フレンチトースト訴訟

父ちゃん大法廷に立つ(計画)



対所得税控訴審判決文

文字起こしのアプリで読み取った判決文です。変換ミスはお察しください。

後日地裁補正版をあげますが、これは控訴審判決原文ですので、わかりにくくくなっています。

 


令和4年1月12日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和3年(行コ)第166号 更正処分取消等請求控訴事件(原審・東京地方裁判所
令和元年(行ウ)第236号)
口頭弁論終結日 令和3年10月27日

 

判決

控訴人 sakurahappy

被控訴人 国

 

主文
1 本件控訴を棄却する。
2  控訴費用は控訴人の負担とする。

 

事実及び理由

第1控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 川崎北税務署長が平成30年3月27日付けで控訴人に対してした次の各処分をいずれも取り消す。

(1) 平成24年分の所得税に係る更正処分のうち、納付すべき税額マイナス5万4000円を超える部分及び同更正処分に伴う過少申告加算税の賦課決定処分
(2) 平成25年分の所得税及び復興特別所得税に係る更正処分のうち、納付すべき税額マイナス5万5103円を超える部分及び同更正処分に伴う過少申告加算税の賦課決定処分
(3) 平成26年分の所得税及び復興特別所得税に係る更正処分のうち、納付すべき税額マイナス5万5121円を超える部分及び同更正処分に伴う過少申告加算税の賦課決定処分
(4) 平成27年分の所得税及び復興特別所得税に係る更正の請求に対する更正すべき理由がない旨の通知処分
3 川崎北税務署長が平成30年4月25日付けで控訴人に対してした平成28年分及び平成29年分の所得税及び復興特別所得税に係る各更正の請求に対する更正すべき理由がない旨の各通知処分を取り消す。

 

第2事案の概要
1 父子世帯の父親である控訴人は、自身が所得税法(令和2年法律第8号による改正前のもの。以下同じ) 2条1項31号(以下「本件規定」という。)の「寡夫」に該当することを前提に、同法81条に定める募夫控除を適用し,平成24年分,平成25年分及び平成26年分の所得税等の各確定申告をしたところ,川崎北税務署長(処分行政庁)から,いずれの年分についても,合計所得金額500万円以下という本件規定の所得要件(以下「本件所得要件」という。)を満たさないから、寡夫控除の適用は認められないとして,各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及びこれらに伴う過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各更正処分と併せて「本件各更正処分等」という。)を受けた。また,控訴人は、寡夫控除を適用せずに行った平成27年分,平成28年分及び平成29年分の所得税等の各確定申告について,寡夫控除を適用すべきであるとしてそれぞれ更正の請求をしたところ,川崎北税務署長から,更正すべき理由がない旨の各通知処分(以下「本件各通知処分」といい,本件各更正処分等と併せて「本件各処分」という。)を受けた。
 本件は,控訴人が,被控訴人を相手に、本件規定が所得税法2条1項30号イの「寡婦」にはない本件所得要件を設けていることが憲法14条1項及び24条2項に違反しており,本件規定のうち本件所得要件に係る部分は無効であるから,本件所得要件を満たさない控訴人にも寡夫控除を適用すべきであると主張して,本件各更正処分のうち申告額を超える部分及び本件各賦課決定処分並びに本件各通知処分の取消しを求める事案である。
 原審が,控訴人の請求をいずれも棄却したところ,控訴人が控訴を提起した。

2 関係法令の定め,前提事実,税額等に関する当事者の主張,争点及び当事者の主張の要旨は,次の3のとおり当番における当事者の主張を加えるほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」の1から5までに記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決を次のとおり訂正する。

(1) 原判決4頁22行目末尾に「(甲1)」を加える。
(2) 原判決5頁4行目末尾に「(甲1)」を,12行目末尾に「(甲4~6)」をそれぞれ加える。
(3) 原判決6頁18行目から19行目にかけての「平成26年法律第10号」を「平成28年法律第15号」と改める。

3 当審における当事者の主張
(1) 控訴人の主張
ア 最高裁昭和60年判決の判断枠組みは本件に妥当しないこと
(ア)最高裁昭和60年判決は、給与所得者と事業所得者という異質性が認められる比較対象について、所得の性質の違いによる課税額の調整方法について判断したものであって、租税負担能力の異なる者にはその能力に応じた課税をするという垂直的公平負担原則に沿っているか否かの判断である。問題となる区別が垂直的公平負担原則に沿ったものであるかについては、極めて専門技術的な判断が必要とされるため,裁判所は,広範な立法裁量を尊重せざるを得ない。しかし,本質的平等が要求される属性による
取扱いの区別については、租税負担能力が同じ者に対して同じ課税をするという水平的公平負担原則に沿っているか否かでその合理性を判断すべきであり,最高裁昭和60年判決の判断枠組みを採用することはできず,立法裁量は強く制限される。
(イ)本件区別に係る比較対象は、所得が500万円を超える層(基準超過層)の母子世帯の母親と父子世帯の父親であるところ,性別以外には、収入差のような顕在的担税力減殺要因も就業状況のような構造的担税力減殺要因も存在しないため、比較対象には同等性が認められる。この場合,それぞれの取扱いの相違を確認し,取扱いの優劣の判定により水平的平等原則違反か否かを判断すべきである。
(ウ)最高裁昭和60年判決の判断枠組みは、複数の制度によって構成された区別の違憲性判断に対応していない。基華超過層のひとり親につき,性別により寡婦等控除の適用に違いがあるのは,昭和26年創設の募婦控除,昭和56年創設の募夫控除,平成元年創設の特別寡婦控除制度の複合結果であり,それぞれの制度の立法目的や立法手段を審査しても、複数制度の複合結果に違憲性があるかについての判断をすることはできない。

イ 本件における判断枠組み
所得が同じで性別以外の条件が同じであるにもかかわらず,性別によって離婚後の課税額が変わる場合,その区別に正当な理由がなければ不平等な扱いである。また、税法上の規定が,母子世帯を父子世帯よりも優遇するものであれば、離婚の際に親権や養育権を母親に誘導する可能性を否定できない。上述の最高裁昭和60年判決の問題点,憲法24条の法意及び最高裁昭和34年(オ) 1193号同36年9月6日大法廷判決・民集15巻8号2047頁の考え方を踏まえると,本件区別については,①性区別の目的に正当性がないか,あるいは,②処分時点において具体的に採用された区別の態様が上記目的と関連性がなく、他の法律等により実質上の不平等が生じないように立法上の配慮がされていない場合には、不合理な差別であって,憲法24条2項にも違反する。

ウ 立法目的の正当性について
(ア)本件区別の立法目的が,母子世帯の母親と父子世帯の父親との租税負担能力の差異を考慮して租税負担が平等になるように調整することであれば,正当である。
(イ) また,被控訴人は,平成29年度における母子世帯の総数は62万3200世帯で,うち700万円以上の所得を有するのは1万1500世帯で、率にして1.85%にとどまるところ,仮にこれらの世帯において十分な租税負担能力があって本来は寡婦控除を受けるような特別の支出がなかったとしても、租税の効率的徴収の観点から制度として是認し得る旨主張している。上記主張からすれば、基準超過層の寡婦寡婦控除の対象から除外しない制度にした立法目的は、租税の徴収効率を高めることであったと解される。そうであれば、当該立法目的は正当である。

エ 立法目的と立法手段との関連性について
(ア) 本件区別の立法目的が上記ウア)の場合,平成19年以降,全国就業構造基本調査等の統計情報によれば、基準超過層の父子世帯の父親の平均収入は基準超過層の母子世帯の母親の平均収入と同等かそれ未満である。また,平成28年労働力調査(甲22)によって勤続年数などの就業状況に差がないことが統計上明らかになっている。したがって,両者の間には、収入のような顕在的担税力減殺要因のみならず,就業状況のような構造的担税力減殺要因も存在しない。そうすると,基準超過層の父子世帯の父親に所得控除を認めず,基準超過層の母子世帯の母に控除を認めるという立法手段では、租税負担が平等になるように調整することができないどころか真逆な結果を招くこととなるのであって,合理的関連性は認められない。そして,他に実質的平等となるような立法的配慮が存在しないことを踏まえると,遅くとも平成19年以降は、目的と手段の間の合理的関連性は失われていたというべきである。
(イ) また,本件区別の立法目的が上記 ウイ)の場合,昭和56年の寡夫控除の創設当時においては,基準以下の層の寡婦と基準超過層の寡婦を区別しないことで労力がかからないともいえるので,目的と手段の間に観念上の関連性を否定することができない。もっとも,平成元年の税制改正により,基準以下の層の寡婦が特別寡婦控除の対象となると,課税額を算出するために基準以下の層と基準超過層の寡婦を所得額で区別する必要性が生じ,区別する労力がかからないという利点が消失したから,目的と手段の間に
あった観念上の関連性は失われた。

オ その他の原判決の問題点について
(ア) 原判決は、母子世帯の養育費の受給水準は高いとはいえないと判示しているが,受給している養育費の平均月額は母子世帯が4万3707円,父子世帯が3万2550円であるところ、受給割合(母子世帯の母親が24.3%,父子世帯の父親が3.2%)から平均年額を算出すると母子世帯が12万7450円,父子世帯が1万2500円となる。母子世帯の養育費の受給水準に言及するに当たっては、これも考慮に入れるべきである。
(イ) 原判決は,①ひとり親世帯における基準超過層の割合自体が少ないこと、②基準超過層の母子世帯の数は、同層の父子世帯の数を超えるものでないこと,③母子世帯における基準超過層の割合は近年でも2%未満であり,父子世帯における基準超過層の割合(約20%)に比べて顕著な差があること、④これらに加え,平均像としては依然として低所得者の多い母子世帯の母親について所得要件を設けることにつき国民の理解を得られるかという問題もあったことを挙げて,30号イの寡婦 (扶養親族のある寡婦)のうち基準超過層にあるものについて,これを寡婦控除の対象から除外する旨の立法的手当てを行わず、母子世帯と父子世帯の総体的な租税負担能力の差異等を重視した制度を維持することにも,相応の合理性があったと判示している。
 しかし,①については,父子世帯にも所得要件を課すべきでない理由である。②については,基準超過層は、母子世帯が1万1500世帯,父子世帯が1万3300世帯と同程度であって,前者が後者を超えていないことを判断の基礎とするのは恣意的である。③については,その差によって何がどう影響するのかを明らかにしていないし、そもそもひとり親世帯における父子世帯の割合が10%であることを無視して都合のいい数値だけを選んだものである。④については,平均像という思い込みや偏見を判断の基礎にしている点で問題がある上、その意見の出所が明らかにされていないし,反対の意見もある。
(ウ) 母子世帯と父子世帯とで、基準超過層の平均収入の差異が明らかであるにもかかわらず,基準以下の層を加えて総体として比較し,その結果を基礎にするのは憲法の解釈を誤ったものである。

