フレンチトースト訴訟

父ちゃん大法廷に立つ(計画)



ひさしぶりの投稿

学食でラーメンをいただきました。f:id:sakurahappy:20230528172710j:image

そうなんです。

通信制ですが、法学部の大学生をやってます。たまに登校しますので、キャンパスライフを楽しんでいます。

 

先生に日本語としての判決文のあり方について質問したところ「あれは日本語じゃない」と毒付きました。

その言葉に救われました。やっぱりあれはプログラミング言語のようなもので、コンパイルが必要なんですね。

児童手当不支給に対する審査請求書案

 私の子は全員二十歳以上で児童手当はもらえませんが、知人が児童手当が所得制限による不支給の決定処分を受け、それに対する審査請求をすることになったので、審査請求の理由を考えてみました。ヒントにでもなれば幸いです。

 審査請求は不支給決定通知が来てから3ヵ月以内にしないといけませんので、もし審査請求を考えているかたは期限に注意してくださいね。

 

****ここから****

 

<審査請求の趣旨>

児童手当不支給の決定処分の取消しを求める。

<審査支給の理由>

 児童手当の目的は児童手当法第1条に以下のように記されている。
「この法律は、子ども・子育て支援法(平成二十四年法律第六十五号)第七条第一項に規定する子ども・子育て支援の適切な実施を図るため、父母その他の保護者が子育てについての第一義的責任を有するという基本的認識の下に、児童を養育している者に児童手当を支給することにより、家庭等における生活の安定に寄与するとともに、次代の社会を担う児童の健やかな成長に資することを目的とする。」
審査請求人は児童を養育する者であり、審査請求人の養育する児童は次代の社会の担う者であるので、児童手当の立法の趣旨を踏まえれば審査請求人に児童手当を支給するべきである。
 しかしながら同法第5条は養育する者の所得が政令で定める額以上であるときは手当を支給しないとしており、処分行政庁は所得額が該当する審査請求人に手当を支給しないという決定をした。
 現児童手当の制度は平成22年に創設された子ども手当制度を引き継ぐものであるが、子ども手当の創設にあたっては所得税法と個人住民税における15歳以下の扶養親族に対する扶養控除が廃止となっている。扶養控除は、憲法11条および憲法25条1項の要請によって、生活に必要な費用は担税力をもたないため課税対象外にしたものと解され、所得の多寡にかかわらず、すべての国民に適用されるべきものである。そうすると、扶養控除を廃することの代わりである現児童手当は、子どもの生活に必要な費用にも課税する代わりに手当を支給しているのであって、もし手当を支給しないとなれば、救済なく子どもの生活に必要な費用にも課税することになる。その点、税法上16歳以上の扶養控除には所得制限がないことからしても、所得が多いことを理由に15歳以下の扶養親族に扶養控除もそれに代わる手当もないというのは整合性を欠き不合理である。
 そもそも児童手当制度は、制度の趣旨からして貧困対策ではなく全ての子どもの養育者に対する支援制度であるのだから、財政対策のために所得水準によるマイノリティを排除するのは、憲法14条1項が禁ずるマイノリティに対する差別であり、マイノリティの権利保護という民主主義の原則に反しており、児童手当法第5条の規定は立法裁量の範疇を超え憲法(11条14条25条)に反しているので無効というべきである。
 なお、日本は国際連合児童基金UNICEFの掲げる「子どもの権利条約」を締結しているが、同条約第2条には保護者の収入で子どもを差別してはならないことが明記されており、本件処分は同条約第2条にも違反するというべきである。
 よって、児童手当法第5条の所得制限の規定は違憲無効であるから同条に基づいて行われた本件処分の取消しを求める。

 

****ここまで****

憲法11条(基本的人権)を持ち出すのは適当でないかもしれません。憲法25条も憲法14条も広範な立法裁量が認められるエリアなので厳しいところではあります。でも個人的にはマイノリティの排除案件なら合憲性の推定は排除してもいいのではないかと思ったりします。

また子どもの権利条約を持ち出しまていますが、児童手当は子どもにではなく親に支給するものだと反論されるかもしれません。

 

で、考えられる裁決ですが、「棄却」でしょう。

棄却理由としては、こんな感じでしょうか。

「請求人は児童手当法第5条が違憲無効であることを理由に処分の取消しを求めているが、法令が違憲かどうかは司法の判断によるべきものであり、本件処分は児童手当法に基づき正しく行われており違法な点はないので請求を棄却する。」

審査請求ノススメ

審査請求は、国民の権利でリスクがほぼゼロ!(リターンもほぼゼロだけど)


国が決めたことに文句がある場合に、裁判所に訴えるという方法があります。
しかし、裁判をやってみて分かったのですが、素人がやるにはハードルが高いです。
法律について勉強しなければなりませんし、お金と時間がかかります。
お金については、解消したい不利益の額によりますが、仮に損害賠償として1円請求する場合、最低でも訴状に貼り付ける1000円の収入印紙や7000円ぐらいの郵券の納付が必要で、最高裁まで争うとこれだけで3万円近くになります。これは何もかも自分でやった場合で、もし弁護士さんに委任するとなれば、桁違い(50万円とか100万円とか)の弁護士料が必要になります。
訴状や準備書面と呼ばれる文書を作成するのも結構しんどいものがありますし、そもそも裁判で国に勝つのは至難の業です。
しかも訴えるためには前提条件があって、そこをクリアしないと門前払い(却下判決)をくらいます。(私もくらいました。)

その前提条件の1つに、「審査請求」をしていることというのがあります。数年前まで「不服申し立て」と言っていたもので、納得できない行政処分に文句をいうものです。行政処分というのは、税額の決定とか手当などの支給額の通知とかのことですね。

 

で、この審査請求ってやつなんですが、恐ろしくハードルが低いんです。
審査請求をするのに弁護士は要りません。審査請求書というのを書いて提出するのですが、書式も決まっていてA4用紙2枚程度です。審査請求をする理由が法的に整っていなくとも大丈夫です。理由を書く欄も数行分しかありません。その審査請求書を役所(所得税なら国税不服審判所)の担当者が受け取って、きちんとした主張に整えてくれます。扱いも丁寧で、こちらの主張をかっこいい文書で整理してくれるし、国側にも答弁書を求めて半年から1年ぐらいかけて審査をして結論を出してくれます。
国や市側もきちんとした答弁書をだしてきて、そのコピーが請求人にも送られてくるのですが、内容に手抜きがありません。ちゃんと書留で送ってくれます。最終的にはほとんど棄却されるのですが、その審査に要する行政側の労力は計り知れません。内容によっては審査請求の裁決を第三者の諮問委員会に意見を聞くこともできます。私の感覚ですが、1件の審査請求を処理するのに行政側のコストは100万円を超えていると思います。そんな審査請求にかかる費用ですが、コピーを取ったり役所に出向く交通費なんてのはあるかもしれませんが、基本的にゼロなんです。

社会の制度の不満に対して、署名を集めて政治家に嘆願するとか、SNSで叫び続けるというのも方法としてはありですが、せっかく国が用意してくれているのですから審査請求という制度を制度改善の方法のひとつとして利用してはいかがでしょうか。棄却されたとしても審査請求で上がった声が届いて法律の改正に動くことがあるかもしれません。ちなみに審査請求の結果を受けて裁判所に訴えるかどうかは自由です。


(以下はつぶやき)
仮にある制度によって不利益を被り不満を持った人が10万人いたとして、そのうち1万人が審査請求を提起したとしたら、行政の処理能力を超えるだろうからパニックになるだろうなぁ。なので「みんなで審査請求しようぜ!」なんて扇動はしないでくださいね。

児童手当に所得制限をつけたら税法が違憲では?

