フレンチトースト訴訟

父ちゃん大法廷に立つ(計画)



対所得税東京地裁判決文

令和3年5月27日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

令和元年(行ウ)第236号 更正処分取消等請求事件

口頭弁論終結日 令和3年1月14日

 

   原告 Sakurahappy

   被告 国

   処分行政庁 川崎北税務署長

   指定代理人 別紙1指定代理人目録のとおり

 

 主文

 

1 原告の請求をいずれも棄却する。

 

2 訴訟費用は原告の負担とする。

 

事実及び理由

 

第1 請求

 

1 川崎北税務署長が平成30年3月27日付けで原告に対してした次の各処分をいずれも取り消す。

(1) 平成24年分の所得税に係る更正処分のうち、納付すべき税額マイナス5万4000円を超える部分及び同更正処分に伴う過少申告加算税の賦課決定処分

(2) 平成25年分の所得税及び復興特別所得税に係る更正処分のうち、納付すべき税額マイナス5万5103円を超える部分及び同更正処分に伴う過少申告加算税の賦課決定処分

(3) 平成26年分の所得税及び復興特別所得税に係る更正処分のうち、納付すべき税額マイナス5万5121円を超える部分及び同更正処分に伴う過少申告加算税の賦課決定処分

(4) 平成27年分の所得税及び復興特別所得税に係る更正の請求に対する更正すべき理由がない旨の通知処分

2 川崎北税務署長が平成30年4月25日付けで原告に対してした平成28年分及び平成29年分の所得税及び復興特別所得税に係る各更正の請求に対する更正すべき理由がない旨の各通知処分を取り消す。

 

第2 事案の概要

 父子世帯の父親である原告は,自身が所得税法(今和2年法律第8号による改正前のもの。以下同じ)2条1項31号(以下「本件規定」という。)の「募夫」に該当することを前提に,同法81条に定める募夫控除を適用し,平成24年分,平成25年分及び平成26年分の所得税等の各確定申告をしたところ,川崎北税務署長(処分行政庁)から,いずれの年分についても,合計所得金額500万円以下という同条の所得要件(以下「本件所得要件」という。)を満たさないから、募夫控除の適用は認められないとして,各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及びこれらに伴う過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各更正処分と併せて「本件各更正処分等」という。)を受けた。また,原告は、寡夫控除を適用せずに行った平成27年分,平成28年分及び平成29年分の所得税等の各確定申告について、募夫控除を適用すべきであるとしてそれぞれ更正の請求をしたところ、川崎北税務署長から、更正すべき理由がない旨の各通知処分(以下「本件各通知処分」といい、本件各更正処分等と併せて「本件各処分」という。)を受けた。

 本件は、原告が、被告を相手に、本件規定が所得税法2条1項30号イの「寡婦」にはない本件所得要件を設けていることが性別による差別として憲法14条1項に違反しており、本件規定のうち本件所得要件に係る部分は無効であるから、本件所得要件を満たさない原告にも募夫控除を適用すべきであると主張して、本件各更正処分のうち申告額を超える部分及び本件各賦課決定処分並びに本件各通知処分の取消しを求める事案である。

1 関係法令の定め

(1) 本件に関係する所得税法及び所得税法施行令(平成29年政令第105号による改正前のもの。以下同じ)の定めは別紙2-1及び2-2記載のとおりである。

(2) 所得税法における募婦(寡夫)控除の概要

 所得税法2条1項30号は、事婦控除の対象となる「寡婦」について,①夫と死別若しくは離婚した後婚姻をしていない者又は夫の生死の明らかでない者で政令で定めるもののうち,扶養親族その他その者と生計を一にする親族で政令(所得税法施行令11条2項)で定めるもの(その者と生計を一にする子で,他の者の控除対象配偶者又は扶養親族とされておらず,その年分の総所得金額等の合計額が基礎控除の額以下のもの。以下,単に「生計を一にする子」という。)を有するもの(同号イ。以下「30号イの寡婦」又は「扶養親族のある寡婦」という。),②夫と死別した後婚姻をしていない者又は夫の生死の明らかでない者で政令で定めるもののうち、合計所得金額(純損失の繰越控除等を適用しないで計算した場合における総所得金額等の合計額)が500万円以下であるもの(同号口。以下「30号ロの寡婦」又は「扶養親族のない死別寡婦」という。)と定義している(なお,以下,同号の表記については、所得税法2条1項の記載を省略する場合がある。)。