(2) 被控訴人の主張
ア判断枠組みについて
(ア) 控訴人は、最高裁昭和60年判決が垂直的公平負担原則に沿っているか否かの判断であり、本件で問題となっている水平的公平負担原則についての判断ではない旨主張し,これを前提に最高裁昭和60年判決は本件に妥当しない旨主張する。
しかし,最高裁昭和60年判決は,給与所得者と事業所得者は所得税の課税において同じ状況にあるにもかかわらず、給与所得の金額の計算方法と事業所得の金額の計算方法が異なることについて憲法14条1項の規定に違反しないことを判示しているのであるから,控訴人のいう水平的公平負担原則について判断している事案であって,控訴人の上記主張は理由がない。
(イ) 控訴人は,最高裁昭和60年判決の枠組みは、複数の制度によって構成された区別の違憲性判断に対応していない旨主張する。しかし,本件の争点は,本件規定のうち本件所得要件を定める部分が憲法14条1項に違反し無効であるか否かである。そして,当該部分は昭和56年度の税制改正によって設けられたのであるから,上記争点については、昭和56年度の税制改正における立法目的をもって判断するのが相当である。なお、同改正は, 昭和26年度の税制改正を前提としているので,昭和56年度の税制改正の目的を検討することは、昭和26年度の税制改正の目的を一切検討していないことにはならない。したがって,控訴人の上記主張は理由がない。
(ウ) 控訴人は、本件区別が憲法24条2項にも反する旨を主張するが,憲法24条2項は,婚姻及び家族に関する事項について,具体的な制度の構築を第一次的には国会の合理的な立法裁量に委ねるとともに,その立法に当っては、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚すべきであるとする要請,指針を示すことによって,その裁量の限界を画した規定である(最高裁平成25年(オ)第1079号同27年12月16日判決・民集69巻8号2427頁)。他方,所得税法で定義される募夫又は寡婦は,離婚に関する親権の有無にかかわらず,経済実態に基づく生計を一にする子の存在から各種控除の適用を判定するものであり、募夫又は寡婦は、あくまで課税所得の算定上控除する所得控除の課税要件に係る租税法上の固有概念にすぎない。このような所得控除の適用の場面で,離婚に関して父母間で何らかの権利利益が発生することはなく,監護費用(養育費)にも影響を与えることはない。したがって,本件規定は、そもそも婚姻及び家族に関する事項について定めた規定ではなく,憲法24条2項適合性の判断の対象となる規定ではないので,控訴人の上記主張は理由がない。

イ 立法目的の正当性について
寡夫にのみ本件所得要件を設けた立法目的は,男性と女性との間に存在する租税負担能力の違いや生活関係の差異等を考慮したものと解され、正当なものである。

ウ 本件区別の態様が立法目的との関連において著しく不合理か
 近似の世帯調査においても,母子世帯と父子世帯には、収入の額,就労の状況,仕事の安定性,住居の保有状況の面において明確な差異が存在し,父子世帯の父親は母子世帯の母親と比べて相対的に高い租税負担能力を有しているといえるから,第婦控除に準じて創設した寡夫控除の要件において,寡婦にはない所得制限が設けられたとしても,それが著しく不合理であるということはできない。
 また,寡婦については,就業年収や年金が低いとか貯蓄が少ないという意味での担税力の低さ(顕在的担税力減殺要因)だけではなく、就業している女性が結婚や出産のために一度離職をせざるを得ない状況が生じていることや、子を育てながら就業を継続することの困難性(構造的担税力減殺要因)から見ても、担税力が低いということが分かる。そして、所得税法がどのような担税力に配慮するかについては,立法裁量上の問題として整理される領域である。構造的担税力減殺要因が考慮されるべきという視角からは、所得制限によるスクリーンによって顕在的担税力を測ることができるとしても,そのスクリーンのみによって税制を構築することは、構造的担税力減殺要因を軽視してしまうことを意味することにもなりかねない。このような意味では,所得税法が所得制限を設けない寡婦控除を用意しているという点については一定程度の説明ができる。

第3 当裁判所の判断

1 当裁判所も,控訴人の請求はいずれも理由がないと判断する。その理由(当における当事者の主張に対する判断を含む。)は,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の1及び2に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決を次のとおり訂正する。
(1) 原判決8頁16行目と17行目の間に次のとおり加える。
「ウ また,控訴人は、最高裁昭和60年判決は,比較対象に異質性が認められる場合に、租税負担能力の異なる者にはその能力に応じた課税をするという垂直的公平負担原則に沿っているか否かの判断であるところ,本質的平等が要求される属性による取扱いの区別については、租税負担能力が同じ者に対して同じ課税をするという水平的公平負担原則に沿っているか否かでその合理性を判断すべきであり,最高裁昭和60年判決の判断枠組みを採用することはできないなどと主張する。
 しかし,最高裁昭和60年判決は、事業所得者等と給与所得者が所得税の課税において同じ状況にあるにもかかわらず,所得金額の計算に関し,前者についてはその年中の収入金額を得るために実際に要した金額による必要経費の実額控除を認めているにもかかわらず,後者については上記実額控除を認めていないことが憲法14条1項の規定に違反していないことを判示しているのであるから,控訴人のいう水平的公平負担原則について判断している。要するに、比較対象に租税負担能力において控訴人のいう同等性が認められるか否かについても,立法府の裁量的判断に委ねられているというのが最高裁昭和60年判決の判示しているところである。したがって,控訴人の上記主張を採用することはできない。
工 次に,控訴人は,基準超過層のひとり親につき,性別により寡婦等控除の適用に違いがあるのは、昭和26年創設の寡婦控除,昭和56年創設の寡夫控除,平成元年創設の特別寡婦控除制度の複合結果であり,それぞれの制度の立法目的や立法手段を審査しても、複数制度の複合結果に違憲性があるかについての判断をすることはできないから, 最高裁昭和60年判決の判断枠組みは本件に妥当しない旨主張する。
 しかし,本件の争点は,本件規定のうち本件所得要件を定める部分が憲法14条1項に違反し無効であるか否かであり,当該部分は昭和56年度の税制改正によって寡夫控除制度を創設する際に設けられたものであるから, 上記争点については,その際の立法目的をもって,最高裁昭和60年判決の枠組みによって判断すべきである。そして,後記(2)のとおり, 寡夫控除制度は,昭和26年度の税制改正によって創設された寡婦控除制度を前提として創設されたものであるから,上記判断に当たっては、寡婦控除制度の立法目的も前提とすることになり,また,上記判断は,本件当時の状況に照らしてされるものであるから,平成元年度の税制改正により設けられた寡婦控除の特例(後記(2)ウ)についても,関連性があるならば、本件当時の状況の一要素として考慮されることになる。したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
オ 控訴人は,本件区別は、母子世帯を父子世帯よりも優遇するものであり,離婚の際に親権や養育権を母親に誘導する可能性を否定できないので,憲法24条2項にも違反すると主張する。
 しかし、憲法24条2項は,婚姻及び家族に関する事項について、具体的な制度の構築を第一次的には立法府の合理的な裁量に委ねるとともに,その立法に当たっては、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚すべきであるとする要請,指針を示すことによって,その裁量の限界を画した規定である(最高裁平成25年(オ)第1079号同27年12月16日判決・民集69巻8号2427頁参照)。そして,本件所得要件が離婚時の親権や養育権の決定に影響を及ぼしていると認めることは困難であり、本件規定は,婚姻及び家族に関する事項を定めたものとはいえないので,本件区別は,憲法24条2項に違反するということはできない。したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。」
(2) 原判決8頁21行目の「昭和26年」を「昭和26年度の」と,23行目の「昭和42年」を「昭和42年度の」とそれぞれ改め,25行目の「(」の次に「甲2,」を加える。
(3) 原判決9頁8行目の「昭和56年」を「昭和56年度の」と,24行目及び18頁1行目の「平成元年」をいずれも「平成元年度の」と、9頁26行目の「平成2年」を「平成2年度の」とそれぞれ改める。
(4) 原判決10頁3行目,15頁26行目並びに16頁3行目及び26行目の各「令和2年」をいずれも「令和2年度の」と改め、8行目の「寡婦控除は」の次に「従前の30号イの寡婦のうち生計を一にする子以外の扶養親族を有するもの及び」を加える。
(5) 原判決11頁20行目から12頁6行目までの各「平成23年」をいずれも「平成22年」と,各「平成28年」をいずれも「平成27年」とそれぞれ改める。
(6) 原判決12頁21行目と22行目の間に次のとおり加える。
「d ひとり親世帯になる前の就業状況
 母子世帯又は父子世帯となる前に不就業であった者は、母子世帯の母親の場合,平成23年は25.4%,平成28年は23.5%であるの
に対し,父子世帯の父親の場合,平成23年が2.9%,平成28年が3.0%である。」
(7) 原判決13頁12行目及び18行目の各「取り決めをしていない」の次にいずれも「最も大きな」を加える。
(8) 原判決14頁1行目の「就業構造基本調査の集計結果(甲3)」を「平成19年度及び平成24年度の就業構造基本調査 (甲11~14)」と、2行目から3行目にかけての「1.37%」を「1.34%」と,3行目の「1.19%」を「1.17%」と,4行目から5行目にかけての「14.49%」を「14.29%」と,5行目の「15.85%」を「15.64%」と,6行目の「平成29年」を「平成27年」と,8行目の「これを」を「平成29年の母子世帯及び父子世帯について」とそれぞれ改め,9行目及び11行目の各「母親の」並びに9行目から10行目にかけて及び11行目の各「父親の」をいずれも削除し,12行目の「21~23」を「15,18,Z10の2」と改め,19行目末尾に「なお、上記の租税負担能力の差異等には、寡婦の場合,就業している女性が婚姻や出産のために一度離職をせざるを得ない状況が生じていたり,子を育てながら就業を継続することが困難であるといった構造的担税力減殺要因があり,夫と死別又は離婚した時点で不就業であった者も多いのに対し、寡夫の場合は,妻と死別又は離婚した時点で就業しており、妻と死別又は離婚した後も引き続き従前の職業を継続するのが通常であり,上記のような構造的担税力減殺要因がないということができることも含まれている。」を加える。
(9) 原判決15頁3行目と4行目の間に次のとおり加える。
「ウ 控訴人は,平成29年度における母子世帯の総数は62万3200世帯で,うち700万円以上の所得を有するのは1万1500世帯で、率にして1.85%にとどまるところ、仮にこれらの世帯において十分な租税負担能力があって本来は寡婦控除を受けるような特別の支出がなかったとしても、租税の効率的徴収の観点から制度として是認し得る旨の被控訴人の主張からすれば、基準超過層の寡婦寡婦控除の対象から除外しない制度にした立法目的は, 租税の徴収効率を高めることであったと解されると主張する。しかし,
控訴人の引用する被控訴人の主張は平成29年当時における区別態様の合理性をいうものであって、ここから昭和56年当時の本件規定の立法目的を推認することは相当とはいえず,控訴人の上記主張は採用することができない。」
(10) 原判決15頁15行目の「満たない」を「満たず、父子世帯の父親は妻と死別又は離婚した時点で正規の職についており、妻と死別又は離婚した場合も従前の職業を継続している割合が高い」と改め,23行目と24行目の間に次のとおり加える。
「 控訴人は,受給している養育費の平均月額は母子世帯が4万3707円,父子世帯が3万2550円であるところ、 受給割合(母子世帯の母親が24.3%,父子世帯の父親が3.2%)から平均年額を算出すると母子世帯が12万7450円,父子世帯が1万2500円となるから,母子世帯の養育費の受給水準に言及するに当たっては,これも考慮に入れるべきであると主張する。しかし、上記のとおり,母子世帯についても養育費を受給している割合が少ない上,控訴人の主張する一世帯の受給養育費の平均額(養育費を受給している又は受給したことがある世帯で,かつ,受給額が決まっているものの平均値)に受給している世帯の割合を乗じて得られる値の母子世帯と父
子世帯との差も,母子世帯と父子世帯の経済状況や租税負担能力を判断するに当たって考慮要素としなければならないほど大きいとはいえないから,控訴人の上記主張は採用することができない。」
(11) 原判決16頁8行目の「(2)ア」の次に「,イ」を加え、11行目の「他方」から24行目の「こうした状況」までを「また,前述のとおり,寡夫と募婦を比較すると,収入が同じであっても、寡婦については、結婚や出産のために一度離職をせざるを得ない状況が生じていることや, 子を育てながら就業を継続することの困難性といった構造的担税力減殺要因があるところ、本件記録を精
査しても、本件各年当時において、上記のような構造的担税力減殺要因が解消されていたことは認められない。この点,控訴人は、平成28年労働力調査(甲22)によれば、勤続年数などの就業状況に男女差がないことが統計上明らかとなっていると主張する。しかし、上記調査は母子世帯の母親と父子世帯の父親ではなく、女性全体と男性全体の平均在職期間の統計値であって,母子世帯
の母親に上記のような構造的担税力減殺要因がないことを裏付けるものとはいえないから,控訴人の上記主張は採用することができない。そして、寡婦等控除の制度設計に当たって,このような構造的担税力減殺要因につき,どの種のものをどの程度まで考慮し,制度設計に反映させるかという点は,まさに立法府の裁量に属する事項であって、その政策的・技術的判断を尊重すべき事項
である。以上の点」と改める。
(12) 原判決17頁3行目末尾に「なお、平成元年度の税制改正により設けられた租税特別措置(前記(2)ウ)は,基準以下の層の扶養親族のある寡婦の所得控除額を増額するものであって,基準超過層の母子世帯の母親の租税負担能力と関連性を有するわけではないから、上記の判断を左右するものではない。」と加え,7行目と8行目の間に次のとおり加える。
「 さらに,仮に,基準超過層の母子世帯の母親の租税負担能力と父子世帯の父親の租税負担能力に差がないとしても,このことは、30号イの寡婦に対する事婦控除について所得制限を設けないことを不合理とする理由とはなり得るとしても,控訴人に寡夫控除を適用しないことを不合理とすべき理由とはならない。」
(13) 原判決17頁16行目の「収入」から18行目の「旨」までを「基準超過層の母子世帯の母親につき所得要件を用いるという方法ではなく,本件所得要件を無効とする方法で本件区別による不平等を解消すべきである旨」と,23行目の「基準超過層」から25行目の「であるから」までを「仮に,本件区別が不平等であるとしても,控訴人に寡夫控除を適用しないことを不合理とすべき理由とはならないから」とそれぞれ改める。