嫌いな四文字熟語は「所得制限」な私ですが、ちょっと思ったことを書きます。

 

2022年10月から年収1200万円以上の場合に児童手当の特例給付が廃止になるそうです。
チョットマッテ、これ、所得税法憲法違反の可能性がありませんか?

 

年収1200万円以上ある場合、23歳以上の親族を扶養している場合は扶養控除がありますが、15歳以下では扶養控除がありません。これは水平的租税公平負担原則に反します。

 

15歳以下に扶養控除がないのは平成22年の税制改正によるものです。
その改正で控除から手当へのシフトと子ども手当の創設にあいまって15歳以下への扶養控除が廃止されました。

しかし、年収1200万円以上では子ども手当(児童手当[特例給付])がないとなれば、立法目的と立法手段の合理的関連性が喪失することになるのではないでしょうか?

 

平成22年税制改正の立法目的と立法手段はたぶんこうだと思います。

<立法目的>

所得控除から手当に変更することと子ども手当(現行の児童手当)の創設にあいまって、子ども手当の支給対象となる親族に対する扶養控除を廃する。

 

<立法手段>

15歳以下の親族に対する扶養控除を廃する。

 

これは、サラリーマン税金訴訟の判断の枠組みに照らすと合理性の基準で違憲性を判断することになりますが、そうすると、「平成22年の税制改正子ども手当(児童手当)の支給に伴い15歳以下の親族に対して扶養控除を廃した現行の所得税法の規定は、令和4年の児童手当法の改正以降、所得制限によって児童手当を受けられない15歳以下の親族に対する扶養控除が廃されている部分が、手当の支給に伴って控除を廃するとした立法目的と立法手段との間に合理的関連性がなく憲法14条1項に反する」といえるかもしれません。

 

もっとも、裁判所が立法経緯から富の再配分を立法目的に推認してしまうと厳しくなりますけどね。やっぱり立法裁量の範疇なのかもしれません。


もし、原告適格(実際に不利益を被っていて裁判を起こす資格)があれば提訴するところです。

第二次早生まれ税金訴訟に向けて

初めてお知らせします。

 

実は、今月別の訴訟を提起しました。

早生まれの子を扶養する時の不公平を司法に問います。

ようやく原告適格が得られたので、審査請求などを進めてきました。

 

タイトルが第二次となっているのは、この件は平成20年に名古屋高裁で判決がでているからです。

 

この裁判についてはこちらのブログで綴ります。

https://sakurahappy.hateblo.jp/

 

早生まれの子が不公平に扱われていることを知ってから、何かできることはないかと考えていましたが、裁判という形にできるかもしれないと考えまして、そうするとどうにも我慢が出来なくなりました。

 

原告が我慢ができない事を立証するために、鷺沼の「懐や」の特塩を甲1号証として提出します。

f:id:sakurahappy:20191227130051j:image

裁判所のHPに載りました

所得税東京地裁判決文が裁判所のホームページに載っています。

裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan

 

足跡として残ったことはうれしく思います。

 

これを読んでの感想も検索するといくつか出るようになってきました。

 

そのうち控訴審判決も載るのではないかと思います。

 

対所得税控訴審判決(地裁判決補正版)

所得税寡夫控除訴訟、東京高裁の判決文(東京地裁判決の補正版)です。

黒字は高裁の判決文で青字は地裁の判決文になります。地裁判決文の中で削除になった部分は赤字にしています。

 

上告はしませんので令和4年1月28日に判決は確定します。

 

 

令和4年1月12日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

令和3年(行コ)第166号 更正処分取消等請求控訴事件(原審・東京地方裁判所令和元年(行ウ)第236号)

口頭弁論終結日 令和3年10月27日

 

   判      決

          原告 Sakurahappy

          被告 国

          処分行政庁 川崎北税務署長

 

   主      文

 

1 本件控訴を棄却する。

2 控訴費用は控訴人の負担とする。

 

事 実 及 び 理 由

 

 

第1 控訴の趣旨

1 原判決を取り消す。

2 川崎北税務署長が平成30年3月27日付けで控訴人に対してした次の各処分をいずれも取り消す。

 

(1) 平成24年分の所得税に係る更正処分のうち,納付すべき税額マイナス5万4000円を超える部分及び同更正処分に伴う過少申告加算税の賦課決定処分

(2) 平成25年分の所得税及び復興特別所得税に係る更正処分のうち,納付すべき税額マイナス5万5103円を超える部分及び同更正処分に伴う過少申告加算税の賦課決定処分

(3) 平成26年分の所得税及び復興特別所得税に係る更正処分のうち,納付すべき税額マイナス5万5121円を超える部分及び同更正処分に伴う過少申告加算税の賦課決定処分

(4) 平成27年分の所得税及び復興特別所得税に係る更正の請求に対する更正すべき理由がない旨の通知処分

3 川崎北税務署長が平成30年4月25日付けで控訴人に対してした平成28年分及び平成29年分の所得税及び復興特別所得税に係る各更正の請求に対する更正すべき理由がない旨の各通知処分を取り消す。

 

第2 事案の概要

 父子世帯の父親である控訴人は,自身が所得税法(令和2年法律第8号による改正前のもの。以下同じ) 2条1項31号(以下「本件規定」という。)の「寡夫」に該当することを前提に,同法81条に定める募夫控除を適用し,平成24年分,平成25年分及び平成26年分の所得税等の各確定申告をしたところ,川崎北税務署長(処分行政庁)から,いずれの年分についても,合計所得金額500万円以下という本件規定の所得要件(以下「本件所得要件」という。)を満たさないから,寡夫控除の適用は認められないとして,各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及びこれらに伴う過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい,本件各更正処分と併せて「本件各更正処分等」という。)を受けた。また,控訴人は,寡夫控除を適用せずに行った平成27年分,平成28年分及び平成29年分の所得税等の各確定申告について,寡夫控除を適用すべきであるとしてそれぞれ更正の請求をしたところ,川崎北税務署長から,更正すべき理由がない旨の各通知処分(以下「本件各通知処分」といい,本件各更正処分等と併せて「本件各処分」という。)を受けた。

 本件は,控訴人が,被控訴人を相手に,本件規定が所得税法2条1項30号イの「寡婦」にはない本件所得要件を設けていることが憲法14条1項及び24条2項に違反しており,本件規定のうち本件所得要件に係る部分は無効であるから,本件所得要件を満たさない控訴人にも寡夫控除を適用すべきであると主張して,本件各更正処分のうち申告額を超える部分及び本件各賦課決定処分並びに本件各通知処分の取消しを求める事案である。

 原審が,控訴人の請求をいずれも棄却したところ,控訴人が控訴を提起した。

 

1 関係法令の定め

(1) 本件に関係する所得税法及び所得税法施行令(平成29年政令第105号による改正前のもの。以下同じ)の定めは別紙2-1及び2-2記載のとおりである。

(2) 所得税法における募婦(寡夫)控除の概要

所得税法2条1項30号は,事婦控除の対象となる「寡婦」について,①夫と死別若しくは離婚した後婚姻をしていない者又は夫の生死の明らかでない者で政令で定めるもののうち,扶養親族その他その者と生計を一にする親族で政令(所得税法施行令11条2項)で定めるもの(その者と生計を一にする子で,他の者の控除対象配偶者又は扶養親族とされておらず,その年分の総所得金額等の合計額が基礎控除の額以下のもの。以下,単に「生計を一にする子」という。)を有するもの(同号イ。以下「30号イの寡婦」又は「扶養親族のある寡婦」という。),②夫と死別した後婚姻をしていない者又は夫の生死の明らかでない者で政令で定めるもののうち,合計所得金額(純損失の繰越控除等を適用しないで計算した場合における総所得金額等の合計額)が500万円以下であるもの(同号口。以下「30号ロの寡婦」又は「扶養親族のない死別寡婦」という。)と定義している(なお,以下,同号の表記については,所得税法2条1項の記載を省略する場合がある。)。