 また、所得税法2条1項31号(本件規定)は,募夫控除の対象となる「寡夫」の定義について、妻と死別若しくは離婚した後婚姻をしていない者又は妻の生死の明らかでない者で政令で定めるもののうち、その者と生計を一にする親族で政令(所得税法施行令11条の2第2項)で定めるもの(生計を一にする子)を有し、かつ、合計所得金額が500万円以下であるもの(以下,同号の募夫を単に「寡夫」ということがある。)と定義している。

 募婦控除又は寡夫控除が適用されると,寡婦又は寡夫に当たる者のその年分の総所得金額等から27万円が控除される(所得税法81条。以下,寡婦控除と寡夫控除を併せて「寡婦等控除」ということがある。)。

 

2 前提事実(争いのない事実,顕著な事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

(1) 原告の身分関係等

 原告は,平成24年から平成29年まで(以下「本件各年」という。)において、給与所得者であり、本件各年分の合計所得金額(以下,単に「所得」ということがある。)はいずれも500万円を超えている。具体的には,原告の総所得金額(給与所得の金額)は,平成24年分が-----円,平成25年分が-----円,平成26年分が-----円,平成27年分が-----円,平成28年分が-----円,平成29年分が-----円である。(甲1,4~6,72~4)

 原告は,妻と離婚した平成23年9月30日以降,本件各年を通じて,婚姻しておらず、3人の子の親権者としてこれらの子らと生計を一にしていた。なお,これらの子らに係る本件各年分の総所得金額等の合計額は,いずれも基礎控除の額(38万円)以下であった。(甲1)

(2) 原告の確定申告等

 原告は,平成29年12月28日,平成24年分から平成26年分までの所得税及び復興特別所得税の確定申告書(平成24年分は所得税のみ。以下,同税と復興特別所得税を併せて「所得税等」という。)について,寡夫控除の金額を27万円と記載して川崎北税務署長に提出した。他方,原告は,同日に提出した平成27年分の所得税等の確定申告書については、募夫控除の金額を記載せず,同日,寡夫控除を適用すべきことを理由とする更正の請求をした。また,原告は,平成30年3月16日に提出した平成28年分の所得税等の確定申告書及び同月15日に提出した平成29年分の所得税等の確定申告書についても,寡夫控除の金額を記載せず,同月16日,寡夫控除を適用すべきことを理由とする更正の請求をした(以下,平成27年分の所得税等に係る更正の請求と併せて,「本件各更正請求」という。)。

(3) 本件各処分

 川崎北税務署長は,原告の平成24年分から平成26年分までの所得税等に係る調査を実施したところ、いずれの年分についても合計所得金額が500万円以下ではなかったことから,原告は本件所得要件を満たさないため本件規定に定める募夫に該当せず、寡夫控除は認められないとして,平成30年3月27日付けで、本件各更正処分等(その内容は,それぞれ,別表1~3の「更正処分等」欄のとおり。以下、個別の更正処分を表す場合には「平成24年更正処分」などという。)をした。

 川崎北税務署長は、本件各更正請求に係る調査を実施したところ,原告の平成27年分から平成29年分までにおける合計所得金額がいずれも500万円以下ではなかったことから,原告は寡夫に該当せず、本件各更正請求には更正をすべき理由がないとして,平成27年分については平成30年3月27日付けで,平成28年分及び平成29年分についてはいずれも平成30年4月25日付けで、本件各通知処分をした(甲7~9)。

(4) 本件訴えの提起等

 原告は,平成30年5月24日、国税不服審判所長に対し,本件各処分の取消しを求めて審査請求をしたところ,同所長は、同年11月13日付けで,原告の審査請求を棄却する旨の裁決をした(甲1)。

 原告は,令和元年5月8日,本件訴えを提起した(顕著な事実)。

(5) 別件訴訟

 原告は,平成29年9月28日、川崎市を相手に、平成28年度の市民税及び県民税に係る特別徴収税額の決定につき取消しを求める訴訟(以下「別件訴訟」という。)を横浜地方裁判所に提起し,募夫控除につき子を有する寡婦にはない所得要件を設けている地方税法の規定(以下「地方税法における寡夫控除の規定」という。)が憲法14条1項に違反する旨主張した。これに対し,同裁判所は,平成30年7月11日に請求棄却の判決をし、同判決は,令和元年10月9日の控訴棄却の判決及び令和2年10月12日の上告棄却の判決(最高裁令和2年(行ツ)第56号同年10月12日第一小法廷判決。以下「最高裁令和2年判決」という。)を経て確定した。(乙11,12, 18)

