フレンチトースト訴訟

父ちゃん大法廷に立つ(計画)



答弁書(控訴理由書への認否)

届いた控訴答弁書をあげます。

まず、どのように認否したのかを青字で書き入れます。黒字は控訴理由書です。「図表は省略します。」

 

目次

 

第1 違憲審査基準の採用理由が不備であることについて

第2 平均収入額の差異が審理されていないことについて

第3 所得が500万円を超えるひとり親世帯の平均収入額について

第4 統計データから認められるその他の差異について

第5 原審に記された本件区別の目的と手段の関係性について

第6 本件区別の真の目的に正当性がないことについて

まとめ

 

 

第1 違憲審査基準の採用理由が不備であることについて

 

(1)憲法14条1項後段に列挙された事項による差別は,本来許されないものであるから,それ以外の差別よりも厳格な審査の必要があるというのが現在の有力な学説であるが,原審では,性別による差別であるにもかかわらず,ゆるやかな基準が採用されていると解される。

憲法14条・・・学説であるが,」は不知,その余は争う。

(2)控訴人は1審第3準備書面最高裁昭和55年(行ツ)第15号同60年3月27日大法廷判決民集39巻2号247頁の補足意見を引用し,租税法の分野にあっても,性別による差別が行われるときは厳格な基準によって審査すべきであると主張しており,どの違憲審査基準を採用するかも争点のひとつであった。

控訴人摘示に係る判決において,控訴人が主張するような補足意見があったことは認め,その余は争う。

(3)しかし,原審では,憲法14条1項後段に列挙された性別による差別であるにもかかわらず,厳格な基準を採用しなかった理由が示されていない。

 争う。

 

第2 平均収入額の差異が審理されていないことについて

 

(1)原審では,所得が500万円を超える母子世帯の母親と,所得が500万円を超える父子世帯の父親との間には,平均収入額に相当な差異があることを根拠にし,所得要件の差異に合理的な理由があるとしている。しかし,被控訴人は,全体的な平均収入額の差異については主張しているものの,500万円を超えるひとり親世帯に限った場合でも,平均収入額に相当な差異があるという点を,口頭弁論で主張していない。

概ね認める。

(2)弁論主義に基づくならば,原則的に当事者の主張していない事実は判決の基礎にできないが,公益性のある行政事件であるため,平均収入額の差異を,被控訴人に代わって裁判所が斟酌したものと解される。しかし,口頭弁論において,500万円を超えるひとり親世帯の平均収入額の差異についての主張はなく,審理されていないので,当然ながら控訴人には,この点について反論する機会が与えられていない。

「弁論主義に・・・基礎にできないが」との主張は,争う。

「所得500万円を超える母子世帯の母親と,所得が500万円を超える父子世帯の父親との間には,平均収入額に相当な差異があること」は,弁論主義が適用されることになる主要事実ではないし,当該差異の存否については控訴人自身が主張している。

「公益性のある・・・解される」との主張は不知。

「口頭弁論において,・・・与えられていない。」との主張は争う。

(3)なお,500万円を超えるひとり親世帯の平均収入額の差異の事実認定は,平成24年就業構造基本調査の結果(甲12号)から推認されたものであるが,甲12号は正規職員・従業員の収入を示すデータの抜粋であり,ひとり親世帯の平均収入額の差異を立証するには適切ではない。

「なお,500万円を超える。。。データの抜粋であり,」との主張は概ね認めるが,その余は,争う。

(4)また,総務省統計局は,平成24年就業構造基本調査の結果として,ひとり親世帯の収入階級別のデータを公開している。そのデータを調査することにより,500万円を超えるひとり親世帯の平均収入額の差異を明らかにすることが可能となっており,そのほうが甲12号から推認するより直接的で正確である。

争う。

(5)ゆえに,裁判所は甲12号から推認するのではなく,口頭弁論で当事者に確認したり,職権でもって集計データを証拠調べしたりするなど,所得500万円を超えるひとり親世帯の平均収入額の差異を明らかにするべきであって,事実が不確かなまま,控訴人に反論する機会もなく,弁論を終結させた原審は,明らかに審理不尽である。

争う。

 

第3 所得が500万円を超えるひとり親世帯の平均収入額について

 