また,所得税法2条1項31号(本件規定)は,募夫控除の対象となる「寡夫」の定義について,妻と死別若しくは離婚した後婚姻をしていない者又は妻の生死の明らかでない者で政令で定めるもののうち,その者と生計を一にする親族で政令(所得税法施行令11条の2第2項)で定めるもの(生計を一にする子)を有し,かつ,合計所得金額が500万円以下であるもの(以下,同号の募夫を単に「寡夫」ということがある。)と定義している。

募婦控除又は寡夫控除が適用されると,寡婦又は寡夫に当たる者のその年分の総所得金額等から27万円が控除される(所得税法81条。以下,寡婦控除と寡夫控除を併せて「寡婦等控除」ということがある。)。

 

2 前提事実(争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

(1) 原告の身分関係

原告は,平成24年から平成29年まで(以下「本件各年」という。)において,給与所得者であり,本件各年分の合計所得金額(以下,単に「所得」ということがある。)はいずれも500万円を超えている。具体的には,原告の総所得金額(給与所得の金額)は,平成24年分が-----円,平成25年分が-----円,平成26年分が-----円,平成27年分が-----円,平成28年分が-----円,平成29年分が-----円である。(甲1,4~6,72~4)

原告は,妻と離婚した平成23年9月30日以降,本件各年を通じて,婚姻しておらず,3人の子の親権者としてこれらの子らと生計を一にしていた。なお,これらの子らに係る本件各年分の総所得金額等の合計額は,いずれも基礎控除の額(38万円)以下であった。(甲1)

(2)原告の確定申告

原告は,平成29年12月28日,平成24年分から平成26年分までの所得税及び復興特別所得税の確定申告書(平成24年分は所得税のみ。以下,同税と復興特別所得税を併せて「所得税等」という。)について,寡夫控除の金額を27万円と記載して川崎北税務署長に提出した。他方,原告は,同日に提出した平成27年分の所得税等の確定申告書については,募夫控除の金額を記載せず,同日,寡夫控除を適用すべきことを理由とする更正の請求をした。また,原告は,平成30年3月16日に提出した平成28年分の所得税等の確定申告書及び同月15日に提出した平成29年分の所得税等の確定申告書についても,寡夫控除の金額を記載せず,同月16日,寡夫控除を適用すべきことを理由とする更正の請求をした(以下,平成27年分の所得税等に係る更正の請求と併せて,「本件各更正請求」という。)。(甲1)

(3)本件各処分

川崎北税務署長は,原告の平成24年分から平成26年分までの所得税等に係る調査を実施したところ,いずれの年分についても合計所得金額が500万円以下ではなかったことから,原告は本件所得要件を満たさないため本件規定に定める募夫に該当せず,寡夫控除は認められないとして,平成30年3月27日付けで,本件各更正処分等(その内容は,それぞれ,別表1~3の「更正処分等」欄のとおり。以下,個別の更正処分を表す場合には「平成24年更正処分」などという。)をした。(甲4~6)

川崎北税務署長は,本件各更正請求に係る調査を実施したところ,原告の平成27年分から平成29年分までにおける合計所得金額がいずれも500万円以下ではなかったことから,原告は寡夫に該当せず,本件各更正請求には更正をすべき理由がないとして,平成27年分については平成30年3月27日付けで,平成28年分及び平成29年分についてはいずれも平成30年4月25日付けで,本件各通知処分をした(甲7~9)。

(4)本件訴えの提起等

原告は,平成30年5月24日,国税不服審判所長に対し,本件各処分の取消しを求めて審査請求をしたところ,同所長は,同年11月13日付けで,原告の審査請求を棄却する旨の裁決をした(甲1)。

原告は,令和元年5月8日,本件訴えを提起した(顕著な事実)。

(5)別件訴訟

原告は,平成29年9月28日,川崎市を相手に,平成28年度の市民税及び県民税に係る特別徴収税額の決定につき取消しを求める訴訟(以下「別件訴訟」という。)を横浜地方裁判所に提起し,募夫控除につき子を有する寡婦にはない所得要件を設けている地方税法の規定(以下「地方税法における寡夫控除の規定」という。)が憲法14条1項に違反する旨主張した。これに対し,同裁判所は,平成30年7月11日に請求棄却の判決をし,同判決は,令和元年10月9日の控訴棄却の判決及び令和2年10月12日の上告棄却の判決(最高裁令和2年(行ツ)第56号同年10月12日第一小法廷判決。以下「最高裁令和2年判決」という。)を経て確定した。(乙11,12,18)

3 税額等に関する当事者の主張

本件各処分における課税の計算に係る被告の主張は別紙3のとおりであり,原告は,後記4の争点に関する部分を除き,その計算の基礎となる金額及び計算方法を明らかに争わない。

4 争点

(1) 本件各更正処分及び本件各通知処分の適法性(具体的には,所得税法2条1項31号〔本件規定〕のうち,30号イの募婦にはない本件所得要件を募夫について定める部分〔以下,この両者の所得要件の差異を「本件区別」ということがある。〕が,憲法14条1項に違反し無効であるか

(2) 本件各賦課決定処分の適法性(具体的には,国税通則法平成26年法律第10号平成28年法律第15号による改正前のもの。以下同じ〕 65条4項の「正当な理由」の有無)

5 当事者の主張

争点に関する当事者の主張の要旨は,別紙4のとおりである。なお,同別紙において使用した略語は本文でも用いる。

(追記)別紙4についてはこちらを参照してください

対所得税東京地裁判決文 別紙(4) - フレンチトースト訴訟 (hatenablog.jp)

 

控訴審における当事者の主張)

(1) 控訴人の主張

ア 最高裁昭和60年判決の判断枠組みは本件に妥当しないこと

(ア) 最高裁昭和60年判決は,給与所得者と事業所得者という異質性が認められる比較対象について,所得の性質の違いによる課税額の調整方法について判断したものであって,租税負担能力の異なる者にはその能力に応じた課税をするという垂直的公平負担原則に沿っているか否かの判断である。問題となる区別が垂直的公平負担原則に沿ったものであるかについては,極めて専門技術的な判断が必要とされるため,裁判所は,広範な立法裁量を尊重せざるを得ない。しかし,本質的平等が要求される属性による

取扱いの区別については,租税負担能力が同じ者に対して同じ課税をするという水平的公平負担原則に沿っているか否かでその合理性を判断すべきであり,最高裁昭和60年判決の判断枠組みを採用することはできず,立法裁量は強く制限される。

(イ) 本件区別に係る比較対象は,所得が500万円を超える層(基準超過層)の母子世帯の母親と父子世帯の父親であるところ,性別以外には,収入差のような顕在的担税力減殺要因も就業状況のような構造的担税力減殺要因も存在しないため,比較対象には同等性が認められる。この場合,それぞれの取扱いの相違を確認し,取扱いの優劣の判定により水平的平等原則違反か否かを判断すべきである。

