フレンチトースト訴訟

父ちゃん大法廷に立つ(計画)



控訴審 第3回口頭弁論

通常の口頭弁論は、形式だけで提出された書面や証拠の確認をして終わりになります。

 

が、今回は長かったです。

 

裁判長が、制度について総務省に確認しましたかとか、国税庁にも聞いてみてくださいとか、被控訴人にガイドしています。私には、近くの日比谷図書館に税経通信というのが置いてあるから調べてくださいとか。

 

なんかあったら出してくださいって・・・

 

ってことで、3ヶ月後に期日が入りました。

 

うう・・・

こっちは何も出すもんがないでござる。

 

高裁ってスピード結審するところだと思っていました。しかし

 

11月に、「調査期間をとるよ。調べてきてね。」

2月に「これしかないの?もっと調べてね。次は5月よ」

って

 

なんか

 

少し

 

 

になりました。

 

 

帰りに、裁判長のおっしゃってた日比谷図書館に行きました。そこで昭和50年代の税経通信とか探しました。

 

ですが

 

んな、古いもん、置いてません。

 

意気消沈です。

研究材料

ここにアップした書面ですが、たぶん読み込んでくれる人は5人もいないと思います。軽い文書じゃないですからね。

読んでくれる方、ありがとうございます。

 

おそらく、この裁判は、負けても研究材料になるようなものだと思います。もしかしたら教材になるかもしれません。

 

憲法訴訟という点もありますが、素人が裁判を通して国家権力と争うと、こんなことになるってのも、研究として面白いかもしれませんね。

 

 

2月13日の口頭弁論の様子については、明日、報告します。

 

控訴人準備書面(4)

建国記念日に打ち返した準備書面を公開します。

 

平成30年(行コ)第250号 課税処分取消請求控訴事件

控訴人  sakurahappy

被控訴人 川 崎 市

 

東京高等裁判所第9民事部A2係 御中

 

控訴人  準  備  書  面 (4)

 

平成31年2月11日

              

控訴人 sakurahappy         印

 

 控訴人は,当準備書面にて,被控訴人準備書面(3)の証拠と第3 被控訴人の主張のまとめに対する認否と反論をする。

 

目次

 第1 被控訴人準備書面(3)で提出された証拠について

 第2 「第3 被控訴人の主張のまとめ」についての認否と反論

 第3 憲法第14条1項の規定と被控訴人の区別理由について

 第4 まとめ

 

 

第1 被控訴人準備書面(3)で提出された証拠について

(1)証拠説明書によると乙8,乙11,乙14の立証趣旨は「寡夫控除に所得要件を設けた理由が寡夫寡婦の生活関係の差異等に起因すること。」となっているが,そのようなことは書かれていない。

(2)乙12の囲み線内には「寡夫に対する税制上の配慮としては,一律的に中低所得者に限ることが適当」という不可解な解説がされている。

 

第2 「第3 被控訴人の主張のまとめ」に対する認否と反論

1については,争う。

 

2については,全ての母子世帯の母親に認められている措置を,父子世帯の父親に及ぼすにあたっては,財政状況を考慮して範囲を制限したとする旨の主張は認め,その余は争う。

 

3については,「このような寡夫控除の所得制限は,寡婦控除との間に一定の差異をもたらすものではある」については認め,その余は争う。

 

4(6頁記載部分)については争う。

まず,寡夫控除創設に関し,国会審議でひとり親と親族等との同居率の差異について議論された記録はない。

次に,寡婦寡夫控除において専ら生活関係の議論となっているのは,夫と死別し扶養親族のいない中低所得の女性には寡婦控除が認められるが,離別した女性や,死別・離別の男性には認めていない点である。この点については,以下に引用した答弁がある。

 

