提出した準備書面(1)
先週提出した準備書面を公開します。
長くなりますが、主要な争点についての被告の主張と私の反論がわかるようにしたものを載せます。私の文面は弁護士さんの指導を受けておりませんので、おかしなところがあるのはご容赦ください。
青字は被告の弁論です。 黒文字は私の弁論になります。
第8 答弁書 第5 被告の主張 3 寡夫控除規定の合憲性以降についての反論の前に
答弁書の寡婦控除規定の合憲性に反論する前に,まず地方税法における寡婦控除と寡夫控除の性差について整理する。寡婦控除と寡夫控除には次のページに述べるように要件の違いとして(ア)(イ)(ウ)の3つ,所得控除額の違いとして(エ)の1つがある。
(ア)配偶者と死別したか配偶者の生死が明らかでなく,かつ所得が500万円以下である場合に,女性は寡婦として認められるが男性は寡夫として認められない。
(イ)配偶者と離別や死別したか配偶者の生死が明らかでなく,生計を一にする子以外の扶養親族がいる場合に,女性は寡婦として認められるが,男性は寡夫として認められない。
(ウ)配偶者と離別や死別したか配偶者の生死が明らかでなく,生計を一にする子がいる場合で,500万円を超える所得がある場合に,女性は寡婦として認められるが,男性は寡夫として認められない。
(エ)配偶者と離別や死別したか配偶者の生死が明らかでなく,生計を一にする子がいる場合で所得が500万円以下の場合に,女性は特別寡婦として認められ所得控除額は30万円であるが,男性は寡夫としてのみ認められ所得控除額は26万円である。
(ア)から(エ)の性差の範囲を以下の表に示す。
原告が,本訴訟で違憲であるとして訴えているのは(ウ)の性差についてである。以降の弁論で,便宜上父子世帯の父と母子世帯の母を以下の4つに分類する。
・中低所得女性ひとり親
所得が500万円以下の母子世帯の母のこと
・高所得女性ひとり親
所得が500万円を超える母子世帯の母のこと
・中低所得男性ひとり親
所得が500万円以下の父子世帯の父のこと
・高所得男性ひとり親
所得が500万円を超える父子世帯の父のこと
また、以下の2つの言葉を定義する。
・中低所得ひとり親
所得が500万円以下の父子世帯の父と母子世帯の母のこと
・高所得ひとり親
所得が500万円を超える父子世帯の父と母子世帯の母のこと
上記の分類を以下の図に記載する。
高所得女性ひとり親と高所得男性ひとり親の取扱いの差異,すなわち高所得ひとり親の性別による区別が,合理的な理由のない差別のため憲法14条1項に違反しているというのが原告の主張である。
第9 答弁書 第5 被告の主張 3 寡夫控除の合憲性について
【青字部分は被告の答弁書の書き写しです】
3 寡夫控除規定の合憲性
(1)原告の主張
原告は,寡夫控除と寡婦控除について、男性(寡夫控除)だけに所得要件があることに合理的な理由はなく,憲法14条に違反する旨主張するので,以下検討する。
(1)について寡婦と寡夫の示す範囲が明らかではないので,記された原告の主張を次のように補足する。地方税法では,男性のひとり親が寡夫控除を適用されるにあたっては所得要件があり、女性のひとり親が寡婦控除を適用されるにあたっては所得要件がない。この規定により所得が500万円を超える女性のひとり親に比べ,同じく所得が500万円を超える男性のひとり親が区別されている。この区別が,合理的な理由のない性別の違いによる差別であり,憲法14条1項に違反しているというのが原告の主張である。
【青字部分は被告の答弁書の書き写しです】
(2)地方税法の規定
上記のとおり、法は、23条1項12号及び292条1項12号において、寡夫控除に係る寡夫の要件として、「妻と死別し、若しくは妻と離婚した後婚姻をしていない者又は妻の生死の明らかでない者で政令で定めるもののうち、その者と生計を一にする親族で政令で定めるものを有し、かつ、前年の合計所得金額が500万円以下であるものをいう。」と規定している。他方、扶養親族のある寡婦に対する寡婦控除については、このような所得要件は設けられていない。
(2)について認める。本件規定は、地方税法23条1項12号及び292条1項12号において、寡夫控除に係る寡夫の要件の一部として、「かつ、前年の合計所得金額が500万円以下であるもの」と規定している部分であり,扶養親族のある寡婦に対する寡婦控除については、このような所得要件は設けられていないことである。
【青字部分は被告の答弁書の書き写しです】
(3)租税立法と司法判断