(ウ) 最高裁昭和60年判決の判断枠組みは,複数の制度によって構成された区別の違憲性判断に対応していない。基華超過層のひとり親につき,性別により寡婦等控除の適用に違いがあるのは,昭和26年創設の募婦控除,昭和56年創設の募夫控除,平成元年創設の特別寡婦控除制度の複合結果であり,それぞれの制度の立法目的や立法手段を審査しても,複数制度の複合結果に違憲性があるかについての判断をすることはできない。

 

イ 本件における判断枠組み

所得が同じで性別以外の条件が同じであるにもかかわらず,性別によって離婚後の課税額が変わる場合,その区別に正当な理由がなければ不平等な扱いである。また,税法上の規定が,母子世帯を父子世帯よりも優遇するものであれば,離婚の際に親権や養育権を母親に誘導する可能性を否定できない。上述の最高裁昭和60年判決の問題点,憲法24条の法意及び最高裁昭和34年(オ) 1193号同36年9月6日大法廷判決・民集15巻8号2047頁の考え方を踏まえると,本件区別については,①性区別の目的に正当性がないか,あるいは,②処分時点において具体的に採用された区別の態様が上記目的と関連性がなく,他の法律等により実質上の不平等が生じないように立法上の配慮がされていない場合には,不合理な差別であって,憲法24条2項にも違反する。

 

ウ 立法目的の正当性について

(ア) 本件区別の立法目的が,母子世帯の母親と父子世帯の父親との租税負担能力の差異を考慮して租税負担が平等になるように調整することであれば,正当である。

(イ) また,被控訴人は,平成29年度における母子世帯の総数は62万3200世帯で,うち700万円以上の所得を有するのは1万1500世帯で,率にして1.85%にとどまるところ,仮にこれらの世帯において十分な租税負担能力があって本来は寡婦控除を受けるような特別の支出がなかったとしても,租税の効率的徴収の観点から制度として是認し得る旨主張している。上記主張からすれば,基準超過層の寡婦寡婦控除の対象から除外しない制度にした立法目的は,租税の徴収効率を高めることであったと解される。そうであれば,当該立法目的は正当である。

 

エ 立法目的と立法手段との関連性について

(ア) 本件区別の立法目的が上記ウア)の場合,平成19年以降,全国就業構造基本調査等の統計情報によれば,基準超過層の父子世帯の父親の平均収入は基準超過層の母子世帯の母親の平均収入と同等かそれ未満である。また,平成28年労働力調査(甲22)によって勤続年数などの就業状況に差がないことが統計上明らかになっている。したがって,両者の間には,収入のような顕在的担税力減殺要因のみならず,就業状況のような構造的担税力減殺要因も存在しない。そうすると,基準超過層の父子世帯の父親に所得控除を認めず,基準超過層の母子世帯の母に控除を認めるという立法手段では,租税負担が平等になるように調整することができないどころか真逆な結果を招くこととなるのであって,合理的関連性は認められない。そして,他に実質的平等となるような立法的配慮が存在しないことを踏まえると,遅くとも平成19年以降は,目的と手段の間の合理的関連性は失われていたというべきである。

(イ) また,本件区別の立法目的が上記 ウイ)の場合,昭和56年の寡夫控除の創設当時においては,基準以下の層の寡婦と基準超過層の寡婦を区別しないことで労力がかからないともいえるので,目的と手段の間に観念上の関連性を否定することができない。もっとも,平成元年の税制改正により,基準以下の層の寡婦が特別寡婦控除の対象となると,課税額を算出するために基準以下の層と基準超過層の寡婦を所得額で区別する必要性が生じ,区別する労力がかからないという利点が消失したから,目的と手段の間にあった観念上の関連性は失われた。

 

オ その他の原判決の問題点について

(ア) 原判決は,母子世帯の養育費の受給水準は高いとはいえないと判示しているが,受給している養育費の平均月額は母子世帯が4万3707円,父子世帯が3万2550円であるところ,受給割合(母子世帯の母親が24.3%,父子世帯の父親が3.2%)から平均年額を算出すると母子世帯が12万7450円,父子世帯が1万2500円となる。母子世帯の養育費の受給水準に言及するに当たっては,これも考慮に入れるべきである。

(イ) 原判決は,①ひとり親世帯における基準超過層の割合自体が少ないこと,②基準超過層の母子世帯の数は,同層の父子世帯の数を超えるものでないこと,③母子世帯における基準超過層の割合は近年でも2%未満であり,父子世帯における基準超過層の割合(約20%)に比べて顕著な差があること,④これらに加え,平均像としては依然として低所得者の多い母子世帯の母親について所得要件を設けることにつき国民の理解を得られるかという問題もあったことを挙げて,30号イの寡婦 (扶養親族のある寡婦)のうち基準超過層にあるものについて,これを寡婦控除の対象から除外する旨の立法的手当てを行わず,母子世帯と父子世帯の総体的な租税負担能力の差異等を重視した制度を維持することにも,相応の合理性があったと判示している。

 しかし,①については,父子世帯にも所得要件を課すべきでない理由である。②については,基準超過層は,母子世帯が1万1500世帯,父子世帯が1万3300世帯と同程度であって,前者が後者を超えていないことを判断の基礎とするのは恣意的である。③については,その差によって何がどう影響するのかを明らかにしていないし,そもそもひとり親世帯における父子世帯の割合が10%であることを無視して都合のいい数値だけを選んだものである。④については,平均像という思い込みや偏見を判断の基礎にしている点で問題がある上,その意見の出所が明らかにされていないし,反対の意見もある。

(ウ) 母子世帯と父子世帯とで,基準超過層の平均収入の差異が明らかであるにもかかわらず,基準以下の層を加えて総体として比較し,その結果を基礎にするのは憲法の解釈を誤ったものである。

 

(2) 被控訴人の主張

ア 判断枠組みについて

(ア) 控訴人は,最高裁昭和60年判決が垂直的公平負担原則に沿っているか否かの判断であり,本件で問題となっている水平的公平負担原則についての判断ではない旨主張し,これを前提に最高裁昭和60年判決は本件に妥当しない旨主張する。

しかし,最高裁昭和60年判決は,給与所得者と事業所得者は所得税の課税において同じ状況にあるにもかかわらず,給与所得の金額の計算方法と事業所得の金額の計算方法が異なることについて憲法14条1項の規定に違反しないことを判示しているのであるから,控訴人のいう水平的公平負担原則について判断している事案であって,控訴人の上記主張は理由がない。

(イ) 控訴人は,最高裁昭和60年判決の枠組みは,複数の制度によって構成された区別の違憲性判断に対応していない旨主張する。しかし,本件の争点は,本件規定のうち本件所得要件を定める部分が憲法14条1項に違反し無効であるか否かである。そして,当該部分は昭和56年度の税制改正によって設けられたのであるから,上記争点については,昭和56年度の税制改正における立法目的をもって判断するのが相当である。なお,同改正は, 昭和26年度の税制改正を前提としているので,昭和56年度の税制改正の目的を検討することは,昭和26年度の税制改正の目的を一切検討していないことにはならない。したがって,控訴人の上記主張は理由がない。

(ウ) 控訴人は,本件区別が憲法24条2項にも反する旨を主張するが,憲法24条2項は,婚姻及び家族に関する事項について,具体的な制度の構築を第一次的には国会の合理的な立法裁量に委ねるとともに,その立法に当っては,個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚すべきであるとする要請,指針を示すことによって,その裁量の限界を画した規定である(最高裁平成25年(オ)第1079号同27年12月16日判決・民集69巻8号2427頁)。他方,所得税法で定義される募夫又は寡婦は,離婚に関する親権の有無にかかわらず,経済実態に基づく生計を一にする子の存在から各種控除の適用を判定するものであり,募夫又は寡婦は,あくまで課税所得の算定上控除する所得控除の課税要件に係る租税法上の固有概念にすぎない。このような所得控除の適用の場面で,離婚に関して父母間で何らかの権利利益が発生することはなく,監護費用(養育費)にも影響を与えることはない。したがって,本件規定は,そもそも婚姻及び家族に関する事項について定めた規定ではなく,憲法24条2項適合性の判断の対象となる規定ではないので,控訴人の上記主張は理由がない。