【第68回国会 大蔵委員会 第25号 昭和47年5月10日より】

○高木(文)政府委員 

「(略)・・死別をして、その場合には大体奥さんがとつぎ先のほうで、とつぎ先の家の人として子供を育て、とつぎの先の親ごさんたちのめんどうを見、そうしてまたとつぎ先のほうの家を守っていくという環境に置かれているのが大部分だ。これは最近の社会情勢等からいいますと、必ずしもそうでない場合もあろうかと思いますけれども、しかし都会と農村でもまた事情が違うだろうと思いますけれども、確かに死別の場合と協議離婚等、生別の場合とではだいぶ事情が違って、死別の場合には婚家にそのまま残って、そのまま、いわば古いことばになるかもしれませんが、家を守るといいますか、先方のとつぎ先の家を守って、遺牌を守って、子供を守ってと、こういう環境にある。・・」

また乙7号証にも以下の答弁がある。

○関根政府委員「男性の場合には,一たん結婚をいたしまして,それが離婚して奥さんと別れてしまっても,子どもがなければもとの独身男性に返るだけのことですから,何もわざわざ寡夫控除を出すことはなかろう」

 

このように,扶養親族がいない場合,離別の女性や死別・離別の男性は独身に戻るだけだが,死別の女性は嫁ぎ先で家を守ることになるというような生活関係の差異が寡婦寡夫控除について議論されたが,母子世帯と父子世帯の生活関係の差異については議論されていない。

 

また,乙15号証では父子世帯のほうが親族等との同居率が高いことを示しているが,だからといって,寡夫控除に所得要件を設け,中低所得のひとり親は税負担を同額にし,高所得者は男性の税負担を重くする立法手段を採用したことと論理的な関連性がないため,理由とはならない。

更に,乙15号証で示されたデータは,ひとり親世帯全体での比較であり,高所得者が同じ傾向であるとは限らない。親族との同居率については,時代の影響や地域差が存在することや,全国レベルで所得階層別にひとり親の親族同居率を調査した統計が存在しないこともあり,高所得のひとり親の親族同居の実態は不明である。

ただ,葛西リサ氏が2009年に発表した研究論文「父子世帯の居住実態に関する基礎的研究」(甲33号証)には,滋賀県の統計をもとにした,ひとり親世帯の収入階級別の親族等との同居率の集計結果が記載されている。これによると,高所得の父子世帯は母子世帯より親族等との同居率が低くなっていることが認められる。

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これについて葛西氏は次のように考察している。

「年収400万円未満までは父子の同居の割合が母子のそれを上回っている。母子世帯ではいずれの年収階層においても同居の割合に大きな変化は見られないが、父子世帯では300万円以上400万円未満から400万円以上500万円未満の階層にかけて同居の割合は半減する。高額所得階層では、ベビーシッターなどの育児支援にかける金銭的余裕があるために、同居を選択しない世帯が増加するのではないかと考えられる。(原文ママ)」

とすると,中低所得の父子世帯では不得手な家事等の負担を親族等の同居によって解決していることが多いが,高所得の父子世帯では,金銭的な支出によって賄っていることが多いといえよう。となれば,高所得の父子世帯の租税負担能力は低下するというべきである。

また乙15号証では,死別の母子世帯が約7%であるのに対し、死別の父子世帯は約17%であることを示している。死別した場合は養育費の受取りもできないなど,生活関係の差異からは,高所得の父子世帯を高所得の母子世帯と比べて冷遇する理由はないというべきである。

4(7頁1段落目)については,争う。

 

まず,課税手続きの合理化や簡素化という点が寡夫控除創設当時に審議された記録はない。また,甲22号証から判明する収入700万円以上の母子世帯は11500世帯であり,これは甲19号証から判明する収入700万円以上父子世帯の13300世帯に匹敵する。ゆえに父子世帯13300世帯に所得要件を付け,母子世帯11500世帯に所得要件を付けないことが課税手続きの合理化や簡素化になるとはいえないし,そもそもこのような事情でもって差別を容認することは許されないというべきである。

 

第3 憲法第14条1項の規定と被控訴人の区別理由について

(1)憲法14条1項は,課税権の行使を含む国のすべての統治行動に及ぶものであるが,同規定は国民に対して絶対的な平等を保障したものではなく,合理的理由なくして差別をすることを禁止する趣旨であって,国民各自の事実上の差異に相応して法的取扱いを区別することは,その区別が合理性を有する限り,なんら同規定に違反するものではないというべきである。