(1)原審では,所得が500万円を超えるひとり親世帯の父母の平均収入額に差異があることを推認し,それを判決の基礎にしているので,以下のとおり反証する。

概ね認める。

(2)前提として,就業構造基本調査での収入金額は,税引き前の収入金額を集計したもの(甲13号)で,税法上の給与所得控除を適用した所得額ではないので,まず税法上の所得500万円を統計上の収入金額に換算する。税法上の500万円を超える所得は,給与所得控除前の給与収入額に換算すると688万8889円を超える収入に相当する。

概ね認める。

ゆえに就業構造基本調査のデータを取り扱う際には,688万8889円に最も近い700万円を境にした階級による分析を行うものとする。

争う。

(3)また,度数分布表から平均値を求める場合は一般的に知られる以下の公式を用いて算出する。ただし,最上位の階級には上限がないため,階級値としては階級の下限を階級値とする。例として,600万円から699万円の階級の階級値は650万円,1500万円以上の階級の階級値は1500万円である。

争う。

(4)まず,甲12号に記載された平成24年の就業構造基本調査の[表Ⅰ-24 男女,主な雇用形態,所得階級別雇用数(役員を除く)の割合]に示された度数分布表の中から正規職員・従業員の平均収入を700万円未満と700万円以上に分け,男女別に平均収入額を算出する。その結果は以下の表とグラフに示すとおり700万円未満の男性の平均収入額は約402万円,700万円未満の女性の平均収入額は約310万円,700万円以上の男性の平均収入額は約942万円,700万円以上の女性の平均収入額は約903万円となる(甲14号)。

争う。

(5)この結果からは,確かに正規職員・従業員で700万円以上の男性の平均収入額が,700万円以上の女性の平均収入額より高いことを示している。原審は,この事実からひとり親世帯も同じ傾向であると推認したと解される。

争う。

(6)とはいえ,この結果をそのままひとり親世帯にあてはめ,寡婦寡夫)控除の適用可否を論ずるには明らかに不釣合な点が存在する。まず,所得500万円を超える母子世帯の母親に該当する収入700万円以上の女性の平均収入額は903万円,所得500万円以下の父子家庭の父親に該当する収入700万円未満の男性の平均収入額は402万円となっており,その差は501万円もある。しかし,この両者はこのような差異があるにもかかわらず,等しく寡婦寡夫)控除が適用され,26万円の控除が認められている。また,所得500万円以下の母子世帯の母親に該当する収入700万円未満の女性の平均収入額は310万円で,男性は402万円となっており,その差は92万円で,率にすると約30%の差異がある両者は,控除額に4万円の差があるものの,どちらも寡婦寡夫)控除が認められている。一方,所得500万円を越える母子世帯に該当する女性の平均収入額は903万円で,男性は942万円となっており,その差は39万円しかなく,率にすると約4%しかないにもかかわらず,前者は26万円の控除が適用され,後者は適用がない。これは,明らかに不釣合であり,この程度の差異では,本件区別の理由の根拠とするには弱いといえる。(下図参照)

争う。

(7)次に,ひとり親世帯に限った場合の平均収入額を確認する。総務庁統計局は,5年ごとに実施する就業構造基本調査において,母子世帯と父子世帯についても収入階級別の調査をしている。それらの調査データは一般に公開されているので,直近の3回のデータを集計し検討する(甲25号)。この調査での母子世帯や父子世帯とは,ひとり親と18歳未満の子で構成されている世帯であり,大学生などの18歳以上の子やその他の構成員がいる世帯は含まれてはいないが,父子世帯と母子世帯の基本的な性質や傾向を分析するには適した資料である。

争う。

(8)平成19年分(甲15号,甲16号),平成24年分(甲17号,甲18号),平成29年分(甲19号,甲22号)の度数分布表から前述の公式を使用して平均収入額を算出したのが次の表(甲25号)で,そのうち平成29年分についてはグラフに示している。

争う。

(9)収入700万円未満のひとり親世帯では,父子世帯の平均収入額のほうが母子世帯より高い傾向があるが,収入700万円以上ではその傾向は見られず,同等,若しくは母子世帯のほうが高い傾向となっている。これは,高所得の父子世帯の父親に比べて高所得の母子世帯の母親のほうが,社会的な理解を得られていたり,高い報酬を与える企業側によって就業上の受け入れ体制が整っていたりする等の理由によるものと考えられる。