 

イ 立法目的の正当性について

寡夫にのみ本件所得要件を設けた立法目的は,男性と女性との間に存在する租税負担能力の違いや生活関係の差異等を考慮したものと解され,正当なものである。

 

ウ 本件区別の態様が立法目的との関連において著しく不合理か

 近似の世帯調査においても,母子世帯と父子世帯には,収入の額,就労の状況,仕事の安定性,住居の保有状況の面において明確な差異が存在し,父子世帯の父親は母子世帯の母親と比べて相対的に高い租税負担能力を有しているといえるから,第婦控除に準じて創設した寡夫控除の要件において,寡婦にはない所得制限が設けられたとしても,それが著しく不合理であるということはできない。

 また,寡婦については,就業年収や年金が低いとか貯蓄が少ないという意味での担税力の低さ(顕在的担税力減殺要因)だけではなく,就業している女性が結婚や出産のために一度離職をせざるを得ない状況が生じていることや,子を育てながら就業を継続することの困難性(構造的担税力減殺要因)から見ても,担税力が低いということが分かる。そして,所得税法がどのような担税力に配慮するかについては,立法裁量上の問題として整理される領域である。構造的担税力減殺要因が考慮されるべきという視角からは,所得制限によるスクリーンによって顕在的担税力を測ることができるとしても,そのスクリーンのみによって税制を構築することは,構造的担税力減殺要因を軽視してしまうことを意味することにもなりかねない。このような意味では,所得税法が所得制限を設けない寡婦控除を用意しているという点については一定程度の説明ができる。

 

第3 当裁判所の判断

当裁判所は,本件規定のうち本件所得要件を定める部分が憲法14条1項に違反し無効であるとは認められず,また,本件各更正処分に伴う過少申告加算税につき国税通則法65条4項の「正当な理由」も認められないから,本件各処分は適法であり,原告の請求はいずれも理由がなく棄却すべきものと判断する。その理由の詳細は以下のとおりである。

1 争点(1)本件各更正処分及び本件各通知処分の適法性〔本件規定のうち本件所得要件を定める部分が憲法14条1項に違反し向こうであるか〕)について

(1)判断枠組み

ア 憲法14条1項は,国民に対して絶対的な平等を保障したものではなく,合理的理由なくして差別することを禁止する趣旨であって,国民各自の事実上の差異に相応して法的取扱いを区別することは,その区別が合理性を有する限り,何ら上記規定に違反するものではないと解される。

ところで,租税は,国家の財政需要を充足するという本来の機能に加え,所得の再分配,資源の適正配分,景気の調整等の諸機能をも有しており,国民の租税負担を定めるについて,財政・経済・社会政策等の国政全般からの総合的な政策判断を必要とするばかりでなく,課税要件等を定めるについて,極めて専門技術的な判断を必要とするから,租税法の定立については,国家財政,社会経済,国民所得,国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的,技術的な判断に委ねるほかはなく,裁判所は,基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ないものというべきである。そうすると,租税法の分野における所得の性質の違い等を理由とする取扱いの区別は,その立法目的が正当なものであり,かつ,当該立法において具体的に採用された区別の態様が上記目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り,その合理性を否定することができず,憲法14条1項の規定に違反するものということはできない(最高裁昭和60年判決参照)。

上記の理は,本件のような所得税法における所得控除の対象となる者について,その属性の違いを理由とする取扱いの区別をする場合についても当てはまるものというべきである。

イ この点,原告は,本件区別は性別に基づく差別であるから,本件規定のうち本件所得要件を定める部分の憲法適合性については,厳格な基準によって審査するべきであると主張する。

しかしながら,性別も所得控除の対象となる者に係る属性の一つであって,その生活や所得に影響を及ぼすこととなる要素の一つであることは否定できないのであるから,本件区別が性別によって租税法上の扱いを区分するものであるという一事をもって,租税法の定立に関する政策的,技術的な判断の必要がなくなるわけではなく,立法府の裁量的判断を尊重すべきことは性別以外の属性の違いを理由とする取扱いの区別の場合と異なるものではないというべきである。したがって,本件区別についても,上記アの判断枠組みに基づいて判断することが相当であり,原告の上記主張は採用することができない(このことは,別件訴訟〔前提事実(5)]の最高裁令和2年判決において,地方税法における募夫控除の規定が憲法14条1項に違反するか否かを判断するに当たり,最高裁昭和60年判決を引用していることからも明らかである。)。

ウ また,控訴人は,最高裁昭和60年判決は,比較対象に異質性が認められる場合に,租税負担能力の異なる者にはその能力に応じた課税をするという垂直的公平負担原則に沿っているか否かの判断であるところ,本質的平等が要求される属性による取扱いの区別については,租税負担能力が同じ者に対して同じ課税をするという水平的公平負担原則に沿っているか否かでその合理性を判断すべきであり,最高裁昭和60年判決の判断枠組みを採用することはできないなどと主張する。

 しかし,最高裁昭和60年判決は,事業所得者等と給与所得者が所得税の課税において同じ状況にあるにもかかわらず,所得金額の計算に関し,前者についてはその年中の収入金額を得るために実際に要した金額による必要経費の実額控除を認めているにもかかわらず,後者については上記実額控除を認めていないことが憲法14条1項の規定に違反していないことを判示しているのであるから,控訴人のいう水平的公平負担原則について判断している。要するに,比較対象に租税負担能力において控訴人のいう同等性が認められるか否かについても,立法府の裁量的判断に委ねられているというのが最高裁昭和60年判決の判示しているところである。したがって,控訴人の上記主張を採用することはできない。

工 次に,控訴人は,基準超過層のひとり親につき,性別により寡婦等控除の適用に違いがあるのは,昭和26年創設の寡婦控除,昭和56年創設の寡夫控除,平成元年創設の特別寡婦控除制度の複合結果であり,それぞれの制度の立法目的や立法手段を審査しても,複数制度の複合結果に違憲性があるかについての判断をすることはできないから, 最高裁昭和60年判決の判断枠組みは本件に妥当しない旨主張する。

 しかし,本件の争点は,本件規定のうち本件所得要件を定める部分が憲法14条1項に違反し無効であるか否かであり,当該部分は昭和56年度の税制改正によって寡夫控除制度を創設する際に設けられたものであるから, 上記争点については,その際の立法目的をもって,最高裁昭和60年判決の枠組みによって判断すべきである。そして,後記(2)のとおり, 寡夫控除制度は,昭和26年度の税制改正によって創設された寡婦控除制度を前提として創設されたものであるから,上記判断に当たっては,寡婦控除制度の立法目的も前提とすることになり,また,上記判断は,本件当時の状況に照らしてされるものであるから,平成元年度の税制改正により設けられた寡婦控除の特例(後記(2)ウ)についても,関連性があるならば,本件当時の状況の一要素として考慮されることになる。したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。

オ 控訴人は,本件区別は,母子世帯を父子世帯よりも優遇するものであり,離婚の際に親権や養育権を母親に誘導する可能性を否定できないので,憲法24条2項にも違反すると主張する。