最高裁昭和60年3月27日大法廷判決民集39巻2号247頁は、憲法14条1項は、課税権の行使を含む国のすべての統治活動に及ぶものではあるが、同規定は、国民に対し絶対的な平等を保障したものではなく、合理的理由なくして差別することを禁止する趣旨であって、国民各自の事実上の差異に相応して法的取扱いを区別することは、その区別が合理性を有する限り、同条に違反するものではないとの前提のもと、以下のように判示している。
「租税は、今日では、国家の財政需要を充足するという本来の機能に加え、所得の再分配、資源の適正配分、景気の調整等の諸機能をも有しており、国民の租税負担を定めるについて、財政・経済・社会政策等の国政全般からの総合的な政策判断を必要とするばかりでなく、課税要件等を定めるについて、極めて専門技術的な判断を必要とすることも明らかである。したがって、租税法の定立については、国家財政、社会経済、国民所得、国民生活等にゆだねるほかはなく、裁判所は、基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ないものというべきである。そうであるとすれば、租税法の分野における所得の性質の違い等を理由とする取扱いの区別は、その立法目的が正当なものであり、かつ、当該立法において具体的に採用された区別の態様が右目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り、その合理性を否定することができず、これを憲法14条1項の規定に違反するものということはできないものと解するのが相当である。」
(3)について概ね認める。寡婦(寡夫)控除についてはその水準をどの程度にするかといった点については,立法府に相応の裁量が認められることを否定できない。しかしながら寡婦(寡夫)控除を誰に適用させるかという区別を設ける場合には,別途憲法14条の観点から違憲性審査をクリアしなければならず,立法裁量の範囲は相当に制限される。とりわけ本件のように,憲法14条後段に列挙されている性別に基づく差別的取り扱いを定める場合には,その憲法適合性の判断に当たって厳格な合理性の基準を適用し,合憲である理由を被告の側において立証しなければならないことを付け加える。また,本件の立法目的と具体的に採用された区別の態様については当準備書面の第11にて弁論する。
第10 答弁書 第5 被告の主張 4 本件の検討について
【青字部分は被告の答弁書の書き写しです】
4 本件の検討
(1)上記最高裁判決を前提に本件を検討すると、まず、寡夫控除の制度は、昭和56年度の税制改正にあたって、所得税法と同様、従前は寡婦についてのみ所得控除が認められていたのを、父子家庭のための措置として、妻と死別し、又は離婚した者のうち一定の要件を満たす者について、扶養親族のある寡婦に対する寡婦控除に準じて新たに設けられたものであるが、寡夫控除には所得要件が設けられている。
(1)については認める。
【青字部分は被告の答弁書の書き写しです】
(2)このような取扱いの差異は、寡夫と寡婦との間の租税負担能力の違いをその他の事情を立法府において勘案したことによるものを考えられる。すなわち、寡夫の場合は寡婦と異なって、通常は既に職業を有しており、引き続き事業を継続したり、勤務するのが普通と認められ、また高額の収入を得ている者も多い等、両者の間に租税負担能力の違いが存するので、これらの諸事情を考慮した結果と解される。
(2)について被告は,「このような取扱いの差異は,寡夫と寡婦との間の租税負担能力の違いその他の事情を立法府において勘案したことによるものと考えられる。」と答弁している。しかし,この答弁は高所得女性ひとり親と高所得男性ひとり親を比較した場合に,高所得女性ひとり親のほうが,租税負担能力が低いということでなければ論理的に成り立たない。なぜなら,高所得男性ひとり親に比べて高所得女性ひとり親の租税負担を軽くする取扱いだからである。しかしながら被告は以降に,高所得女性ひとり親の租税負担能力の低さを明らかにした答弁をしていない。
【青字部分は被告の答弁書の書き写しです】
(3)実際に、概ね5年ごとに実施される全国母子世帯等調査の直近のデータ(平成23年11月1日現在)によれば、以下のような相違が認められる。
ア 父子世帯になる前の父は、全体の95.7%が就業していた。これに対し母子世帯になる前の母の就業率は、全体の73.7%にとどまる。
イ 父子世帯になる前に就業していた父のうち、73.6%は正規の職員・従業員であり、14.9%は自営業者であるのに対し、母子世帯になる前に就業していた母のうち、52.9%がパート・アルバイト等であって、正規の職員・従業員は29.5%、自営業者は4.4%にとどまる。