2 結論
 以上の次第で,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

 

東京高等裁判所第15民事部
裁判長裁判官 中村也寸志
裁判官 三村義幸
裁判官 元芳哲郎

1月28日が上告期限ですが

上告はしません。

控訴審判決は承服できませんが、一通りの主張はしましたし、控訴審判決文に主張を取り入れてもらっています。その上で裁判所の判断がされていますから、足跡を残すという目的は達成できたと考えます。

 

手続きの不備で過少申告加算税として人質になってしまった福沢さん、救い出せなくてごめんなさい。授業料として納めますので、みんなの役に立ってください。私はラーメン食べて反省します。

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対所得税東京地裁判決文 別紙(4)

当事者の主張

 

(別紙4)

当事者の主張の要旨

1 争点(1)(本件各更正処分及び本件各通知処分の適法性【具体的には,本件規定のうち,本件所得要件を定める部分が憲法14条1項に違反し無効であるか])について

(被告の主張の要旨)

(1) 判断枠組みについて

 憲法14条1項は,国民に対し絶対的な平等を保障したものではなく、合理的理由なくして差別をすることを禁止する趣旨であって、国民各自の事実上の差異に相応して法的取扱いを区別することは,その区別が合理性を有する限り、何ら上記規定に違反するものではない。そして、租税法の分野における所得の性質の違い等を理由とする取扱いの区別は、その立法目的が正当なものであり,かつ,当該立法において具体的に採用された区別の態様が上記目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り、その合理性を否定することができず,これを憲法14条1項の規定に違反するものということはできないものと解するのが相当である(最高裁昭和55年(行ツ)第15号同60年3月27日大法廷判決・民集39巻2号247頁以下「最高裁昭和60年判決」という。)参照)。

 憲法14条1項後段の部分は,区別の条件(事項)を例示的に列挙したものであるから,後段に列挙されていない事項に比べてより厳格な審査が求められているものではない。

 そして、租税法上の取扱いが性別によって異なっているという一事をもって、租税法の定立に関する総合的判断や専門技術的判断の必要性が変わるとは考えられず,立法府の裁量の尊重の必要性がなくなるとは考え難いのであって、租税法の分野における性別による取扱いの差異についても,前掲最高裁昭和60年判決と同様のいわゆる合理性の基準を適用すべきである。

(2) 本件区別に係る立法目的について

 寡夫控除の制度は,昭和56年の税制改正に当たって,従前は、一定の要件を満たした女性についてのみ募婦として所得控除が認められていたものを,父子世帯のための措置として、妻と死別し,又は離婚した者等のうち一定の要件を満たすものについて寡夫と定義した上で,所得控除を認めることとしたものであって,この制度は,寡婦控除に準じて新たに設けられたものである。

 そして、所得税法が,寡夫につき本件所得要件を設け,合計所得金額が500万円を超える場合には寡夫には該当せず, 所得控除を認めないこととしたのは,父子世帯の父親の場合は,母子世帯の母親とは異なり,通常は父子世帯となる前に既に職業を有しており,父子世帯となった後も引き続き事業を継続したり、勤務を継続したりするのが普通と認められ,また,高額の収入を得ている者も多いなど,男性と女性の間に存在する租税負担能力の違いや生活関係の差異等を考慮したものと解されるから、募夫につき,30号イの寡婦にはない本件所得要件を設けた立法目的は正当なものといえる。寡夫控除導入時の立法資料(甲2)を見ても、本件区別の真の立法目的が,もっぱら寡夫控除導入時の財政事情が理由であって、募夫と寡婦との租税負担能力の差異等を考慮したものではないなどとは記載はされていない。

(3) 立法目的との関係において,本件区別の態様が合理的といえるかについて

ア 厚生労働省が平成29年12月に公表した「平成28年度全国ひとり親世帯等調査」の結果報告によれば,近時でも、母子世帯と父子世帯との間には、年間収入,就業状況,住居保有状況などの点において、明確に差異が存在している。すなわち、親自身の平均年間就労収入については,平成22年及び平成27年のいずれにおいても、父子世帯は母子世帯の約2倍に及んでおり,また,就業状況については,それ自体としては,平成23年及び平成28年のいずれも父子世帯と母子世帯との間で大きな違いはないものの,母子世帯はそのうち約半分がパート・アルバイト等のいわゆる非正規雇用であるのに対して、父子世帯の非正規雇用の割合は1割に満たない。父子世帯の父親は母子世帯の母親と比べて,相対的に高い租税負担能力を有しているものといえ,かかる状況は,本件各年においてもおおむね同様であったものと認められる。

 本件区別は,このような父子世帯と母子世帯の差異等を考慮したものであって、著しく不合理であるとは到底認められない。したがって,本件規定のうち本件所得要件を定める部分が憲法14条1項に違反するものとは認められない。

イ なお,本件規定を含む寡婦等控除の制度については,令和2年税制改正において見直しが行われたところ,その概要は,従前は寡婦等控除の対象外であった婚姻歴のないひとり親を対象に取り込み、婚姻歴の有無や性別にかかわらず,生計を一にする子を有する単身者について,同一の所得控除(以下「ひとり親控除」という。)を適用することとし、ひとり親控除と寡婦控除に整理したこと,寡婦についても、募夫と同様の要件とするため,上記控除の要件として合計所得金額500万円の所得制限(本件所得要件)を設けることとしたこと等である。

 上記改正の経緯において、改正前に募夫について本件所得要件を定めていたこと自体が憲法14条1項に違反するというような意見や考え方は全く示されていないし、そのような議論もされていない。さらに,寡夫控除における本件所得要件は上記改正後も維持されていることからすると,令和2年税制改正を踏まえても,本件規定が憲法14条1項に違反するものでなかったことは明らかというべきである。

