フレンチトースト訴訟

父ちゃん大法廷に立つ(計画)



対所得税 原告準備書面(4)

推敲不十分でした。いろいろ変ですが汲み取ってください。

 

 

令和元年(行ウ)第236号 更正処分取消等請求事件

原 告  sakurahappy

被 告  国(処分をした行政庁:川崎北税務署長)

 

東京地方裁判所民事第51部1C係 御中

 

        原告  準  備  書  面 (4)

 

                                                         令和3年1月12日

              

                                                         原告 sakurahappy

 

 原告は,当準備書面にて被告の令和2年10月30日付準備書面(3)における被告の主張に対し,必要と認める範囲で反論し,主張を補充する。また,令和2年(行ツ)第56号の最高裁第一小法廷判決 同2年10月12日判決(乙18号証 以下,令和2年最高裁判決とする)について言及し,従前の原告の主張を補充する。なお,略語の使用については,従前の例による。

 

目次

 

第1 令和2年度の税制改正について

第2 被告準備書面(3)の主張に対する反論

第3 令和2年最高裁判決の解釈

第4 令和2年最高裁判決後に新たな事実が判明したことを踏まえ,改めて判断すべきであること

第5 追加の主張及び補充

 

第1 令和2年度の税制改正について

令和2年度の税制改正は,与党税制調査会が平和元年12月12日に決定した与党税制改正大綱が基礎となったものである。その与党税制調査会では,未婚のひとり親に対して寡婦寡夫)控除を新設するにあたり,所得要件として児童扶養手当の基準額である約230万円を主張する自民党に対し,寡夫控除や扶養する子のない寡婦控除に設けられている500万円にすべきという公明党で調整が行われたという経緯があり,最終的に500万円になったものである。(甲27号証)

また,今まで所得要件がなかった単親母に対する寡婦控除について,被告は「令和2年度の税制改正の経緯並びに同改正の趣旨及び内容からみても,改正前の寡夫の所得要件が憲法14条1項に反するとは認められない」(被告準備書面(3)8頁)とし「改正の経緯において,改正前の寡夫の所得要件自体が憲法14条1項に反するというような意見や考え方は全く示されていない」と主張するが,与党税制改正大綱の決定を主導した甘利明税制調査会会長は,令和元年11月24日に「男女間で所得制限が片方にあり片方にないのは憲法上の問題だ。」と述べ,単親母と単親父で所得制限の有無に違いがあることは憲法上の問題であることを認めているのであり,令和2年度の税制改正で単親母と単親父の間の不公平が解消されたのは,現行の制度にある憲法上の問題を解決するためであったことは明らかである。(甲28号証)ここでいう憲法上の問題とは,現行制度上の性別による不合理な差別が憲法14条1項に反していることに他ならない。

なお,不公平の解消方法として,単親母に所得制限を設置する方法のほか,単親父の所得制限を廃する等の方法があるにもかかわらず,単親母と単親父の間の不公平を解消するという観点からという理由だけで単親母に所得制限を設置している。本来,寡婦控除は所得に関係なく通常よりも出費が多くなることへの配慮として設けられたものであり,寡夫控除の新設にあたっては,財政上の理由から単親父にのみ所得要件が設置されたものである。とすると,単親母に所得制限を設けることだけが不公平を解消する手段ではないが,この手段が選択された理由は明らかになっていない。おそらく未婚のひとり親控除に所得制限を設けることと同時に不公平の解消を図ったため,ひとり親控除の所得制限が500万円に統一されたのではないかと推察される。

 

ところで,令和2年度の税制改正にあたり新たな事実が令和2年度税制改正の概要(乙15号証99頁)により判明した。新たな事実とは,ひとり親の所得要件に男女差があることによって生じている不公平を解消するにあたり,「ひとり親家庭(有業者)の平均年収を見た際に,寡夫控除の所得制限となっている合計所得金額500万円(年収678万円)よりも上のひとり親家庭においては,母子家庭の方が平均年収が高いことなどのデータ等」が立法事実となっていることである。

