作った法律が憲法に反していないかを審査するところであり,高所得の単親父を排除すべきという思いによって作成された法律が憲法に反するかどうかを審査すべきなのであって,正当性が明らかでない立法者の思いを斟酌して不合理な所得要件を無効とすべきでないとするのは本末転倒というしかない。また令和元年東京高裁判決では,控訴人である原告が国籍法違憲判決を引用しなかったという事情があるが,被告の主張は国籍法違憲判決の判例に反することは明らかである。

 

第8 ほとんどの人的所得控除には所得制限がなく,寡婦控除への所得要件設置が正解と断言できないこと

被告は「所得制限は,ある一定の金額以上の所得がある人をサービスの対象から外すために設定される基準,あるいは,所得金額が一定額を超える場合に受給できるサービスを制限する条件であり,所得控除等の税制上の措置においても,その適用範囲を限定するために設けられており,寡夫控除のみならず,多くの税制上の各種制度で活用されている」としている (被告準備書面(2)7頁)。

そうすると,あたかも寡婦控除にも所得要件があることが正解であるかのようであるが,所得税法上,寡婦(寡夫)控除以外の人的な所得控除のうち所得制限があるのは,特別寡婦控除・勤労学生控除・配偶者控除・特別配偶者控除で,所得制限のない所得控除は,基礎控除・扶養控除・雑損控除・医療費控除・社会保険料控除・小規模企業共済等掛金控除・生命保険料控除・地震保険料控除・障碍者控除となっており,すべての控除に所得要件が設置されているわけではなく,むしろ所得制限のある控除のほうが少数である。しかも配偶者控除のように高所得者を排する場合,その所得水準は高額で1000万円を超え,また逓減型の所得制限として所得再配分効果を高める制度となっているが,寡夫控除の所得制限の水準はそこまで高額ではないし,また逓減型ではない。

したがって,所得控除が高所得者にまで担税力の減殺を調整する必要性は乏しいと考えられるとしても,全ての控除に所得制限が付けられていないこと,また平成元年の税制改正立法府が所得500万円を超える単親母に27万円の所得控除を維持するという判断をしていることからも,単純に単親母にも所得制限を付けるべきという結論を導くことはできない。

そうすると,高所得単親母と高所得単親父の法的扱いの差異が憲法14条1項に違反するとした場合,単純に寡婦控除にも所得要件を設置することが正解であると結論付けることはできず,また所得制限の額を調整したり,逓減型の所得制限にしたり,中間の控除額にしたりといった方策は立法によるべきもので司法の限界を超えるものであることから,差別是正のためには寡夫控除の所得要件を無効とするしかないというべきである。

この解釈は,労働者災害補償保険法における男性差別の解消についても同じである。京都地方裁判所平成20年(行ウ)第39号(平成22年5月27日判決)において,男女で異なる障害等級表が憲法14条1項に反する時,男性の等級を女性に合わせるか,女性の等級を男性に合わせるかが争点となったが「従前,女性について手厚くされていた補償は,女性の社会進出等によって,もはや合理性を失ったのだから,男性と同等とすべき(引き下げるべき)である」との被告の主張するような結論が単純に導けない以上,違憲である障害等級表に基づいて原告に適用された障害等級(第12級)は,違法である判断せざるを得ず,本件処分も,前記1の原則どおり違法であるといわざるを得ないとして,男性の扱いを女性に合わせることで差別を是正している。

本件差別も,単親母に所得要件を設置することが正解であるとの結論が単純に導けない以上,単親父の所得要件の設置が違憲違法として無効とし,差別を是正するべきである。

 

第9 真の立法目的は立法当時の財政状況を考慮することであること

令和元年11月14日に提出された寡婦寡夫)控除制度に関する質問主意書に対して,内閣総理大臣安倍晋三は,以下の通りの答弁をしている。

質問文(甲25号証より抜粋)

本所得控除制度は,寡夫寡婦,すなわち性別のみによって,要件控除額に差異が設けられている。性別のみにより差別を行うことは,憲法第十四条の「法の下の平等」に照らせば,立法目的が重要なものであることを要求する「厳格な合理性」の基準が求められるところであるが,性別によって差別する合理的根拠がどこにあるのか説明を求める。

 

答弁文(甲26号証より抜粋)

寡夫控除については,所得税法第二条第一項第三十号に規定する寡婦に認められている措置を必要な範囲内で男性にも及ぼすために創設されたものであり,その適用条件については,寡夫控除が創設された昭和五十六年当時において,財政事情が厳しかったこと及び寡夫寡婦と異なり,通常は既に職業を有しており,妻と死別し,又は離婚した場合でも,事業を継続し,又は引き続き勤務することが普通であり,家庭の収入が大きく変動するものではないと考えられていたこと等を踏まえ,規定されたものである。

この答弁の中で,差別の合理的根拠について2つ述べており,1つは「寡夫控除が創設された昭和五十六年当時の財政事情が厳しかったこと」で,もう1つは「寡夫寡婦と異なり,通常は既に職業を有しており,妻と死別し,又は離婚した場合でも,事業を継続し,又は引き続き勤務することが普通であり,家庭の収入が大きく変動するものではないと考えられていたこと」としている。後者の理由については,高所得単親母と高所得単親父には当てはまらない理由であり,中低所得単親母と中低所得単親父の控除額に差異があることの理由であると解される。そうすると,要件の差異,すなわち寡夫にのみ所得要件が設置された理由は,寡夫控除創設当時の財政事情が根拠となっているということである。

財政事情を理由に高所得ひとり親を性別で差別することだけでも正当性に欠けるが,継続的に作用する税法の規定を,昭和56年当時の財政事情を理由にしており,法制定の根拠としては不適切であるし,平成24年以降の本件処分との関係性は皆無というべきである。

このように高所得単親父を寡夫控除の対象から除外した立法目的は,寡夫控除創設当時の財政事情を考慮するためであり,財政事情を理由に,しかも30年以上も前の財政事情を理由に高所得単親父を差別することは,正当性を欠くというべきである。

 

第10 違憲審査基準について

本件の違憲審査基準として,合理性の基準を用いるか厳格な合理性の基準を用いるかは,甲25号にも見られるように諸説あるところである。そして租税法上の憲法14条1項後段列挙事項による差別を,どの違憲審査基準で審査するかは,憲法解釈の上で大変重要である。

しかし,原告は法律の専門家ではないので適切な主張をするには力不足であり,また専門外の原告の主張で左右されるようなものでもないというべきである。

 

第11 結語

以上のとおり,被告の反論は論点のすり替えや,当を得ないものであり不適切である。よって,原告の請求には理由があるので,違法な規定をもとに原告に行われた本件各処分はすみやかに取り消されるべきである。

 

以上