(4) その余の原告の主張に対する反論

ア 原告は,本件区別が合理的であるというためには,高所得の母子世帯の母親と高所得の父子世帯の父親との間での租税負担能力の差異が立証されたければならないと主張する。

 しかしながら、寡夫控除は、「昭和56年度の税制改正に関する答申」において,「財源面での制約も考慮しつつ、税負担の調整のための必要最小限の配慮をすることが適当であると考える。このような観点から,父子家庭のための措置として一定の要件の下に寡婦控除に準じた制度を創設することが適当である」とされたことを受けて、所得税法が改正され,所得制限を設けた上で創設されたものである。すなわち、具体的な制度の創設に当たっては、財源面の制約や税負担の調整を考慮することが必要であり,それらを踏まえ,高所得者である寡夫にまで担税力の減殺を調整する必要性は乏しいと考えられることから,寡夫控除には所得制限(本件所得要件)が設けられたものと認められる。

 そして、原告が主張するように仮に所得が500万円を超える母子世帯の母親と父子世帯の父親とを比較すると租税負担能力等に差がないとしても,このことは、30号イの寡婦に対する寡婦控除について所得による制限を設けないことを不合理とする理由とはなり得たとしても、直ちに原告に寡夫控除を適用しないことを不合理とすべき理由とはならないというべきである。

 なぜなら,上記の取扱いの差異によって募夫控除の適用が受けられない結果,原告が著しい負担を強いられているといった事情は認められない(現に原告は,本件各年分のいずれにおいても、少なくとも〇万円以上の給与収入を得ている。)からである。

 また、仮にこのような負担が生じていたとしても、それは寡夫控除の適用対象を画する所得の上限が現実に合致せず低すぎるというにすぎないところ、この上限額をどう定めるかは、正に国家財政,社会経済,国民所得,国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的,技術的な判断に委ねるほかない問題であり,裁判所はその裁量的判断を尊重すべきものと考えられる。そうすると,原告の主張は,30号イの寡婦に対し所得制限なしに寡婦控除を適用することが不合理で憲法14条1項に違反することをいうにとどまり,原告に寡夫控除を適用しないことが不合理であることをいうものとはいえないから、本件各処分が違憲違法となるものではなく原告の主張は失当である。

 また,原告が提出する証拠(甲17,20)によっても,平成29年度における母子世帯の総数は62万3200世帯で、うち700万円以上の所得を有するのは1万1500世帯で、率にして1.85%程度にとどまるのに対し,父子世帯の総数6万4900世帯のうち,700万円以上の所得を有するのは1万3300世帯で、率にして約20.49%にも及ぶ。上記の母子世帯の1.85%という数字は,仮にこれらの世帯において十分な租税負担能力があって本来は寡婦控除を受けるような特別の支出がなかったとしても、租税の効率的徴収の観点から制度として是認し得る程度の範囲といえる。原告の主張は、この1.85%の母子世帯との均衡を取るために, 本来,十分な租税負担能力を有するはずの2割以上の父子世帯にも寡夫控除を適用すべきとするものであって、不合理であることが明らかである。

イ 原告は,租税負担能力については、中低所得のひとり親では父子世帯のほうが母子世帯より高く,高所得のひとり親では父子世帯と母子世帯はほぼ同等であるのが実態であるから,寡夫にのみ本件所得要件を設けるという手段では、中低所得の母子世帯と父子世帯の租税負担を調節することにはならず,目的を達成することができないし、高所得の父子世帯の父親を,性別の違いだけで租税負担を重くする理不尽なものであり、不合理な手段であって、寡夫控除における立法目的と立法手段に合理的関連性がない旨主張する。

 しかしながら、所得控除の一つである寡婦等控除は、それが適用される者の税負担を軽減することを目的とするものであって、適用されない者の税負担を重くする趣旨のものではないし,冷遇しようとする趣旨のものでもない。また,そのような目的を有する所得控除には,高所得者にまで担税力の減殺を調整する必要性が乏しいとして所得制限が設けられているものも少なからず存在しており,その結果,高所得者は、所得控除の適用要件を満たさない他の者と同様に租税負担を負うこととなるが、その場合においても中低所得者の租税負担の軽減を図るという目的は達成されるのであるから,「寡夫にのみ所得要件を設けるという手段では、中低所得の母子世帯と父子世帯の租税負担を調節することにはならず,目的を達成することができない」とする原告の上記主張には理由がない。

 そして,前記のとおり,母子世帯と父子世帯との間には、年間収入,就業状況,住居保有状況などの点において,明確に差異が存在しているのであるから、父子世帯全体と母子世帯全体を総体として見れば収入額,就労状況,仕事の安定性等の面で差異があって租税負担能力や生活実態に差があることが認められ,このような差異を考慮して,寡夫控除の対象となる父子世帯の父親につき所得制限を設けることとしても、明らかに合理性に欠けるとはいえない。原告の主張は所得控除の制度の趣旨を正解しないものであって失当である。

ウ 原告は,募夫控除の所得制限により不合理な取扱いを受けている者に対しては,本件規定を全体として無効とするのではなく、寡婦控除との区別を生じさせている部分のみを除いて適用されるべきである旨主張する。しかしながら、そのようなことを認めれば,十分な租税負担能力を有する高所得者の税負担を軽減することとなり,寡夫控除の立法趣旨に反する結果となる。

 その点をおくとしても,寡婦等控除の制度に係る立法の経緯等に照らすと、寡夫控除の対象を中低所得層の父子世帯の父親に限るべきとする立法者の強い意思がうかがわれ、対象を一定の所得以下の者に限ることはその他の寡夫控除の要件と不可分一体となっていると見るべきであって、原告の上記主張は認められない。

(5) 小括

以上のとおり,本件規定のうち本件所得要件を定める部分は憲法14条1項に違反するものではなく,有効であるから,原告に寡夫控除を適用せずにされた本件各更正処分及び本件各通知処分は適法である。

(原告の主張の要旨)

(1) 判断枠組みについて

 最高裁昭和60年判決は,「租税法の分野における所得の性質の違い等を理由とする取扱いの区別は、その立法目的が正当なものであり,かつ,当該立法において具体的に採用された区別の態様が上記目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り,その合理性を否定することができず,これを憲法14条1項の規定に違反するものということはできない」と述べているが,本件区別は,所得の性質の違い等を理由とする区別ではない。

 最高裁昭和60年判決の伊藤正己裁判官の補足意見では,憲法14条1項後段の事由に基づく区別についての違憲性判断は、厳格な基準で判断されるべきである旨が述べられている。本件区別は、性別を理由とした差別であり,憲法14条1項後段は、性別によって経済的に差別されない旨を明定しているのだから,違憲判断基準について,合理性の基準ではなく,より厳格な基準による審査が必要というべきである。

(2) 本件区別に係る立法目的について

 本件規定における法的取扱いの区別の理由は、寡夫控除立法当時の資料によると、係累のないものや係累があっても父母のような場合は寡夫控除適用の必要はないとされ、父子世帯に適用するに際しても厳しい財政事情を理由に、寡婦に認められている措置を必要な範囲内で男性に及ぼすとしており,当時の財政事情が理由であって、この両者自身の租税負担能力の差異などによるものではない。寡夫控除に本件所得要件が設けられた真の立法目的は、ひとり親世帯の事実上の差異に相応して法的取扱いを区別するためのものではなく,国家財政上の事情によるものであり、募夫控除を制限して税収減を防止することにある。

 立法目的が以上のようなものであることは,後記(3)のとおり,立法手段との関連性がないことに加え, 寡夫控除導入時の参議院大蔵委員会での議論や令和元年11月に提出された寡婦等控除の制度に関する質問主意書に対する内閣総理大臣の答弁でも寡夫控除導入当時の財政事情の厳しさに触れられていることのほか,当初は厚生省が所得要件なしの寡夫控除の導入を主張したにもかかわらず、大蔵省が財政事情の厳しさを背景に本件所得要件を追加したという経緯等からも裏付けられている。

 以上のような真の立法目的は、納税者間の事実上の差異に相応せず、納税者本人とは無関係な事情により,不合理に重い負担を課すものであり,たとえ財源確保を目的としたものであっても、租税の公平負担原則の一つである水平的公平負担の原則を無視したものである。仮に,本件区別の立法目的を,配偶者と離婚又は死別して,単身で子供を育てている母親と父親との間の租税負担能力等の差異への配慮と解しても,これらの差異は全ての所得水準で存在するものではなく,後記(3)のとおり、高所得のひとり親には存在しないのであるから,高所得の父子世帯の父親には無関係な理由であり、区別に正当性はないというべきである。それでもなお、母子世帯の母親と父子世帯の父親を全体的に見れば差異があるというのであれば,そこに論理性はなく、先入観やジェンダーバイアスによるものであって、不合理である。

 以上のとおり,本件区別ないし本件規定の真の立法目的は正当なものではなく、厳格な基準によれば明らかに違憲であるが,最高裁昭和60年判決のいう合理性の基準に当てはめたとしても違憲である。

(3) 立法目的との関係において,本件区別の態様が合理的といえるかについて

ア 統計によれば、所得500万円を超える母子世帯の母親と父子世帯の父親には、平均収入額, 子の平均人数,末子の平均年齢,就業状況等の比較では,両者は同等であり、父子世帯の父親の租税負担能力が高いということはできない。

 被告は,母子世帯の母親と父子世帯の父親とでは、年間収入,就労の状況,仕事の安定性,住居保有状況などの点において差異が存在するとして,父子世帯は母子世帯に比べて相対的に高い租税負担能力を有していると主張しているが,これらの比較は母子世帯と父子世帯の全体を比較したものである。本件区別は,高所得の母子世帯と高所得の父子世帯を区別し,法的に異なる扱いをしているのだから,被告はこの両者の租税負担能力の差異を立証しなければならないところ、なんら言及しておらず,所得が500万円を超える父子世帯と母子世帯に租税負担能力の差異はない 。むしろ、父子世帯の方が死別が多かったり、離婚した配偶者から受け取る養育費も父子家庭の方が少なかったりすることが指摘できる。