このデータは,当訴訟において請求の理由を基礎付けるものとして原告側が統計情報を取りまとめたデータと同じものと思われる。(甲3号証)

経緯は,平成29年(行ウ)第51号(横浜地方裁判所 平成30年7月11日判決)において,裁判所が,所得500万円を超える単親母と単親父を比較しても平均所得は男性のほうが高いであろうと推認し,地方税法における寡夫控除の所得要件は憲法14条1項に反しない旨の判決の基礎としたことに対して,原告(=当訴訟の原告)が,統計上は高所得単親父の所得は高所得単親母の所得と比較して高くないことが事実であることを取りまとめ,平成30年9月3日付控訴理由書で(その訴訟における甲25号証とともに)主張したものである。

 

令和2年度税制改正寡夫控除訴訟との関連事項を以下時系列に示す。

  1. 平成29年9月29日[平成29年(行ウ)第51号]原告は,地方税法寡婦寡夫)控除において,単親母にない所得要件が単親父にあるのは憲法14条1項に反するとして提訴。
  2. 平成30年7月11日[平成29年(行ウ)第51号横浜地方裁判所判決]一般的な男女の収入格差から500万円を超える単親母は単親父よりも平均所得が少ないと推認し、そうすると高所得単親母は高所得単親父よりも租税負担能力が小さいから所得要件の男女差は憲法14条1項に反しないと判決があり原告は控訴した。
  3. 平成30年9月3日,原告は,高所得単親父の平均収入は高所得単親母の平均収入に比べて高くないことを統計データが示していることを明らかにした控訴理由書を提出した。[平成30年(行コ)第250号]
  4. 令和元年5月8日,原告は,高所得の単親母と単親父の平均収入を示した甲3号証を付して当訴訟[令和元年(行ウ)第236号]を提起した。
  5. 令和元年11月24日、甘利明税制調査会長が「男女間で所得制限が片方にあり片方にないのは憲法上の問題だ。この機会に与党内の議論を整理してめどをつけたい」と語り令和2年度税制改正大綱に制度改正を盛り込むことを目指すとの報道があった。
  6. 令和元年12月12日、与党税制調査会は,ひとり親控除の制定にあたり,単親母にも所得制限を設けるとした令和2年与党税制改正大綱を決定した。
  7. 令和元年12月20日,政府は,与党税制改正大綱を踏まえて令和2年度税制改正大綱を閣議決定した。
  8. 令和2年3月27日,国会で上記大綱に基づいて作成された所得税法等の一部を改正する法律案が成立。

税制改正の過程において,所得500万円を超える単親母の平均収入は単親父の平均収入よりも高いことを示すデータについて議論が行われている。

 

第2 被告準備書面(3)の主張に対する反論

まず,被告は,令和2年度の税制改正の経緯からみても,寡夫の所得要件が憲法に違反するとは認められない旨主張しているが,ひとり親の所得要件の差異が憲法上の問題だとし,男女間の不公平解消を目指した経緯があったことが事実である。そもそも原告の主張が「寡夫の所得要件が憲法に違反している」と解されているのなら正確ではない。原告の主張は,ひとり親の性別によって所得要件の有無が異なっていた改正前の規定が憲法14条1項に反するというものである。

そして,被告は,令和2年度の税制改正の趣旨及び内容からみても,改正前の寡夫の所得要件が憲法に違反するとは認められない旨主張しているが改正前の単親父の所得要件が維持されたからといっても,不公平の解消のために単親母に所得要件を設けるという手段を選択したに過ぎず,ひとり親の性別によって所得要件の有無が異なっていた改正前の規定が憲法14条1項に反していないと判断されるものではない。

 

