フレンチトースト訴訟

父ちゃん大法廷に立つ(計画)



控訴人準備書面(1)

令和3年(行コ)第166号 更正処分取消等請求控訴事件

控訴人 sakurahappy

被控訴人 国(処分をした行政庁:川崎北税務署長)

 

東京高等裁判所第15民事部Ea甲係 御中

 

     控 訴 人 準 備 書 面(1)

 

          令和3年10月26日

              

          控訴人 sakurahappy         印

 

はじめに

 

控訴人は,当準備書面で控訴理由書の主張を補充し,控訴答弁書に対する反論を行う。

 

 

目次

 

第1 主張の補充

  1. 課税所得の金額という比較基準が介在しない場合,男女で課税額に差があるのは憲法14条1項に違反すること
  2. 昭和60年大法廷判決では本件区別の違憲性を判断できないこと
  3. 本件区別の憲法適合性判断

 

第2 被控訴人の主張に対する反論

  1. 母子世帯と父子世帯の間に存在する租税負担能力の違いや生活関係の差異等について
  2. 顕在的担税力減殺要因と構造的担税力減殺要因から寡婦控除に所得制限を設けていないと説明していることに対する反論
  3. 昭和60年大法廷判決は比較対象(給与所得者と事業所得者)の異質性により垂直的公平の観点で判断された例であること
  4. 「本件規定はそもそも婚姻及び家族に関する事項について定めた規定ではなく,憲法24条2項適合性の判断の対象となる規定ではない」との主張に対する反論
  5. 昭和56年度の税制改正寡夫控除の創設)は昭和26年度の税制改正寡婦控除の創設)を前提としているので,複合した制度による区別であっても,昭和56年度の税制改正の目的審査と手段審査で判断すべきである旨の主張に対する反論
  6. 本件同様の事案に係る裁判例においても昭和60年大法廷判決の判断枠組みが妥当とされていることに対する反論
  7. 被控訴人が令和3年8月3日付け求釈明申立書に対して何も回答しないことについて

 

 

第1 主張の補充

1.課税所得の金額という比較基準が介在しない場合,男女で課税額に差があるのは憲法14条1項に違反すること

吉村典久氏の租税平等主義(憲法14条)によると「男だけに課税し,女には課税しない制度があるとすれば,男女は平等であるにもかかわらず,取扱いの差が生じているからその制度は憲法14条1項の平等原則に反するという答えは直ちに出すことができるであろう。(水平的平等)」(乙20号18ページないし19ページ)とのことである。

本件区別である基準超過層の母子世帯の母親と父子世帯の父親の比較には,課税所得の金額という比較基準(顕在的担税力減殺要因)は排除でき,就業状況などの構造的担税力減殺要因も排除できるので,性別の違いのみで取扱いの差が生じていることは明らかであり,本件区別は憲法14条1項に反するというべきである。

2.昭和60年大法廷判決では本件区別の違憲性を判断できないこと

まず平等原則は「等しきものは等しく,等しからざるものはその特徴に応じて等しからざるように取り扱うこと」である。この平等原則に違反するか否かの判断は,次の順序に従って行われる。(乙20号12ページないし13ページ)

①比較対象の選定

②同等性(等しきこと)または異質性(等しからざること)の確認

ここで同等性が確認された場合は③~⑤,異質性が確認された場合は⑥~⑧を行う

③それぞれの取扱いの相違を確認

④取扱いの優劣の判定

⑤水平的平等違反の取扱いを判断

⑥それぞれの取扱いの同一性または比較対象の特徴に応じない相違を確認

⑦比較対象の中でどれが比較対象の特徴に応じた取扱いであるか,それ以外の他の取扱いが比較対象の特徴に応じない間違った取扱いであるかの確認

⑧間違った取扱いを垂直的平等違反と判断

 

昭和60年大法廷判決では,給与所得所と事業所得者が異なる扱いであるのは,比較対象に異質性が認められるからであり,その特徴に応じた取扱いとなっているかについては専門技術的な判断が必要となることから,著しく不合理でなければ憲法14条1項に違反しないとしている。すなわち,昭和60年大法廷判決は等しからざるものはその特徴に応じて等しからざるように取り扱うことという垂直的平等原則に違反していないかを判断したものである。