 寡婦控除も寡夫控除も通常に比べて特別な出費を要することを考慮したものであり、所得500万円を超える父子世帯の父親だけがその出費がなくなるわけではない。

 また、母子世帯の母親でも父子世帯の父親でも、求職するとなれば条件は厳しくなる。家事や養育を配偶者と分担できないひとり親は、家事や養育にかけられる時間が制限され,それを補うために割高な商品やサービスを購入することになる。すなわち、寡婦等控除は,通常に比べて特別な出費がかさむことから相対的に租税負担能力が低くなることを考慮し、税負担を軽減するためのものなのである。

イ 実態としては、父子世帯の父親と母子世帯の母親の全体を比較しての租税負担能力の差異は,就業構造基本調査等(甲3,21~23)によれば,以下のとおり、所得が500万円(おおむね年収678万円~700万円)以下の層(以下「基準以下の層」という。)の差異が反映されたものである。

 平成27年において,母子世帯の母親の年間収入額は243万円,父子世帯の父親のそれは420万円である。しかし,これを基準以下の層と,所得が500万円を超える層(以下「基準超過層」という。)とに分けてみると,前者においては、母子世帯の母親が年収221万円,父子世帯の父親が年収376万円であるのに対し,後者においては、母子世帯の母親が年収1147万円,父子世帯の父親が年収914万円である。さらに,養育費の年間平均受取額についても、父子世帯の父親より母子世帯の母親の方が多い。これらのとおり、収入の観点では,基準超過層において,父子世帯の父親の方が母子世帯の母親よりも租税負担能力が高いということはできない。

 平成29年の調査結果によると,基準超過層の母子世帯の母親は約1万1500人,同じ層の父子世帯の父親は約1万3300人であって、人数でみても大差はない。

 就業率についても、基準超過層でみれば、平成19年,平成24年及び平成29年の調査結果をみると,常に母子世帯の母親の方が父子世帯の父親よりも低いわけではなく,固定的な傾向は認められない。

 雇用形態についてみても,平成29年の調査結果によると、年収500万円以上の層では、非正規雇用等の割合は,男女ともに2~3%程度であり,割合の低さは共通している。

 平均在職期間については,平成28年の調査結果によると,基準超過層では、男女ともに22~23年程度であり、仕事の安定性にも性差はないといえる。

 住居保有状況については、そもそも、持ち家率と租税負担能力との関係を被告は明らかにしていない。住宅ローンの有無や社宅のように住宅費用が低額ですむ場合があることなど,様々な事情があるので、住居を保有している者の租税負担能力が高いとは一概にはいえない。

 また、一般的な夫婦は、妻よりも夫の方が収入が多いことから,離婚後の収入額が同じ水準であれば、母子世帯の母親の離婚前の世帯収入の方が,父子世帯の父親の離婚前の世帯収入より多いと考えられる。そうすると、離婚時の共有財産は母子世帯の母親の離婚前の世帯の方が多いと考えられ,それを財産分与すれば、母子世帯の母親の方が所有する資産は多いといえよう。

 したがって、保有資産の観点からいえば、母子世帯の母親の方が同じ所得水準の父子世帯の父親よりも相対的に高い租税負担能力があるというべきである。

 ひとり親の住居保有状況について、全国的なひとり親の所得水準別の統計はないが,広島市での調査によると、年収400万円以下では父子世帯の父親の持ち家率の方が母子世帯の母親よりも多いが,年収400万円から500万円の層ではそれが逆転しているとのことである。この点からも,基準超過層において,父子世帯の父親の方が母子世帯の母親よりも持ち家率が決定的に高いということはできないのであり,仮に住居保有状況が租税負担能力に関連するとしても、住居保有率の観点からは、基準超過層の父子世帯の父親の方が母子世帯の母親よりも租税負担能力が高いとはいえない。以上によれば、基準超過層においては、父子世帯の父親は,母子世帯の母親に比べて、高い租税負担能力を有しているとはいえない。

ウ 仮に,本件区別の立法目的が「相対的に租税負担能力が低い者や生活関係上の負担が大きい者の租税負担を軽くなるように調節すること」であるならば、基準以下の層の母子世帯の母親の税負担を,同じ層の父子世帯の父親の税負担より軽くなるよう調節する手段が,目的を達成する手段であって、関連性のある手段となる。しかし、募夫について,30号イの寡婦にはない本件所得要件を設けるという手段 (本件区別)では,基準以下の層の母子世帯の母親と父子世帯の父親との間の税負担を調節することにはならず、目的を達成できない。その上,本件区別は、租税負担能力や生活関係に特段の性差がない基準超過層の父子世帯の父親を,性別の違いだけで税負担を重くし、冷遇する理不尽なものであり、不合理な手段であるから,立法目的と立法手段との間に合理的関連性がない(このように合理的関連性のない手段となっていること等からして,結局, 本件区別の真の立法目的は,前記(2)のとおり,寡夫控除を制限して税収減を軽減することにあったというべきであり,正当な目的ではない。)。

 さらに,令和2年税制改正の過程において,基準超過層では母子世帯の母親の方が父子世帯の父親よりも平均年収が高いという統計が検討されたとのことであり,こうした事実が,民間の分析にとどまらず,立法事実として新たに確認されたことを踏まえる必要がある。この立法事実によって,「男性と女性の間に存在する租税負担能力の違いや生活関係の差異を考慮する」とした立法目的と,「所得要件の差異によって、高所得母子世帯の母親には寡婦控除を適用し,高所得父子世帯の父親は寡夫控除の適用外とする」という立法手段は、関係が真逆であると判明したのであるから、合理的関連性がない。

(4) その余の被告の主張に対する反論

ア 被告は,本件所得要件の設置によって中低所得者の租税負担の軽減を図るという目的は達成されるなどとして、本件所得要件を設けるという立法手段が立法目的を達成するものであるかのように主張する。しかし、本件の争点は、所得要件の有無について性別によって差を設けるという立法手段が立法目的を達成するものかが争点であって,被告の主張は論点のすり替えである。

イ 被告は、母子世帯の中で基準超過層の世帯の割合は1.85%であり,仮にこれらの世帯において租税負担能力があって本来は寡婦控除を受けるような特別な支出がなかったとしても、租税の効率的徴収の観点から制度として是認し得る範囲といえるとし,高所得の母子世帯の母親に所得要件を設置しないのは少数不追及の観点から是認できると主張している。しかしながら、寡夫控除の創設は昭和56年であるが、平成元年税制改正で特別寡婦控除が創設されている。この結果,所得500万円以下の母子世帯の母親の所得控除額は35万円となり、所得500万円を超える母子世帯の母親の所得控除額は27万円で維持された。

 このように,本件各処分時における所得税法は、所得500万円以下の母子世帯の母親と所得500万円を超える母子世帯の母親との間で, 寡婦控除の扱いを明確に分けており、少数だからといって看過する制度にはなっていないのであるから、少数不追及の観点から是認できるとの主張は的を射ないものである。そもそも、人数でいえば、基準超過層における母子世帯の母親と父子世帯の父親は同程度である。ひとり親全体を分母にした割合を比較しても,税の徴収効率には無関係であり,被告の主張は当を得ない。また,各種の人的な所得控除のうち、所得要件がないものが多く、所得要件のあるものの方が少数であるから,夫控除に所得要件を設けることが正解とはいえない。

ウ 被告は,令和2年税制改正の経緯において、改正前の本件規定が憲法14条1項に違反するとの意見は全く示されていないと主張するが,上記改正の基礎となった令和元年12月の与党税制改正大綱を主導した税制調査会会長は,本件区別は憲法上の問題である旨述べていた。このことからすれば、上記改正は、単なる不公平の解消ではなく、本件区別が不合理な差別であったために本件規定が憲法14条1項に違反しており、その問題を解決するために行われたといえる。

(5) 小括

ア 以上のとおり、厳格な基準及び合理性の基準のいずれで判断しても、本件規定のうち本件所得要件の定めについて立法目的は正当とはいえず、目的と手段の関連性も認められないのであり,本件区別は性別を理由とした不合理な差別である。

イ そこで上記差別を解消する必要があるが,仮に母子世帯の母親にも父子世帯の父親と同様の所得要件を設けるという方法で不平等を解消するとすれば,離死別した後に単身で子を養育するに当たって通常より出費が多くなることへの配慮という,寡婦等控除を設けた法の趣旨を没却するものであって採用し得ないから、父子世帯の父親に課している本件所得要件を無効とする方法によるべきである。なお,いわゆる国籍法違憲判決(最高裁平成19年(行ツ) 第164号同20年6月4日大法廷判決・民集62巻6号1367頁)を踏まえると,本件規定が憲法14条1項に違反するからといって規定全体を無効とするのではなく,寡婦控除との区別を生じさせている本件所得要件の部分のみが無効になると解すべきである。被告は,本件規定において,本件所得要件を定める部分とその他の部分とが不可分一体であると主張するが,そもそも寡夫控除の創設に当たり,厚生省の原案に所得要件がなかったこと等からして、不可分一体ではないというべきである。

ウ 以上によれば,原告に対して寡夫控除の適用を認めずに行われた本件各更正及び本件各通知処分は違法であるから、取り消されるべきである。

エ ただし、令和2年税制改正で母子世帯の母親の寡婦控除にも所得要件を設けることになったこと、別件訴訟で地方税法における寡夫控除の所得要件が憲法14条1項に違反しないとの最高裁判決が言い渡されたことを踏まえ,仮に,本件規定のうち本件所得要件を定める部分を無効とすることが大きな混乱を招くおそれがあると考えられる場合は,行政事件訴訟法31条1項を適用すべきである。

2 争点(2)(本件各賦課決定処分の適法性具体的には、国税通則法65条4項の「正当な理由」の有無])について

(被告の主張の要旨)

 本件各更正処分はいずれも適法であるところ,原告が本件各更正処分により新たに納付すべきこととなった税額の計算の基礎となった事実のうちに,本件各更正処分前における税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法65条4項に規定する「正当な理由」があると認められるものはない。

(原告の主張の要旨)

 前記1において述べたとおり、本件各更正処分は違法であって取り消すべきものであるから,これを前提とする本件各賦課決定処分も違法である。

 また,これをおくとしても,原告は,寡夫控除に関する制度上の問題提起を行うために本件訴訟を提起したものであり,取消訴訟を提起するためにはその対象となる行政処分を受ける必要があったことから,平成24年分から平成26年分までについては,寡夫控除が適用される前提での確定申告を行ったに過ぎず,納税額をごまかす等の目的はなかった。そして、原告が本件訴訟で提出した高所得ひとり親の平均収入の男女差などの統計が立法府で検討され,令和2年税制改正で本件区別の撤廃につながったという事情を踏まえると,本件区別ないし本件規定に問題があったことは間違いなく,原告が上記のような確定申告を行ったことには、国税通則法65条4項の「正当な理由」がある。