3 税額等に関する当事者の主張

 本件各処分における課税の計算に係る被告の主張は別紙3のとおりであり,原告は,後記4の争点に関する部分を除き、その計算の基礎となる金額及び計算方法を明らかに争わない。

4 争点

(1) 本件各更正処分及び本件各通知処分の適法性(具体的には,所得税法2条1項31号〔本件規定〕のうち,30号イの募婦にはない本件所得要件を募夫について定める部分〔以下,この両者の所得要件の差異を「本件区別」ということがある。〕が,憲法14条1項に違反し無効であるか)

(2) 本件各賦課決定処分の適法性(具体的には、国税通則法平成26年法律第10号による改正前のもの。以下同じ) 65条4項の「正当な理由」の有無)

5 当事者の主張

 争点に関する当事者の主張の要旨は,別紙4のとおりである。なお、同別紙において使用した略語は本文でも用いる。

 

第3 当裁判所の判断

 当裁判所は、本件規定のうち本件所得要件を定める部分が憲法14条1項に違反し無効であるとは認められず、また,本件各更正処分に伴う過少申告加算税につき国税通則法65条4項の「正当な理由」も認められないから,本件各処分は適法であり,原告の請求はいずれも理由がなく棄却すべきものと判断する。その理由の詳細は以下のとおりである。

1 争点(1)(本件各更正処分及び本件各通知処分の適法性【本件規定のうち本件所得要件を定める部分が憲法14条1項に違反し無効であるか])について

(1) 判断枠組み

ア 憲法14条1項は、国民に対して絶対的な平等を保障したものではなく,合理的理由なくして差別することを禁止する趣旨であって、国民各自の事実上の差異に相応して法的取扱いを区別することは、その区別が合理性を有する限り、何ら上記規定に違反するものではないと解される。

 ところで,租税は、国家の財政需要を充足するという本来の機能に加え,所得の再分配、資源の適正配分,景気の調整等の諸機能をも有しており,国民の租税負担を定めるについて,財政・経済・社会政策等の国政全般からの総合的な政策判断を必要とするばかりでなく、課税要件等を定めるについて、極めて専門技術的な判断を必要とするから、租税法の定立については,国家財政,社会経済,国民所得、国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的,技術的な判断に委ねるほかはなく、裁判所は、基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ないものというべきである。そうすると、租税法の分野における所得の性質の違い等を理由とする取扱いの区別は、その立法目的が正当なものであり,かつ,当該立法において具体的に採用された区別の態様が上記目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り、その合理性を否定することができず、憲法14条1項の規定に違反するものということはできない(最高裁昭和60年判決参照)。

 上記の理は、本件のような所得税法における所得控除の対象となる者について,その属性の違いを理由とする取扱いの区別をする場合についても当てはまるものというべきである。

イ この点,原告は,本件区別は性別に基づく差別であるから,本件規定のうち本件所得要件を定める部分の憲法適合性については,厳格な基準によって審査するべきであると主張する。

 しかしながら、性別も所得控除の対象となる者に係る属性の一つであって、その生活や所得に影響を及ぼすこととなる要素の一つであることは否定できないのであるから,本件区別が性別によって租税法上の扱いを区分するものであるという一事をもって、租税法の定立に関する政策的,技術的な判断の必要がなくなるわけではなく、立法府の裁量的判断を尊重すべきことは性別以外の属性の違いを理由とする取扱いの区別の場合と異なるものではないというべきである。したがって,本件区別についても,上記アの判断枠組みに基づいて判断することが相当であり,原告の上記主張は採用することができない(このことは、別件訴訟〔前提事実(5)]の最高裁令和2年判決において、地方税法における募夫控除の規定が憲法14条1項に違反するか否かを判断するに当たり、最高裁昭和60年判決を引用していることからも明らかである。)。