仮に比較対象の同等性・異質性の確認をせずに,つまり前述の判断過程の②から⑤までを行わず⑥から実施した場合,等しきものに対して等しく扱わなくても著しく不合理といえない限り平等原則違反と判断されることがないことになる。例えば人種によって取扱いが異なれば間違いなく水平的平等原則に違反するが,白人に対して白人の事情を考慮して課税を優遇する制度,黒人に対して黒人の事情を考慮して課税を優遇する制度があったとすれば,その優遇度合に優劣があったとしても,それぞれの制度の立法目的が正当で取扱いが著しく不合理でないのであれば,平等原則に違反しないと判断されることになるので,同等性か異質性の確認は欠くことを許されない。

昭和60年大法廷判決は,前提として適用される範囲を「租税法の分野における所得の性質の違い等を理由とする取扱いの区別は」としているが,これは「租税法の分野において異質性が認められる取扱いの区別は」と解釈するのが相当である。ここでいう異質性の判定は「特徴に,税法上異なる取扱いをすることが合理的というべき有意な差異が存在するかを確認すること」であり,有意な差異がなければ同等性を認めるべきである。

そうすると,昭和60年大法廷判決を判断の枠組みを採用する場合は,まず,比較対象を選定し,同等性もしくは異質性の確認を行った上で,異質性が確認された場合に採用されることになり,もし同等性が確認された場合に取扱いの相違があるのは水平的平等違反で不合理であるから,昭和60年大法廷判決を判断の枠組みに採用することができないというべきである。

3.本件区別の憲法適合性判断

以上を踏まえた上で,本件区別の憲法適合性を前述した順序で判断すると,

①比較対象の選定について

比較対象は,所得が基準超過層の母子世帯の母親と父子世帯の父親である。

②同等性または異質性の確認について

統計上,性別以外に収入差のような顕在的担税力減殺要因も就業状況のような構造的担税力減殺要因も存在しないため,比較対象には同等性が認められる。

③取り扱いの相違の確認について

基準超過層の母子世帯の母親は寡婦控除が適用されて課税額が優遇される。一方基準超過層の父子世帯の父親は同等の控除が適用されない。

同等性が認められる比較対象に対して取扱いが異なるのは水平的平等原則違反である。

④取扱いの優劣の判定について

母子世帯の母親に対して所得制限がないのは,寡婦控除が通常よりも特別な出費が多いということと考えられることから創設された制度であり,所得の多少にかかわらず,出費が多くなることに配慮しているからである。一方父子世帯の父親に対しても出費が多くなることから寡夫控除は創設されたが,当時の財政状況から所得制限が設けられている。このような立法趣旨を踏まえると,所得制限を設けないことが原則であり,所得制限は例外と考えられる。この観点から,水平的平等原則に違反するのは基準超過層の父子世帯の父親に寡夫控除を適用しないことというべきである。

もっとも,将来の制度を検討したときに,寡婦控除と寡夫控除の両方に担税力の減殺を調整する必要が乏しいことを理由として所得制限を設けることが不当であるとはいえない。そうなると本件区別の取扱いの相違は,どちらも不当であるといえず,どちらがあるべき形か正解はない。

その場合,将来の是正は立法府が行うべきものであるとしても,司法救済としては男女差のある労災での障害等級の是正に明確な形がない場合に男性の等級を女性と同じに引き上げる形で司法救済した裁判例(平成20年(行ウ)第39号 平成22年5月27日京都地裁判決)を踏まえると,基準超過層の父子世帯の父親にも寡夫控除を認めるのが相当というべきである。

 

第2 被控訴人の主張に対する反論

1.母子世帯と父子世帯の間に存在する租税負担能力の違いや生活関係の差異等について(控訴答弁書6ページ)

被控訴人のいう差異は統計上所得が基準以下のひとり親の特徴であって,基準超過層では同等である(平均収入は母子世帯の母親のほうが高い)。被控訴人は,同等性か異質性を確認する比較対象の選定を明らかに間違っている。

2.顕在的担税力減殺要因と構造的担税力減殺要因から寡婦控除に所得制限を設けていないと説明していること(控訴答弁書7ページ)に対する反論

乙19号は2011年3月に発表されたものであり,その当時基準超過層のひとり親世帯の状況を明らかにした統計分析は存在しない。

近年,基準超過層の母子世帯の母親の平均所得は父子世帯の父親より高いことや,基準超過層では勤続年数などの就業状況に男女差がないことなどが統計上明らかになっており,乙19号の考察は基準超過層のひとり親の実態を踏まえたものではない。

3.昭和60年大法廷判決は比較対象(給与所得者と事業所得者)の異質性により垂直的公平の観点で判断された例であること

被控訴人は昭和60年大法廷判決が水平的公平負担原則について判断している事案であり控訴人の主張は失当である旨主張する(控訴答弁書11ページないし12ページ)。

しかし,昭和60年大法廷判決は,水平的平等に反するとして提起されてはいるが,給与所得者と事業所得者との比較において異質性が認められるため,その違いに相応した取扱いになっているかを判断したもの,すなわち垂直的公平負担原則の観点からの判断されたものである。