 したがって,仮に本件各更正処分の取消しが認められないとしても、本件各賦課決定処分は違法であって取り消されるべきである。

 

以上

対所得税東京地裁判決文

令和3年5月27日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

令和元年(行ウ)第236号 更正処分取消等請求事件

口頭弁論終結日 令和3年1月14日

 

   原告 Sakurahappy

   被告 国

   処分行政庁 川崎北税務署長

   指定代理人 別紙1指定代理人目録のとおり

 

 主文

 

1 原告の請求をいずれも棄却する。

 

2 訴訟費用は原告の負担とする。

 

事実及び理由

 

第1 請求

 

1 川崎北税務署長が平成30年3月27日付けで原告に対してした次の各処分をいずれも取り消す。

(1) 平成24年分の所得税に係る更正処分のうち、納付すべき税額マイナス5万4000円を超える部分及び同更正処分に伴う過少申告加算税の賦課決定処分

(2) 平成25年分の所得税及び復興特別所得税に係る更正処分のうち、納付すべき税額マイナス5万5103円を超える部分及び同更正処分に伴う過少申告加算税の賦課決定処分

(3) 平成26年分の所得税及び復興特別所得税に係る更正処分のうち、納付すべき税額マイナス5万5121円を超える部分及び同更正処分に伴う過少申告加算税の賦課決定処分

(4) 平成27年分の所得税及び復興特別所得税に係る更正の請求に対する更正すべき理由がない旨の通知処分

2 川崎北税務署長が平成30年4月25日付けで原告に対してした平成28年分及び平成29年分の所得税及び復興特別所得税に係る各更正の請求に対する更正すべき理由がない旨の各通知処分を取り消す。

 

第2 事案の概要

 父子世帯の父親である原告は,自身が所得税法(今和2年法律第8号による改正前のもの。以下同じ)2条1項31号(以下「本件規定」という。)の「募夫」に該当することを前提に,同法81条に定める募夫控除を適用し,平成24年分,平成25年分及び平成26年分の所得税等の各確定申告をしたところ,川崎北税務署長(処分行政庁)から,いずれの年分についても,合計所得金額500万円以下という同条の所得要件(以下「本件所得要件」という。)を満たさないから、募夫控除の適用は認められないとして,各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及びこれらに伴う過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各更正処分と併せて「本件各更正処分等」という。)を受けた。また,原告は、寡夫控除を適用せずに行った平成27年分,平成28年分及び平成29年分の所得税等の各確定申告について、募夫控除を適用すべきであるとしてそれぞれ更正の請求をしたところ、川崎北税務署長から、更正すべき理由がない旨の各通知処分(以下「本件各通知処分」といい、本件各更正処分等と併せて「本件各処分」という。)を受けた。

 本件は、原告が、被告を相手に、本件規定が所得税法2条1項30号イの「寡婦」にはない本件所得要件を設けていることが性別による差別として憲法14条1項に違反しており、本件規定のうち本件所得要件に係る部分は無効であるから、本件所得要件を満たさない原告にも募夫控除を適用すべきであると主張して、本件各更正処分のうち申告額を超える部分及び本件各賦課決定処分並びに本件各通知処分の取消しを求める事案である。

1 関係法令の定め

(1) 本件に関係する所得税法及び所得税法施行令(平成29年政令第105号による改正前のもの。以下同じ)の定めは別紙2-1及び2-2記載のとおりである。

(2) 所得税法における募婦(寡夫)控除の概要

 所得税法2条1項30号は、事婦控除の対象となる「寡婦」について,①夫と死別若しくは離婚した後婚姻をしていない者又は夫の生死の明らかでない者で政令で定めるもののうち,扶養親族その他その者と生計を一にする親族で政令(所得税法施行令11条2項)で定めるもの(その者と生計を一にする子で,他の者の控除対象配偶者又は扶養親族とされておらず,その年分の総所得金額等の合計額が基礎控除の額以下のもの。以下,単に「生計を一にする子」という。)を有するもの(同号イ。以下「30号イの寡婦」又は「扶養親族のある寡婦」という。),②夫と死別した後婚姻をしていない者又は夫の生死の明らかでない者で政令で定めるもののうち、合計所得金額(純損失の繰越控除等を適用しないで計算した場合における総所得金額等の合計額)が500万円以下であるもの(同号口。以下「30号ロの寡婦」又は「扶養親族のない死別寡婦」という。)と定義している(なお,以下,同号の表記については、所得税法2条1項の記載を省略する場合がある。)。

 また、所得税法2条1項31号(本件規定)は,募夫控除の対象となる「寡夫」の定義について、妻と死別若しくは離婚した後婚姻をしていない者又は妻の生死の明らかでない者で政令で定めるもののうち、その者と生計を一にする親族で政令(所得税法施行令11条の2第2項)で定めるもの(生計を一にする子)を有し、かつ、合計所得金額が500万円以下であるもの(以下,同号の募夫を単に「寡夫」ということがある。)と定義している。

 募婦控除又は寡夫控除が適用されると,寡婦又は寡夫に当たる者のその年分の総所得金額等から27万円が控除される(所得税法81条。以下,寡婦控除と寡夫控除を併せて「寡婦等控除」ということがある。)。

 

2 前提事実(争いのない事実,顕著な事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

(1) 原告の身分関係等

 原告は,平成24年から平成29年まで(以下「本件各年」という。)において、給与所得者であり、本件各年分の合計所得金額(以下,単に「所得」ということがある。)はいずれも500万円を超えている。具体的には,原告の総所得金額(給与所得の金額)は,平成24年分が-----円,平成25年分が-----円,平成26年分が-----円,平成27年分が-----円,平成28年分が-----円,平成29年分が-----円である。(甲1,4~6,72~4)

 原告は,妻と離婚した平成23年9月30日以降,本件各年を通じて,婚姻しておらず、3人の子の親権者としてこれらの子らと生計を一にしていた。なお,これらの子らに係る本件各年分の総所得金額等の合計額は,いずれも基礎控除の額(38万円)以下であった。(甲1)

(2) 原告の確定申告等

 原告は,平成29年12月28日,平成24年分から平成26年分までの所得税及び復興特別所得税の確定申告書(平成24年分は所得税のみ。以下,同税と復興特別所得税を併せて「所得税等」という。)について,寡夫控除の金額を27万円と記載して川崎北税務署長に提出した。他方,原告は,同日に提出した平成27年分の所得税等の確定申告書については、募夫控除の金額を記載せず,同日,寡夫控除を適用すべきことを理由とする更正の請求をした。また,原告は,平成30年3月16日に提出した平成28年分の所得税等の確定申告書及び同月15日に提出した平成29年分の所得税等の確定申告書についても,寡夫控除の金額を記載せず,同月16日,寡夫控除を適用すべきことを理由とする更正の請求をした(以下,平成27年分の所得税等に係る更正の請求と併せて,「本件各更正請求」という。)。

(3) 本件各処分

 川崎北税務署長は,原告の平成24年分から平成26年分までの所得税等に係る調査を実施したところ、いずれの年分についても合計所得金額が500万円以下ではなかったことから,原告は本件所得要件を満たさないため本件規定に定める募夫に該当せず、寡夫控除は認められないとして,平成30年3月27日付けで、本件各更正処分等(その内容は,それぞれ,別表1~3の「更正処分等」欄のとおり。以下、個別の更正処分を表す場合には「平成24年更正処分」などという。)をした。

 川崎北税務署長は、本件各更正請求に係る調査を実施したところ,原告の平成27年分から平成29年分までにおける合計所得金額がいずれも500万円以下ではなかったことから,原告は寡夫に該当せず、本件各更正請求には更正をすべき理由がないとして,平成27年分については平成30年3月27日付けで,平成28年分及び平成29年分についてはいずれも平成30年4月25日付けで、本件各通知処分をした(甲7~9)。

(4) 本件訴えの提起等

 原告は,平成30年5月24日、国税不服審判所長に対し,本件各処分の取消しを求めて審査請求をしたところ,同所長は、同年11月13日付けで,原告の審査請求を棄却する旨の裁決をした(甲1)。

 原告は,令和元年5月8日,本件訴えを提起した(顕著な事実)。

(5) 別件訴訟

 原告は,平成29年9月28日、川崎市を相手に、平成28年度の市民税及び県民税に係る特別徴収税額の決定につき取消しを求める訴訟(以下「別件訴訟」という。)を横浜地方裁判所に提起し,募夫控除につき子を有する寡婦にはない所得要件を設けている地方税法の規定(以下「地方税法における寡夫控除の規定」という。)が憲法14条1項に違反する旨主張した。これに対し,同裁判所は,平成30年7月11日に請求棄却の判決をし、同判決は,令和元年10月9日の控訴棄却の判決及び令和2年10月12日の上告棄却の判決(最高裁令和2年(行ツ)第56号同年10月12日第一小法廷判決。以下「最高裁令和2年判決」という。)を経て確定した。(乙11,12, 18)

3 税額等に関する当事者の主張

 本件各処分における課税の計算に係る被告の主張は別紙3のとおりであり,原告は,後記4の争点に関する部分を除き、その計算の基礎となる金額及び計算方法を明らかに争わない。

4 争点

(1) 本件各更正処分及び本件各通知処分の適法性(具体的には,所得税法2条1項31号〔本件規定〕のうち,30号イの募婦にはない本件所得要件を募夫について定める部分〔以下,この両者の所得要件の差異を「本件区別」ということがある。〕が,憲法14条1項に違反し無効であるか)

(2) 本件各賦課決定処分の適法性(具体的には、国税通則法平成26年法律第10号による改正前のもの。以下同じ) 65条4項の「正当な理由」の有無)

5 当事者の主張

 争点に関する当事者の主張の要旨は,別紙4のとおりである。なお、同別紙において使用した略語は本文でも用いる。

 

