フレンチトースト訴訟

父ちゃん大法廷に立つ(計画)



判例の研究(5)

最高裁が棄却した事は書きましたが、その理由は知りませんでした。

今日、息子が調べてきてくれました。

読んでびっくりです。


【判示事項】寡夫控除を認めなかった課税処分の合憲性

【判決要旨】扶養親族を有しない納税者(男)に寡夫控除を認めなかった所得税更生処分は、憲法14条1項(法の下の平等)に違反しない。


あれれ?


この原告さん、子どもがいないじゃないですか。

あるいは親権がないとか。

もしくは奥さんと死別したということかな。


女性の場合でも、扶養親族がいない時は、死別で低所得でないと寡婦控除は認められません。


だとすると、旦那さんを亡くした女性と、奥さんを亡くした男性で、租税負担能力が違うとし、低所得の未亡人救済の意味で寡婦控除が出来た事から、その当時、合憲としたのもうなずけます。


確かに男性差別ではありますが、これはもう別の判例と考えてもいいですね。

反対意見はないのかな

口頭弁論の1週間前になりました。そろそろ答弁書が提出されていることでしょう。
どんな主張をしてくるのでしょうか。早く読みたいです。

私の情報収集は、インターネットを介するものが多くなります。寡夫控除要件に関しての意見を拾い集めていますが、不安なことがあります。
男性差別だ!違憲だ!という意見は多いです。多いというより、それしかないです。
必要な区別だ!合憲だ!という意見を見つけられません。誰も主張していないのではないでしょうか。
反対意見を認識できないと、多様な見方ができなくなり、結果的に盲目になります。

どこかにありませんかね?

意見書のたぐい

寡夫控除が差別であり、早期に法改正を求める意見書があちこちででてきています。

 

地方自治

福岡県議会 平成25年6月25日

埼玉県朝霞市市議会 平成23年6月27日

東京都三鷹市議会 平成23年12月20日

などなど、他にも多数。

この地方自治体からの意見書というのは地方自治法第99条の規定によるものなのですが、受け取った国側で何かしなければならないという規定はないです。関係委員会に参考資料として配られる程度です。効力が小さいですね。まぁ、国政が地方議会に振り回されるわけにもいきませんから理解はできるところです。

 

税理士会からも意見書がでています。

寡夫控除要件には合理的理由はないと記載されている意見書もあります。

 

弁護士会日弁連)からは見つけられなかったです。非婚の母に対する寡婦控除適用を求めるものはあります。これは日弁連人権救済申立てがあったからだと思います。弱者救済となると日弁連は頑張りますね。

寡婦(寡夫)控除関連と当訴訟年表

時系列がわかるように年表をつくってみました。随時更新していきます。

(令和4年2月2日 更新)

 

所得税に対する当訴訟など】

平成28年3月11日 横浜地方裁判所に提訴 平成28年(行ウ)第15号

平成28年5月18日 一審第1回口頭弁論

平成28年7月20日 一審第2回口頭弁論 結審

平成28年10月12日 却下判決

 

仕切り直し

平成29年12月28日 税務署に更正の請求

平成30年1月18日 税務署から修正の予知

平成30年3月27日   税務署から更正処分と過少申告加算税賦課決定処分

平成30年4月25日 更正の請求に対する更正すべき理由がない旨の通知処分

平成30年5月24日   国税不服審判所に審査請求

平成30年9月25日 国税不服審判所、審理手続きの終結

平成30年11月16日 棄却裁決

令和元年5月8日 東京地方裁判所に提訴 令和元年(行ウ)第236号

令和元年7月4日 一審第1回口頭弁論

令和元年9月26日 一審第2回口頭弁論

令和元年12月5日 一審第3回口頭弁論

令和2年2月27日 一審第4回口頭弁論

令和2年8月6日 一審第5回口頭弁論

令和3年1月14日 一審第6回口頭弁論 結審 

令和3年5月27日 一審判決 敗訴(棄却)

令和3年6月14日 控訴 令和3年(行コ)第166号

令和3年8月3日 控訴理由書提出

令和3年10月27日 控訴審第1回口頭弁論(結審)

令和4年1月12日 控訴審判決 棄却

上告しないため、確定。

 

 

【住民税に対する当訴訟など】

平成28年5月13日 市県民税決定通知処分

平成28年6月28日 川崎市に審査請求

平成29年3月30日 棄却裁決

平成29年9月29日 横浜地方裁判所に提訴 平成29年(行ウ)第51号

平成29年12月4日 一審第1回口頭弁論 

平成30年2月5日 一審第2回口頭弁論

平成30年3月19日 一審第3回口頭弁論 結審

平成30年7月11日 一審判決 敗訴(棄却)

平成30年7月19日 控訴 平成30年(行コ)第250号

平成30年10月3日 控訴審第1回口頭弁論

平成30年11月21日 控訴審第2回口頭弁論

平成31年2月13日   控訴審第3回口頭弁論

令和元年5月8日 控訴審第4回口頭弁論

令和元年7月17日 控訴審第5回口頭弁論 結審

令和元年10月9日 控訴審判決 敗訴(棄却)

令和元年10月21日 上告 令和元年(行サ)第130号 → 令和2年(行ツ)第56号

令和元年12月13日 上告理由書提出

令和2年2月17日 最高裁に記録到着

令和2年10月12日  第一小法廷判決 敗訴(棄却)

 

寡夫控除関連年表】 last update 2018/5/24

昭和26年 寡婦控除(税額控除)が創設

昭和42年 寡婦控除が所得控除に改正

昭和47年 寡婦控除拡張(扶養なしでも適用)

