フレンチトースト訴訟

父ちゃん大法廷に立つ(計画)



1審の棄却理由(判決文)

遅くなりました。

なかなかUPできなくてごめんなさい。

 

ようやく準備できましたので、1審判決文の中から、重要な部分「当裁判所の判断」部分を一部抜粋して掲載いたします。

 

当裁判所の判断

1 本件決定の適法性

(1)地方税法は,夫と死別し,若しくは夫と離婚した後婚姻をしていない者又は夫の生死の明らかでない者で政令で定めるもののうち,扶養親族その他その者と生計を一にする親族で政令で定めるものを有するものを寡婦としており,寡婦については所得要件はない。他方,同法は,妻と死別し,若しくは妻と離婚した後婚姻をしていない者又は妻の生死の明らかでない者で政令で定めるもののうち,その者と生計を一にする親族で政令で定めるものを有するものについては,前年の合計所得金額が500万円以下である場合に限り,寡夫としており,寡夫については所得要件があるから,配偶者と死別し,若しくは配偶者と離婚した後婚姻をしていない者又は配偶者の生死が明らかでない者で政令で定めるもののうち,その者と生計を一にする親族で政令で定めるものを有するもので,前年の合計所得金額が500万円を超えるものについては,その者が女性である場合には,寡婦に該当し寡婦控除を受けることができるのに対し,その者が男性である場合には,寡夫に該当せず寡夫控除を受けることができないことになる。
 原告は,上記のように所得500万円を超えるひとり親について,性別により所得控除の適用が代わる地方税法の規定は,性別による差別を禁じた憲法14条1項に反するものであるから,原告については,寡夫として取り扱うべきであり,26万円の所得控除をしないでされた本件決定は違憲、違法である旨主張するから,この点につき,以下,検討する。
(2)憲法14条1項は,課税権の行使を含む国のすべての当地行動に及ぶものであるが,同規定は国民に対して絶対的な平等を保障したものではなく,合理的理由なくして差別をすることを禁止する趣旨であって,国民各自の事実上の差異に相応して法的取扱いを区別することは,その区別が合理性を有する限り,なんら同規定に違反するものではないというべきである。
 ところで,租税は,今日では,国及び地方公共団体の財政需要を充足するという本来の機能に加え,所得の再配分,資源の適正配分,景気の調整等の諸機能をも有しており,国民の租税負担を定めるについて,財政・経済・社会政策等の総合的な政策判断を必要とするばかりでなく,課税要件等を定めるについて,極めて専門技術的な判断を必要とすることも明らかであるから,租税法の定立については,国家財政,社会経済,国民所得,国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的、技術的な判断にゆだねるというべきである。そうすると,租税法の分野における所得の性質の違い等を理由とする取扱いの区別は,その立法目的が正当なものであり,かつ,不合理であることが明らかでない限り,その合理性を否定することができず,これを憲法14条1項の規定に違反するものということはできないものと解するのが相当である。
(3)寡夫控除の制度は,昭和56年の税制改正に当たって,従前は,一定の要件を満たした女性についてのみ寡婦として所得控除が認められていたものを,父子世帯のための措置として,妻と死別し,又は離婚した者等のうち一定の要件を満たすものについて寡夫と定義した上で,所得控除を認めることとしたものであって,この制度は,寡婦控除に準じて新たに設けられたものである。そして,寡夫につき,寡婦にはない所得要件を設け,所得控除を認めないこととしたのは,父子世帯の父親の場合は,寡婦(母子世帯の母親)とは異なり,通常は父子世帯となる前に既に職業を有しており,父子世帯となった後も引き続き事業を継続していたり,勤務を継続したりするのが普通と認められ,また,高額の収入を得ている者も多い等,男性と女性の間に存在する租税負担能力の違いや生活関係の差異を考慮したものと解されるから,寡夫につき,寡婦にはない所得要件を設けた立法目的は正当なものといえる。
 そして,証拠によれば①平成22年の父子世帯の平均世帯収入は455万円であり,母子世帯の平均世帯収入は291万円であること,②父子世帯の父親の就業率は91.3%であり,母子世帯の母親の就業率は80.6%であること,③父子世帯の就業している父親のうち,正規の職員従業員は67.2%,自営業者は15.6$,パート・アルバイト等が8%であり,母子世帯の就業している母親のうち,正規の職員・従業員は,39.4%,自営業者は2.6%,パート・アルバイト等が47.4%であることが認められるから,父子世帯と母子世帯との間では,収入の額,就労の状況,仕事の安定性の面において差異が存在し,父子世帯の父親は母子世帯の母親と比べて,相対的に高い租税負担能力を有しているものといえるのであって,このような父子世帯と母子世帯の差異等と考慮して,寡夫控除につき,寡婦控除にはない所得要件を設けることが著しく不合理なものであるとはいえない。
