フレンチトースト訴訟

父ちゃん大法廷に立つ(計画)



控訴人準備書面(3)

私の提出した準備書面を公開します。

 

立法目的に男女不平等を是正するというのを入れました。これでスッキリしたと思いますが、どうでしょう。

 

 

平成30年(行コ)第250号 課税処分取消請求控訴事件

控訴人  sakurahappy

被控訴人 川 崎 市

 

東京高等裁判所第9民事部A2係 御中

 

控訴人  準  備  書  面 (3)

 

平成31年2月6日

              

控訴人 sakurahappy         印

 

 控訴人は,当準備書面にて,本件に関する立法事実を整理し,立法目的及び立法手段について以下のとおりの主張をする。尚,立法事実の整理にあたっては,地方税法だけでなく所得税法上の寡婦控除と寡夫控除についての国会議事録も調査対象としている。

 

目次

 第1 寡婦寡夫控除制度の変遷について

 第2 寡夫控除創設の立法目的について

 第3 採用された立法手段について

 第4 まとめ

 

 

第1 寡婦寡夫控除制度の変遷について

 

まず寡婦寡夫控除制度の変遷について整理する。

(1)昭和26年 寡婦控除の創設

昭和26年度税制改正において,寡婦控除が創設され,65歳未満で扶養親族を有する女性(夫と死別し又は夫と離婚した後婚姻をしていない者,夫の生死の明らかでない者)の所得から1万5千円を控除する制度とされた。創設にあたっての経緯を示す当時の資料は残っていないが,昭和47年第68回国会大蔵委員会第25号の議事録に記録された大蔵省主税局長の発言から,寡婦が追加的費用を要することを考慮したものとなっていることが確認できる。

[昭和47年第68回国会大蔵委員会第25号議事録からの引用]

寡婦控除の制度は戦後昭和二十五、六年にスタートした制度でございますが、その当時戦争によって夫を失ったいわゆる戦争未亡人が、家に残された老人なり子供たちなりをかかえながら一家の大黒柱として所得を稼得していくという場合には、通常の場合に比べましてそれなりにいろいろと追加的費用を要するであろうという費用の点に着目をして設けられたという経緯でございます。」

(2)昭和47年 扶養親族要件の一部撤廃

 昭和47年には,寡婦控除の適用要件を一部緩和する見直しが行われた。具体的には,従来の「寡婦」は扶養親族を有する者に限定されていたが,夫と死別した者で扶養親族がなく(当初からない場合及び扶養親族等が成長,死亡等によりなくなった場合の双方を含む),合計所得金額が150万円以下のものについても寡婦控除が適用されることとなった。このように死別の場合に限って扶養親族要件が撤廃された理由については,死別の場合には,亡夫の家族との関係など各種の負担を要するものと考えられることや,子どもが成人すると扶養控除と寡婦控除の両方がなくなり貧窮することになる等の事情が考慮されたものであった。

(3)昭和56年 寡夫控除の創設

 昭和56年に,寡夫控除が創設された。昭和52年第80回国会大蔵委員会第13号の議事録(甲31号証)によると「民主国家、近代国家において男女は法のもとに平等だし、いずれにも平等に課さなければならない。ところがこの税法の中において、男女不平等なものがあるわけです。これがいままで一回も国会において論議をされない、あるいは不平等のまま放置されておる」という発言が記録され,女性にはある寡婦控除が男性にはないことが男女不平等となっていると認識されていた。そして「家庭内に女の人がいなくなると、お手伝いさんを雇ったりなにしたり大変な目に遭うし、大変な費用がかかっておるということは、私が言わぬでも、御想像だけでもおわかりだと思う。」というように,父子家庭でも追加費用を要することが認識されていた。そこで男女不平等となっている制度を是正し,父子世帯の税負担に配慮するという観点から一定の要件の下に寡婦控除に準じた制度が創設されることになった。新設された寡夫の税法上の定義は,妻と死別又は離婚した者で,扶養親族である子を有し,かつ合計所得金額が300万円以下のものとされた。

(4)平成元年 特別加算制度の創設

 平成元年には,租税特別措置法が改正され,寡婦控除の特例制度が創設された。夫と死別又は離婚し,扶養親族である子を有し,合計所得金額300万円以下である場合に,寡婦控除額を8万円(地方税では4万円)加算することとされた。この特別措置は,「夫と死別し又は離婚して女手一つで子を抱えながら家庭を支えている低所得の母子家庭に配慮し,その負担軽減を図る見地から」設けられたものである。