(2)しかし,被控訴人の主張する区別理由は,性別による事実上の差異に相応したものではなく,財政上の理由や,課税手続き上の理由である。

(3)そもそも,財政面に考慮し,支出や収入減を伴う政策が必要最低限となるようにすることは,寡夫控除創設に限った特殊な事情ではなく,財政一般の恒久的な課題であり,立法裁量の範囲内で解決すべきである。

(4)また,他に公平で合理的かつ財政面を考慮した手段がなかったのかという観点からしても,高所得ひとり親の租税負担能力は男女で同等であることが判明している現在では採用は難しいが,寡夫控除創設当時は,母子世帯全体と父子世帯全体で平均的な租税負担能力の差異が認められていたのであるから,所得要件を設置して父子世帯の約8割に母子世帯と同額の控除を認めるという手段ではなく,垂直的公平負担の原則に則り,寡婦控除の控除額の約8割にあたる控除額を一律で控除するといった手段も採用可能だったはずである。他にも,財政状況が厳しいのであれば母子世帯にも所得要件を設置して公平性と税収を確保することは可能だったはずである。

(5)このように,他にとりえる公平で合理的な手段があるにもかかわらず,支えとなる立法事実もなしに租税公平原則に反した立法手段を用いたことは,恣意的であったといわざるをえない。

 

第4 まとめ

以上のとおり,父子世帯にのみ所得要件を設置した理由は,被控訴人が主張するとおり財政事情を考慮したものでしかなく,本件区別は,高所得母子世帯と高所得父子世帯の事実上の差異に相応した法的取扱いの区別ではないのだから,憲法14条1項の規定に違反した不合理な差別というべきである。

 

以上

被控訴人の準備書面に対して

前にも書きましたが、立法事実の調査が宿題なのに、「立法事実」という語句が見当たりません。

 

親族との同居率の相違があるという新しい主張も入ってきました。

 

反論をしたいのですが、土日が仕事で時間が取れません。

 

しかーし

月曜日が建国記念日でした。(前からわかってましたけどね。)

仕事はお休みです。ありがとうございます、神武天皇様。

 

朝から反論を作り始めて、夜には準備書面が完成しました。

 

反論を簡単に書くと、

 

「財政事情で最低限の措置にしたかったの」

→「そんなんで差別しちゃダメだ」

「父子世帯は親族が同居してることが多いの

→「所得が高いと逆転してます」

「高所得のシンママは少ないの」

→「世帯数は高所得父子世帯と同じくらいじゃ」

 

という感じでしょうか。

 

あと、合理的でエコノミーな別案もあることを書きました。

 

同居率は、もっと早い段階で主張してくるだろうなぁと想定していたので、反証できるように資料を用意していました。無駄にならなくてよかったです。

 

なんとか間に合わせて、建国記念日の夜に、準備書面をFAXで送信しました。でもちょっと雑だったかもしれないと少し反省です。推敲があまりできてなくて、後から読むとわかりにくい文章になってます。

 

反論の準備書面は明日、公開します。

被控訴人準備書面(3)

被控訴人から頂いた準備書面を公開します。第1第2は議事録などの転載なので省略します。

 

被控訴人  準  備  書  面 (3)

 

平成31年2月7日

              

第1 寡夫控除に所得制限を設けた理由

 1 国会での審議経過

省略

2 解説書の記載

省略

 

第2 寡夫控除の所得制限を前年の合計金額300万円超(平成2年地方税法改正後は500万円超)とした理由

省略

 

第3 被控訴人の主張のまとめ

1 以上のとおり,寡夫控除の所得要件は,寡夫寡婦との租税負担能力の違いや生活関係の差異等を考慮したものであり,「男性と女性の間に存在する租税負担能力の違いや生活関係の差異等を考慮したものと解されるから,寡夫につき,寡婦にはない所得要件を設けた立法目的は正当なものといえる。」とした原判決は正当である。