争う。

(10)その理由はともあれ,所得が500万円を超えるひとり親世帯に限ってみた場合に,母子世帯の母親の平均収入額は父子世帯の父親よりも低いということはなく,同等,若しくは高いのが事実である。従って,父子世帯の父親と母子世帯の母親との間には平均収入額の点で相当程度の差異が存在するとした原審の事実認定は,明らかに誤認である。

争う。

なお,控訴人が新たに提出した平成29年就業構造基本調査の結果によっても,所得が700万円以上の寡夫は,寡夫全体の20.5%を占めているのに対し,所得が700万円以上の寡婦は,寡婦全体の1.8%を占めるに過ぎず,無業者の寡夫は,寡夫全体の5.5%を占めているのに対し,無業者の寡婦は,寡婦全体の13.2%を占めるなど,寡夫寡婦の間には,最新のデータによっても,相当の収入格差,就労機会の格差が存在していることを指摘するものである。

 

第4 統計データから認められるその他の差異について

 

(1)平均収入額の観点では,700万円以上の収入のある母子世帯の母親は父子世帯の父親に比べて低いとはいえないことが統計データによって裏付けられた。それ以外にも,直近3回の就業構造基本調査の結果から認められる事実を列挙し,就業構造基本調査結果からは,700万円以上の収入のある父子世帯の父親と母子世帯の母親を比較し,相対的に母子世帯側の租税負担能力が低いとはいえないことを証明する。

(2)就業構造基本調査の平成19年分(甲15号,甲16号),平成24年分(甲17号,甲18号),平成29年分(甲20号,甲23号)の度数分布表から,子の平均人数を算出したのが次の表(甲25号)である。700万円未満のひとり親世帯では,母子世帯のほうがわずかに子の平均人数は多くなっているが,700万円以上のひとり親世帯では,調査年によって逆転することもあり,性別による傾向の違いはない。

(3)就業構造基本調査の平成19年分(甲15号,甲16号),平成24年分(甲17号,甲18号),平成29年分(甲20号,甲23号)の度数分布表から,末子の平均年齢を算出したのが次の表(甲25号)である。700万円未満のひとり親世帯では,母子世帯のほうがわずかに末子の平均年齢は小さくなっているが,700万円以上のひとり親世帯では,調査年によって逆転することもあり,性別による傾向の違いはない。

(4)就業構造基本調査の平成19年分(甲15号,甲16号),平成24年分(甲17号,甲18号),平成29年分(甲20号,甲23号)の度数分布表から,6歳未満の子がいる割合を算出したのが次の表(甲25号)である。700万円未満のひとり親世帯では,母子世帯のほうの割合が大きくなっているが,700万円以上のひとり親世帯では調査年によって逆転することもあり,性別による傾向の違いはない。よって養育の負荷が大きい低年齢の子を育てている割合という観点でみても,父子世帯と母子世帯で差異は認められない。

(5)就業構造基本調査の平成19年分(甲15号,甲16号),平成24年分(甲17号,甲18号),平成29年分(甲21号,甲24号)の度数分布表から,ひとり親の無業者数と求職者数,ひとり親の就業率,そして,収入700万円以上で主な収入の種類別のひとり親世帯数を算出したのが,次の表(甲25号)である。700万円未満のひとり親世帯では,母子世帯のほうが就業率は低い傾向にあるが,700万円以上のひとり親世帯では調査年によっては同等の年もあり,性別による傾向の違いは認められない。平成29年調査では,収入700万円以上の母子世帯の就業率がやや低くなっているが,求職者はいない。これは,無業者であっても,家賃や土地代などが主な収入であったりするように,就業の必要がないという事情によるものであり,就業が不安定なのではなく,無業でも安定した収入源があるということである。収入700万円未満の母子世帯の場合は,正規の職員に就業するのが困難な状況にあるが,収入700万円以上の母子世帯の場合は事情が異なるので,平成29年調査の就業率の結果から租税負担能力が低いということはできず,むしろ就業せずとも高収入である世帯は,余剰の労働力があるのだから,租税負担能力が高いともいえる。なお,全体的に収入の種類についてみると,収入が700万円以上のひとり親世帯の約9割以上が賃金・給料となっており,特別な差異はみられない。