(2) 所得税法における寡婦等控除に係る規定の立法経緯等

ア 寡婦控除の制度は,もともと、夫と死別又は離婚した後再婚していない者に1名以上の扶養親族(係累)がある場合について、職業選択に制限があり,所得を得るために特別の労力や支出を要するとして,そうした募婦のみを対象に,昭和26年税制改正により設けられたものであり,創設の当初においては所得要件は定められていなかった。なお,当初は所得控除ではなく税額控除が定められていたものであり、所得控除は昭和42年税制改正により導入されたが,その導入当初の控除額は7万円であり,その後の数次の改正により控除額が引き上げられていった。(乙5.6.30号イの寡婦に相当。)その後,昭和47年税制改正により,夫と死別した後再婚していない者で扶養親族がいないもの(扶養親族のない死別寡婦)についても、夫の家族との関係が続くなど各種の負担を要するとして寡婦控除の対象に加えられる一方、夫の遺産など所得が相当ある場合にまでこの負担を考慮する必要はないとして、所得要件(当初は150万円以下と定められていたが,この金額はその後の数次の改正により引き上げられていった。)が設定された(甲2,25, 6.30号口の寡婦に相当。)。

イ さらに、昭和56年税制改正により,父子家庭のための措置として新たに寡夫控除の制度が創設された。これは、当時の社会情勢の変化に対応し,財源面での制約も考慮しつつ,寡婦に認められている措置を、税負担の調整のため必要な範囲で男性にも及ぼすという観点から行われたものであった(乙5)。そして,寡夫控除の創設時において、夫の場合は、扶養親族のある寡婦と異なり,既に職業を有していて妻と死別又は離婚した場合も引き続きその職業を継続するのが通常であって、高額の収入を得ている者も相当割合に上ると考えられたことから、扶養親族のない死別寡婦に対する募婦控除の場合と同様の所得要件が付されることとなった(乙6)。

 また,寡夫については、妻と死別又は離婚した場合に,職業選択に制限を受けたり、所得を得るために特別の出費を要するのは、主に扶養が必要な子があるときであり、扶養親族が父母等の大人だけである場合には、職業選択の制限や特別の出費の必要は考え難いことなどから,寡婦と異なり,生計を一にする子がある場合に限って所得控除の対象とすることとされた(乙6)。

ウ 平成元年税制改正により、租税特別措置として、扶養親族のある募婦(30号イの募婦)のうち、30号ロに定める所得要件(当時は300万円以下。この金額は、平成2年税制改正により500万円以下に引き上げられた。)を満たす者については,控除額が27万円から35万円に引き上げられた(乙5)。

エ 以上の寡婦等控除の制度については,令和2年税制改正において抜本的な見直しが行われた。その概要は,従前は寡婦等控除の対象外であった婚姻歴のないひとり親についても所得控除の対象とし,婚姻歴の有無や性別にかかわらず、生計を一にする子があり,本件所得要件を満たす単身者について,同一の所得控除(ひとり親控除。控除額は35万円)を適用する一方,寡婦控除は従前の30号ロの類型(扶養親族のない死別寡婦)のみとすることとしたものである。これによって、ひとり親控除の対象となる,従前の30号イの寡婦(扶養親族のある寡婦)についても,寡夫や婚姻歴のないひとり親と同様、一律に500万円以下という所得要件(本件所得要件)が定められることとなった。

 これは、子どもの貧困に対応するため,婚姻歴のないひとり親についても税制上の対応が必要とされていたことや、男女によって税制上の扱いが異なるのは不公平であり,女性にも男性同様の所得要件を設けるべきことなどの意見があったことを踏まえ,婚姻歴の有無による不公平と,男性のひとり親と女性のひとり親との不公平を同時に解消し,全てのひとり親に対する公平な税制を実現する観点から行われたものである。なお,立法時における検討の基礎とされた資料によれば、ひとり親家庭(有業者)の平均年収について、所得500万円(年収678万円程度)を超えるひとり親家庭(基準超過層のひとり親家庭)においては,母子世帯の方が父子世帯よりも平均年収が高いことが指摘されていた。(以上につき、乙14,15)

(3) 母子世帯及び父子世帯に係る統計等

ア 厚生労働省は、平成29年12月に公表した「平成28年度全国ひとり親世帯等調査」において,母子世帯及び父子世帯における収入等の状況につき、以下のとおり公表した(乙10の1~3)。

 なお,この調査は、全国の母子世帯及び父子世帯の実態を把握すること等を目的としておおむね5年ごとに実施されているものであって、同調査における「母子世帯」とは、父のいない児童(満20歳未満の子どもであって、未婚のもの。以下同じ)がその母によって養育されている世帯であり、「父子世帯」とは、母のいない児童がその父によって養育されている世帯である。