2 また,上記のとおり寡夫控除は,社会保障的観点から,寡婦において認められる措置を,必要な範囲で男性に及ぼそうとしたものということができる。そして,ここにいう「必要な範囲」とは,我が国における厳しい財政的影響を考慮しつつ,平均的なサラリーマンの寡夫について,当該措置を受けることができるようにすることであると解される。そして,平成22年における父子世帯の平均収入が380万円,その中央値が323万円とされていることからすれば(乙3),給与収入約700万円に相当する所得500万円までの父子世帯に寡夫控除を認めれば,上記の要請は十分に満たされるものと考えられ,それ以上の収入のある寡夫について,かかる措置を認める必要性は乏しいというべきである。

3 このような寡夫控除の所得制限は,寡婦控除との間に一定の差異をもたらすものではあるが,これは,寡夫控除についての措置を上記必要な範囲に限定した結果に伴うものにすぎず,かかる相違をもって,寡夫寡婦との間に不合理な差別があるということはできない。

4 また,既に述べたとおり,寡夫控除における所得制限(所得500万円)を超えた父子世帯と母子世帯においても,租税負担能力の違いあるいは生活関係の差異等が存在する。

 さらに,母子世帯は,父子世帯と比較して,親や兄弟姉妹との同居率が低く,そのために母子世帯においては,他の世帯構成員がいないために,寡婦となった母親がより多くの時間を育児等に要することとなる可能性が高いこと等の生活関係上の相違も存在する(乙15)。

 これら父子世帯と母子世帯の相違を前提とすれば,寡夫控除における所得制限を越えた母子世帯について,寡婦控除を適用することが不適切ということもできない。

 さらに,給与収入を前提とした場合に700万円以上の収入を得る母子世帯の割合が,甲22号証によって母子世帯全体の1.85パーセントと少数にとどまることから,課税手続の合理化あるいは簡素化の見地からしても,寡夫控除における所得制限を超えた所得のある母子世帯について,寡婦控除の適用を否定する理由は認められない。

 以上のとおり,寡夫控除については税制状況を考慮した上で必要な範囲の寡夫について適用されていることは明らかであって,寡夫控除における所得制限を超えた寡夫について同控除の適用をする必要性がないこと,これが寡婦との間での不合理な差別ということはできないこと等から,控訴人の主張に理由はなく,本件控訴は速やかに棄却されるべきである。

 

以上

諭吉様、一葉様、救出作戦

準備書面を見てもわかるように、今やっている地方税の訴訟が、完全に所得税法に波及してきました。弁論は控訴人も被控訴人も所得税法についてになってます。

 

となると、これからやろうとしている所得税法についての訴訟は、戦後処理でしかありません。

 

地方税の訴訟で負けたら、所得税法の訴訟で取り返すなんてのは完全にできなくなりました。

 

ということは、もう所得税法の戦いが始まっているということになります。

 

審査請求の手続きの際に、過少申告加算税として取り上げられた諭吉様と一葉様(15,000円のこと)の救出作戦が始まっているのです。

 

 

50過ぎたおじさんが、私利私欲のため、脇腹まわりのぜい肉をエネルギーに変えて、御二方をお助けいたします。

控訴人準備書面(3)

私の提出した準備書面を公開します。

 

立法目的に男女不平等を是正するというのを入れました。これでスッキリしたと思いますが、どうでしょう。

 

 

平成30年(行コ)第250号 課税処分取消請求控訴事件

控訴人  sakurahappy

被控訴人 川 崎 市

 

東京高等裁判所第9民事部A2係 御中

 

控訴人  準  備  書  面 (3)

 

平成31年2月6日

              

控訴人 sakurahappy         印

 

 控訴人は,当準備書面にて,本件に関する立法事実を整理し,立法目的及び立法手段について以下のとおりの主張をする。尚,立法事実の整理にあたっては,地方税法だけでなく所得税法上の寡婦控除と寡夫控除についての国会議事録も調査対象としている。

 

目次

 第1 寡婦寡夫控除制度の変遷について

 第2 寡夫控除創設の立法目的について

 第3 採用された立法手段について

 第4 まとめ

 

 

第1 寡婦寡夫控除制度の変遷について

 