第3 令和2年最高裁判決の解釈

令和2年最高裁判決は,当訴訟の原告が地方税法上,父子世帯の父にのみ所得要件があるのは憲法14条1項に反するとして訴えた裁判であるが,最高裁判所が「個人の道府県民税及び市町村民税の所得割に係る所得控除を受ける寡夫について,前年の合計所得金額が500万円以下のものであることを要するとする地方税法23条1項12号,292条1項12号の各規程が憲法14条1項に違反するものでないことは,最高裁昭和55年(行ツ)第15号同60年3月27日大法廷判決・民集39巻2号247頁の趣旨に徹して明らかである。」として上告を棄却したことについて以下の通り述べる。

令和2年最高裁判決は,令和元年東京高裁判決を支持したもので,令和元年東京高裁判決では以下のように理由で合憲と判断している。

1.立法目的の正当性

「男性と女性の間に存在する租税負担能力の違いや生活関係の差異を考慮したものと解されるから,寡夫につき,係累のある離死別寡婦にはない所得要件を設けた立法目的は正当なものである」

2.立法手段の関連性

「父子世帯と母子世帯との間では,収入の額,就労の状況,仕事の安定性の面において差異が存在し,父子世帯の父親は母子世帯の母親と比べて,相対的に高い租税負担能力を有しているものといえるのであって,このような父子世帯と母子世帯の差異等を考慮して,寡夫控除につき,寡婦控除にはない所得要件を設けることが著しく不合理なものではない」

これらの判断にあたって裁判所は被告の提出した証拠を採用し「父子世帯の父親は母子世帯の母親と比べて,相対的に高い租税負担能力を有している」ことを事実認定している。

 

原告は,高所得単親母が高所得単親父より租税負担能力が低いことはないことを示す統計情報データなどの証拠を提出したが,高所得単親母が高所得単親父より租税負担能力が低いことを立証しようとする被告の主張を否定するだけにとどまり,裁判所は,高所得のひとり親では単親母のほうが単親父より平均収入が高い事実は認定していない。

そうすると,全体的に見て単親父は単親母と比べて相対的に高い租税負担応力を有しているという事実からすれば,高所得単親父を控除の対象外として男性を差別化する立法手段の合理的関連性は否定できないことになる。租税法の定立については、国家財政、社会経済、国民所得、国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的、技術的な判断にゆだねるほかはないとする裁判所の立場上,高所得のひとり親の平均収入が,単親母と単親父で逆転しているというような立法事実が存在しないかぎり,合理的関連性の否定はできないと解される。

しかしながら,民間人が統計情報を分析して提出したところで専門性が認められるものではないため,所得要件の男女差異が実情にそぐわず不合理なものであるにとどまり,合理的関連性の否定を裏付けるにいたらなかったと解される。その結果,著しく不合理なのかの検討がなされることになり,単親母に所得要件がないことが不合理であるなら,税負担の軽減が限りなく裕福な納税者にも行われるのは著しい不合理にあたるので憲法14条1項に反するといえるが,単親父に所得要件があることが不合理なら,生活に困窮するほどの負担になることはないので著しく不合理とはいえず,憲法14条1項に違反しないと判断をしたと解される。

 

第4 令和2年最高裁判決後に新たな事実が判明したことを踏まえ,改めて判断すべきであること

 令和2年最高裁判決は,控訴審(平成30年(行コ)第250号)の結審するまでに提出された証拠,及び控訴審で認定された事実によって判断されたものであるが,控訴審結審の後,寡婦寡夫)控除をめぐって立法府で検討がなされ,令和2年度の税制改正で単親母にも所得要件が設置され,所得要件の男女差がなくなるというように,事情が変化している。

そして,その令和2年度の税制改正には,単親母と単親父の所得要件差異の撤廃にあたり,2つの重要な立法事実が存在している。

まず1つは,男性のみに500万円以下の所得制限があることにつき「男女間で所得制限が片方にあり片方にないのは憲法上の問題だ」とし要件差異の撤廃につながったこと。もう1つは,ひとり親家庭(有業者)の平均年収を見た際に,寡夫控除の所得制限となっている合計所得金額500万円(年収678万円)よりも上のひとり親家庭においては,母子家庭の方が平均年収が高いことなどのデータ等が検討された結果,要件差異の撤廃につながったことである。