第3 当裁判所の判断

 当裁判所は、本件規定のうち本件所得要件を定める部分が憲法14条1項に違反し無効であるとは認められず、また,本件各更正処分に伴う過少申告加算税につき国税通則法65条4項の「正当な理由」も認められないから,本件各処分は適法であり,原告の請求はいずれも理由がなく棄却すべきものと判断する。その理由の詳細は以下のとおりである。

1 争点(1)(本件各更正処分及び本件各通知処分の適法性【本件規定のうち本件所得要件を定める部分が憲法14条1項に違反し無効であるか])について

(1) 判断枠組み

ア 憲法14条1項は、国民に対して絶対的な平等を保障したものではなく,合理的理由なくして差別することを禁止する趣旨であって、国民各自の事実上の差異に相応して法的取扱いを区別することは、その区別が合理性を有する限り、何ら上記規定に違反するものではないと解される。

 ところで,租税は、国家の財政需要を充足するという本来の機能に加え,所得の再分配、資源の適正配分,景気の調整等の諸機能をも有しており,国民の租税負担を定めるについて,財政・経済・社会政策等の国政全般からの総合的な政策判断を必要とするばかりでなく、課税要件等を定めるについて、極めて専門技術的な判断を必要とするから、租税法の定立については,国家財政,社会経済,国民所得、国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的,技術的な判断に委ねるほかはなく、裁判所は、基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ないものというべきである。そうすると、租税法の分野における所得の性質の違い等を理由とする取扱いの区別は、その立法目的が正当なものであり,かつ,当該立法において具体的に採用された区別の態様が上記目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り、その合理性を否定することができず、憲法14条1項の規定に違反するものということはできない(最高裁昭和60年判決参照)。

 上記の理は、本件のような所得税法における所得控除の対象となる者について,その属性の違いを理由とする取扱いの区別をする場合についても当てはまるものというべきである。

イ この点,原告は,本件区別は性別に基づく差別であるから,本件規定のうち本件所得要件を定める部分の憲法適合性については,厳格な基準によって審査するべきであると主張する。

 しかしながら、性別も所得控除の対象となる者に係る属性の一つであって、その生活や所得に影響を及ぼすこととなる要素の一つであることは否定できないのであるから,本件区別が性別によって租税法上の扱いを区分するものであるという一事をもって、租税法の定立に関する政策的,技術的な判断の必要がなくなるわけではなく、立法府の裁量的判断を尊重すべきことは性別以外の属性の違いを理由とする取扱いの区別の場合と異なるものではないというべきである。したがって,本件区別についても,上記アの判断枠組みに基づいて判断することが相当であり,原告の上記主張は採用することができない(このことは、別件訴訟〔前提事実(5)]の最高裁令和2年判決において、地方税法における募夫控除の規定が憲法14条1項に違反するか否かを判断するに当たり、最高裁昭和60年判決を引用していることからも明らかである。)。

(2) 所得税法における寡婦等控除に係る規定の立法経緯等

ア 寡婦控除の制度は,もともと、夫と死別又は離婚した後再婚していない者に1名以上の扶養親族(係累)がある場合について、職業選択に制限があり,所得を得るために特別の労力や支出を要するとして,そうした募婦のみを対象に,昭和26年税制改正により設けられたものであり,創設の当初においては所得要件は定められていなかった。なお,当初は所得控除ではなく税額控除が定められていたものであり、所得控除は昭和42年税制改正により導入されたが,その導入当初の控除額は7万円であり,その後の数次の改正により控除額が引き上げられていった。(乙5.6.30号イの寡婦に相当。)その後,昭和47年税制改正により,夫と死別した後再婚していない者で扶養親族がいないもの(扶養親族のない死別寡婦)についても、夫の家族との関係が続くなど各種の負担を要するとして寡婦控除の対象に加えられる一方、夫の遺産など所得が相当ある場合にまでこの負担を考慮する必要はないとして、所得要件(当初は150万円以下と定められていたが,この金額はその後の数次の改正により引き上げられていった。)が設定された(甲2,25, 6.30号口の寡婦に相当。)。

イ さらに、昭和56年税制改正により,父子家庭のための措置として新たに寡夫控除の制度が創設された。これは、当時の社会情勢の変化に対応し,財源面での制約も考慮しつつ,寡婦に認められている措置を、税負担の調整のため必要な範囲で男性にも及ぼすという観点から行われたものであった(乙5)。そして,寡夫控除の創設時において、夫の場合は、扶養親族のある寡婦と異なり,既に職業を有していて妻と死別又は離婚した場合も引き続きその職業を継続するのが通常であって、高額の収入を得ている者も相当割合に上ると考えられたことから、扶養親族のない死別寡婦に対する募婦控除の場合と同様の所得要件が付されることとなった(乙6)。

 また,寡夫については、妻と死別又は離婚した場合に,職業選択に制限を受けたり、所得を得るために特別の出費を要するのは、主に扶養が必要な子があるときであり、扶養親族が父母等の大人だけである場合には、職業選択の制限や特別の出費の必要は考え難いことなどから,寡婦と異なり,生計を一にする子がある場合に限って所得控除の対象とすることとされた(乙6)。

ウ 平成元年税制改正により、租税特別措置として、扶養親族のある募婦(30号イの募婦)のうち、30号ロに定める所得要件(当時は300万円以下。この金額は、平成2年税制改正により500万円以下に引き上げられた。)を満たす者については,控除額が27万円から35万円に引き上げられた(乙5)。

エ 以上の寡婦等控除の制度については,令和2年税制改正において抜本的な見直しが行われた。その概要は,従前は寡婦等控除の対象外であった婚姻歴のないひとり親についても所得控除の対象とし,婚姻歴の有無や性別にかかわらず、生計を一にする子があり,本件所得要件を満たす単身者について,同一の所得控除(ひとり親控除。控除額は35万円)を適用する一方,寡婦控除は従前の30号ロの類型(扶養親族のない死別寡婦)のみとすることとしたものである。これによって、ひとり親控除の対象となる,従前の30号イの寡婦(扶養親族のある寡婦)についても,寡夫や婚姻歴のないひとり親と同様、一律に500万円以下という所得要件(本件所得要件)が定められることとなった。

 これは、子どもの貧困に対応するため,婚姻歴のないひとり親についても税制上の対応が必要とされていたことや、男女によって税制上の扱いが異なるのは不公平であり,女性にも男性同様の所得要件を設けるべきことなどの意見があったことを踏まえ,婚姻歴の有無による不公平と,男性のひとり親と女性のひとり親との不公平を同時に解消し,全てのひとり親に対する公平な税制を実現する観点から行われたものである。なお,立法時における検討の基礎とされた資料によれば、ひとり親家庭(有業者)の平均年収について、所得500万円(年収678万円程度)を超えるひとり親家庭(基準超過層のひとり親家庭)においては,母子世帯の方が父子世帯よりも平均年収が高いことが指摘されていた。(以上につき、乙14,15)

(3) 母子世帯及び父子世帯に係る統計等

ア 厚生労働省は、平成29年12月に公表した「平成28年度全国ひとり親世帯等調査」において,母子世帯及び父子世帯における収入等の状況につき、以下のとおり公表した(乙10の1~3)。

 なお,この調査は、全国の母子世帯及び父子世帯の実態を把握すること等を目的としておおむね5年ごとに実施されているものであって、同調査における「母子世帯」とは、父のいない児童(満20歳未満の子どもであって、未婚のもの。以下同じ)がその母によって養育されている世帯であり、「父子世帯」とは、母のいない児童がその父によって養育されている世帯である。

(ア) 年間収入

a 親の平均年間収入

 年間平均収入は、母子世帯の母親については,平成22年は223万円,平成27年は243万円であるのに対し、父子世帯の父親については,平成22年は380万円,平成27年は420万円である。

b 親の平均年間就労収入

 平均年間就労収入は、母子世帯の母親については,平成22年は181万円,平成27年は200万円であるのに対し,父子世帯の父親については,平成22年は360万円,平成27年は398万円である。

c 親の年間就労収入の構成割合

 母子世帯の母親についての年間就労収入の構成割合は,100万円未満が平成28年で22.3%(平成23年は28.6%)であり,100万円以上200万円未満が平成28年で35.8%(平成23年は35.4%)であり,200万円以上300万円未満が平成28年で21.9%(平成23年は20.5%),300万円以上400万円未満が平成28年で10.7%(平成23年は8.7%)であり、400万円以上が9.2%(平成23年は6.8%)である。

 一方、父子世帯の父親についての年間就労収入の構成割合は、100万円未満が平成28年で8.2%(平成23年は9.5%)であり,100万円以上200万円未満が平成28年で11.7%(平成23年は12.6%)であり,200万円以上300万円未満が平成28年で15.3%(平成23年は21.5%),300万円以上400万円未満が平成28年で24.9%(平成23年は18.8%)であり,400万円以上が39.9%(平成23年は37.7%)である。

(イ) 就業率

a 親の就業状況

 就業率は、母子世帯の母親の場合,平成23年は80.6%,平成28年は81.8%であるのに対し,父子世帯の父親の場合,平成23年は91.3%,平成28年は85.4%である。

b 正規の職員・従業員の割合

 上記a のうち,正規の職員・従業員の割合は,母子世帯の母親の場合,平成23年は39.4%,平成28年は44.2%であるのに対し,父子世帯の父親の場合,平成23年は67.2%,平成28年は68.2%である。

c パート・アルバイト等の割合

 上記a のうちパート・アルバイト等の割合は,母子世帯の母親の場合,平成23年は47.4%,平成28年は43.8%であるのに対し,父子世帯の父親の場合,平成23年は8.0%,平成28年は6.4%である。

(ウ) 住居の保有状況

a 持ち家に居住している世帯

 持ち家に居住している世帯の割合は,母子世帯の場合,平成23年は29.8%,平成28年は35.0%であるのに対し,父子世帯の場合,平成23年は66.8%,平成28年は68.1%である。

b 本人名義の持ち家に居住している世帯

 上記 a のうち,本人名義の持ち家に居住している世帯の割合は,母子世帯の場合,平成23年は11.2%,平成28年は15.2%であるのに対し,父子世帯の場合,平成23年は40.3%,平成28年は49.4%である。

(エ) 母子世帯の預貯金額は、50万円未満が平成28年で39.7%(平成23年は47.7%)と最も多い(なお,厚生労働省の前記調査においては,父子世帯の預貯金額は公表されていない。)。