まず寡婦寡夫控除制度の変遷について整理する。

(1)昭和26年 寡婦控除の創設

昭和26年度税制改正において,寡婦控除が創設され,65歳未満で扶養親族を有する女性(夫と死別し又は夫と離婚した後婚姻をしていない者,夫の生死の明らかでない者)の所得から1万5千円を控除する制度とされた。創設にあたっての経緯を示す当時の資料は残っていないが,昭和47年第68回国会大蔵委員会第25号の議事録に記録された大蔵省主税局長の発言から,寡婦が追加的費用を要することを考慮したものとなっていることが確認できる。

[昭和47年第68回国会大蔵委員会第25号議事録からの引用]

寡婦控除の制度は戦後昭和二十五、六年にスタートした制度でございますが、その当時戦争によって夫を失ったいわゆる戦争未亡人が、家に残された老人なり子供たちなりをかかえながら一家の大黒柱として所得を稼得していくという場合には、通常の場合に比べましてそれなりにいろいろと追加的費用を要するであろうという費用の点に着目をして設けられたという経緯でございます。」

(2)昭和47年 扶養親族要件の一部撤廃

 昭和47年には,寡婦控除の適用要件を一部緩和する見直しが行われた。具体的には,従来の「寡婦」は扶養親族を有する者に限定されていたが,夫と死別した者で扶養親族がなく(当初からない場合及び扶養親族等が成長,死亡等によりなくなった場合の双方を含む),合計所得金額が150万円以下のものについても寡婦控除が適用されることとなった。このように死別の場合に限って扶養親族要件が撤廃された理由については,死別の場合には,亡夫の家族との関係など各種の負担を要するものと考えられることや,子どもが成人すると扶養控除と寡婦控除の両方がなくなり貧窮することになる等の事情が考慮されたものであった。

(3)昭和56年 寡夫控除の創設

 昭和56年に,寡夫控除が創設された。昭和52年第80回国会大蔵委員会第13号の議事録(甲31号証)によると「民主国家、近代国家において男女は法のもとに平等だし、いずれにも平等に課さなければならない。ところがこの税法の中において、男女不平等なものがあるわけです。これがいままで一回も国会において論議をされない、あるいは不平等のまま放置されておる」という発言が記録され,女性にはある寡婦控除が男性にはないことが男女不平等となっていると認識されていた。そして「家庭内に女の人がいなくなると、お手伝いさんを雇ったりなにしたり大変な目に遭うし、大変な費用がかかっておるということは、私が言わぬでも、御想像だけでもおわかりだと思う。」というように,父子家庭でも追加費用を要することが認識されていた。そこで男女不平等となっている制度を是正し,父子世帯の税負担に配慮するという観点から一定の要件の下に寡婦控除に準じた制度が創設されることになった。新設された寡夫の税法上の定義は,妻と死別又は離婚した者で,扶養親族である子を有し,かつ合計所得金額が300万円以下のものとされた。

(4)平成元年 特別加算制度の創設

 平成元年には,租税特別措置法が改正され,寡婦控除の特例制度が創設された。夫と死別又は離婚し,扶養親族である子を有し,合計所得金額300万円以下である場合に,寡婦控除額を8万円(地方税では4万円)加算することとされた。この特別措置は,「夫と死別し又は離婚して女手一つで子を抱えながら家庭を支えている低所得の母子家庭に配慮し,その負担軽減を図る見地から」設けられたものである。

 

第2 寡夫控除創設の立法目的について

 

(1)寡夫控除創設の立法目的は,「父子世帯の租税負担を軽減し経済的に支援するとともに,租税公平主義の原則に従って男女不平等となっている制度を是正すること。」と解される。その立法目的を支える立法事実を整理し,以下に箇条書きにした。

  • 当時の寡婦控除の制度が男女不平等の制度であり,是正の必要性が認識されていたこと。
  • 税制面の配慮を必要とする多くの男やもめ・寡夫が存在すること。
  • 父子世帯では通常の場合に比べて多くの費用がかかっているおり,母子世帯同様に配慮の必要があること。
  • 諸外国では寡夫に対する控除のような制度があり,日本にはないこと。
  • 寡婦寡夫に比べて平均収入も少なく,就業や事業の継続性も異なるので,男女平等を実現するにあたって配慮が必要であること。