 そうすると,父子世帯の父親と母子世帯の母親との違いその他の事情を考慮し,寡夫について寡婦にはない所得要件を設けている地方税法の規定は,一定の合理性を有するものというべきであって,これが憲法14条1項に反するものとはいえない。
(4)これに対して原告は,被告の主張する父子世帯と母子世帯の差異は,父子世帯全体と母子世帯全体との差異であって,所得が500万円を超える世帯においては,これとは異なる性質を示すはずであるから,所得が500万円を超える父子世帯の父親と所得が500万円を超える母子世帯の母親との間に就労の状況等に関する差が存在することの根拠となるものではない旨主張する。
 なるほど,前記(3)で認定した父子世帯と母子世帯における平均収入額,就業率及び就業形態は,いずれも,父子世帯全体及び母子世帯全体に関するものであって,所得が500万円を超える世帯に限ってみれば,収入額,就業率,就業形態の点で父子世帯全体,母子世帯全体の場合とは異なる可能性があること自体は否定することができない。
 しかしながら,そのことから,直ちに,所得が500万円を超える父子世帯と所得が500万円を超える母子世帯の間で,収入額や就業状況の点に差異がないといえるわけではなく,実際,総務省統計局による平成24年就業構造基本調査の結果(甲12)によれば,男性の正規の職員・従業員においては,年間収入500万円~699万円が21.5%,700万円~999万円が13.8%,1000万円~1249万円が3.2%,1250万円~1499万円が0.8%,1500万円以上が0.6%であるのに対し,女性の正規の職員・従業員においては,年間収入500万円~699万円が10.7%,700万円~999万円が3.7%,1000万円~1249万円が0.4%,1250万円~1499万円が0.1%,1500万円以上が0.1%であることが認められるのであって,所得が500万円を超える世帯に限ってみても,父子世帯の父親と母子世帯の母親との間には平均収入額の点で相当程度の差異が存在するものといえる。そして,このように男女で平均収入額の相当の差異があることに照らすと,偶々,課税の前年において,500万円を超える同程度の所得のある男性と女性を想定した場合に,500万円を超える所得に至るまでの年数や,一旦500万円を超える所得を得た後にこれを維持することができる年数には,男女間で相当の差異があるものと合理的に推認することができる
 そうすると,所得が500万円を超える母子世帯の母親の大多数がパートやアルバイトではないとの原告の主張を踏まえても,所得が500万円を超える父子世帯の父親と所得が500万円を超える母子世帯の母親との間には,一定程度の租税負担能力の差異が存在するものというべきであって,所得が500万円を超える父子世帯の父親と所得が500万円を超える母子世帯の母親との間に区別を設けるべき合理的根拠はないとする原告の主張は採用することができない。
 原告は,母子世帯における養育費の年間受取額が,父子世帯における養育費の年間受取額に比べて高額であり,就労による収入が同じ父子世帯と母子世帯であれば収入額は母子世帯の方が多くなる旨の主張もするが,上記のとおり,所得が500万円を越える世帯においても,父子世帯の父親と母子世帯の母親との収入額には相当程度の差異が存在するのであるから,母子世帯における養育費の年間受取額が父子世帯における養育費の年間受取額より高額であるからといって,母子世帯における母親の租税負担能力が父子世帯における父親の租税負担能力よりも高いとか同等であるということはできない。
 また,原告は,近年では,ひとり親に対する経済的な支援制度において,父子世帯の父親と母子世帯の母親との取扱いの差が解消されており,母子世帯と父子世帯を同様に扱うことが社会通念となっている旨の主張もするが,現在においても,前説示のとおり父子世帯の父親と母子世帯の母親との間で平均収入額等の差異が存在することに照らせば寡夫について,寡婦にはない所得要件を設けている地方税法の規定が一定の合理性を有するとの上記判断を左右するものとはいえない。
(5)以上によれば,寡夫について,寡婦とは異なる所得要件を設けている地方税法の規定が憲法14条1項に違反するものとはいえない。そうすると,本件決定において,原告について,寡夫に該当しないものとして,26万円の所得控除をすることなく特別徴収税額を算定したことは適法であり,何ら違法な点はないというべきである。