 

第2 寡夫控除創設の立法目的について

 

(1)寡夫控除創設の立法目的は,「父子世帯の租税負担を軽減し経済的に支援するとともに,租税公平主義の原則に従って男女不平等となっている制度を是正すること。」と解される。その立法目的を支える立法事実を整理し,以下に箇条書きにした。

  • 当時の寡婦控除の制度が男女不平等の制度であり,是正の必要性が認識されていたこと。
  • 税制面の配慮を必要とする多くの男やもめ・寡夫が存在すること。
  • 父子世帯では通常の場合に比べて多くの費用がかかっているおり,母子世帯同様に配慮の必要があること。
  • 諸外国では寡夫に対する控除のような制度があり,日本にはないこと。
  • 寡婦寡夫に比べて平均収入も少なく,就業や事業の継続性も異なるので,男女平等を実現するにあたって配慮が必要であること。

(2)この立法目的は重要かつ正当であり,まったく違憲性はない。

 

第3 採用された立法手段について

 

(1)まず「父子世帯の税負担を軽減し経済的に支援すること」という目的を達成する手段として,父子世帯の父親の所得から所定の額を控除し課税額を軽減することとした。この立法手段は立法目的との合理的関連性が明白であり違憲性は認められない。

(2)次に「租税公平主義の原則に従って男女不平等となっている制度を是正すること」という立法目的を達成するにあたっては,寡夫控除の控除額を寡婦控除と同額としたが,寡夫寡婦を区別すべきということから寡夫には寡婦にはない所得要件が設置された。しかし,この経緯については詳細な資料がなく,研究者等がまとめた昭和財政史(甲32号証)によれば,経緯を示す当時の資料は見当たらないとされている。

(3)そこで,参考となる資料として寡婦控除創設時の昭和56年の第94回国会 大蔵委員会第12号に次のようなやり取りが記録されていたので以下に引用する。

 

[昭和56年第94回国会大蔵委員会第12号議事録からの引用]

○多田省吾君 「次に、所得税改正に絡みまして寡夫控除問題及び父子家庭問題で若干質問したいと思います。

 今回の所得税法の改正で寡夫控除がなされますが、このことは評価しますけれども、五十六年度でどのくらいの予算額になるのか。また当初厚生省は所得制限なしで要求しておりましたが、大蔵省は収入ベース四百三十万円、実質収入ベースで三百万円と所得制限を行ったのは何ゆえか。また女性の寡婦控除は所得制限がないのに、男性の方の寡夫控除にこのように所得制限ありという差別待遇した理由は何なのか、その辺をお伺いします。」

○政府委員(梅澤節男君) 「今回の所得税法の改正で寡夫、いわゆる男のやもめに対する控除を新設することをお願いしているわけでございますが、これは従来から国会でも御議論がございまして、こういう制度を設けるべきではないかという御議論がございまして、私どもも政府の税制調査会などでも御議論をいただきまして、父子家庭のための措置として税制上この控除を新設することにいたしたわけでございます。

 ただ、お尋ねの件でございますけれども、男性の場合は女性の寡婦の場合と違いまして、たとえば奥さんが亡くなったり、あるいは奥さんと離婚をした、その後すぐ何と申しますか、大体男の方はそのまま働いておられますし、あるいは事業を継続しておられるということで、直ちに女性の寡婦の場合と違いまして、つまり女性の寡婦の場合は旦那さんが亡くなられますと、翌日からいわば家庭を支える柱がなくなるというふうな事態になりますけれども、男性の場合はそういうことではなかろうということでございまして、やはり同じ「寡ふ」という場合でも男性と女性との間におのずから区別があってはしかるべきではないかということで、今回の男性の寡夫控除の場合は。女性の場合と違いまして係累のない場合は対象にならない。係累と申しましても特に子供さんがあって、しかもその子供さんが基礎控除額以下の収入しかない場合に限るということでございます。そういう考え方に立っておりますので、あらゆる男性の寡夫についてこの控除を認めるということではなくて、やはりある種の社会保障的な観点から見ますと、所得制限があってしかるべきであろうということで、現在女性で係累のない場合に所得額三百万円、これは給与収入ベースにいたしますと四百三十万円になるわけでございますが、それとのバランスをとりまして、所得金額三百万円以下の方に限定するという考え方をとっておるわけでございます。」

 