(ア) 年間収入

a 親の平均年間収入

 年間平均収入は、母子世帯の母親については,平成22年は223万円,平成27年は243万円であるのに対し、父子世帯の父親については,平成22年は380万円,平成27年は420万円である。

b 親の平均年間就労収入

 平均年間就労収入は、母子世帯の母親については,平成22年は181万円,平成27年は200万円であるのに対し,父子世帯の父親については,平成22年は360万円,平成27年は398万円である。

c 親の年間就労収入の構成割合

 母子世帯の母親についての年間就労収入の構成割合は,100万円未満が平成28年で22.3%(平成23年は28.6%)であり,100万円以上200万円未満が平成28年で35.8%(平成23年は35.4%)であり,200万円以上300万円未満が平成28年で21.9%(平成23年は20.5%),300万円以上400万円未満が平成28年で10.7%(平成23年は8.7%)であり、400万円以上が9.2%(平成23年は6.8%)である。

 一方、父子世帯の父親についての年間就労収入の構成割合は、100万円未満が平成28年で8.2%(平成23年は9.5%)であり,100万円以上200万円未満が平成28年で11.7%(平成23年は12.6%)であり,200万円以上300万円未満が平成28年で15.3%(平成23年は21.5%),300万円以上400万円未満が平成28年で24.9%(平成23年は18.8%)であり,400万円以上が39.9%(平成23年は37.7%)である。

(イ) 就業率

a 親の就業状況

 就業率は、母子世帯の母親の場合,平成23年は80.6%,平成28年は81.8%であるのに対し,父子世帯の父親の場合,平成23年は91.3%,平成28年は85.4%である。

b 正規の職員・従業員の割合

 上記a のうち,正規の職員・従業員の割合は,母子世帯の母親の場合,平成23年は39.4%,平成28年は44.2%であるのに対し,父子世帯の父親の場合,平成23年は67.2%,平成28年は68.2%である。

c パート・アルバイト等の割合

 上記a のうちパート・アルバイト等の割合は,母子世帯の母親の場合,平成23年は47.4%,平成28年は43.8%であるのに対し,父子世帯の父親の場合,平成23年は8.0%,平成28年は6.4%である。

(ウ) 住居の保有状況

a 持ち家に居住している世帯

 持ち家に居住している世帯の割合は,母子世帯の場合,平成23年は29.8%,平成28年は35.0%であるのに対し,父子世帯の場合,平成23年は66.8%,平成28年は68.1%である。

b 本人名義の持ち家に居住している世帯

 上記 a のうち,本人名義の持ち家に居住している世帯の割合は,母子世帯の場合,平成23年は11.2%,平成28年は15.2%であるのに対し,父子世帯の場合,平成23年は40.3%,平成28年は49.4%である。

(エ) 母子世帯の預貯金額は、50万円未満が平成28年で39.7%(平成23年は47.7%)と最も多い(なお,厚生労働省の前記調査においては,父子世帯の預貯金額は公表されていない。)。

(オ) 養育費

 母子世帯の母親の養育費受給状況については、「現在も養育費を受けている」が平成28年で24.3%(平成23年は19.7%)である。母子世帯の母親が、相手と養育費の取り決めをしていない理由は,平成28年において、「相手に支払う意思・能力がないと思った」が合計38.6%, 「相手と関わりたくない」が31.4%, 「自分の収入等で経済的に問題がない」は2.8%である。

 父子世帯の父親の養育費受給状況については、「現在も養育費を受けている」が平成28年で3.2%(平成23年は4.1%)である。父子世帯の父親が,相手と養育費の取り決めをしていない理由は、平成28年において,「相手に支払う意思・能力がないと思った」が合計31.9%, 「相手と関わりたくない」が20.5%, 「自分の収入等で経済的に問題がない」は17.5%である。

イ 平成29年度就業構造基本調査(甲17,20)によれば,同年度における母子世帯の総数62万3200世帯のうち収入700万円以上(所得500万円以上にほぼ相当する。以下同じ)を有するのは1万1500世帯(約1.85%)であるのに対し,父子世帯の総数6万4900世帯のうち、収入700万円以上を有するのは1万3300世帯(約20.49%)である。また,就業構造基本調査の集計結果(甲3)によれば、おおむね,収入700万円以上の母子世帯は,平成19年が8100世帯(約1.37%),平成24年が7900世帯(約1.19%)であるのに対し,収入700万円以上の父子世帯は,平成19年が150100世帯(約14.49%),平成24年が1万3500世帯(約15.85%)である。