 しかし,憲法24条2項は,婚姻及び家族に関する事項について,具体的な制度の構築を第一次的には立法府の合理的な裁量に委ねるとともに,その立法に当たっては,個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚すべきであるとする要請,指針を示すことによって,その裁量の限界を画した規定である(最高裁平成25年(オ)第1079号同27年12月16日判決・民集69巻8号2427頁参照)。そして,本件所得要件が離婚時の親権や養育権の決定に影響を及ぼしていると認めることは困難であり,本件規定は,婚姻及び家族に関する事項を定めたものとはいえないので,本件区別は,憲法24条2項に違反するということはできない。したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。

(2)所得税法における寡婦等控除に係る規定の立法経緯等

ア 寡婦控除の制度は,もともと,夫と死別又は離婚した後再婚していない者に1名以上の扶養親族(係累)がある場合について,職業選択に制限があり,所得を得るために特別の労力や支出を要するとして,そうした募婦のみを対象に,昭和26年税制改正により設けられたものであり,創設の当初においては所得要件は定められていなかった。なお,当初は所得控除ではなく税額控除が定められていたものであり,所得控除は昭和42年税制改正により導入されたが,その導入当初の控除額は7万円であり,その後の数次の改正により控除額が引き上げられていった。(甲2,乙5,6。30号イの寡婦に相当。)その後,昭和47年税制改正により,夫と死別した後再婚していない者で扶養親族がいないもの(扶養親族のない死別寡婦)についても,夫の家族との関係が続くなど各種の負担を要するとして寡婦控除の対象に加えられる一方,夫の遺産など所得が相当ある場合にまでこの負担を考慮する必要はないとして,所得要件(当初は150万円以下と定められていたが,この金額はその後の数次の改正により引き上げられていった。)が設定された(甲2,乙5,6。30号口の寡婦に相当。)。

イ さらに,昭和56年税制改正により,父子家庭のための措置として新たに寡夫控除の制度が創設された。これは,当時の社会情勢の変化に対応し,財源面での制約も考慮しつつ,寡婦に認められている措置を,税負担の調整のため必要な範囲で男性にも及ぼすという観点から行われたものであった(乙5)。そして,寡夫控除の創設時において,夫の場合は,扶養親族のある寡婦と異なり,既に職業を有していて妻と死別又は離婚した場合も引き続きその職業を継続するのが通常であって,高額の収入を得ている者も相当割合に上ると考えられたことから,扶養親族のない死別寡婦に対する募婦控除の場合と同様の所得要件が付されることとなった(乙6)。

 また,寡夫については,妻と死別又は離婚した場合に,職業選択に制限を受けたり,所得を得るために特別の出費を要するのは,主に扶養が必要な子があるときであり,扶養親族が父母等の大人だけである場合には,職業選択の制限や特別の出費の必要は考え難いことなどから,寡婦と異なり,生計を一にする子がある場合に限って所得控除の対象とすることとされた(乙6)。

ウ 平成元年税制改正により,租税特別措置として,扶養親族のある募婦(30号イの募婦)のうち,30号ロに定める所得要件(当時は300万円以下。この金額は,平成2年税制改正により500万円以下に引き上げられた。)を満たす者については,控除額が27万円から35万円に引き上げられた(乙5)。

エ 以上の寡婦等控除の制度については,令和2年税制改正において抜本的な見直しが行われた。その概要は,従前は寡婦等控除の対象外であった婚姻歴のないひとり親についても所得控除の対象とし,婚姻歴の有無や性別にかかわらず,生計を一にする子があり,本件所得要件を満たす単身者について,同一の所得控除(ひとり親控除。控除額は35万円)を適用する一方,寡婦控除は従前の30号イの寡婦のうち生計を一にする子以外の扶養親族を有するもの及び従前の30号ロの類型(扶養親族のない死別寡婦)のみとすることとしたものである。これによって,ひとり親控除の対象となる,従前の30号イの寡婦(扶養親族のある寡婦)についても,寡夫や婚姻歴のないひとり親と同様,一律に500万円以下という所得要件(本件所得要件)が定められることとなった。

 これは,子どもの貧困に対応するため,婚姻歴のないひとり親についても税制上の対応が必要とされていたことや,男女によって税制上の扱いが異なるのは不公平であり,女性にも男性同様の所得要件を設けるべきことなどの意見があったことを踏まえ,婚姻歴の有無による不公平と,男性のひとり親と女性のひとり親との不公平を同時に解消し,全てのひとり親に対する公平な税制を実現する観点から行われたものである。なお,立法時における検討の基礎とされた資料によれば,ひとり親家庭(有業者)の平均年収について,所得500万円(年収678万円程度)を超えるひとり親家庭(基準超過層のひとり親家庭)においては,母子世帯の方が父子世帯よりも平均年収が高いことが指摘されていた。(以上につき,乙14,15)

(3)母子世帯及び父子世帯に係る統計等

ア 厚生労働省は,平成29年12月に公表した「平成28年度全国ひとり親世帯等調査」において,母子世帯及び父子世帯における収入等の状況につき,以下のとおり公表した(乙10の1~3)。

なお,この調査は,全国の母子世帯及び父子世帯の実態を把握すること等を目的としておおむね5年ごとに実施されているものであって,同調査における「母子世帯」とは,父のいない児童(満20歳未満の子どもであって,未婚のもの。以下同じ)がその母によって養育されている世帯であり,「父子世帯」とは,母のいない児童がその父によって養育されている世帯である。

(ア) 年間収入

a 親の平均年間収入

年間平均収入は,母子世帯の母親については,平成23年は223万円,平成28年は243万円であるのに対し,父子世帯の父親については,平成23年は380万円,平成28年は420万円である。

b 親の平均年間就労収入

平均年間就労収入は,母子世帯の母親については,平成23年は181万円,平成28年は200万円であるのに対し,父子世帯の父親については,平成23年は360万円,平成28年は398万円である。

c 親の年間就労収入の構成割合

母子世帯の母親についての年間就労収入の構成割合は,100万円未満が平成28年で22.3%(平成23年は28.6%)であり,100万円以上200万円未満が平成28年で35.8%(平成23年は35.4%)であり,200万円以上300万円未満が平成28年で21.9%(平成23年は20.5%),300万円以上400万円未満が平成28年で10.7%(平成23年は8.7%)であり,400万円以上が9.2%(平成23年は6.8%)である。

一方,父子世帯の父親についての年間就労収入の構成割合は,100万円未満が平成28年で8.2%(平成23年は9.5%)であり,100万円以上200万円未満が平成28年で11.7%(平成23年は12.6%)であり,200万円以上300万円未満が平成28年で15.3%(平成23年は21.5%),300万円以上400万円未満が平成28年で24.9%(平成23年は18.8%)であり,400万円以上が39.9%(平成23年は37.7%)である。

(イ) 就業率

a 親の就業状況

就業率は,母子世帯の母親の場合,平成23年は80.6%,平成28年は81.8%であるのに対し,父子世帯の父親の場合,平成23年は91.3%,平成28年は85.4%である。

b 正規の職員・従業員の割合

上記a のうち,正規の職員・従業員の割合は,母子世帯の母親の場合,平成23年は39.4%,平成28年は44.2%であるのに対し,父子世帯の父親の場合,平成23年は67.2%,平成28年は68.2%である。

c パート・アルバイト等の割合

上記a のうちパート・アルバイト等の割合は,母子世帯の母親の場合,平成23年は47.4%,平成28年は43.8%であるのに対し,父子世帯の父親の場合,平成23年は8.0%,平成28年は6.4%である。

d ひとり親世帯になる前の就業状況

 母子世帯又は父子世帯となる前に不就業であった者は,母子世帯の母親の場合,平成23年は25.4%,平成28年は23.5%であるのに対し,父子世帯の父親の場合,平成23年が2.9%,平成28年が3.0%である。