1つ目の立法事実によって,立法府は,所得要件差異を憲法14条1項に違反していると認識しており,所得要件差異の撤廃は単なる不公平の解消ではなく,憲法問題の解決として税制改正に取り組んだことが明らかとなった。

また,租税負担能力の重要なファクターは収入と支出であるが,2つ目の立法事実は,ひとり親の平均収入は,男性が高く女性が低いという画一性があるわけではなく,高所得のひとり親では逆転することを示しており,この立法事実によって「男性と女性の間に存在する租税負担能力の違いや生活関係の差異を考慮する」とした立法目的と「所得要件の差異によって,高所得単親母は寡婦控除を適用し、高所得単親父は寡夫控除を適用外とする」とした立法手段は,関係が真逆なのであるから,合理的関連性は否定され,不合理の著しさを検討するまでもなく,憲法14条1項に違反するというべきである。

なお,違法を基礎付ける立法事実があることにより,神奈川県臨時特例企業税条例が違法であるとされた判断された最高裁第一小法廷判決(平成22年(行ヒ)第242号 同25年3月21判決)に照らすと,合理的関連性を否定する立法事実がある本件区別は違憲・違法であるというべきである。

このように令和2年最高裁判決の後,新たな事実が判明しているのであるから,この事実を踏まえた上で,改めて本件区別の違憲性を判断するべきである。

 

第5 追加の主張及び補充

1.正確な主張

原告は,訴状において「寡夫控除の所得要件は,憲法14条1項に違反し,無効」と主張しているが,正確性に欠けるため,改めて以下のように主張する。

所得税法上,寡婦控除にはない所得要件が寡夫控除には設置されているが,この差異は,憲法14条1項に違反する不合理な差別である。この差別の解消にあたっては,寡夫控除に設置された所得要件を無効とするべきである。」

 

2.救済方法についての主張

救済にあたっては,寡婦寡夫)控除が出費を考慮したものであり,高所得単親母が控除を受けることは不当ではないこと,また単親父の所得要件の設置は昭和56年当時の財政状況によるものであることから,国籍法違憲判決にならい寡夫控除の所得要件を無効とすることで救済を図るべきとの主張に変更はない。しかし,令和2年度の税制改正で単親母にも所得要件を設けることになったことと,地方税法上の寡夫控除の所得要件が憲法に違反しないことが確定したことを踏まえ,仮に税制改正前の寡夫控除の所得制限を無効とすることが大きな混乱を招く恐れがあると考えられる場合は,行政事件訴訟法第31条1項を適用し,救済手段を立法府に委ねるべきであるとの主張を追加する。勿論,寡夫控除の所得要件を無効にすることで大きな混乱が発生することはないというべきであることも合わせて主張する。

 

3.過少申告加算税について

当訴訟は現行制度の問題を提起したもので,節税をしたり,納税額をごまかしたり,不当に利益を得ることが目的ではない。しかしながら,訴訟を提起するにあたって国税不服審判所による裁決が前提であり,そのためには税務署から行政処分を受ける必要があり,原告は行政処分を受けるため,手続き上,寡夫控除を付けて確定申告を行ったが,その為に過少申告加算税が課されている。

しかし,この訴訟で提出した高所得ひとり親の平均収入の男女差などのデータが立法府で検討され,令和2年度の税制改正で所得要件差異の撤廃につながったという事情を踏まえると,現行制度に問題があったことに間違いはなく,訴訟を提起するために確定申告する時に寡夫控除を付けた手続きには,国税通則法65条4項における「正当な理由」が存在する。寡夫控除を付けた手続きを行ったのは,現行制度上の不合理を解消するために必要な手続きといえるからである。そうすると過少申告加算税過少申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になると解されるので,仮に平成24年から26年の所得税の更正処分の取り消しが認められないとしても,過少申告加算税の賦課決定は取り消されるべきである。

 

以上