 また,就業構造基本調査等によれば,平成29年の母子世帯の母親の年間収入額は243万円,父子世帯の父親のそれは420万円であるところ,これを収入700万円以下のものとそれ以外のものに分けてみると,前者においては、母子世帯の母親の平均年収は221万円,父子世帯の父親の平均年収は376万円であるのに対し,後者においては,母子世帯の母親の平均年収は1147万円,父子世帯の父親の平均年収は914万円である(甲3,21~23)。

(4) 本件区別に係る立法目的の正当性について

ア 前記(2)の立法経緯等からすると,本件規定が募夫について30号イの募婦(扶養親族のある寡婦)にはない本件所得要件を設けることとした目的は、母子世帯の母親と父子世帯の父親との租税負担能力の差異等に鑑みて,財源面での制約を考慮しつつ、寡婦にのみ認められていた所得控除を必要な範囲で募夫にも及ぼすことにあったものと解されるから,その立法目的は正当なものである。

イ これに対し,原告は,本件規定が本件所得要件を設けた真の立法目的は、募夫控除の適用を制限して税収減を防止するというもっぱら財政上の理由であり,男女間の租税負担能力の差異等に鑑みたものではないから,正当な目的ではない旨主張する。

 しかしながら、前記(2)イのとおり、本件規定の立法経緯によれば、寡夫については妻と死別又は離婚した後も従前の職業を継続するのが通常であることや高額の収入を得ている者も相当割合に上ることなどを踏まえて本件所得要件が設けられたのであるから,母子世帯の母親と父子世帯の父親との間の租税負担能力の差異等に鑑みたものであることは明らかであり,原告の上記主張は採用することができない。

(5)本件区別の態様が立法目的との関連で著しく不合理であることが明らかといえるかについて

ア 本件区別の態様は、寡婦等控除につき、扶養親族のある寡婦については所得要件が設けられていないのに対し、募夫については所得(合計所得金額)が500万円以下であることという所得要件(本件所得要件)を設けたというものである。

イ そこで、母子世帯の母親と父子世帯の父親につき、それぞれの収入や就労等の状況について見ると、前記(3)のとおり,近年の統計においても,両者の間には、平均年間収入には大きな差があり,また,就業状況についても,母子世帯の母親の場合は4割以上がパート・アルバイト等のいわゆる非正規雇用であるのに対して,父子世帯の父親の場合は非正規雇用の割合が1割に満たないなど,収入及び就業状況の点において顕著な差異がある。このように,総体としてみれば、父子世帯の父親は、母子世帯の母親と比べて、高い租税負担能力を有しているものといえ,かかる状況は,本件各年においても,おおむね同様であったものと認めるのが合理的である(なお,原告は、父子世帯の父親と比べて母子世帯の母親の方が,養育費の支払を受けたり財産分与により資産を取得するなど有利な面があると主張するが,前記(3)アのとおり、母子世帯の養育費の受給水準は高いとはいえない上,住居建物の保有状況や預貯金残高を見ても、十分な資産を有する母子世帯の割合は限定的であることがうかがわれる。)。

ウ もっとも,基準超過層(所得500万円超)だけを見れば、近年では母子世帯の母親の方が父子世帯の父親よりも平均年収が高いとの統計があり,令和2年税制改正における寡婦等控除の制度の見直しに当たっても、近年のそうした統計が考慮されていることがうかがわれる(前記(2)工,(3)イ)。