(ウ) 住居の保有状況

a 持ち家に居住している世帯

持ち家に居住している世帯の割合は,母子世帯の場合,平成23年は29.8%,平成28年は35.0%であるのに対し,父子世帯の場合,平成23年は66.8%,平成28年は68.1%である。

b 本人名義の持ち家に居住している世帯

上記 a のうち,本人名義の持ち家に居住している世帯の割合は,母子世帯の場合,平成23年は11.2%,平成28年は15.2%であるのに対し,父子世帯の場合,平成23年は40.3%,平成28年は49.4%である。

(エ) 母子世帯の預貯金額は,50万円未満が平成28年で39.7%(平成23年は47.7%)と最も多い(なお,厚生労働省の前記調査においては,父子世帯の預貯金額は公表されていない。)。

(オ) 養育費

母子世帯の母親の養育費受給状況については,「現在も養育費を受けている」が平成28年で24.3%(平成23年は19.7%)である。母子世帯の母親が,相手と養育費の取り決めをしていない最も大きな理由は,平成28年において,「相手に支払う意思・能力がないと思った」が合計38.6%, 「相手と関わりたくない」が31.4%, 「自分の収入等で経済的に問題がない」は2.8%である。

父子世帯の父親の養育費受給状況については,「現在も養育費を受けている」が平成28年で3.2%(平成23年は4.1%)である。父子世帯の父親が,相手と養育費の取り決めをしていない最も大きな理由は,平成28年において,「相手に支払う意思・能力がないと思った」が合計31.9%, 「相手と関わりたくない」が20.5%, 「自分の収入等で経済的に問題がない」は17.5%である。

イ 平成29年度就業構造基本調査(甲17,20)によれば,同年度における母子世帯の総数62万3200世帯のうち収入700万円以上(所得500万円以上にほぼ相当する。以下同じ)を有するのは1万1500世帯(約1.85%)であるのに対し,父子世帯の総数6万4900世帯のうち,収入700万円以上を有するのは1万3300世帯(約20.49%)である。また, 平成19年度及び平成24年度の就業構造基本調査 (甲11~14)によれば,おおむね,収入700万円以上の母子世帯は,平成19年が8100世帯(約1.34%),平成24年が7900世帯(約1.17%)であるのに対し,収入700万円以上の父子世帯は,平成19年が150100世帯(約14.29%),平成24年が1万3500世帯(約15.64%)である。

 また,就業構造基本調査の集計結果 (甲3)によれば,平成27年の母子世帯の母親の年間収入額は243万円,父子世帯の父親のそれは420万円であるところ,平成29年の母子世帯及び父子世帯について収入700万円以下のものとそれ以外のものに分けてみると,前者においては,母子世帯の母親の平均年収は221万円,父子世帯の父親の平均年収は376万円であるのに対し,後者においては,母子世帯母親の平均年収は1147万円,父子世帯の父親の平均年収は914万円である(甲3,15,18,乙10の2)。

(4)本件区別に係る立法目的の正当性について

ア 前記(2)の立法経緯等からすると,本件規定が募夫について30号イの募婦(扶養親族のある寡婦)にはない本件所得要件を設けることとした目的は,母子世帯の母親と父子世帯の父親との租税負担能力の差異等に鑑みて,財源面での制約を考慮しつつ,寡婦にのみ認められていた所得控除を必要な範囲で募夫にも及ぼすことにあったものと解されるから,その立法目的は正当なものである。なお,上記の租税負担能力の差異等には,寡婦の場合,就業している女性が婚姻や出産のために一度離職をせざるを得ない状況が生じていたり,子を育てながら就業を継続することが困難であるといった構造的担税力減殺要因があり,夫と死別又は離婚した時点で不就業であった者も多いのに対し,寡夫の場合は,妻と死別又は離婚した時点で就業しており,妻と死別又は離婚した後も引き続き従前の職業を継続するのが通常であり,上記のような構造的担税力減殺要因がないということができることも含まれている。

イ これに対し,原告は,本件規定が本件所得要件を設けた真の立法目的は,募夫控除の適用を制限して税収減を防止するというもっぱら財政上の理由であり,男女間の租税負担能力の差異等に鑑みたものではないから,正当な目的ではない旨主張する。

しかしながら,前記(2)イのとおり,本件規定の立法経緯によれば,寡夫については妻と死別又は離婚した後も従前の職業を継続するのが通常であることや高額の収入を得ている者も相当割合に上ることなどを踏まえて本件所得要件が設けられたのであるから,母子世帯の母親と父子世帯の父親との間の租税負担能力の差異等に鑑みたものであることは明らかであり,原告の上記主張は採用することができない。

ウ 控訴人は,平成29年度における母子世帯の総数は62万3200世帯で,うち700万円以上の所得を有するのは1万1500世帯で,率にして1.85%にとどまるところ,仮にこれらの世帯において十分な租税負担能力があって本来は寡婦控除を受けるような特別の支出がなかったとしても,租税の効率的徴収の観点から制度として是認し得る旨の被控訴人の主張からすれば,基準超過層の寡婦寡婦控除の対象から除外しない制度にした立法目的は, 租税の徴収効率を高めることであったと解されると主張する。しかし,控訴人の引用する被控訴人の主張は平成29年当時における区別態様の合理性をいうものであって,ここから昭和56年当時の本件規定の立法目的を推認することは相当とはいえず,控訴人の上記主張は採用することができない。

(5)本件区別の態様が立法目的との関連で著しく不合理であることが明らかであると言えるかについて

ア 本件区別の態様は,寡婦等控除につき,扶養親族のある寡婦については所得要件が設けられていないのに対し,募夫については所得(合計所得金額)が500万円以下であることという所得要件(本件所得要件)を設けたというものである。

イ そこで,母子世帯の母親と父子世帯の父親につき,それぞれの収入や就労等の状況について見ると,前記(3)のとおり,近年の統計においても,両者の間には,平均年間収入には大きな差があり,また,就業状況についても,母子世帯の母親の場合は4割以上がパート・アルバイト等のいわゆる非正規雇用であるのに対して,父子世帯の父親の場合は非正規雇用の割合が1割に満たず,父子世帯の父親は妻と死別又は離婚した時点で正規の職についており,妻と死別又は離婚した場合も従前の職業を継続している割合が高いなど,収入及び就業状況の点において顕著な差異がある。このように,総体としてみれば,父子世帯の父親は,母子世帯の母親と比べて,高い租税負担能力を有しているものといえ,かかる状況は,本件各年においても,おおむね同様であったものと認めるのが合理的である(なお,原告は,父子世帯の父親と比べて母子世帯の母親の方が,養育費の支払を受けたり財産分与により資産を取得するなど有利な面があると主張するが,前記(3)アのとおり,母子世帯の養育費の受給水準は高いとはいえない上,住居建物の保有状況や預貯金残高を見ても,十分な資産を有する母子世帯の割合は限定的であることがうかがわれる。)。

 控訴人は,受給している養育費の平均月額は母子世帯が4万3707円,父子世帯が3万2550円であるところ, 受給割合(母子世帯の母親が24.3%,父子世帯の父親が3.2%)から平均年額を算出すると母子世帯が12万7450円,父子世帯が1万2500円となるから,母子世帯の養育費の受給水準に言及するに当たっては,これも考慮に入れるべきであると主張する。しかし,上記のとおり,母子世帯についても養育費を受給している割合が少ない上,控訴人の主張する一世帯の受給養育費の平均額(養育費を受給している又は受給したことがある世帯で,かつ,受給額が決まっているものの平均値)に受給している世帯の割合を乗じて得られる値の母子世帯と父子世帯との差も,母子世帯と父子世帯の経済状況や租税負担能力を判断するに当たって考慮要素としなければならないほど大きいとはいえないから,控訴人の上記主張は採用することができない。