(2)この立法目的は重要かつ正当であり,まったく違憲性はない。

 

第3 採用された立法手段について

 

(1)まず「父子世帯の税負担を軽減し経済的に支援すること」という目的を達成する手段として,父子世帯の父親の所得から所定の額を控除し課税額を軽減することとした。この立法手段は立法目的との合理的関連性が明白であり違憲性は認められない。

(2)次に「租税公平主義の原則に従って男女不平等となっている制度を是正すること」という立法目的を達成するにあたっては,寡夫控除の控除額を寡婦控除と同額としたが,寡夫寡婦を区別すべきということから寡夫には寡婦にはない所得要件が設置された。しかし,この経緯については詳細な資料がなく,研究者等がまとめた昭和財政史(甲32号証)によれば,経緯を示す当時の資料は見当たらないとされている。

(3)そこで,参考となる資料として寡婦控除創設時の昭和56年の第94回国会 大蔵委員会第12号に次のようなやり取りが記録されていたので以下に引用する。

 

[昭和56年第94回国会大蔵委員会第12号議事録からの引用]

○多田省吾君 「次に、所得税改正に絡みまして寡夫控除問題及び父子家庭問題で若干質問したいと思います。

 今回の所得税法の改正で寡夫控除がなされますが、このことは評価しますけれども、五十六年度でどのくらいの予算額になるのか。また当初厚生省は所得制限なしで要求しておりましたが、大蔵省は収入ベース四百三十万円、実質収入ベースで三百万円と所得制限を行ったのは何ゆえか。また女性の寡婦控除は所得制限がないのに、男性の方の寡夫控除にこのように所得制限ありという差別待遇した理由は何なのか、その辺をお伺いします。」

○政府委員(梅澤節男君) 「今回の所得税法の改正で寡夫、いわゆる男のやもめに対する控除を新設することをお願いしているわけでございますが、これは従来から国会でも御議論がございまして、こういう制度を設けるべきではないかという御議論がございまして、私どもも政府の税制調査会などでも御議論をいただきまして、父子家庭のための措置として税制上この控除を新設することにいたしたわけでございます。

 ただ、お尋ねの件でございますけれども、男性の場合は女性の寡婦の場合と違いまして、たとえば奥さんが亡くなったり、あるいは奥さんと離婚をした、その後すぐ何と申しますか、大体男の方はそのまま働いておられますし、あるいは事業を継続しておられるということで、直ちに女性の寡婦の場合と違いまして、つまり女性の寡婦の場合は旦那さんが亡くなられますと、翌日からいわば家庭を支える柱がなくなるというふうな事態になりますけれども、男性の場合はそういうことではなかろうということでございまして、やはり同じ「寡ふ」という場合でも男性と女性との間におのずから区別があってはしかるべきではないかということで、今回の男性の寡夫控除の場合は。女性の場合と違いまして係累のない場合は対象にならない。係累と申しましても特に子供さんがあって、しかもその子供さんが基礎控除額以下の収入しかない場合に限るということでございます。そういう考え方に立っておりますので、あらゆる男性の寡夫についてこの控除を認めるということではなくて、やはりある種の社会保障的な観点から見ますと、所得制限があってしかるべきであろうということで、現在女性で係累のない場合に所得額三百万円、これは給与収入ベースにいたしますと四百三十万円になるわけでございますが、それとのバランスをとりまして、所得金額三百万円以下の方に限定するという考え方をとっておるわけでございます。」

 

(4)憲法14条1項の平等原則の適用を受ける租税法関連において,租税負担を納税者に公平に配分しなければならないという考え方が,租税公平主義の原則である。そして,同一の租税負担能力を持つ者には,同一の額の租税を負担すべきであるとする考えが水平的公平負担の原則であり,租税負担能力の異なる者は,異なる額の租税を負担するべきであるとする考えが垂直的公平負担の原則である。