なお原告が水平的公平に違反すると主張したのは,「給与所得者である原告の大島正氏が事業取得者を比較対象として選んだのも,給与所得者と事業所得者は所得税の課税において同じ状況にあるにもかかわらず,給与所得者が等しからざるように(不利益に)扱われているという価値判断(水平的不公平)が先行していたから」(乙20 15ページ10行目)にすぎない。

4.「本件規定はそもそも婚姻及び家族に関する事項について定めた規定ではなく,憲法24条2項適合性の判断の対象となる規定ではない」との主張(控訴答弁書12ページないし13ページ)に対する反論

被控訴人は,寡婦寡夫控除の規定によって,離婚に関して父母間で何らかの権利利益が発生することはなく,監護費用(養育費)にも影響を与えることがない旨主張する。

しかし離婚後に母親が親権(監護権)を得たほうが税制面で有利となる規定により,例えば離婚調停の場で調停員が税制の規定から母親親権を誘導することが一切ないと否定することはできない。離婚後の家計事情は離婚する夫婦にとって最重要課題のひとつであって,より有利になるよう検討するのは当然である。

また憲法24条2項の要請,指針である「法律は,個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚すべき」は不変の価値観であって,租税法が個人の尊厳や両性の本質的平等に立脚しなくてもよいということにはならないし,租税法と憲法14条1項の関係においても立法裁量の範囲を示すものである。

5.昭和56年度の税制改正寡夫控除の創設)は昭和26年度の税制改正寡婦控除の創設)を前提としているので,複合した制度による区別であっても,昭和56年度の税制改正の目的審査と手段審査で判断すべきである旨の主張(控訴答弁書13ページないし14ページ)に対する反論

寡夫控除の創設にあたって昭和26年の税制改正を前提としているというが,前提にしているというだけで異質性が認められることはなく,また両性の本質的平等に立脚しているということができない。寡夫控除は「寡婦に与えられている措置を必要な範囲で寡夫にも及ぼす」ことから必要な範囲を基準以下の父子世帯の父親にしたが,必要な範囲を定めるにあたり,両性の本質的平等の観点ではなく,基準以下の父子世帯の父親に比べて高所得者にまで担税力の減殺を調整する必要性が乏しいとして所得制限が設けられている。ここから目的審査や手段審査をするだけでは男女平等の観点に欠けるのが明らかであり,昭和56年の税制改正の目的審査や手段審査だけでは,本件区別の憲法適合性を判断することはできない。

このように複合制度による差別は,比較対象の同等性か異質性かの確認が必要であり,前提にしているからといっても後発の制度の審査だけで判断できないのは明らかである。

6.本件同様の事案に係る裁判例においても昭和60年大法廷判決の判断枠組みが妥当とされていること(控訴答弁書14ページないし15ページ)に対する反論

平成7年最高裁第二小法廷判決では,比較対象が死別後に生計を一つにする子がおらず所得が基準以下である女性と男性である。この比較対象には平均収入などの顕在的担税力減殺要因や就業状況などの構造的担税力減殺要因が介在し,異質性が認められる。そのため,垂直的平等の観点から昭和60年大法廷判決の枠組みで判断するのは妥当である。しかし比較対象に異質性が認められない本件区別を昭和60年大法廷判決の枠組みで判断するのは妥当ではない。

7.被控訴人が令和3年8月3日付け求釈明申立書に対して何も回答しないこと(控訴答弁書16ページ)について

同等性と異質性を確認するうえで,本件比較対象は顕在的担税力減殺要因からも構造的担税力減殺要因からも同等性が明らかであり,その他に被控訴人が主張する差異は「基準超過層における母子世帯と父子世帯の構成比率の違い」である。これが,税法上,異なる取扱いをすることが合理的というべき有意な差異かどうかを判定するには,この差異と徴税確保主義との関係を明らかにする必要がある。ところが,被控訴人は徴収効率の高低の定義が明らかでないとか,様々な要素を考慮する必要があるとして回答していない。

国(被控訴人)は専門家なのであるから,徴収効率の高低を定義付け,関連する要素を的確に示して構成比率と徴収効率の関係を説明すればよいのだが,それもせず回答しないということは,構成比率と徴収効率の関係が明らかでないということに他ならない。したがって構成比率の違いからは異質性を認められないというべきである。

 

以上