ウ もっとも,基準超過層(所得500万円超)だけを見れば,近年では母子世帯の母親の方が父子世帯の父親よりも平均年収が高いとの統計があり,令和2年度の税制改正における寡婦等控除の制度の見直しに当たっても,近年のそうした統計が考慮されていることがうかがわれる(前記(2)工,(3)イ)。

 そこで,かかる観点も踏まえて,令和2年度の税制改正前の本件規定において募夫についてのみ本件所得要件を設定し基準超過層の募夫が所得控除(募夫控除)を受けられないとされていたことが著しく不合理であるか否かについて検討すると,そもそも,寡婦等控除の制度は,配偶者と死別又は離婚した後の職業選択に制限があり,あるいは所得を得るために特別の労力や支出を要することに配慮したものであるところ(前記(2)ア,イ),財源面での制約を考慮しつつ寡婦にのみ認められていた所得控除を必要な範囲で募夫にも及ぼすという立法目的(前記(4)ア)に照らすと,募夫控除について所得要件を設けること自体は何ら不合理なものではない。他方,基準超過層における不均衡を是正するために扶養親族のある寡婦についても本件所得要件を設けるためには,その旨の立法的手当てをする必要があるところ,①ひとり親世帯における基準超過層の割合自体が少ないこと,②基準超過層の母子世帯の数は,同層の父子世帯の数を超えるものでないこと,③母子世帯における基準超過層の割合は近年でも2%未満であり,父子世帯における基準超過層の割合(約20%)に比べて顕著な差があること,④これらに加え,平均像としては依然として低所得者の多い母子世帯の母親について所得要件を設けることにつき国民の理解を得られるかという問題もあったことに照らすと,30号イの寡婦(扶養親族のある寡婦)のうち基準超過層にあるものについて,これを募婦控除の対象から除外する旨の立法的手当てを行わず,母子世帯と父子世帯の総体的な租税負担能力の差異等を重視した制度を維持することにも,相応の合理性があったということができる。こうした状況 また,前述のとおり,寡夫と募婦を比較すると,収入が同じであっても,寡婦については,結婚や出産のために一度離職をせざるを得ない状況が生じていることや, 子を育てながら就業を継続することの困難性といった構造的担税力減殺要因があるところ,本件記録を精査しても,本件各年当時において,上記のような構造的担税力減殺要因が解消されていたことは認められない。この点,控訴人は,平成28年労働力調査(甲22)によれば,勤続年数などの就業状況に男女差がないことが統計上明らかとなっていると主張する。しかし,上記調査は母子世帯の母親と父子世帯の父親ではなく,女性全体と男性全体の平均在職期間の統計値であって,母子世帯の母親に上記のような構造的担税力減殺要因がないことを裏付けるものとはいえないから,控訴人の上記主張は採用することができない。そして,寡婦等控除の制度設計に当たって,このような構造的担税力減殺要因につき,どの種のものをどの程度まで考慮し,制度設計に反映させるかという点は,まさに立法府の裁量に属する事項であって,その政策的・技術的判断を尊重すべき事項である。以上の点を踏まえると,基準超過層の母子世帯の母親に係る平均年収が父子世帯の父親のそれを上回ったとする近年の統計や,これを踏まえた令和2年度の税制改正によって扶養親族のある寡婦につき本件所得要件が設けられたことを考慮しても,同税制改正前の本件規定における本件区別の態様が立法目的との関連で著しく不合理であったということはできない。

 なお,平成元年度の税制改正により設けられた租税特別措置(前記(2)ウ)は,基準以下の層の扶養親族のある寡婦の所得控除額を増額するものであって,基準超過層の母子世帯の母親の租税負担能力と関連性を有するわけではないから,上記の判断を左右するものではない。

エ 以上によれば,本件各年当時において,本件規定が募夫控除につき30号イの募婦にはない所得500万円以下という本件所得要件を設けていたことについて,著しく不合理であることが明らかであったということはできない。さらに,仮に,基準超過層の母子世帯の母親の租税負担能力と父子世帯の父親の租税負担能力に差がないとしても,このことは,30号イの寡婦に対する事婦控除について所得制限を設けないことを不合理とする理由とはなり得るとしても,控訴人に寡夫控除を適用しないことを不合理とすべき理由とはならない。

オ 原告の主張について

(ア) 原告は,①租税負担能力の低い者への配慮等が立法目的であるならば,基準以下の層の母子世帯の母親と同層の父子世帯の父親との間の負担を調節する手段こそが立法目的と関連性のある手段であるところ,本件規定において本件所得要件を設けても,そのような調節はできない上,基準超過層では母子世帯の母親と父子世帯の父親との間に租税負担能力の大きな差異は存在しないことからすると,本件区別は性別に基づく差別にほかならない,②死別等によって特別の支出等が生じる者への配慮という観点からは,収入にかかわらず寡婦等控除の対象とすべきであり,基準超過層の母子世帯の母親につき所得要件を設けるという方法を採ることは相当ではない旨 基準超過層の母子世帯の母親につき所得要件を用いるという方法ではなく,本件所得要件を無効とする方法で本件区別による不平等を解消すべきである旨主張する。

しかしながら,上記ウにおいて説示したとおり,前記(2)の募婦等控除の趣旨からすれば,十分な租税負担能力を有する者に所得控除を認める必要性は乏しいのであるから,寡夫控除に本件所得要件を設けることそのものは,まさに納税者の租税負担能力に着目しているのであり,それ自体が不合理であるとはいえないし,基準超過層における募と募夫の不均衡を是正するために扶養親族のある募婦に本件所得要件を課すことは十分に合理性を有する手段であるから 仮に,本件区別が不平等であるとしても,控訴人に寡夫控除を適用しないことを不合理とすべき理由とはならないから,原告の上記主張は採用することができない。

 

(イ) また,原告は,平成元年税制改正により扶養親族のある募婦のうち本件所得要件を満たすものについて真婦控除の金額が35万円に引き上げられたこと(前記(2) ウ)を根拠に,本件区別は基準超過層の扶養親族のある募婦に係る少数不追及として是認し得るものではない旨主張する。

しかしながら,上記改正は扶養親族のある募婦のうち相当割合を占める基準以下の層のものについて控除額を引き上げるというものであり,少数である基準超過層の扶養親族のある事について立法的な手当てをしたものではないか原告の主 長はその前提を欠くものというほかない。

(6) 以上によれば,本件規定のうち,30号イの事にはない本件所得要件を寡夫について設けている部分が,憲法14条1項に違反し無効であるとはいえない。したがって,本件所得要件を満たしていない原告に募夫控除が適用されないことを前提としてされた本件各更正処分及び本件各通知処分はいずれも適法である。

 

2 争点(2)(本件各賦課決定処分の適法性〔具体的には,国税通則法65条4項の「正当な理由」の有無〕)について

上記1のとおり,本件各更正処分は適法であるところ,原告の主張によっても,本件各更正処分により原告が新たに納付することとなった税額の計算の基礎となった事実に関して,国税通則法65条4項の「正当な理由」に該当するような事由は認められない。

よって,本件各武課決定処分は適法である。

 

結論

 以上の次第で,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。

 

東京高等裁判所第15民事部

裁判長裁判官 中村也寸志

裁判官 三村義幸

裁判官 元芳哲郎