(6)就業構造基本調査の平成19年分(甲15号,甲16号),平成24年分(甲17号,甲18号),平成29年分(甲19号,甲22号)の度数分布表から,ひとり親の平均年齢を算出したのが次の表(甲25号)である。若干ではあるが,母子世帯の母親のほうが父子世帯の父親にくらべて年齢が低い傾向が認められる。これは,一般的な夫婦の平均年齢差が1.5歳程度であることを反映したものであると考えられる。

(7)収入700万円以上のひとり親世帯の平均収入額と父母の平均年齢が判明したので,ここで,賃金カーブモデルを使って過去と今後の収入の目安をシミュレーションする。一般的に,女性はパートやアルバイトの割合が多いため,緩やかな賃金カーブを描くが,収入が700万円以上の場合は,ほとんどが正規職員や従業員であるので,男性と同じように50歳前後がピークとなる高低差の大きい山型の賃金カーブを描くと考えられる。そこで,男性の賃金カーブモデルを使用し,それぞれの調査年ごとに,収入700万円以上のひとり親世帯の平均収入額と平均年齢から,どのような賃金カーブになるかをシミュレートしたのが次のグラフ(甲26号)である。

(8)シミュレートされた賃金カーブは,どの調査年でも母子世帯の母親のほうの山が高くなっている。つまり平均収入額と平均年齢からは,収入が700万円以上の母子世帯の母親のほうが,過去から将来に渡って収入が多くなるとこが合理的に推認でき,相対的な租税負担能力は高いといえる。

(9)このように就業構造基本調査の統計データからは,収入700万円以上の母子世帯の母親の租税負担能力の低さは認められない。すなわち,所得が500万円を超える父子世帯の父親と母子世帯の母親を比較したときに,母子世帯の母親のほうが租税負担能力は低いということを示すデータはなく,むしろ,母子世帯の母親の租税負担能力のほうがやや高いことを示している。このほかにも,養育費の受取額では母子世帯のほうが高額になることが判明しており,所得500万円を超える母子世帯の母親は,収入や収入の安定性、就業の安定性が低いことはなく,相対的な租税負担能力は,父子世帯の父親よりも低いとはいえないのが明らかである。

 (4章全体に対して)争う。

なお,(9)中「養育費の受取額では母子世帯のほうが高額になることが判明しており、・・・相対的な租税負担能力は,父子世帯の父親よりも低いといえないのが明らかである。」との主張については,原審において被控訴人が主張したとおり,養育費が一般に離婚当事者間の所得格差を埋める役割を有しているところ,母子世帯の養育費受取額及び受給率が高いのは,母子世帯の所得が低いことの根拠にこそなれ,寡夫寡婦の同一性を示す根拠にはならないものである。

第5 原審に記された本件区別の目的と手段の関連性について

 

(1)前述したとおり所得500万円を超えるひとり親世帯の父母には,租税負担能力の差異がないことが明らかであるが,ここでは,原審で示された本件区別の立法目的と手段には,合理的関連性がないことを明らかにする。

争う。

(2)原審9頁では本件区別の目的と手段について,「そして,寡夫につき,寡婦にはない所得要件を儲け,前年の合計所得金額が500万円を超える場合には寡夫に該当せず,所得控除を認めないこととしたのは,父子世帯の父親の場合は,寡婦(母子世帯の母親)とは異なり,通常は父子世帯となる前に既に職業を有しており,父子世帯となった後も引き続き事業を継続したり,勤務を継続したりするのが普通と認められ,また,高額の収入を得ている者も多い等,男性と女性の間に存在する租税負担能力の違いや生活関係の差異等を考慮したものと解されるから,寡夫につき,寡婦にはない所得要件を設けた立法目的は正当なものといえる。」としている。

概ね認める。

(3)しかし,母子世帯全体が父子世帯全体よりも就業が不安定で低収入であるとし,それを考慮するのが目的とするならば,父子世帯に所得要件を設けるという手段では,低収入の母子世帯を優遇する効果がなく,目的と手段との間に合理的関連性が認められない。文中の寡婦(母子世帯の母親)は,あたかも無職や低収入のようであるが,父子世帯に所得要件を設けられていること,つまり母子世帯には所得要件が設けられていないことによって優遇されるのは,高所得でありながら寡婦控除が適用される母子世帯の母親のほうだからである。