(4)憲法14条1項の平等原則の適用を受ける租税法関連において,租税負担を納税者に公平に配分しなければならないという考え方が,租税公平主義の原則である。そして,同一の租税負担能力を持つ者には,同一の額の租税を負担すべきであるとする考えが水平的公平負担の原則であり,租税負担能力の異なる者は,異なる額の租税を負担するべきであるとする考えが垂直的公平負担の原則である。

(5)男女不平等となっている制度を是正するという立法目的を有する寡夫控除の創設にあたっては,この租税公平主義に則る必要があり,性別が異なっても租税負担能力が同等であれば,租税負担額を同一にしなければならないし,性別で区別して租税負担額に差異を付けるのであれば,租税負担能力が異なるという事実が存在しなければならない。

(6)立法府寡夫控除創設にあたって採用した立法手段は,寡婦控除と寡夫控除の控除額を同額とするものの,母子世帯の母親にはない所得要件を,父子世帯の父親に設置するというものである。

(7)これによって所得300万円以下の中低所得のひとり親世帯では,男性も女性も同じ租税負担となり,所得300万円を超える高所得のひとり親世帯では,女性よりも男性の租税負担が重くなることとなった。つまり,中低所得のひとり親世帯の父母には水平的公平負担の原則が適用され,高所得のひとり親世帯の父母には垂直的公平負担の原則が適用されたのである。

(8)この立法手段を支えるためには,中低所得のひとり親では,父母の租税負担能力が同等であることを示す立法事実と,高所得のひとり親では,母子世帯の母親のほうの租税負担能力が低いということを示す立法事実が必要となる。

(9)しかし,寡夫控除創設当時に,そのような立法事実は,存在していない。中低所得のひとり親については,母子世帯の母親の租税負担能力が低いと認識されており,平成元年の特別加算制度創設によって母子世帯の母親の税負担が更に軽減されることになったが,高所得のひとり親については,母親の租税負担能力が低いということを示す立法事実は,まったく存在していない。

(10)そして今日では,統計情報分析の結果を控訴理由書等で明らかにしたように,所得500万円以下の中低所得のひとり親世帯では,母子世帯の母親の平均的な租税負担能力は父子世帯の父親に比べて低く,所得500万円を超える高所得のひとり親世帯では,平均的な租税負担能力は同等であるか,やや母子世帯の母親のほうが高いことが判明している。

(11)とすると,寡夫控除創設で採用された立法手段は,租税負担能力に差異がある中低所得のひとり親世帯の父母を垂直的公平負担の原則に反して同等に扱い,租税負担能力が同等である高所得のひとり親世帯の父母を水平的公平負担の原則に反して異なる扱いにするものである。

(12)その結果,高所得の父子世帯の父親は,高所得の母子世帯の母親に比べて同等か,やや劣る租税負担能力であるにもかかわらず,性別の違いだけで租税負担が重くなることとなった。これは,著しく不合理な差別である。

(13)ゆえに父子世帯の父親のみに所得要件を設置するという立法手段では,租税公平主義の原則に従って男女不平等となっている制度を是正するいう立法目的を達成することができず,立法目的と立法手段との間には,実質的関連性を認めることができない。

(14)引用した議事録では,社会保障的な観点からであるとか,係累のない寡婦控除とバランスをとっているといった説明がなされている。しかし,母子世帯に対して社会保障の観点で見ていないのに父子世帯だけ社会保障の観点で見るというのは,理由がなく正当化できないし,また係累のない寡婦控除とのバランスをとったというのは,昭和47年の扶養親族要件の一部撤廃に採用された所得制限の設置という同じ手法を流用しただけで,恣意的であったといわざるをえず,どちらも租税公平主義の原則に反してもよい理由としては認めることができない。

 

第4 まとめ

 

以上のとおり,寡夫控除創設の立法目的である「父子世帯の租税負担を軽減し経済的に支援するとともに,租税公平主義の原則に従って男女不平等となっている制度を是正すること。」は正当かつ重要であるものの,父子世帯の父子にのみ所得要件を設置した立法手段には,それを支える立法事実が存在せず,租税公平主義の原則に反し立法目的を達成することができないので,立法目的と立法手段との間に実質的関連性を認めることができない。従って,父子世帯の父親にのみ所得要件を設置することで,同等の租税負担能力を持つ母子世帯の母親に比べて重い課税としているのは,正当な理由のない不合理な差別であるといえるのであるから,本件区別は憲法14条1項に違反するというべきである。

 

以上