ウ 父子世帯となった父の91.3%は就労しているが、母子世帯となった母の就業率は80.6%にとどまる。
エ 父子世帯となった後に就業している父のうち、正規の職員・従業員は67.2%、自営業者は15.6%となっているが、母子世帯となった後に就業している母のうち、47.4%はパート・アルバイト等であって、正規の職員・従業員は39.4%、自営業者は2.6%にとどまる。
オ 平成22年の父子世帯の世帯収入額は455万円、平均世帯人数は3.77人であるが、母子世帯の平均世帯員は3.42人であるにもかかわらず、その世帯収入は291万円にとどまる。また、「自身の収入」についても父子世帯の父は平均380万円であるのに対し、母子世帯の母は223万円にとどまる。
(3)については統計上のデータからの考察であることは認めるが,これはひとり親世帯全体のデータであり,高所得ひとり親についての性質を示したデータではない。平成22年国民生活基礎調査の概要によると,高所得女性ひとり親は母子世帯の約2%程度であり,約98%は所得が500万円以下の中低所得女性ひとり親である。よって被告の示したデータと考察は圧倒的な割合を占める中低所得女性ひとり親の性質を述べているにすぎない。高所得女性ひとり親と中低所得女性ひとり親は,所得によって分類しているのであるから,当然,就業の安定性や所得などにおいて,相反する性質がある。したがって中低所得女性ひとり親の性質を,高所得女性ひとり親の性質として論ずることはできず,高所得男性ひとり親と高所得女性ひとり親の間では,被告の主張する相違を認めることはできない。
【青字部分は被告の答弁書の書き写しです】
(4)なお、上記の傾向は、平成5年の全国母子世帯等調査によっても、大きな変動はない。
(4)については,平成5年と平成23年の調査で統計上大きな変動がないことは認める。しかし(3)についての項で前述したとおり,この性質は高所得ひとり親世帯には関係しない。
なお年月の経過による変化という点では,近年,父子世帯に対して,母子世帯と同様の支援の必要性が認識され,税法上の寡婦(寡夫)の扱い以外の経済的な差別が解消されている。
ひとり親に対する経済的な支援制度は,平成22年8月1日より児童扶養手当が父子世帯にも適用,平成26年4月1日より遺族基礎年金が父子世帯にも適用,平成26年10月1日より母子寡婦福祉資金貸付制度が母子父子寡婦福祉資金貸付制度として父子世帯にも適用されている。このように,母子世帯と父子世帯を同じように扱うようになってきたのは,国会で「母子,父子で区別されて支援が受けられない不公平はただちに見直すべきだ」等の意見があがり議論がなされた結果である。その結果,寡婦(寡夫)控除以外で母子世帯と父子世帯を経済的に差別する制度はなくなった。今日では,母子世帯と父子世帯をひとり親世帯と呼ぶようになり,同様に扱うことが社会通念となっているのは明らかである。
【青字部分は被告の答弁書の書き写しです】
(5)また、パート・アルバイトは、正規の職員・従業員と比較して、一般に就業状況が安定せず、また社会保険等の適用がないことも多いことから、前者の就業上の地位が、後者と比較して不安定であることは社会通念上明らかというべきである。
(5)については認めるが,高所得女性ひとり親はパートやアルバイトではないと考えるのが相当である。
【青字部分は被告の答弁書の書き写しです】
(6)そうすると、上記のとおり、母子世帯と父子世帯とでは、就労の状況、仕事の安定性、収入の額等に有意の差が存在するのであって、かかる点を考慮して、扶養親族のある寡婦に対する寡婦控除に所得要件を設けない取扱いには合理的理由があるというべきであって、両者の取扱いの差異が憲法14条1項に違反しないことは明らかというべきである。
(6)についての被告の主張は非論理的である。
「扶養親族のある寡婦に対する寡婦控除に所得要件を設けない取扱いには合理的理由があるというべき」とあるが,この所得要件を設けない取扱いによって優遇されるのは,就労の安定性が明らかな高所得女性ひとり親であり,就労が不安定な傾向にある中低所得女性ひとり親には,なんら恩恵のないものである。にもかかわらず,就労の安定性が明らかな高所得の母子世帯を優遇する理由として,母子世帯全体の傾向を取り上げ,就労が安定せず収入が低いからという主張をしているが,これは論理的整合性を欠いているのが明らかである。被告の主張は,「母子世帯は父子世帯と比較して就労が安定せず所得が低いので,所得の高い母子世帯を優遇するのは合理的である。」ということになるが,所得の高い母子世帯は所得が低くないのであるから,失当と言わざるをえない。