争う。

(4)そもそも所得要件という手段は,その要件によって適用される者と除外される者を区別して異なる扱いをするためであり,寡夫控除の所得要件は,父子世帯の父親を,所得500万円を境にして区別して扱うためのものである。そして,その区別によって,支援の適用を制限することの効果は,寡夫控除制度に伴う税収減の影響を小さくするものであり,母子世帯には無関係である。低所得の母子世帯の母親を考慮するのが立法目的ならば,父子世帯の父親にだけに所得要件を設けるという手段では,低所得の母子世帯の母親をなんら優遇する効果がなく,目的を達することができないのである。

争う。

(5)このように,父子世帯に所得要件を設けることでは,男性と女性の間に存在する租税負担能力の違い等を考慮したことにならないのであるから,父子世帯にのみ所得要件を設けた本件区別の立法目的が,「男性と女性の間に存在する租税負担能力の違い等を考慮したもの」というのは,適切ではないのが明らかである。

争う。

(3)から(5)について,控訴人の主張は,いづれも具体的根拠が示されていない個人的な見解に過ぎない。

第6 本件区別の真の目的に正当性がないことについて

 

(1)所得500万円を超えるひとり親世帯の父母には租税負担能力の差異がなく,本件区別の立法目的が「男性と女性の間に存在する租税負担能力の違い等を考慮したもの」ではないことが明らかになったところで,父子世帯の父親のみに所得要件を設けた真の目的を,経緯を含めて,改めて整理する。

争う。

(2)まず,昭和56年の税制改正寡夫控除が創設される前は,父子世帯の父親には控除がなく,母子世帯の母親の租税負担を軽減する制度であった。その立法目的は,父子世帯の父親の場合は,寡婦(母子世帯の母親)とは異なり,通常は父子世帯となる前に既に職業を有しており,父子世帯となった後も引き続き事業を継続したり,勤務を継続したりするのが普通と認められ,また,高額の収入を得ている者も多い等,男性と女性の間に存在する租税負担能力の違いや生活関係の差異等を考慮したものであると解される。

概ね認める。

(3)そして,昭和56年の税制改正で,寡婦控除に準じて寡夫控除を創設した立法目的は,男女平等の観点から母子世帯と同じように父子世帯の租税負担を軽減し,経済的に支援するためと解される。

概ね認める。

(4)なお,寡夫控除を創設するときに,子以外の扶養親族がいる場合にも認められている寡婦控除を,寡夫控除には認めなかったことから,立法目的には,父子世帯の父親の支援以外に,ひとり親世帯の子どもの福祉という観点も,考慮がなされているものと解される。

争う。

(5)その上で,母子世帯の母親には所得制限を設けず,父子世帯の父親にだけ所得制限を設けた立法目的は,税制改正前の母子世帯全体の優遇状態を維持しつつ,一定の所得を超える父子世帯の父親を除外することで,寡夫控除創設による税収減の影響を小さくするためと解される。

争う。

(6)この結果,一定の所得を超える父子世帯の父親と母子世帯の母親には,租税負担能力の差異のような考慮すべき事情がないにもかかわらず,税負担が異なることになった。

争う。

(4)から(6)までについて,控訴人の主張は,いずれも具体的根拠が示されていない個人的な見解に過ぎない。

(7)平成27年の国勢調査の結果によると,川崎市の父子世帯数は774世帯(甲27号)であるが,仮に,そのうちの約2割(2割の根拠は甲14号)である155世帯が,所得500万円を超え,寡夫控除の適用がないと想定した場合,所得要件による効果は1世帯あたり年間2万6000円の税収効果があるので,155世帯では年間約400万円の税収効果が見込まれることになる。その金額は,年間7000億円を越える川崎市の予算規模からみれば,大きな金額とは言い難く,所得要件の設置がやむにやまれぬ事情ということはできない。

川崎市の父子世帯数は認める。また,年間7000億円を超える川崎市の予算規模は平成30年度一般会計予算のことをさしているのであれば認めるが,その余は争う。

控訴人の主張は,計算根拠等が十分に示されていない,単なる推測に過ぎない。

(8)このように,地方公共団体の財政事情を考慮し税収減の影響を小さくするためであるとしても,この立法目的には,やむをえない事情も合理的な理由もない。性別の違いだけで負担する税額が違うことは,著しく不合理な差別であり,許されるものではない。