昭和52年 只松委員が大蔵委員会で寡夫控除の創設を要求

昭和56年 寡夫控除が創設

昭和60年 男女雇用機会均等法が制定

平成元年 特定寡婦控除が創設

平成6年 寡夫控除要件に合憲判決

平成9年 岡山市で非婚ひとり親家庭のみなし寡婦(夫)適用を開始(以降他の自治体に広がる)

平成12年 政府税調中期答申で寡夫控除の性差異を言及

平成17年 論叢「所得控除の今日的意義 」で寡婦控除寡夫控除について言及(国税庁のHPに掲載)

平成22年 児童扶養手当が父子家庭に適用

平成23年~各自治体から寡婦(夫)控除制度の法律改正の早期実現を求める意見書が決議

平成26年 遺族基礎年金が父子家庭に適用

平成26年 母子寡婦福祉資金貸付制度が父子家庭に適用

平成30年 みなし寡婦制度が全国展開

平成31年 所得制限が実質引下げ(収入689万円→678万円) こっそり増税

令和2年 婚姻歴のないひとり親にも控除適用

同    父子世帯の控除額が特別寡婦と同額へ

同    母子世帯にも所得制限が適用

(ひとり親の男女差はなくなりました。でもまだ死別独身者や子以外の扶養の男女差は残っています。)

被告の立場になってみる

どこのお役人さんがいらっしゃるのかわかりませんが、もう訴状は受け取っているはずですし、答弁書を書いたり、口頭弁論の準備をしていると思います。勿論、私の訴えを棄却してもらうつもりでしょう。

彼らは、寡夫控除要件の差別が合理的であることを示さなければなりません。これは大変だと思います。

判例から持ってくるとするなら、男女によって租税負担能力が違うから、ということになりますが、例えば同じ年収1000万円の母子家庭と父子家庭で租税負担能力が違う理由なんてありませんから、持ち出しにくいと思います。(これを持ち出してきたら論破できるような気がします。)

昔なら、女性は独身で子無しという求人条件があり、男性社員の花嫁候補を募集するなどということがありましたが、今は男女雇用機会均等法で禁止されていますから、理由になりません。

政府税調で必要性を指摘されながら、改正してこなかった理由ならば簡単に想像できます。

 

男女平等を目的にして法改正するとしたら2パターン考えられます。

ひとつは寡婦控除要件を寡夫控除に合わせることです。これは平成17年の論叢「所得控除の今日的意義 」で言及されています。しかしこれが実現されれば母子家庭の負担が重くなります。女性の権利保護を主張するような団体から確実に反対されるでしょう。そうなると選挙に影響しかねません。

もうひとつは寡夫控除要件を寡婦控除に合わせることです。しかしこれをやると何億円も税収が減ります。その分の財源が必要となり、積極的に法改正しようとはなりません。もちろんこれは合理的な差別理由にはなりません。

 

税収が減るような改正をするには、違憲判決のような強い外圧が必要です。

もしかしたら政府はこういう訴訟が起きるのを待っている!

 

なんて事はないですね、きっと。

憲法14条1項適合性の判断基準について

今回の訴訟では、所得税法寡夫要件が、憲法14条1項について合憲か違憲か争うことになります。

その判断基準としては最高裁が次のように言っていて、これが標準的な解釈となっています。

憲法14条1項は,法の下の平等を定めており,この規定が,事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り,法的な差別的取扱いを禁止する趣旨のものであると解すべきことは,当裁判所の判例とするところである」

つまり、差別するなら合理的な理由が必要、となります。

以前取り上げた福岡の判例では、この判断基準に従っていないことがわかります。なぜでしょう?

裁判になったいきさつや、被告となったのは税務署員ということ、他にも給与控除についても争っていることから、私は次のように考えています。

 

まず原告は自営業です。原告は確定申告の際に、自営業には認められていない給与控除を自分で適用しています。更に要件を満たしていない寡夫控除もつけて納税額を低くしました。当然税務署は修正するように指導しますが、従いません。払っていない税金については督促しています。そこで原告は裁判を起こしています。

裁判所は憲法14条1項適合性の判断基準に照らし合わせた判断をしていません。差別があることも認めていますし、著しく不合理とはいえないと言っているのですから、程度は小さいが不合理な差別があることを認めているといってもいいと思います。しかし、行政の裁量の範疇であると、一蹴しています。

結局、税の徴収トラブル対応として、税務署員の円滑な職務遂行を後押しする。そういう側面をもった判決だったのではないでしょうか?だから厳格に14条1項の判断基準に沿わなかったのだと、私は考えています。

 

今回の裁判では、純粋に憲法14条1項の適合性を追及します。所得税法寡夫要件差別に合理的な理由があるかないか、それが今回の争点です。

裁判官の覚悟

戦後に最高裁違憲判決がでたのは10例しかありません。違憲判決を出す瞬間は、歴史が変わる時。判事にとってはクーデターをおこすようなものなのかもしれません。

一審は地裁ですが、地裁の裁判官にとって、もし違憲判決を出すことになったとしたら、これは一生に一度の覚悟がいることなのだそうです。

裁判官にも出世欲はあるでしょう。表向きは違うでしょうが、上位の方針に忠実で、突飛な判決を出さない。国に対して忠誠であるほうが、出世は望めるでしょう。

となると、こちらは裁判官に覚悟してもらうだけの材料、論拠を示さなければなりません。

しかしこちらは弁護士でもなく、素人。ならば素人らしく、シンプルに、ストレートに参りましょう。