なお収入の額等に有意の差が存在すると主張しているが,就業収入が同じである高所得女性ひとり親と高所得男性ひとり親を比較した場合,高所得ひとり親は児童扶養手当などの行政からの経済的な支援を受けることがないため,就業収入以外では養育費の受取額に男女の有意差が存在している。全国母子世帯等調査の直近のデータ(平成23年11月1日現在)によると,母子世帯の受取率は19.7%で平均月額は43,482円である。一方父子世帯の受取率は4.1%で,平均月額は32,238円である(甲10号証)。これを全体でみると
母子世帯の養育費の年間受取額は,
43,482円×12ヶ月×0.197=102,791円
となり,父子世帯の養育費の年間受取額は,
32,238円×12ヶ月×0.041=15,861円
となる。よって差額は,
102,791円-15,861円=86,930円
となり,受け取っている養育費は母子世帯のほうが多いという結果となっている。ここでは養育費の受け取りに関する統計を考察するにあたって所得別に分析したデータがないので,ひとり親全体のデータを使用して考察しているが,養育費の傾向は支払う側に大きく依存することになるため,高所得層でも母子世帯のほうが受け取る養育費は多い傾向は変わらないと考えられるからである。
このとおり統計上,高所得男性ひとり親と高所得女性ひとり親の間に,収入のひとつである養育費の受取額の有意差が存在するのは確かであるが,同じ就業収入ならば,就業収入と養育費の合計収入が多いのは高所得女性ひとり親のほうであり,高所得女性ひとり親を優遇する理由とは対立したものとなっている。
【青字部分は被告の答弁書の書き写しです】
(7)なお、上記の判断については、従前の裁判例においても、寡夫控除と寡婦控除との適用要件の差異が、租税負担能力の違いその他の諸事情を考慮した結果と考えられるから、立法府がその裁量を逸脱し、この区別が著しく不合理であるということはできず、憲法14条1項に違反しないとされている。(福岡地裁平成5年10月28日判決(平成5年(行ウ)第12号)、福岡高裁平成6年2月28日判決(平成5年(行コ)第27号)、最高裁平成6年9月13日第三小法廷判決(平成6年(行ツ)第89号)、福岡地裁平成6年12月26日判決(平成6年(行ウ)第8号)、福岡高裁平成7年6月13日判決(行コ)第2号)、最高裁平成7年12月15日第二小法廷判決(平成7年(行ツ)第163号))。
(7)について従前の裁判例を示しているが,示された裁判例の原告はいずれも扶養親族を有しておらず,判決理由として「所得税法が,そこで総所得金額が基礎控除の額に相当する金額以下の扶養家族等がいる場合にのみ寡夫控除を認めたのは,寡夫と寡婦との間の租税負担能力の違いその他の諸事情を考慮した結果と考えられるのであるから,立法府がその裁量の範囲を逸脱し,この区別が著しく不合理であるということはできない。」(甲11号証)としていることから、本準備書面4ページで寡婦控除と寡夫控除の性差の整理をした中の(ア)の性差についての合憲性の判断をした裁判例であり,本件の(ウ)の性差についての合憲性の判断をしたものではない。
第11 立法目的と具体的に採用された区別の態様からの検討
所得要件を,母子世帯に対しては設けず父子世帯に対しては設けているということは,母子世帯に対する寡婦控除の立法目的は,所得とは無関係に母子世帯全体を経済的に支援することであり,一方,父子世帯に対する寡夫控除の立法目的は,所得の低い父子世帯だけを経済的に支援することであると解される。このような立法目的は,民主制を支える租税負担の公平性の原則からしても,不当であると言わざるをえない。
また被告は答弁全体を通して母子世帯の不安定な就業状況や低所得を本件規定の合理的理由としているが,ひとり親世帯に対する寡婦(寡夫)控除が,就業が不安定で所得が低い傾向にあるひとり世帯に限って経済的な支援をすることを目的とするならば,手段としてひとり親世帯の寡婦(寡夫)適用要件に両方とも所得要件を設けることで実現可能である。しかしそうしていないのは,具体的に採用された区別の態様が目的との関連性で著しく不合理であると言わざるをえない。
結論
被告の主張する理由はいずれも論理的整合性を欠くものばかりであり,所得が500万円を超える父子世帯と母子世帯の間の差別的な取扱いを正当化する合理的な理由が存在することを立証していない。ゆえに,父子世帯の寡夫控除にのみ所得要件が存するのは,立法裁量の範囲を逸脱した不合理な差別であることが明らかなので,憲法14条1項に違反しているというべきである。