争う。

控訴人の主張は,いずれも具体的な根拠が示されていない個人的な見解に過ぎない。

(9)ちなみに,寡夫控除創設時の第96回国会衆議院地方行政委員会の議事録(甲28号)に,この差別についての質疑が記録されている。佐藤敬治委員の「男が小さい子供を抱えたら,本当にこれは女よりも哀れなんですね。そこで,せっかく寡夫控除制度というものをつくったのだから,なぜ女と一緒にしないで女より一段劣ったところでやっているか,男女不平等じゃないかと思いますが,どうですか。」という質問に対し,関根税務局長は「確かに男でも,子供を抱えて一人になってしまったら大変な御苦労をいただかなければいかぬと思うわけでございますが,子供を持っている場合には,御婦人の場合と同じ扱いを私どもはしているつもりでございます。ただ,所得制限が三百万というのがございますけれども,それを除きますと,子供を持っておれば御婦人でも男性でも同じように寡婦(夫)控除の対象になる,こういうことでございます。」というように,所得制限によって父子世帯の父親を劣らせている理由は答弁しておらず,その後,「子供を持っている場合には,全く同じ扱いにしているつもりでございます。」と事実と異なる答弁をしている。

地方行政委員会で議論があったことは,概ね認め,その余は争う。

(10)租税法は,特に強い合憲性の推定を受け,基本的には,その定立について立法府の広範な裁量にゆだねられているとしても,上記答弁にみられるように,本件区別は,国会の議論を通してもなお,正当な理由のない性差別を含んだまま法が施行され,そして30年以上に渡り是正されることがなかった不当な差別である。当時の時代背景として,母子世帯は守るべきで父子世帯は耐えるべきというように,男性には忍耐を求める価値観が主流だった可能性はあるとしても,今日では,租税法以外で父子世帯を経済的に差別しているものはなく,子どもの福祉という観点から見ても母子世帯と父子世帯は同じ扱いにするべきというのが社会通念となっている。そしてそれは正しく憲法14条1項後段に列挙された性別による差別を禁じた平等原則に基づくものである。

争う。

控訴人の主張は,いずれも具体的な根拠が示されていない個人的な見解に過ぎない。

(11)更には,寡夫控除の立法目的には子どもの福祉の観点があると解されるように,ひとり親世帯の経済事情は,子どもの福祉に直結する。子どもの観点でも,親の性別によってひとり親世帯の税負担が異なるということは,子どもにも不利益を強いることになっている。加えて,寡夫控除の所得要件による適用除外は,直接的な租税負担以外にも,父子世帯の子どもに影響を与えることがある。例えば,高等学校等就学支援金の支給には,寡婦寡夫)控除適用後の市県民税の所得割額を基準にして所得制限が設けられている。そのため収入によって,母子世帯では支給されても,同じ収入の父子世帯では,寡夫控除が適用されないために年間11万8800円の就学支援金が支給されないケースがある。ひとり親世帯の子どもにとっては,親の性別というどうにもならない事情によって差別され不利益を受けることは,許されることではない。

寡夫控除の所得要件による適用除外・・・支給されないケースがある」との主張は,概ね認める,その余は争う。

(12)このように,税収減の抑止という真の目的によって,所得の多い父子世帯の父親と,その子どもに負担を強いる本件区別は,やむをえない事情が存在しないどころか,租税負担能力の違い等の合理的な理由さえ存在せず,著しく不合理で正当性がなく,憲法14条1項に違反することは明らかである。

争う。

控訴人の主張は,いずれも具体的な根拠が示されていない個人的な見解に過ぎない。

 

まとめ

 

以上,争点のひとつであった違憲審査基準の採用理由が不備であること,ひとり親世帯の平均収入額についての審理が尽くされていないこと,ひとり親世帯の平均収入額の差異が事実誤認であること,その他に統計上で所得500万円を超える母子世帯の母親の租税負担能力が低いことを示す事実が存在しないこと,そして原審に記された本件区別の目的と手段に関連性がないこと,更に本件区別の真の目的には正当性がないこと,以上のことから原判決は取り消されるべきであり,憲法14条に反した課税処分は取り消されるべきである。

 

控訴人の主張については、またあとで。