(オ) 養育費

 母子世帯の母親の養育費受給状況については、「現在も養育費を受けている」が平成28年で24.3%(平成23年は19.7%)である。母子世帯の母親が、相手と養育費の取り決めをしていない理由は,平成28年において、「相手に支払う意思・能力がないと思った」が合計38.6%, 「相手と関わりたくない」が31.4%, 「自分の収入等で経済的に問題がない」は2.8%である。

 父子世帯の父親の養育費受給状況については、「現在も養育費を受けている」が平成28年で3.2%(平成23年は4.1%)である。父子世帯の父親が,相手と養育費の取り決めをしていない理由は、平成28年において,「相手に支払う意思・能力がないと思った」が合計31.9%, 「相手と関わりたくない」が20.5%, 「自分の収入等で経済的に問題がない」は17.5%である。

イ 平成29年度就業構造基本調査(甲17,20)によれば,同年度における母子世帯の総数62万3200世帯のうち収入700万円以上(所得500万円以上にほぼ相当する。以下同じ)を有するのは1万1500世帯(約1.85%)であるのに対し,父子世帯の総数6万4900世帯のうち、収入700万円以上を有するのは1万3300世帯(約20.49%)である。また,就業構造基本調査の集計結果(甲3)によれば、おおむね,収入700万円以上の母子世帯は,平成19年が8100世帯(約1.37%),平成24年が7900世帯(約1.19%)であるのに対し,収入700万円以上の父子世帯は,平成19年が150100世帯(約14.49%),平成24年が1万3500世帯(約15.85%)である。

 また,就業構造基本調査等によれば,平成29年の母子世帯の母親の年間収入額は243万円,父子世帯の父親のそれは420万円であるところ,これを収入700万円以下のものとそれ以外のものに分けてみると,前者においては、母子世帯の母親の平均年収は221万円,父子世帯の父親の平均年収は376万円であるのに対し,後者においては,母子世帯の母親の平均年収は1147万円,父子世帯の父親の平均年収は914万円である(甲3,21~23)。

(4) 本件区別に係る立法目的の正当性について

ア 前記(2)の立法経緯等からすると,本件規定が募夫について30号イの募婦(扶養親族のある寡婦)にはない本件所得要件を設けることとした目的は、母子世帯の母親と父子世帯の父親との租税負担能力の差異等に鑑みて,財源面での制約を考慮しつつ、寡婦にのみ認められていた所得控除を必要な範囲で募夫にも及ぼすことにあったものと解されるから,その立法目的は正当なものである。

イ これに対し,原告は,本件規定が本件所得要件を設けた真の立法目的は、募夫控除の適用を制限して税収減を防止するというもっぱら財政上の理由であり,男女間の租税負担能力の差異等に鑑みたものではないから,正当な目的ではない旨主張する。

 しかしながら、前記(2)イのとおり、本件規定の立法経緯によれば、寡夫については妻と死別又は離婚した後も従前の職業を継続するのが通常であることや高額の収入を得ている者も相当割合に上ることなどを踏まえて本件所得要件が設けられたのであるから,母子世帯の母親と父子世帯の父親との間の租税負担能力の差異等に鑑みたものであることは明らかであり,原告の上記主張は採用することができない。

(5)本件区別の態様が立法目的との関連で著しく不合理であることが明らかといえるかについて

ア 本件区別の態様は、寡婦等控除につき、扶養親族のある寡婦については所得要件が設けられていないのに対し、募夫については所得(合計所得金額)が500万円以下であることという所得要件(本件所得要件)を設けたというものである。

イ そこで、母子世帯の母親と父子世帯の父親につき、それぞれの収入や就労等の状況について見ると、前記(3)のとおり,近年の統計においても,両者の間には、平均年間収入には大きな差があり,また,就業状況についても,母子世帯の母親の場合は4割以上がパート・アルバイト等のいわゆる非正規雇用であるのに対して,父子世帯の父親の場合は非正規雇用の割合が1割に満たないなど,収入及び就業状況の点において顕著な差異がある。このように,総体としてみれば、父子世帯の父親は、母子世帯の母親と比べて、高い租税負担能力を有しているものといえ,かかる状況は,本件各年においても,おおむね同様であったものと認めるのが合理的である(なお,原告は、父子世帯の父親と比べて母子世帯の母親の方が,養育費の支払を受けたり財産分与により資産を取得するなど有利な面があると主張するが,前記(3)アのとおり、母子世帯の養育費の受給水準は高いとはいえない上,住居建物の保有状況や預貯金残高を見ても、十分な資産を有する母子世帯の割合は限定的であることがうかがわれる。)。

ウ もっとも,基準超過層(所得500万円超)だけを見れば、近年では母子世帯の母親の方が父子世帯の父親よりも平均年収が高いとの統計があり,令和2年税制改正における寡婦等控除の制度の見直しに当たっても、近年のそうした統計が考慮されていることがうかがわれる(前記(2)工,(3)イ)。

 そこで,かかる観点も踏まえて,令和2年税制改正前の本件規定において募夫についてのみ本件所得要件を設定し基準超過層の募夫が所得控除(募夫控除)を受けられないとされていたことが著しく不合理であるか否かについて検討すると、そもそも,寡婦等控除の制度は、配偶者と死別又は離婚した後の職業選択に制限があり、あるいは所得を得るために特別の労力や支出を要することに配慮したものであるところ(前記(2)ア),財源面での制約を考慮しつつ寡婦にのみ認められていた所得控除を必要な範囲で募夫にも及ぼすという立法目的(前記(4)ア)に照らすと,募夫控除について所得要件を設けること自体は何ら不合理なものではない。他方,基準超過層における不均衡を是正するために扶養親族のある寡婦についても本件所得要件を設けるためには、その旨の立法的手当てをする必要があるところ、①ひとり親世帯における基準超過層の割合自体が少ないこと,②基準超過層の母子世帯の数は、同層の父子世帯の数を超えるものでないこと,母子世帯における基準超過層の割合は近年でも2%未満であり,父子世帯における基準超過層の割合(約20%)に比べて顕著な差があること,これらに加え,平均像としては依然として低所得者の多い母子世帯の母親について所得要件を設けることにつき国民の理解を得られるかという問題もあったことに照らすと,30号イの寡婦(扶養親族のある寡婦)のうち基準超過層にあるものについて,これを募婦控除の対象から除外する旨の立法的手当てを行わず、母子世帯と父子世帯の総体的な租税負担能力の差異等を重視した制度を維持することにも、相応の合理性があったということができる。こうした状況を踏まえると,基準超過層の母子世帯の母親に係る平均年収が父子世帯の父親のそれを上回ったとする近年の統計や、これを踏まえた令和2年税制改正によって扶養親族のある寡婦につき本件所得要件が設けられたことを考慮しても,同税制改正前の本件規定における本件区別の態様が立法目的との関連で著しく不合理であったということはできない。

エ 以上によれば,本件各年当時において,本件規定が募夫控除につき30号イの募婦にはない所得500万円以下という本件所得要件を設けていたことについて,著しく不合理であることが明らかであったということはできない。

オ 原告の主張について

(ア) 原告は,①租税負担能力の低い者への配慮等が立法目的であるならば、基準以下の層の母子世帯の母親と同層の父子世帯の父親との間の負担を調節する手段こそが立法目的と関連性のある手段であるところ,本件規定において本件所得要件を設けても、そのような調節はできない上、基準超過層では母子世帯の母親と父子世帯の父親との間に租税負担能力の大きな差異は存在しないことからすると,本件区別は性別に基づく差別にほかならない、②死別等によって特別の支出等が生じる者への配慮という観点からは、収入にかかわらず寡婦等控除の対象とすべきであり,基準超過層の母子世帯の母親につき所得要件を設けるという方法を採ることは相当ではない旨主張する。

 しかしながら、上記ウにおいて説示したとおり、前記(2)の募婦等控除の趣旨からすれば,十分な租税負担能力を有する者に所得控除を認める必要性は乏しいのであるから、寡夫控除に本件所得要件を設けることそのものは、まさに納税者の租税負担能力に着目しているのであり,それ自体が不合理であるとはいえないし、基準超過層における募と募夫の不均衡を是正するために扶養親族のある募婦に本件所得要件を課すことは十分に合理性を有する手段であるから,原告の上記主張は採用することができない。

(イ) また,原告は,平成元年税制改正により扶養親族のある募婦のうち本件所得要件を満たすものについて真婦控除の金額が35万円に引き上げられたこと(前記(2) ウ)を根拠に,本件区別は基準超過層の扶養親族のある募婦に係る少数不追及として是認し得るものではない旨主張する。

 しかしながら,上記改正は扶養親族のある募婦のうち相当割合を占める基準以下の層のものについて控除額を引き上げるというものであり,少数である基準超過層の扶養親族のある事について立法的な手当てをしたものではないから原告の主張はその前提を欠くものというほかない。

(6) 以上によれば、本件規定のうち,30号イの事にはない本件所得要件を寡夫について設けている部分が、憲法14条1項に違反し無効であるとはいえない。したがって,本件所得要件を満たしていない原告に募夫控除が適用されないことを前提としてされた本件各更正処分及び本件各通知処分はいずれも適法である。

2 争点(2)(本件各賦課決定処分の適法性具体的には、国税通則法65条4項の「正当な理由」の有無])について

上記1のとおり、本件各更正処分は適法であるところ,原告の主張によっても、本件各更正処分により原告が新たに納付することとなった税額の計算の基礎となった事実に関して、国税通則法65条4項の「正当な理由」に該当するような事由は認められない。

よって,本件各武課決定処分は適法である。

第4 結論

以上によれば,原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし、主文のとおり判決する。

 

  東京地方裁判所民事第51部

 

   裁判長裁判官 清水知恵子

         裁判官 横地大輔

         裁判官 定森俊昌

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スマホの写真から文字起こし

スマホの写真から文字起こしをするアプリを見つけたので、バシバシ利用したいと思います。これならBLOGにも載せやすいし、引用も楽です。

でも、間違いもあるし、見出しとか段落とかは判定してくれないので、調整が必要になります。それでも、打ち込むよりは楽チンですね。f:id:sakurahappy:20211214194044j:image

対所得税 控訴審口頭弁論

10月27日

控訴審の第一回口頭弁論がありました。

当然のことながら、一回結審です。

 

これで、もう私が主張できる場はありません。

棄却理由を見てから上告するかどうか考えますが、たぶん上告すると思います。

 

おつかれさまでした

 

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