 そこで,かかる観点も踏まえて,令和2年税制改正前の本件規定において募夫についてのみ本件所得要件を設定し基準超過層の募夫が所得控除(募夫控除)を受けられないとされていたことが著しく不合理であるか否かについて検討すると、そもそも,寡婦等控除の制度は、配偶者と死別又は離婚した後の職業選択に制限があり、あるいは所得を得るために特別の労力や支出を要することに配慮したものであるところ(前記(2)ア),財源面での制約を考慮しつつ寡婦にのみ認められていた所得控除を必要な範囲で募夫にも及ぼすという立法目的(前記(4)ア)に照らすと,募夫控除について所得要件を設けること自体は何ら不合理なものではない。他方,基準超過層における不均衡を是正するために扶養親族のある寡婦についても本件所得要件を設けるためには、その旨の立法的手当てをする必要があるところ、①ひとり親世帯における基準超過層の割合自体が少ないこと,②基準超過層の母子世帯の数は、同層の父子世帯の数を超えるものでないこと,母子世帯における基準超過層の割合は近年でも2%未満であり,父子世帯における基準超過層の割合(約20%)に比べて顕著な差があること,これらに加え,平均像としては依然として低所得者の多い母子世帯の母親について所得要件を設けることにつき国民の理解を得られるかという問題もあったことに照らすと,30号イの寡婦(扶養親族のある寡婦)のうち基準超過層にあるものについて,これを募婦控除の対象から除外する旨の立法的手当てを行わず、母子世帯と父子世帯の総体的な租税負担能力の差異等を重視した制度を維持することにも、相応の合理性があったということができる。こうした状況を踏まえると,基準超過層の母子世帯の母親に係る平均年収が父子世帯の父親のそれを上回ったとする近年の統計や、これを踏まえた令和2年税制改正によって扶養親族のある寡婦につき本件所得要件が設けられたことを考慮しても,同税制改正前の本件規定における本件区別の態様が立法目的との関連で著しく不合理であったということはできない。

エ 以上によれば,本件各年当時において,本件規定が募夫控除につき30号イの募婦にはない所得500万円以下という本件所得要件を設けていたことについて,著しく不合理であることが明らかであったということはできない。

オ 原告の主張について

(ア) 原告は,①租税負担能力の低い者への配慮等が立法目的であるならば、基準以下の層の母子世帯の母親と同層の父子世帯の父親との間の負担を調節する手段こそが立法目的と関連性のある手段であるところ,本件規定において本件所得要件を設けても、そのような調節はできない上、基準超過層では母子世帯の母親と父子世帯の父親との間に租税負担能力の大きな差異は存在しないことからすると,本件区別は性別に基づく差別にほかならない、②死別等によって特別の支出等が生じる者への配慮という観点からは、収入にかかわらず寡婦等控除の対象とすべきであり,基準超過層の母子世帯の母親につき所得要件を設けるという方法を採ることは相当ではない旨主張する。

 しかしながら、上記ウにおいて説示したとおり、前記(2)の募婦等控除の趣旨からすれば,十分な租税負担能力を有する者に所得控除を認める必要性は乏しいのであるから、寡夫控除に本件所得要件を設けることそのものは、まさに納税者の租税負担能力に着目しているのであり,それ自体が不合理であるとはいえないし、基準超過層における募と募夫の不均衡を是正するために扶養親族のある募婦に本件所得要件を課すことは十分に合理性を有する手段であるから,原告の上記主張は採用することができない。

(イ) また,原告は,平成元年税制改正により扶養親族のある募婦のうち本件所得要件を満たすものについて真婦控除の金額が35万円に引き上げられたこと(前記(2) ウ)を根拠に,本件区別は基準超過層の扶養親族のある募婦に係る少数不追及として是認し得るものではない旨主張する。

 しかしながら,上記改正は扶養親族のある募婦のうち相当割合を占める基準以下の層のものについて控除額を引き上げるというものであり,少数である基準超過層の扶養親族のある事について立法的な手当てをしたものではないから原告の主張はその前提を欠くものというほかない。

(6) 以上によれば、本件規定のうち,30号イの事にはない本件所得要件を寡夫について設けている部分が、憲法14条1項に違反し無効であるとはいえない。したがって,本件所得要件を満たしていない原告に募夫控除が適用されないことを前提としてされた本件各更正処分及び本件各通知処分はいずれも適法である。

2 争点(2)(本件各賦課決定処分の適法性具体的には、国税通則法65条4項の「正当な理由」の有無])について

上記1のとおり、本件各更正処分は適法であるところ,原告の主張によっても、本件各更正処分により原告が新たに納付することとなった税額の計算の基礎となった事実に関して、国税通則法65条4項の「正当な理由」に該当するような事由は認められない。

よって,本件各武課決定処分は適法である。

第4 結論

以上によれば,原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし、主文のとおり判決する。

 

  東京地方裁判所民事第51部

 

   裁判長裁判官 清水知恵子

         裁判官 横地大輔

         裁判官 定森俊昌