(5)男女不平等となっている制度を是正するという立法目的を有する寡夫控除の創設にあたっては,この租税公平主義に則る必要があり,性別が異なっても租税負担能力が同等であれば,租税負担額を同一にしなければならないし,性別で区別して租税負担額に差異を付けるのであれば,租税負担能力が異なるという事実が存在しなければならない。

(6)立法府寡夫控除創設にあたって採用した立法手段は,寡婦控除と寡夫控除の控除額を同額とするものの,母子世帯の母親にはない所得要件を,父子世帯の父親に設置するというものである。

(7)これによって所得300万円以下の中低所得のひとり親世帯では,男性も女性も同じ租税負担となり,所得300万円を超える高所得のひとり親世帯では,女性よりも男性の租税負担が重くなることとなった。つまり,中低所得のひとり親世帯の父母には水平的公平負担の原則が適用され,高所得のひとり親世帯の父母には垂直的公平負担の原則が適用されたのである。

(8)この立法手段を支えるためには,中低所得のひとり親では,父母の租税負担能力が同等であることを示す立法事実と,高所得のひとり親では,母子世帯の母親のほうの租税負担能力が低いということを示す立法事実が必要となる。

(9)しかし,寡夫控除創設当時に,そのような立法事実は,存在していない。中低所得のひとり親については,母子世帯の母親の租税負担能力が低いと認識されており,平成元年の特別加算制度創設によって母子世帯の母親の税負担が更に軽減されることになったが,高所得のひとり親については,母親の租税負担能力が低いということを示す立法事実は,まったく存在していない。

(10)そして今日では,統計情報分析の結果を控訴理由書等で明らかにしたように,所得500万円以下の中低所得のひとり親世帯では,母子世帯の母親の平均的な租税負担能力は父子世帯の父親に比べて低く,所得500万円を超える高所得のひとり親世帯では,平均的な租税負担能力は同等であるか,やや母子世帯の母親のほうが高いことが判明している。

(11)とすると,寡夫控除創設で採用された立法手段は,租税負担能力に差異がある中低所得のひとり親世帯の父母を垂直的公平負担の原則に反して同等に扱い,租税負担能力が同等である高所得のひとり親世帯の父母を水平的公平負担の原則に反して異なる扱いにするものである。

(12)その結果,高所得の父子世帯の父親は,高所得の母子世帯の母親に比べて同等か,やや劣る租税負担能力であるにもかかわらず,性別の違いだけで租税負担が重くなることとなった。これは,著しく不合理な差別である。

(13)ゆえに父子世帯の父親のみに所得要件を設置するという立法手段では,租税公平主義の原則に従って男女不平等となっている制度を是正するいう立法目的を達成することができず,立法目的と立法手段との間には,実質的関連性を認めることができない。

(14)引用した議事録では,社会保障的な観点からであるとか,係累のない寡婦控除とバランスをとっているといった説明がなされている。しかし,母子世帯に対して社会保障の観点で見ていないのに父子世帯だけ社会保障の観点で見るというのは,理由がなく正当化できないし,また係累のない寡婦控除とのバランスをとったというのは,昭和47年の扶養親族要件の一部撤廃に採用された所得制限の設置という同じ手法を流用しただけで,恣意的であったといわざるをえず,どちらも租税公平主義の原則に反してもよい理由としては認めることができない。

 

第4 まとめ

 

以上のとおり,寡夫控除創設の立法目的である「父子世帯の租税負担を軽減し経済的に支援するとともに,租税公平主義の原則に従って男女不平等となっている制度を是正すること。」は正当かつ重要であるものの,父子世帯の父子にのみ所得要件を設置した立法手段には,それを支える立法事実が存在せず,租税公平主義の原則に反し立法目的を達成することができないので,立法目的と立法手段との間に実質的関連性を認めることができない。従って,父子世帯の父親にのみ所得要件を設置することで,同等の租税負担能力を持つ母子世帯の母親に比べて重い課税としているのは,正当な理由のない不合理な差別であるといえるのであるから,本件区別は憲法14条1項に違反するというべきである。

 

以上